91.ダンジョン?そんな物よりも・・・
新世界歴2年1月7日、上海共和国(東部軍閥)首都上海市 臨時政府庁舎
中国崩壊の混乱で潰れた企業の本社ビルを丸ごと徴収した上海共和国大統領官邸(仮)では様々な住民サービスなどの維持などに職員達は走り回っていた。
去年の暮れ頃から始まった中華人民共和国の崩壊は一気にでは無く、徐々に崩壊していった。
最初は共産党員の離反などから始まり、その後警察や地方政府が共産党本部からの命令を無視したりしていた。
そして致命的だったのが、各軍管区と地方自治体が手を結び次々と独立宣言を行ったのだ。
その隙を突き、インドはチベット自治区と新疆ウイグル自治区に侵攻し、両国を傀儡として独立させた。
結局の所、現在中国共産党の目が行き届いているのは北京がある中部戦区だけなので中華人民共和国は崩壊していないとも言えた。
と言っても中華人民共和国の大半が独立した為、現在の中華人民共和国の人口は約2億人、GDPも2兆ドル程度である。
そんなこんなで独立した国々(仮)だったが、国際社会からはどの国も国として認められていなかった。
そもそも通信システムが整備途中なので、先進国ならともかくそれ以外の国に関しては中華人民共和国が崩壊した事すら知らない国が沢山あったのだ。
そんな国の1つが東部軍管区を国土とし、上海を首都とする上海共和国である。
国としてはインドくらいにしか認められてない上海共和国だが、国としての要件は完璧な程に揃っていた。
独立宣言から4ヶ月程経った現在は既に憲法を制定し、行政サービスなども行っている。
しかし、そんな上海共和国にも問題が無かった訳では無い。
「軍隊が多過ぎる・・・」
臨時政府庁舎内の大統領執務室で書類を見ながら呟いたのはこの度上海共和国の大統領に就任した男である。
一部の周辺国からは軍閥軍閥と言われているので軍人かと思うが、一応共和制を謳っているため、元上海市の市長が臨時で大統領になっている。
共和制の国として独立宣言した為、東部戦区の軍だけでは無く他の戦区の軍まで上海共和国にやってきた為、中華人民解放軍東部戦区を引き継いだ上海共和国軍の総兵力は70万人も居た。
「陸軍が50万人なのはまだ良いとして空軍が5万人、海軍が15万人も居るのは何故だ!?」
元々の中華人民解放軍は陸軍が100万人、海軍が30万人、空軍が40万人、第二砲兵(弾道ミサイル運用部隊)が15万人の計185万人である。
簡単に言えば陸軍と空軍の半分が上海共和国にやって来たのだ。
ただ、陸軍に関してはカラクリがあり、海軍に関しても理由があった。
「こちらで調べた所陸軍兵士の中には武装警察の者も居ました。」
「それでか・・・納得言ったよ。」
中華人民武装警察部隊、日本で言えば海上保安庁、スフィアナだと保安隊に相当する準軍事組織である。
装甲車や小銃など軍隊並みの戦力を有してるが戦車や戦闘機などは保有していない。
中国の公式見解では軍隊では無いので、人民解放軍の中には入っておらず、管轄する部署も別である。
「で?海軍の方は分かったか?」
「それに関してですが、やはり他の港が艦艇の修理や大津波の被害から抜け出せておらず、稼働な艦艇を一時的に上海などに集中させていたようです。」
「つまりなんだね?」
「北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊のうち、北海艦隊と東海艦隊が我が国に属する事を決めましたのでこうなりました。」
こうなりました、と言っているが中国三大艦隊のうち2個艦隊が上海共和国に属する事を決めたのならそりゃあ海軍兵の半分が我が国に来る訳だと大統領(仮)は納得したと同時に頭を抱えた。
大統領が頭を抱えているのは勿論予算の問題があるから頭を抱えているだ。
幾ら大津波で海軍戦力を大幅に喪失したと言っても中々の艦艇が多数残っており、その維持費だけでも莫大な額である。
「どうすんの?一回、軍の国防案を出してもらったけど、陸海空軍合わせて40万だったよね?」
「・・・30万の首を切るしかありませんね。」
大統領(仮)に聞かれた国防長官(仮)はスッと顔を逸らしながらそう答えた。
上海共和国は民主主義を掲げているのでシビリアンコントロールから軍の最高指揮官はアメリカと同じく大統領である。
つまり、首と命令するのは目の前に居る大統領なのだ。
「・・・サッサと選挙して大統領を選出しよう。」
改めて国民選挙の実施を決めた大統領(仮)であった。
新世界歴2年1月7日、ドイツ連邦共和国 ニーダザクセン州 ヴィルヘルム・スハーフェン海軍基地
歴史的に陸軍国であるドイツは海軍に関しては潜水艦を除きかなり貧弱であった。
ドイツと言えば戦車、戦車と言えばドイツと連想出来る程の典型的な陸軍国では有るものの、そんなドイツ連邦軍は東西冷戦以降の軍縮で削減傾向にあった。
冷戦時の1980年代は2000輌程の戦車を保有していたドイツ連邦陸軍は2020年代後半には海軍国である日本の600輌、イギリスの270輌より少ない200輌しか保有していない。
更に整備不足や部品調達の失敗により陸海空軍と共に崩壊寸前、それが現代のドイツ連邦軍であった。
原因は東西冷戦以降の軍縮による軍事費の大幅削減であり、それによりどんどん崩壊して行った。
しかし、そんなドイツ連邦軍に転機が訪れたのは2030年に起きたイベリア戦争である。
この戦争でドイツは稼働する全車両をイベリア半島に突っ込み、NATO軍の勝利に貢献した。
しかし、その後の復興で世界最大経済大国のアメリカは僅かな金しか出さず、スペインとポルトガルの復興費の殆どをドイツやフランスが出す羽目になったのは言うまででも無い。
そしてイベリア戦争が取り敢えず終結した後に起きた選挙で大勝したのは大ドイツ主義を掲げる政党だった。
かろうじてそれまでの与党が引き継ぎ与党を務める事になったのだが、そんな政党が野党第1党になったのである。
彼等の主張を簡単に纏めると『ドイツ系民族が住んでいる場所は全てドイツのもんじゃコラァ!』と言う主張なので周辺国にはナチスの再来と警戒されていた。
しかし、与党の彼等からしてみれば野党第一党の彼等の主張は無視出来ず、国民の声もどんどんと高まっているので取り敢えずの手として打ったのが軍事費の大幅なアップであった。
詳しく纏めるとこれまでGDP比1.5%だった国防費をいきなり1.8%にしたのである。
更に2035年までに2.0%にすると宣言までしている。
ちなみに2030年現在のドイツのGDPは3.8兆ドルであり、その1.8%という事は680億ドルになる。
つまり来年のドイツの軍事費は7兆円近くになるのだ。
ちなみに今年は520億ドルだったので、単純に比較しても160億ドル、約2兆円の大幅な増加になっている。
比較対象に日本の今年の防衛費が700億ドルで来年度が750億ドルなのでその上げ幅の多さが分かるだろう。
ちなみに日本は今年のGDPが5.4兆ドルでGDP比1.3%で、来年が1.4%である。
そんな訳で現在ドイツ連邦軍では大幅に増えた予算で装備の更新や調達で大忙しであった。
「ふ〜む、」
「司令官、どうされましたか?」
ヴィルヘルム・スハーフェン海軍基地司令は執務室で、ある1枚の書類と睨めっこしていた。
そこに報告の為に室内に入った士官が思わず質問したのだ。
「これを見てどう思う?」
「はい?、コレって海軍の増強計画?」
渡された1枚の書類の上の方に大きく記載されていたのは『ドイツ連邦海軍の増強計画』という文字であった。
そんな書類がA4用紙1枚で済む筈無いのだが、恐らくというか、確実に概要であろう。
「何コレ?」
内容を読んだ士官は思わずそう言ってしまった。
「5年で空母を2隻整備する!?」
そこに記載されていたのは今のドイツ連邦海軍の現状からしても大それた物だった。
ドイツ連邦海軍の現在の艦艇はフリゲート艦12隻、コルベット艦6隻、潜水艦6隻とザ沿岸海軍に相応しい艦艇数だった。
この戦力は同じヨーロッパの海軍強国であるフランスは愚かイタリアやスペインにさえ届かない戦力である。
それを経った5年で空母打撃艦隊を2個艦隊編成するというのだから中国もビックリの大軍拡計画だ。
ちなみに中国は30年かけた。
「と、当然、正規空母では無いですよね?」
「まぁ、予算からしてもそうだろうな。2%にしても厳しいだろう。」
当然の事ながら空母を建造しても空母のみを運用する訳にはいかず、空母を護衛する対潜や対空に特化した駆逐艦が数隻必要である。
更には艦載機や補給艦も必要で単純に考えても1兆円以上は必要である。
更に言えば、現在のドイツ連邦海軍の艦艇に1万t以上の艦艇は補給艦を除き存在しない。
「あの・・・まさかとは思いますが、艦載機はもしかして・・・」
「フランス製だろうな。」
米軍を国内から追い出したドイツにアメリカが協力する筈も無く、艦載機はアメリカ以外から調達するしか無い。
アメリカ以外となると正規空母を運用しているのはフランス・ロシア・中国・インドの4ヵ国になるが、ロシアと仲が悪いドイツがロシア製を採用する筈もなく、そうなれば自然的に中国とインドが消えて、残ったのはフランスになる。
「フランスが協力してくれるんですか?」
「イギリスの穴を埋める為に協力してくれるだろうな。」
士官の疑問に対し司令は即答した。
これまでヨーロッパの外洋海軍はフランスとイギリスの2ヵ国で構成されていたのだが、イギリスが転移によりヨーロッパとNATOという枠組みから抜けて(ドイツは未だNATOからは抜けていない)、欧州の外性能力は大きく減少した。
今でさえもGDPの2.3%を軍事に使っているフランスがこれ以上出すわけにもいかなく、自然的にドイツに負担を求めるのは当然の流れだった。
現にドイツの大軍拡に対しポーランドやオーストリアなどが大反発しているのに対し、フランスは諸手を挙げて歓迎していた。
兵器の国外輸出を行いたいフランスからしてみればドイツが自国の兵器を買ってくれるならなんの躊躇も無く輸出するだろう。
「司令はこの計画に賛成なんですか?」
余りの司令の清々しさに、もしかして賛成なのかと思った士官だったが、それは違っていた。
「賛成の訳無いだろう。海軍の現状を考慮しても早急過ぎる。更にフランスはともかくポーランドやオーストリアとの関係を悪くするだけだ。」
ドイツ政府にとってポーランドやオーストリアよりもフランスと仲が良いならそれで良いという考えも透けて見える。
だが、実際に追い出された在独米軍はそのままスライドするかのようにポーランドに駐留しており、その数は7万5000と、最盛期の在日米軍の数を超えていた。
当然ながら自国から追い出した米軍が隣国に駐留している事をドイツが喜ぶ事は無く、両国の関係は悪化の一途を辿っていた。
「ほんと、どうなんのかなぁ。」
上から命令されればやるしか無い海軍軍人の1人である彼はそう呟く事しか出来なかった。




