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90.連邦制の国ってトップは楽だよね?

 


 新世界歴2年1月5日、アメリカ合衆国 首都ワシントンD.C. ホワイトハウス 大統領執務室


「そう言えばさぁ、ダンジョンの確保ってどうなってるの?」


 いつも通りの昼下がりの日光が降り注ぐ大統領執務室で毎日の日課である政務に区切りを付けた大統領は机の前のソファーに座りノートパソコンでカタカタと作業をしている国防長官に突如、そんな質問をした。


「ダンジョンの確保ですか?合衆国軍に州兵、更には警察や保安官なども総動員して捜索にあたってますよ。」


「そんな事、ご存知ですよね?」と、若干怒気を孕んだ声で最近徹夜続きの国防長官は返答した。

 皆さんもご存知の通り、アメリカの面積は日本の約26倍もある。

 だが、人口は経ったの3倍程しか無い。

 何が言いたいかと言うと、圧倒的に人員が足りないという事である。


「い、いや、どれ程見つかったかなぁ〜と思ってさ。」


 国防長官の怒気混じりの返答に思わずたじろぐ大統領。

「あぁ、そういう事ですか・・・え〜と、今現在42ヶ所のダンジョンと思わしき構造物を発見しており、そのうち38ヶ所を軍や警察が確保しています。」

「残りの4ヶ所は?」

「既に銃などの武器を持った人達が集まっており、地権者がお金を取って中に入れているそうです。」


 日本なら「銃などの武器」という時点で銃刀法で即逮捕案件だが、流石は自由の国アメリカ、銃の所持は憲法で認められており、テキサスなど一部の州では街中を出歩くのにライフルなどを持って出歩く事が許されている。

 まぁ、少なくとも日本では考えられない光景である。


「お金を取ってかぁ、面倒そうだな。」

「ダンジョン内で死傷者も出ているそうですが、まぁ当然ですよね。」


 大統領も国防長官も何処かの国と違って楽観そうなのは、もし死傷者が出た事に対して政府が批判されても「自己責任」で済むからである。

 というより、世論的に自業自得というのが一般的であり、『銃で死んでも自己責任』『ダンジョンで死んでも自己責任』という論調があるのでそもそも批判される声が小さい。

 まぁ、日本でも大概の国民は自己責任だと思っていそうだが、野党は政府批判しか出来ないので賛同する声も少なくない。


 自己責任論など持ち出したが、実際にはアメリカは様々な国が集まって出来た合衆国なので余程の事が起きない限り合衆国政府では無く州政府が対応する。

 合衆国政府が対応するのは主に合衆国政府じゃ無いと対応出来ない事と、大統領の支持率に大きく影響する事のみ。


「それで、大統領。こちらをご覧下さい。」


 そう言って国防長官が見せて来たパソコンの画面にはアメリカ有数のネットオークションのサイトが映し出されていた。


「ん?そのネットオークションがどうかしたのか?」


 何故、ネットオークションなのか分からず大統領は聞き返した。


「大統領はポーションって知ってますよね?」

「ポーション?あぁ、なんか日本の小説に出てくる回復薬とかいう奴だろ?ダンジョンからもドロップしたそうだが、それがどうかしたのか?」

「・・・・・」


 それを聞いて国防長官は(大統領、結構日本のラノベ読んでるんだ・・・)と素直に思った。

 しかし、それと同時に何故、そこまでスラスラ出て来てその先が分からない?という大統領の理解能力の無さに対する怒りが湧いて来た。


「それを踏まえてこちらをご覧下さい。」

「ん?あっ、コレポーションじゃん。こっちはインゴットかな?って高!!!」


 そのオークションに売られていたのはポーションや貴金属のインゴットなど、ダンジョンのドロップ品と思われる数十の品だった。

 どれもこれも軽く数百ドルを上回っており、中には数千ドルの値が付いている物すらあった。


「サラッと確認しましたが、ドロップ品はそんなに多くない筈なんですが、品が多すぎるんですよね。」

「と、言うと?」

「軍や警察が確保したダンジョンのドロップ品を現場の兵士達が横流ししている可能性があります。」


 現在確認されているダンジョンは全て合わせて42ヶ所、そのうち4ヶ所を除いた38ヶ所を政府機関が確保している。

 一応、政府は数少ない衛星を使い全力で探しているので政府が確保していないダンジョンはそう多くない筈であった。

 そして、当然高価なインゴットやポーションはドロップ率は高くない。

 つまり、政府機関が確保しているダンジョンから流出した物である。

 国防長官はそう結論付けたのである。


「ネットオークションの出品者のIPアドレスを辿ったらすぐ分かるだろ?社会保障番号も紐付けしてるなら余計にだ。」

「えぇ、出すので現在FBIと協力して捜査しています。まぁ、犯人は直ぐに捕まりますが、問題なのはインゴットならともかくポーションなどが普通に出品されている事です。」


 まぁ、余程の大きな犯罪組織が絡んで無い限り犯人は直ぐに見つかる。

 殆どは出来心(・・・かどうかは分からないが)でドロップ品をくすねた小心者なのだから。


「ポーションかぁ。学者達が発狂してたな。」

「まぁ、その辺りに関しては専門外なのでどうでも良いですが、動画サイトに肉が剔れる大怪我をした男性の傷口にそのポーションを掛けると再生したんですよ。IPS細胞がどうでも良くなるレベルの代物ですね。」


 まだポーションの中にナノマシンが入っており、それらが傷口を治したり、組織を再生していると言われた方がまだ良かったのだが、ある研究機関の調べによればナノマシンのような物は確認されずスフィアナのポーションと同じく魔力がなんらかの作用を起こしているそうであった。

 ちなみにスフィアナのポーションは特殊な薬草を原材料にする為、数が非常に少なく、非常に高価である。


「兵士に持たせたら生存性が劇的に向上するな。」

「数が圧倒的に足りませんがね・・・」

「まぁ、俺達がする事はダンジョンに関する法案を作る様に議会に働きかける事だよ。」


 そう、何処かの国の首相と違い余裕がある大統領は笑いながら冷めたコーヒーを啜った。


「そんな事よりも大寒波が合衆国全土を襲っているんですが・・・」


 呑気な大統領を尻目にアメリカ国立気象局、日本で言う気象庁の長官がそんな報告をした。

 過去に何度も大寒波に襲われているアメリカだが、今回の大寒波はその威力が段違いだった。


「少なくとも凍死者が3000人程出ています。」

「3000人は多いな。備蓄燃料の使用も許可するから早急に公共施設への暖房設備を設置するんだ。ところでいつまで続きそうだ?」


 寒波で凍死者3000人は歴史的な記録だが、自助が基本のアメリカはその死者数に驚く事はあっても問題では無い。

 そもそも10年ほど前のコロナウイルスで十数万人が亡くなってる国なのでそういう感覚が麻痺しているのかもしれない。


「大気や気象条件が無茶苦茶な場合がありますから正確には不明ですが、過去の記録からだと1週間から3週間程度かと。」

「そうか、ならばマニュアルに従って対応してくれ。」

「はい、分かりました。」


 そう言って国立気象局長官は各担当員に指示を出す為に退出して行ったが、彼等はまだ知らなかった。

 今回の寒波がただの歴史的な寒波では無い事を。





 新世界歴2年1月5日、スフィアナ連邦国 アルカイト州 アルカイト薬学研究所


 独立行政法人スフィアナ薬学研究開発機構、通称PRDMと呼ばれる組織はスフィアナ連邦国科学技術省に属する公的法人である。

 日本の分類で言うと独立行政法人よりJAXAやJTなどの特殊法人に近い所謂、国の外部機関である。

 そんな独立行政法人の中の1つであるスフィアナ薬学研究開発機構(PRDM)は簡単に言えば薬などを研究している組織である。

 スフィアナを含むサリファ世界の一部の国や地域にのみ分布する特殊な薬草を使用して作られるポーションなどの研究もこのPRDMで行われている。


 そんなPRDMだが、流石GDPの5%を研究開発に投じている国なだけあって、アルカイト州にあるアルカイト薬学研究所は非常に立派な建物であった。

 そしてそんな研究所内のセキュリティーエリア内の一室、一般人が見ても何の用途に使うかわからないような機械が並ぶ場所では現在、ある回復薬についての調査を行なっていた。


「主任、例の回復薬の調査が一通り終了しました。」


 白い白衣を着たPRDMの研究員の1人が室内に入って来た男性に向かってそう報告した。


「・・・結果は?」

「アルガント・フォーレス大樹海産の薬草より少し効力が弱いです。何と言いますか、劣化版の薬草を魔力で補っている形ですね。」


 研究員が言ったアルガント・フォーレス大樹海はサリファ世界でも数少ない回復薬になる薬草が取れる場所のうちの1つである。

 首都レスティナードがある東スフィアナ島北東部の山脈に囲まれた場所に広がる大樹海で、普通に命の危険が伴う危険地帯である。

 日本の富士樹海とは危険度のレベルが段違いなのだが、アルガント・フォーレス大樹海は良質な薬草の群生地であるのだが、危険な為余り多くの薬草を入手出来ない。

 よってポーションの価格も上がるのだが、最高品質である事に間違いは無く、世界中から注文があるのがスフィアナのポーションである。


「それでも回復はするのだろう?」

「そうですね。有効ではあると思います。」

「・・・では、この研究結果で政府に報告すれば良いな?」

「はい、短期的にはそれで良いと思います。では、私は更に研究しますので。」

「あ、あぁ、頼んだぞ。この報告は私が責任持って政府にあげておこう。」


 と、主任がそう言ってる間にも研究者はサッサと自分の研究室に戻って行った。

 普通に上下関係が成ってないと言われればそれまでなのだが、それを言わさないだけの実力を持っているので面倒だ。


「実力はあるのに勿体無い。」


 主任はそう呟いた。

 最も、彼は研究馬鹿なので研究以外の事はどうでも良いのである。

 研究第一、それ以外には興味無い。

 以外というか、そういう人達の集まりが研究機関なので、主任はそう呟きながらも内心は対して勿体無いとはあんまり思っていなかった。


「あぁ、私だ。一応短期的な調査が終わったが、どうすれば良い?・・・・ヘリコプターで?成る程分かった。それでは。」


 機密保持の為、専用の携帯を取り出して誰かと電話する。

 どうやら相手は国のそれなりの地位に居る人間のようだ。


 このやり取りの3時間後、研究者が纏めたダンジョンから産出されたポーションについての短期的報告は無事に連邦政府に届けられた。







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