86.海外はもっとスピーディーに出動させてるよね?
新世界歴2年1月1日、日本国 大阪府中央区 大阪府警察本部
世界が変わっても毎年の如く通例な新年のお祭り騒ぎにより日本中の警察官は三ヶ日など無かった。
そしてここ、大阪城公園の真ん前にある大阪府警察本部内の通信司令室でも大阪府各地の警察署や交番、パトカーから無線が入ってき、通信指令員達とやり取りをしていた。
しかし、そんな数多くある無線の中で明らか異常事態の無線が入ってきたのはまだ夜も明けない夜中の2時過ぎだった。
『至急、至急、大阪7から本部、大阪7から本部!!』
「はい、こちら本部。どうしましたか?」
『大阪城公園に人工的な地下への階段が現れた!目撃者の話によると数人の若者が入った後暫くして悲鳴と共に何か刃物で切る音が聞こえて音信不通の模様!』
「こちら本部。大阪7、報告の詳細が不明だ。詳しく報告を求む。」
スピーカーからの余りの怒声に思わずヘッドフォンを離した司令員だが、直ぐに落ち着いて対応にあたった。
だが、報告の内容が人間が理解出来る範囲を軽く超えていた。
『だから大阪城公園内の地下への階段に若者達が入って悲鳴の後、音信不通なんだよ!明らか危険生物が居るぞ!機動隊かSATでも寄越せ!!』
またヘッドフォンで怒鳴られては堪らないと司令室全体のスピーカーに切り替えたが為に警察官の怒声が通信司令室内に響きわたった。
そのお陰で彼と通信していた担当者の元に都警本部のお偉いさん達がやって来た。
そしてその中には・・・
「ほ、本部長・・・」
「構わない。何があった?」
大阪府警察の約2万4000人の職員のトップである府警本部長までいた。
ちなみにその取り巻きのように周りに居るのは刑事部長や交通部長、警備部長達の各内部組織のトップ達である。
そしてそんな面々に驚きながらも担当者はこれまでの通信内容を事細かに彼等に説明した。
「・・・成る程、分かった。事態確認の為に機動隊を向かわせろ。警備部長、良いな?」
「それは構わないが、このような事態だと・・・」
「えぇ、知事への報告が必要ですね。私が報告します。」
何やら超お偉いさんの名前が聞こえたような気がするが通信指令員達は聞こえない振りして通常業務に戻った。
そして自分が報告すると言った彼女、刑事部長は足早に司令室を去って行き、何か有れば逐一報告するようにとの命令を残して彼等は去って行った。
そして彼等が去った通信指令室内では・・・
「おい、なんか知事への報告とか聞こえなかったか?」
「あぁ、聞こえた。何で知事が関係あるんだ?」
「お前ら知らないのか?年越しの時にまた去年のようなオーロラが出たんだぞ?」
「マジで?」
気になるワードが沢山出て来たが、それを確認する事も出来ずに次のシフト交代まで彼等は黙々と作業をこなしていった。
新世界歴2年1月1日、大阪府中央区 大阪府庁舎 会議室
大阪都警察本部から病院を挟んで大阪城公園の目と鼻の先にある大阪都庁舎内の沢山ある会議の1つでは重苦しい雰囲気に包まれていた。
この部屋内に居るのは大阪都のトップである知事と副知事、そして大阪都公安委員会の面々である。
「警察では対応出来ないのか?」
府警から報告を聞いた知事は府警の担当者にそう尋ねた。
「・・・実態は確認してませんが数名がその洞窟で犠牲になってます。更に獣の鳴き声が洞窟内で反響しているのを何名もの警察官が聞いています。」
「つまり?」
「やれと言われればSATから部隊を選抜し、洞窟内に突入させますが、その場合どうなるか分かりません。」
言外に警察程度の武装なら全滅する可能性も有ると言われた都知事は一瞬怯んだ。
ここが北海道とかならばともかく人口密度の高い大阪では銃の発砲により文句の言う人も出てくるだろう。
「・・・未知程怖い事は無いからなぁ。」
府警担当者の言葉に大阪府公安委員長も同意した。
「まだ夜明け前だって言うのに大阪城公園には野次馬やマスコミが殺到してるらしいな。」
「全くだ。とんだ年明けになってしまった。」
そう話すのは現場である中央区の区長達である。
区長がスマホでニュースを観ようとすると、そこにには大阪城公園上空からのニュース映像が映った。
「うわぁ・・・人多過ぎじゃねぇ?」
「本当だ。万単位で居るなぁ。」
そこに映し出されていたのは初詣のお寺や神社状態になっている大阪城公園だった。
先程の報告で中央区長と府知事は大阪城公園を完全閉鎖している為、余計にその周りに人が溢れかえっていた。
大阪城方面の窓から外を見ると大阪城公園上空は十数機のマスコミのヘリコプターが飛行していた。
「まぁ、去年みたいにオーロラが現れてそんな洞窟が同じ時期に現れたらマスコミは群がるだろうな。」
「それで知事、どう致しましょうか?」
公安委員長が知事にそう尋ねたのは委員長と知事の職の関係性からだった。
そして国立大法学部を出たインテリの知事は公安委員長の質問の意図に直ぐに気付いた。
「自衛隊への派遣要請か・・・」
「「!?」」
一般の警察力で治安を維持出来ない場合などに自衛隊による軍事力を用いて治安維持を行う治安出動、公安委員長は言外にそれをしろと言っているのだ。
最も知事が自衛隊に要請を出しても、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が命じない限り治安出動が行われる事は無いのだが、これまで行われた事のない要請が行われるだけでその影響は計り知れない。
「だが、これは警察の対処能力を超えた事態なのか?」
「とりあえずSATでも機動隊でも使ってみてからだろう。」
「いやいや、明らかに何かしらの力が働いている場所にそんな軽武装の警察を入れても無駄死にするだけだろう。」
通常の警察官で有れば武装は良くて拳銃で有り、更にその拳銃も軍用の威力の高い物では無く、誰でも扱えるような反動の小さい拳銃である。
頑張ってSATなどの特殊部隊で有れば『MP5』や『20式小銃』などの軍隊と遜色無いような装備にグレードアップするが、そんなSATも大阪府警に限ると1000人も居ない。
「・・・分かった。自衛隊に治安出動を要請しよう。」
「知事がそう言うなら分かりました。公安委員会で審議してきます。」
「あぁ、宜しく頼む。自衛隊が派遣されるまで時間がかかるだろうが、それまでは警察の方で何とかしてくれ。」
「はい、分かりました。」
遂に自衛隊への治安出動を要請する事を決めた府知事だったが、そんな簡単に自衛隊の派遣は出来ない。
この後大阪府の公安委員会内で審議され、許可されれば初めて国に対して自衛隊の派遣を要請出来る。
更に国に要請すると内閣内で審議され、その後初めて総理が自衛隊の派遣を命令出来る。
どんだけ早くても今日中に何とかなる事では無い。
「この後は議会への報告か・・・」
知事は今回の原因がある大阪城公園の方を見ながら心底面倒そうに言った。
幸いにも大阪府議会では知事が所属する地方与党が議会の3分の2の議席を占めてるが、面倒な事にならないとは限らない。
ちなみに治安出動の要請で知事は議会に報告しなければならないが、議会の賛否は必要無いのでただの報告である。
「年明けそうそう面倒な事になりましたなぁ。」
大阪府知事のその一言がこの部屋内の全員の思いだった。
新世界歴2年1月1日、日本国 大阪府中央区 大阪城公園
数時間前の1人の警察官からの緊急通信を皮切りに大都市大阪の中心部にある大阪城公園には続々と警察官達が集まっていた。
普段は観光客達が乗るバスを停める大型駐車場には警察の車両が止まっており、先程知事より立ち入りが禁止された公園の周りには万を超える野次馬やマスコミが集まっていた。
唯一の救いは大阪城が軍事目的の要塞だと言う事だ。
つまり、堀などがあり大阪城内の4ヶ所の門を封鎖すれば入ってくる事は無い。
今回、その異常建築物が見つかったのは大阪城の敷地内にある梅などが植えられている梅林というエリアであった。
「封鎖は完了したか?」
「はい。大手門などの幾つかの門を完全に封鎖し、とりあえず大阪城公園全域の封鎖は完了致しました。」
『MP5』などの普通見る事の無い銃火器を手にしながらそう話すのは大阪府警SATの隊員達である。
大阪城公園は大阪府警察本部の目と鼻の先という事で対策本部は警察本部内にたてられていた。
「しかし、マスコミの報道ヘリが多いな。」
「こんな構造物が見つかったのはここだけじゃあ無いでしょうに・・・」
大阪城公園の上空には多数の報告ヘリコプターが飛行していた。
十数機程は軽く飛行しており、マスコミもマスコミで大変だなと思う。
そしてふと空から視線を落としたその時であった。
ガンッ!!キンッ!!ドカァーン!!!
何か金属同士のぶつかる音が聞こえその後に聞こえてきたのは爆発音だった。
「な、何だ!?」
そう言って爆発音のした上空を見た時に隊員の目に映ったのは燃え上がりながら落ちていく2機のヘリコプターだった物だった。
「う、嘘だろ・・・」
彼は燃え盛りながら大阪城公園隣のある建物に落ちていくヘリコプターを見て呆然と突っ立ちながらそう言う事しか出来なかった。




