大人しい阿久津
奇妙な世界へ……
僕は高柴孝和。ただの中学2年生だ。
僕のクラスには、いわゆる『大人しい子』が居る。その子の名は阿久津聖人。どうやら、埼玉からやって来た転校生で、休み時間に本を読み、あまり外でははしゃがない子だ。
そして彼には、欠点がある。それは大人しい事。いつもクラスのいじめっ子に虐められている。そのいじめのリーダー格の子、日高猛は、校長先生の子で、彼に逆らえる子は居らず、皆が、阿久津にいじめをするのだ。
しかし僕は、阿久津の唯一の理解者であった。彼の読んでいる本と、僕の読んでいる本を交換したり、彼の読んている本のことで話したり、時には一緒に本屋に行って、買いたかった本を一緒に買う…という事をしてきた。彼の方も、僕の方を信用していて、自身の好きな本を見せてくれたりもした。
そんな、ある日の事であった。その日は珍しく、日高は来なかった。そして、朝のホームルームにて、先生が衝撃的なことを言った。
「今日、日高君の遺体が見つかりました」
その瞬間、教室は、驚愕の嵐となった。ある者は泣き、ある者は怒り、そして、ある者は何も言わなかった。何も言わない行動を取ったのは、阿久津だけだった。
先生の話によると、どうやら、この学校の一番近い山に、日高の死体が埋められていたのだ。しかし、日高の身体には外傷は無く、死因は不明なのだ。
この日は授業は午前しかなく、すぐに家に帰った。
日高が死んだとはいえ、阿久津へのいじめは続いた。次のリーダー格は、日高の腰巾着、片岡純。大企業、カタオカグループの社長、片岡丈の息子、いわゆる御曹司だ。御曹司なので、教師やクラスメートに賄賂を渡し、いじめを隠蔽していた。
しかし、数日後、今度は、片岡が学校に近い川にて、溺死された事が確認された。そして、これを皮切りに、阿久津は来なくなった。
ある休日、僕の携帯に電話がかかってきた。知らない番号だ。両親は、旅行で居らず、もしも、詐欺とかの犯罪型だったらすぐに電話を切ればいいと考え、僕は電話を取った。
「もしもし…」
そして、相手の声は意外な者だった。
「あ、高柴くん、久しぶり…」
相手は阿久津だった。しかし、声に元気は無かった。
「近くの清野公園で落ち合おう…話は…それからだ…」
阿久津はそれだけ言うと、電話を切った。僕は怪しいと思いながらも、阿久津を信じ、清野公園に行った。
数分後、清野公園に着くと、様子がおかしかった。綺麗なはずの看板は錆びていて、空は赤黒い。地面の砂は、何かの魔法陣が書かれていた。その魔法陣の上には、阿久津がいた。
僕は阿久津のいる所に行くと、阿久津が小さな声で、
「……僕についてきて…」
と言い、適当な方向へと、歩き出した。
しばらく歩くと、阿久津が急に止まり、またなにか言った。
「………ここが僕の…お家……」
阿久津の言う自分の家は少々ボロかった。すると、阿久津が触らずに扉が開き、阿久津は入っていった。僕も、それに付いて行くかのように入った。
内装は意外とキレイで、電気が全部付いていない事以外は全て普通だった。階段を上がると、扉が一つあった。そして、その扉を開くと、全てが赤く、目が痛くなりそうだった。唯一例外だったのは皿、その上に乗っているステーキらしき何かだった。僕はそのステーキらしき何かの近くに座った。試しにそれを一口食べると、美味しく、そんじょそこらのステーキより美味かった。
「阿久津、このステーキ美味いな」
「あぁ、人肉だからな。しかも、肉付きのいい人のだからね」
僕は人肉と言うワードを聞いた瞬間吐きかけた。そして、僕は怯えながら阿久津に聞いた。
「お、おい…な、なんで、人肉なんてあるんだよ…」
「だって、そりゃ…………」
すると阿久津の声が除々に低くなり、顔が変わった。
「俺は…悪魔だから」
黒い見た目に角、尖った尻尾。それは悪魔そのものだった。
「な、あぁ…」
「ククク…俺は人間と言うものを知る為に、人間に化けて、目立たぬように過ごした。しかしなぁ、アイツ等は、
俺を大人しい人間と言う理由で、虐めてきた。確か…あぁ、日高と、片岡だったっけな?あいつらを川底や、山の中に、埋めてやったよ」
「ぐっ……君はいじめられていた。その点では同情するよ。でもね、人間なんか殺しちゃいけないじゃないか!」
「人間なんか殺してはいけない?グハハハハハ!笑わせるな。悪魔に人間の常識なんか通じるか!後なぁ、お前の親切は、正直言ってイライラしたよ。ある意味、ありがた迷惑だ!」
「うっ…」
「あと、俺が数日間学校に来なかったのは人間を、絶滅させるためだ」
「な、なんだって!」
「あぁ、やはり人間というのは、自分と違うものを滅ぼそうとする。全く嫌な事だ」
「うっ!」
僕は、嫌な感じをし、そこから逃げ出し、外へ出た。空は赤黒いままだった。
「待てい!」
奴の大声が聞こえ、僕は後ろを振り向いた。そこには腕を鞭にした奴がいた。
「逃がすものか!」
奴がそう言うと手を伸ばし、僕の足を掴み、僕はこけてしまった。
「さぁ、食ってやる!」
奴は手を引っ張り僕を大きな口へと近づけ、こう言った。
「 い た だ き ま す 」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「はっ!ゆ、夢か…」
僕はいつの間にか寝室にいた。にしても、結構リアルな夢だった。
僕は学校へ行った。そこには夢の中で死んだ日高と片岡がいた。
数分後、ホームルームが始まった。
「実は今日、転校生が来てます」
その言葉を聞いた瞬間、皆は騒ぎ始めた。とある奴は、可愛い子ではないか、また、別のやつはイケメンではないか?と話していた。
「はい、静粛に、じゃあ入ってきていいよ」
すると、扉から少し、大人しそうな男の子が入ってきた。
「どうも、埼玉からやって来ました、阿久津聖人と申します。結構大人しい性格ですが、よろしくお願いします」
僕は少し身震いしたが、それを気の所為だと思いたいのは何故だろうか?
読んでいただきありがとうございました…