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88.災難って続く物らしい。

 

 新世界歴2年1月1日、スフィアナ連邦国 首都レスティナード 首相官邸 会議室


 例の外にいるような自然の溢れた会議室のコの字型のテーブルには首相を始めとするスフィアナの各大臣や長官などが揃って疲れたような表情で座って、担当者からの報告を聞いていた。


「え〜と、何処から聞いたら良いんだろ?取り敢えずその、ダンジョンだっけ?それが我が国内に多数出現したって事で良いのかな?」


 最早、国家を揺るがす大災害だらけで驚く事をやめた首相が報告してきた担当者にそう聞き返す。


「そうなりますね。全ての州や海外領土で確認されておりまして、各州政府は陸上保安隊を動員してダンジョン?の確保に動いています。現状軍への出動要請は検討段階を含めてありません。」


 スフィアナ連邦国と日本国の大きな違いは日本は中央集権国家であるが、スフィアナは地方分権国家である為、大概の判断は各州政府が行う事である。

 まぁ、日本でも地方への官公庁の移転や道州制(連邦制)を公約に掲げる政党などもあるので、昔よりは地方分権が進んでいるが、未だに東京への一極集中は治らない。

 近年は大阪にも集中しているので二極集中とも呼ばれているが、それでも他の国よりは遅れていた。


「それで?国として対応出来る事はあるか?今の所説明を聞いてたら法整備以外は全て地方政府で対応出来そうだが?」

「現時点では問題無いでしょうね。他国のように暴動が起きているなんて事も聞きませんし・・・ただ、そのダンジョンと呼ばれる物が小説やラノベなどの空想上の物ともしも同じ物であったならばダンジョンの解放を求める声も上がるかもしれません。」


 文化庁長官の発言を聞いて真っ先に嫌な顔をしたのは国家安全保障担当大臣と法務大臣であった。

 特に国家安全保障担当大臣は「マジで?」と内心思ってそうに頭を抱えた。


 国家安全保障省は連邦警察庁や陸・海保安庁などの治安維持を担う省庁の為、そのような要求(ダンジョン解放)をされて治安が悪化しては彼女の責任問題にもなるからだ。

 更にもしも突如現れたダンジョンが空想上のダンジョンと同じ物であるならば内部にモンスターなどの凶悪生物がいる可能性が高い。

 そうなると当然武器の所有制限の緩和などの要求をしてくる可能性が高く、そうなれば間違いなく治安は悪化するだろう。


「例えです、例え。もしそのようなダンジョンに制限無しになんの軍事訓練も受けていない一般人なんか入れてでもしたら、直ぐに万を越す死体が積み上がるでしょう。」


 サラッと恐ろしい事を言ってくるが、実際に日本やイギリスなどの各国政府が頭を悩ませているのはそこであった。

 武器の所有制限が緩いアメリカなどは自己責任で済ませようとしているが、自己責任でも間違いなく政府に責任を要求してくる人間が多数いる国では意地でもダンジョンの民間解放を行うつもりは無かった。

 言ってしまえばダンジョンという閉鎖環境で殺し合いをしに行っているような物で有り、犯罪の温床になる事は火の目を見るより明らかである。


「で、ですが、もしも空想上のダンジョンのように特殊な鉱石や価値の高い宝石などがドロップされるなら経済界からもダンジョンの民間解放を要求する声が高まるのでは?」


 そう言ったのは経済・産業基盤担当大臣である。

 経済界からの支援を受けた政党が与党という例にスフィアナも漏れず、現在の与党である自由党は経済界などからかなりの支援を受け取っていた。

 その為、支援者からの意見を蔑ろにする訳にはいかないのだ。


「だが、経済界からの圧力で全て決めていれば国は滅茶苦茶になる。」


 そう言ったのは外務大臣である。


 現在の政権は考えの似たような2つの政党から成り立っている連立政権である。

 首相や経済・産業基盤大臣などは先ほどの自由党所属だが、外務大臣や防衛大臣などは青の党と言う政党所属である。

 青の党は中道右派・保守主義・地方分権・小さな政府・環境保護が主な政治的思想で、自由党は中道右派・保守主義・小さな政府・自由主義で似ているので連立を組んでいる。

 ちなみこの2つの政党が現スフィアナの最大政党と2番目に大きい政党であるので120年程政権交代は起きていない。


「経済界からの圧力は置いておいても、間違い無く国民からは民間解放の圧力が高まるぞ?」

「だからって死地に国民を送り出すのか?」


 側から聞いていると戦争に軍を派遣するかしないかの議論に聞こえるが、ただ単に国内に突如出来た洞窟にを民間に開放するかしないかの議論である。


「だが、第一にそのダンジョンと呼ばれる物に軍なり警察なりの部隊を派遣させて状況を知らないことには何も始まらなく無いか?それにそんなドロップアイテムなんて物が出てくる保証も無い。民間解放の議論は部隊を派遣した後でも遅くは無いと思うが?」


 そう言って白熱するこの場を宥めたのは日本で言う官房長官にあたる首相補佐官である。

 ちなみ彼は政府の役職である為、政党所属の議員では無くただの国家公務員である。

 まぁ、ただのと言ってもこんな立場(首相補佐官)まだ登り詰めたので相当なエリートなのだが、経歴的にはこの場にいる全員、似た様な物である。


「じゃあ、取り敢えず陸上保安隊と軍から部隊を1つずつ抽出してそのダンジョンとやらに潜入させよう。この話はその後だ。良いな?」

「分かりました。」

「了解です。」


 次の日、陸上保安隊と連邦軍の各特殊部隊から2つの特殊構造体調査隊が編成されダンジョンに潜入する事になった。

 その結果は今現在は誰も知らない。






 新世界歴2年1月1日、ロシア連邦国 首都モスクワ・ヤセネヴォ ロシア対外情報庁


 クレムリンではロシア国内に突如として現れた謎の構造体について対策会議が行われている中、首都モスクワ南部にあるヤセネヴォにその建物はあった。

 ロシア対外情報庁、通称CBPと呼ばれるあのKGBの一部後継機関である。

 と言っても正確にはKGBの対外諜報を担当していた第一総局の後継機関で有り、日本で言う公安の任務を担っていた第二総局はロシア連邦保安庁(FSB)がその後継機関である。

 そんな元々はアメリカのCIAと争うような巨大情報機関の後継機関の長は現在、隣国の事で頭を抱えていた。


「まさかあの中国が群雄割拠の時代に再び突入するとはな・・・」

「えぇ、驚きです。アルテミス大陸での敗北があったとしても求心力は維持し続けると思っていました。」


 中国はいくら国内が不安定だと言っても中央、中国共産党は絶大な影響力を保持しており、中国崩壊など現実的には起こり得ないと考えていた。

 もちろん、そう考えていたのはロシアだけでは無くアメリカや日本、ヨーロッパ諸国など世界中の情報機関がそう考えており、よって衝撃も大きかったのである。


「いつまででも驚いていたって仕方がない。崩壊して分裂したならばそれぞれの国土?領地?みたいなのがあるだろ。どう分裂したんだ?」


 長官がそう聞くと秘書は中国大陸に線が引かれた地図が映し出されたタブレットを見せてきた。


「ほぅ、どれどれ・・・」


 タブレットを受け取った長官は旧中華人民共和国の地図を取り出して見比べた。

 その際にも秘書は区分の説明をする。


「ウイグルとチベットは独立を宣言、内モンゴルもモンゴルへの帰属を表明し、残りは中国軍の各軍管区の線引き通りに別れ独立を宣言しました。」


 元々ウイグル・チベット・内モンゴルの3地域は中華人民共和国からの独立意識が強く、前世界の時から度々中国当局との衝突を繰り返していたのでこの機会を逃す筈は無い。

 ちなみに軍管区は日本で言う方面隊のような軍の指揮命令系統を分けている地区の事である。

 つまり、その軍管区の長が各地方政府の長と結託したのだろう。

 内モンゴルやチベット・ウイグルなどが含まれていた西部戦区と北部戦区はその地域を除いた独立だろう。


「ウイグルとチベットがインドに軍事支援を要請しており、北部戦区も我が国に軍事支援を要請しています。各戦区毎に独立しているのが基本ですが、海南省が更に独立しようとしており、朝鮮省も独立しようとしています。ちなみに山東省は北部戦区管轄ですが中部戦区管轄で独立しています。」

「ふむふむ、では基本的にモンゴルに吸収される内モンゴルを除いてウイグル・チベット・海南島・朝鮮半島・北部・中部・南部・東部の8つに分裂しようとしていると?」

「大まかにはその通りです。」


 面倒な事になったと長官は頭を抱えた。

 新しく国が独立したからと言え行政サービスなどは崩壊しただろう。

 つまり北部戦区辺りの数億人に登る住民はロシアに難民としてやってくる可能性もあった。

 少数ならばロシア連邦保安庁(FSB)隷下のロシア国境軍が適当に始末するだろうが、流石に万を超えたら受け入れるしか無くなる。

 となると受け入れ先はシベリアだが、現在シベリアは気温が10度近く上昇した為に永久凍土が溶けてしまい、数々の施設が大ダメージを受けており現在緊急事態宣言中である。


「受け入れ先はシベリアか・・・インフラがガタガタだが大丈夫なのか?」

「シベリア鉄道やパイプラインも止まってますからね。」


 基本的にシベリアなどの永久凍土の上に建てられた建築物は永久凍土が溶けない前提(だから永久凍土)で建てられた物である。

 その為、永久凍土が溶けてしまうと地盤がガタガタになりあちこちで建物が傾いたり地盤が陥没したりしていた。


「取り敢えずFBSに国境を警戒させておこうか、ついでに極東軍にも連絡しとこ・・・」


 そう言って彼は携帯を取り出し関係各所へと連絡し始めた。






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