87.驚きは突然に来るもの
新世界歴2年1月1日、日本国 首都東京 総理官邸 会議室
「さてと、取り敢えず報告から頼む。」
日本国の各大臣が集まる緊急会議で総理は防衛大臣と公安委員長を観ながらそう言った。
他の各大臣の視線も2人に向いており、防衛大臣と公安委員長はお互いにアイコンタクトしながら(お前が言えよ)となすりつけ合いをした。
10秒ほど経って国家公安委員長は周りの視線が自分に向いているのを感じて諦めた。
「失礼しました。私から報告させて頂きます。」
スクッと立った公安委員長はまずそう言った。
ちなみに今回の異常事態に防衛省の方も対応に当たっているが、基本は警察なので防衛大臣ではなく公安委員長が説明するのは当然である。
「まず東京や大阪など北は北海道から南は沖縄まで計27ヶ所の特殊構造体が年が明けてから出現しました。ちなみに出現した原因などは一切不明です。そして現在全ての特殊構造体は警察や自衛隊などが封鎖していますが封鎖する前に中に入った一般人が居ましたが現在に至るまでその行方は分かっていません。」
公安委員長がそう言い切ると官房長官などが頭を抱えた。
この事態の原因は置いておいて、まずその一般人は間違いなく亡くなっているだろう。
そして間違いなくマスコミや対立野党は国の責任だと騒ぎ立てるだろう。
「そして大阪府大阪市にある大阪城公園内に出現した特殊構造体では確認されているだけで20人弱が行方不明になっています。つい先程ですが、その事を受け大阪府知事より大阪城公園付近での自衛隊への治安出動要請が届きました。」
戦後初の知事からの治安維持名目での自衛隊派遣要請には総理も驚いたが、大阪城公園周辺の現場を思えば当たり前のように思えた。
「そして、その大阪城公園上空を取材の為飛行していたマスコミの報道ヘリコプターが接触し墜落、大阪城公園近くの大阪国際平和センター建物に2機共墜落し建物は現在炎上中です。詳細は不明ですが当時建物には誰も居なかったので被害はヘリの搭乗員と建物のみでしょう。」
まぁ、それについては後で国土交通省の運輸安全委員会が調査するだろう。
これを機に好き勝手しているマスコミへの規制を強めるのもいいかもしれないと、総理はまた国内が二分されそうな事を考えていた。
「まぁ、その件については運輸安全委員会に任せよう。それで大阪府知事からの自衛隊派遣要請に関してだが、私は承諾しようと思う。」
総理はそう言って出席者達を見回した。
暫くして誰も反対する人が居ない事が分かると総理は安堵のため息を吐いた。
「では防衛大臣。大阪城公園周辺での治安維持名目での自衛隊の治安出動を認めます。必要な部隊を抽出して下さい。」
「はい、了解しました。現在、大阪城公園から程近い伊丹駐屯地の陸上自衛隊第3師団第36普通科連隊に出動待機させていますので、その部隊を出動させます。」
「分かりました。大阪だけでは無く他の都道府県でも自衛隊派遣の検討をしているそうなのでその辺りに関してもお願いします。」
「はい。」
総理まで上がってきたら案外サッサと決まった自衛隊の治安出動だが、これでも総理はかなり悩んだ末に派遣の決定をしている。
最もそれを感じさせないのがこの総理の凄い所なのだが、官房長官は「いつもそれをやれ!」と思っている。
「それで?当然ウチだけじゃ無いんだろ?」
そう言って外務大臣を見ると出動者達の視線も外務大臣の方へと向かう。
「は、はい。イギリスやオーストラリア、スフィアナも含め各国で同様の現象を確認しています。同じくアメリカでも確認されており、現場の人間は我が国の小説やラノベなどからダンジョンと名付けているようです。」
「ダンジョン?それってあのダンジョンか?」
「恐らく・・・」
それを聞いて公安委員長と文化庁長官はこう思った。
(あ、これ国民が知ったら不味いヤツやん!)
「ま、まぁそれは良いとして、これからどうします?」
「どうするとは?」
「人が入って行方不明になるような危険な構造体が東京や大阪などの都市のど真ん中にある訳です。流石に街中の空き地などには出現してないようですが、物によっては個人の住宅の近くにある物もあるでしょう。」
つまり国が買い取って国有地にするという事である。
危険な構造体がいきなり現れて地価が下がる可能性もあるので持ち主にしてみれば嬉しい話である。
最も、その土地に愛着ある人だろうが関係無く立ち退きなので想いは人それぞれである。
「成る程、確かに危険だな。半径200m程度を国が一括で国有地化して安全圏を確保して防衛施設を建築する必要がありそうですね。」
「自衛隊の施設科を投入すれば直ぐに出来ます。」
「しかし・・・そうなると、法律が必要だな。」
「近いうちに野党に根回しをする必要がありそうだ。」
「まぁ、去年よりはマシか・・・」
国会での法案通しにゲンナリする大臣達であるが、あの憲法9条改正の国会審議以上の事はそうそう起こらないだろう。
ただ、公安委員長と文化庁長官の2人のみは憲法9条改正の時よりも荒れるのでは?と思ったがあえて口に出す事は無かった。
「国内にそのダンジョンとか言うやつはどのくらいありそうだ?」
「ん〜、現在見つかっている物も含めて20〜30。新大陸領土まで含めるなら100近くはありそうだな。」
「マジかよ・・・」
そう呟いたのは防衛大臣である。
ダンジョンの数が多くなれば成る程、ダンジョンに割く自衛隊員の数も多くなる。
そうなれば、ようやくマシになってきた自衛隊の隊員不足が再び問題になりかねない。
「一応、ダンジョンの警戒の主体は自衛隊で、警察はその補佐に回ってもらいましょう。拳銃では心許ないですからね。」
総理がそう言うと警察庁長官も防衛大臣も渋々頷いた。
防衛大臣としては少なからずの人員をダンジョン警戒に割かなければならなくなり、警察庁長官からして見れば国内の治安維持任務で警察が補佐になってしまった。
最も、確かに拳銃程度の武装しか無い警察官だけで対応にあたるのは無理なので仕方がない。
「総理、この場をお借りして少し宜しいですか?」
特殊構造体に関する議論も峠を越えた頃、そう発言したのは今までの会議で蚊帳の外だった公安調査庁長官である。
つまりヒューミント機関の長である。
ちなみに憲法9条改正に伴う国民投票直後に国会にて可決成立した直ぐ後の12月19日に新たに情報保全管理法という法律が衆参両院で可決された。
この情報保全管理法に伴い法務省公安調査庁、内閣官房内閣情報調査室、外務省国際情報統括組織の4つの情報機関を統合して日本国情報総局(JITS:Japan Information Total Station)という組織が出来る事が決定した。
結成は今年の2月半ばではあるが、現状日本最大のヒューミント機関である公安調査庁が持つ諜報網は小さく無い。
ちなみに2025年に何処からかの外圧に伴い情報通信省という組織も出来るがこちらは政府が持つ情報の保全が目的なので情報機関では無い。
ちなみ日本国情報総局はこの情報通信省の外局になる予定である。
「構わない。」
総理がそう言うと公安調査庁長官はある国について説明を始めた。
「皆さん最近聞かないので忘れていると思いますが、少し中国の現状について説明致します。」
まるで学校の先生のような口調で説明し出したが、「そう言えば・・・」と今まで忘れていた出席者が何名か居た。
ここ最近激務なので聞かないと記憶から外れてしまうのだ。
「まぁ、先に結論だけを述べますと、中国、いえ、中華人民共和国は崩壊しました。」
公安調査庁長官が先にそう発言すると参加者達はあまりの事に頭内でハテナマークが浮かびまくっていた。
つまり、理解出来ていなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。中華人民共和国が崩壊したとはどういう事だ?」
慌てたようにそう言うのは政府与党内で中国議連の委員長をしている人だった。
ちなみに韓国が中国に吸収された事により韓国議連は既に解散している。
「簡潔に説明致しますと中国国内で軍部がクーデターを起こし、その際に民衆が民主化運動を開始、アルテミス大陸派遣軍の壊滅もありそのまま各地で軍閥が起こり更にはインドが中国との係争地確保に動き、そのまま中華人民共和国は崩壊しました。」
「崩壊しました。」とサラッと言っているが人口14.5億人、GDP世界2位の大国が崩壊したのだ。
つまるところ三国志時代や日中戦争時のような軍閥が闊歩するような時代に中国大陸は突入したと言う事である。
「・・・そうか、取り敢えず中国が崩壊したと言う事は信じ難いが事実なのだろう。それで、どのような区分けになったのだ?」
「分かりません。」
「・・・はい?」
(あの中国が崩壊した。)、有り得ないと思いながらも情報機関がそう言っているのだから事実だろうと総理はそう思う事にした。
しかし、中国が崩壊して軍閥が支配しているのにその領地が分からないとはどう言う事か?
あっさりと「分かりません。」と言った公安調査庁長官に一瞬怒りが湧いたが、何とか治めた。
「・・・ユーラシア大陸と我々の位置する新太平洋は余りにも遠すぎます。通信する衛星が無く海底ケーブルも全て切断されており残って無い。インドもロシアも詳しい情報は掴めてないようです。」
前世界ならば中国に行こうとすれば飛行機で1時間程度で行けたのだが、この世界では中国大陸と離れ過ぎで飛行機の航続距離では行く事が出来ない。
更に衛星も海底ケーブルも海を挟んだ他国との通信は全て封じられている。
その為、公安調査庁もインドで掴んだその情報をアメリカ経由で日本まで伝えたのだ。
ちなみに一部ロシアからの情報も混じっている。
「そうか、ならば仕方が無いな。報告は以上か?」
「はい。」
「では、次の議題に行こう。次は・・・」




