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97.合同調査艦隊

 


 新世界歴2年1月24日、スフィアナ連邦国 海外領土ムスピルヘイム 南東部沖合 航空機搭載護衛艦【いずも】


 日本本土より南東方面に行った場所にあるスフィアナ連邦国の海外領土ムスピルヘイムの更に南東方面の海上。

 付近には島も見えず、ひたすら広がる大海原の中、それぞれの旗を掲げた8隻の軍艦が綺麗に陣を敷いて航行していた。


「あ〜、しかしダンジョンは期待外れだなぁ。」


 艦の操作を行う艦橋で残念そうにそう呟いたのは航海長である。

「私語を謹め!」と怒られそうな内容だが、この艦橋で1番階級が高いのは発言した本人で更に船の航海というのは結構暇なのだ。


「仕方が無いじゃ無いですか航海長、政府の判断は当然ですよ。」


 そう言ったのは艦の舵を握っている操舵手である。

 国民から不満が出そうなダンジョンの規制は意外にも国民からは支持されていた。

 殆どの国民からして見れば他国の特殊部隊でも油断すればやられるような場所に民間人を入れる事は有り得なく、残りの人達もダンジョンには入りたいが、わざわざ死にに行くような事はしたくなく、マスコミの世論調査では半数以上の国民がダンジョン規制に賛成だった。


 と言っても世間ではオタクに分類されるような人達(1700万人)からしてみればファンタジー要素の具現化とも言えるダンジョンが国により規制された事に対して少なからずな不満はあった。

 近年、支持者の減少に苦しむ野党がダンジョン解放を掲げ出したので、将来的にどうなるかは分からない。


「最も政府は過ぎた事(ダンジョン)よりも目先のスフィアナとの関係強化に勤しんでるようだがな・・・」

「その結果がこの合同調査だろ?」


 そう言って右隣をピタリと並走する艦艇を見つめる。

 その艦艇にはスフィアナ連邦海軍旗が風に棚引いていた。

 左隣にはイギリス海軍の【45型】駆逐艦5番艦の【ドラゴン】が並走しているので考える事はどの国も同じという事だ。


 元の始まりはオーストラリア空軍の早期警戒管制機が国籍不明・発信源不明の電波を拾った事だった。

 ムスピルヘイム南東方面はただ単に海が広がるだけと思われており、衛星の探知圏外となっていた。

 その為、国もしくはそれに準ずる組織があると推測され、今回の派遣に至ったのだ。

 最後まで海上保安庁の巡視船の派遣に拘っていた外務省だったが、海保側から「フネが無いって言ってるだろ!!」との海保上層部が外務省に乗り込んだ実力を持っての拒否により護衛艦の派遣となった経緯がある。


 今回の合同調査に参加しているのはスフィアナ3隻、日本2隻、イギリス2隻、オーストラリア1隻の計8隻である。

 スフィアナ連邦海軍は【レスター】【ウィルミナ】【エステル】の巡洋艦1、駆逐艦2隻の編成だ。

 海上自衛隊は【いずも】【ふゆづき】のヘリコプター搭載護衛艦1、汎用護衛艦1の編成、イギリス王立海軍は【ドラゴン】【デアリング】の駆逐艦2、王立オーストラリア海軍は【ホバート】と虎の子のイージス艦を引っ張ってきている。


 台湾及びニュージーランドは遠洋まで出せる船が無いと断っている。

 ちなみにこの8隻とは別に新太平洋地域での権益を諦め切れないアメリカが【改オハイオ級】巡航ミサイル原潜の3番艦【フロリダ】をこっそりと派遣している。


「上は必死だな・・・」

「必死過ぎて泣けてくるぞ。」


 散々な言われような日本政府だが、アルテシア大陸の開発と防衛や今後のエーテルの供給元などを考えたらスフィアナと関係を深めておく他無く、必死になるのも当然の事だった。


「・・・と言ってもあの駆逐艦はともかく巡洋艦の方にはレールガンが搭載されてるんだろ?敵対はしたく無いよな。」

「全ての大型艦艇にレールガンを実装しているような国か、友好関係を結べてほんと良かったよ。」

「だよなぁ、根室を攻撃した敵がミレスティナーレじゃなくてスフィアナならヤバかったんじゃ無いのか?」


 なんやかんや言ってもスフィアナは日本と同じ議会民主制の国家なのでいきなり市街地を攻撃なんて事は万が一にもあり得ないのだが、この世界にそういう国が無いとも限らないのが恐ろしかった。

 その為にも内輪揉めをしている国を除いた各国は軍事力の増強と衛星の拡充を急いでいるのだが、

 人も時間も何もかも足りなかった。


「何事もなければそれで良いよ、何事も無ければね。」





 新世界歴2年1月24日、スフィアナ連邦国海外領土ムスピルヘイム沖合 艦隊最後尾 駆逐艦【ウィルミナ】


「どうだ?音紋解析は済んだか?」


 ヘッドフォンを付けて真剣な表情で己の全神経を耳に集中している聴音手に聞いたのはこの汎用駆逐艦【ウィルミナ】の艦長である。

 海上自衛隊の【あさひ型】のように対潜に重きを置いて建造された【エステル級】駆逐艦3番艦【ウィルミナ】は高性能なソナーを搭載しており、対潜装備は他の艦艇より充実していた。


 そんな【ウィルミナ】艦内は数十分程前から少し騒がしかった。

 艦艇に搭載されている対潜ソナーに聞き慣れない音が聞こえてきたからだ。

 そして聴音手の隣にいる解析担当は必死にその音紋とこれまでの膨大なデータとの照合を行う。

 もちろん実際に実行するのはコンピュータなので解析担当はタッチパネルを静かにタップするだけである。


「聴き慣れない音ですが、これは多分イギリスなどが保有している原子力潜水艦の蒸気排出音紋だと思われます。」

「原子力潜水艦?」


 それは艦長にとってこれまで聞いた事の無い艦種だった。


「はい。原子力機関と言われる物を動力にした地球世界の潜水艦の動力機関の一種ですね。一応理論上は可能ですが・・・」

「まぁ、有り得ないな。」

「はい。」


 艦長や解析担当はそう吐き捨てた。

 様々な要因により原子力に対し忌避感のあるサリファ世界の国家は原子力機関を研究こそしたものの、それを実用化に移す事はしなかった。

 その為、原子力発電所や原子力機関、原子爆弾などは存在しない。

 と言っても放射線治療や放射能に対する知識はあるようなのでその辺りは各国の匙加減なのだろう。


「で?何処の国の潜水艦だ?イギリスか?」

「いえ、【ヴァンガード級】でも【アチュート級】とも違います。艦名までは分かりませんが、恐らくアメリカ海軍の【オハイオ級】ですね。」

「アメリカか・・・」


 艦長や他の乗員もアメリカという国については知っていた。

 日本やイギリスが前世界で守ってもらう程、軍事力が高いという事もだ。

 ただ、スフィアナ国内では前世界では比較的友好国だったテルネシアに戦争をふっかけている事からアメリカという国に対する印象は良く無かった。


「どうします艦長、ピンガーでも打って警告しますか?」


 そう言ったのはその場に居た別の乗員である。

 ピンガーとは主に敵潜水艦や水上艦艇に対して警告の意味合いで使われる物で、その意味合いにサリファも地球も違わなかった。


「・・・日本とイギリス、オーストラリアは気付いていると思うか?」


 基本的に潜水艦は隠密行動が基本な為、友好国はおろか自国軍の他部隊にさえ知らせない事も数多い。

 ただ、日本の護衛艦【いずも】には6機のF-35JBとは別に4機のSH-60L対潜哨戒ヘリコプターを搭載しており【ウィルミナ】以上に対潜能力は高い艦艇である。

 当然ながらそれ相応のソナーを搭載しており、アメリカ海軍の潜水艦を探知している可能性は高かった。


「イギリスとオーストラリアの艦艇はデータによると対空特化ですからねぇ。日本は何故か【ふゆづき】はともかく【いずも】はバリバリの対潜特化ですから・・・」

「可能性があるとすれば日本だけですね。」


 スフィアナと日本はともかく、イギリスが派遣した【ドラゴン】と【デアリング】はミナイージス開発計画とも言われているヨーロッパ諸国によるホライズン計画により完成した艦艇である。

 更にオーストラリアの【ホバート】は日本のイージス護衛艦と同様にイージスシステムを搭載したれっきとした対空長特化艦艇なのだ。


「・・・まぁ、放置しておいて良いだろう。いきなり攻撃してくる事は無いだろうが、取り敢えず警戒だけしておけ。」


 艦長はアメリカ原潜を現状脅威にならないと判断した。

 ただ、油断は出来ないとして警戒するようにも命令した。


「了解しました。」

「分かりました。」





 新世界歴2年1月24日、スフィアナ連邦国海外領土ムスピルヘイム沖合 調査艦隊より後方30km海中


 調査対象にバレているとも知らずにアメリカ海軍巡航ミサイル原潜【フロリダ】は音をなるべく出さないように隠密行動をしていた。

 ちなみに日本にはスフィアナの艦艇と合流する前に【いずも】艦載機のSH-60Lに発見されてピンガーを打たれていた。


「しかしあそこで日本に見つかるとは不覚だったな・・・」

「対潜海軍ですからね対象に見つからなければそれで良いんですよ。」


 その対象に見つかっている事にも気付かない【フロリダ】の艦長と副長はそう話していた。

 ちなみにアメリカを信用してないスフィアナは【ウィルミナ】の対潜装備の1つの照準を【フロリダ】に合わせており、スイッチ1つでいつでも撃沈出来るようにしていた。


「しっかしバンコール基地から出港してもう2ヶ月、陸に上がったのは横須賀での経った2日だけだったな・・・」


 バンコール基地はアメリカ西海岸にある海軍基地である。

 一応横須賀基地は全面的に日本へと返還されたのだが、補給などに関しては日本側は海自基地で受け付けていた。


「去年からのスケジュールがハード過ぎますよね?ブラック海軍ですよ!」

「世界は広くなっても潜水艦の数が増えて無いからだろ?」


 副長の愚痴に艦長が現実を突き付けた。

 だが、実際にアメリカ海軍の艦艇、特に潜水艦に関しては動ける艦艇はフルに働かされており、超過密スケジュールだった。

 基本的に潜水艦の乗員は1ヶ月に1度は陸に上がって休息する事が求められているのだが、そんな余裕が無い程追い詰められていた。


「「はぁ〜、陸に上がりたい。」」


 高性能ソナーを搭載してない限りバレる事の無い、使い勝手の良い潜水艦はアメリカ海軍に重宝されていたが、その重宝される潜水艦の乗員はブラック企業並みの過密スケジュールであった。





もうそろそろ溜めが尽きそうなので8月からはこれまでの1日起き更新から3日起き更新に変更させて戴きます。

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