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80.当初の予想が外れるのはよくある事

 


 新世界歴1年12月16日、日本国 沖縄県下地島市 航空自衛隊下地島基地


 中国の海洋進出に対し自衛隊はそれまでの対ロシアでの北東重視から南西重視に変更した南西シフトを行い、それまで自衛隊の戦力空白地帯だった沖縄や鹿児島の島嶼部に自衛隊の駐屯地や基地を建設していった。

 沿岸警備隊が配備された与那国駐屯地、対空ミサイル部隊が配備された奄美駐屯地や石垣島駐屯地、対艦ミサイル部隊が配備された宮古島駐屯地や奄美駐屯地、そして航空自衛隊の戦闘機部隊が配備された下地島基地である。


 その下地島基地設置にはこれまでの自衛隊の南西シフトによる新基地建設計画よりも防衛省は苦労した。

 そもそも下地島基地となった下地島空港の建設の際、国は沖縄県と軍用にしないという協定を結んでいたからである。

 その協定が3000m級の滑走路を有しながら訓練以外で自衛隊機が来る事の無かった大きな理由だ。

 しかしそんな協定はある事を理由に宮古島市議会で破棄される事となった。


『コロナショック』


 2020年に起きたこのパンデミックは世界経済に大打撃を与え、それは観光地であった沖縄も同様だった。

 そもそも下地島空港は元々民間航空会社のパイロット育成の為に建設された空港であり、空港としては余り機能していなかった。

 しかし2019年に国内の大手デベロッパーが中国からの観光客誘致の為、空港の設備を拡張した。

 当初は順調だった旅客客数も前述の『コロナショック』により危機感状況となった。

 中国との移動禁止により下地島空港から上がってくる使用料はゼロになった。

 ここで致命的なのは運営者が国では無く沖縄県だという事である。

 地方空港の運営者が地方自治体というのは珍しく無いのだが、コロナショックの前年に下地島空港はかなりの予算をかけて改装している。

 その為、その費用負担もあって県や市はかなりの負担となった。

 それなりの体力がある県はまだ良い。

 問題は体力の無い宮古島市である。

 空港使用料も無くなり、観光客激減による税収も減り、逆に空港維持費はかかる。

 言ってしまえば下地島空港は負債となってしまったのだ。


 しかし、そんな下地島空港が欲しくて空港の維持費を肩代わりし、尚且つ交付金を貰える案が1つだけあった。

 その案が下地島空港に航空自衛隊を誘致する事である。

 過去に自衛隊誘致を表明した市長はいたが、住民の反対により撤回する事態もあった。

 だが、今は逆に住民から自衛隊の誘致を請願される程であり、宮古島市は本格的に下地島空港に自衛隊を誘致する事を考え始めた。


 だが、下地島空港の軍用化は当時の琉球政府と日本政府の間で結ばれた『屋良覚書』により禁止されていた。

 しかし何としても下地島空港に自衛隊を誘致しなければ財政破綻する可能性もあった下地島空港は『屋良覚書』を無視して宮古島市議会で『下地島空港への自衛隊誘致案』を賛成多数で可決すると、防衛省に提出した。

 最も、この事に怒ったのは沖縄県である。

 沖縄県は『屋良覚書』を理由に宮古島市に誘致要請を撤回するように要請したが宮古島市は拒否。

 それにより沖縄県は裁判所に宮古島市を提訴したのである。

 防衛省からしてみれば辺野古基地の問題もあった為、「勘弁してくれ」と言いたい心境だが、下地島空港が自衛隊基地として使用出来るなら万々歳と要請を受諾した。


 結局、二審まで登った今回の裁判だが、判決は一審・二審共に宮古島市の勝利。

 沖縄県は敗訴したのである。

 ここで沖縄県が上告しなかったのはコロナショックによる観光客激減に対応する為、忙しくて構ってられなかったからである。

 それはさて置き、何故宮古島市が勝訴したのかと言うと、今回の裁判で問題になった『屋良覚書』、この文書の中に記載されている日本政府と取り決めしたのが琉球政府という点について宮古島市は異議を唱えたのである。

 つまり現在の沖縄県は琉球政府の後継政府では無く、琉球政府が崩壊した時点でこの『屋良覚書』は無効という判断を裁判所は下したのだ。

 この判決により防衛省は下地島空港の航空自衛隊部隊の配備を正式に決定した。

 その後、宮古島市で行われた住民投票により自衛隊誘致派が勝利し、2027年に建設を開始、2029年に部隊が配備され航空宇宙自衛隊下地島基地が開所した。

 そして現在・・・


「暇だなぁ〜」


 そう言いながら基地のアラート待機室で、ぐで〜とだらけているのは『F-15J』戦闘機のパイロットである。


 転移前は中国の海洋進出もあり、元々キャパの小さかった那覇基地だけではスクランブル発進が間に合わないという事で建設された下地島基地だったが、出来た次の年に異世界へ転移し、中国の領空侵犯が無くなったのである。

 結果的に半年程しか役にたってない下地島基地だが、防衛省はそれどころでは無く、半ば放置されていた。


 下地島に配備されたのは新たに創設された第10航空団の『F-15』戦闘機を1個飛行隊である。

 那覇基地に配備されていた『F-15』戦闘機の第9航空団2個飛行隊は戦闘機を『F-35JA』に更新され、米軍がいなくなった事で空いた嘉手納基地へ移駐している。


 そんな訳で暇になった下地島基地だったが、仕事が無くなった訳では無い。


「おい、シャキッとしろ。中国が居なくなっても台湾はまだ居るからな。」


 スクランブルの相手国は中国とロシアで殆どを占めるが、それ以外にも北朝鮮や台湾などもスクランブル発進の対象になっている。

 北朝鮮に関しては10年に1度程度の数だが、台湾に関しては年に数回のペースでスクランブル対象になっている。


「尖閣諸島だろ〜、台湾もいい加減諦めたら良いのに・・・」


 尖閣諸島に関しては中国との問題ばかりクローズアップされるが、一応台湾(中華民国)との間にも問題を抱えていた。

 というより、中国とも尖閣諸島問題の根本的原因は主に中華民国である。

 中国の言い分としては台湾は中国の領土、その為台湾が主張している尖閣諸島も中国の領土。

 という理屈である。


 しかし漁業に関しては日台漁業協定が締結されており領海侵犯などは無く、スクランブルも年に数回と非常に少なかった。


 と言っても日中の秘密協定により中華人民共和国は台湾への領土要求を放棄した。

 それを餌に日本は台湾と交渉し、尖閣諸島の領土要求の放棄と引き換えに台湾の国交開設を提案したのだ。

 結果的に台湾はその案を認めて尖閣諸島への領土要求を取り下げたのだが、やはり空軍としては航空自衛隊の実力を把握したいのだろう。


「俺に言われても知るかよ!」


 そう言ってもう1人のパイロットは雑誌を手に取ると深くソファーに座り雑誌のページをめくり始めた。

 基本的にスクランブル待機は24時間待機しなければならないので待機中はこうしてリラックスしている。


 結果的にこの日もスクランブルを指示する赤色灯が点灯する事は無かった。





 新世界歴1年12月18日、日本国 長崎県佐世保市 M重工佐世保工場


 現在絶賛特大好景気が到来している造船業だが、国内の防衛大手であるM重工は好景気・不景気関係無く受注される海上自衛隊向けの艦艇建造を行なっていた。

 好景気や不景気関係無く安定しているのが防衛関連事業の良いところだが、民間の船を受注するより利益率は少ない。

 そのお陰で、これまでの造船不況時に生き残ってきたのだが、いざ好景気に突入するとサッサと自衛隊の艦艇を建造してドックを開けたい気持ちで工場長は一杯だった。


「しかし、一気に4隻も同じ艦艇を建造する事になるとは・・・」


 M重工香焼工場内の100万t級ドックで同時に4隻もの艦艇が建造されていく所を見ながら工場長は思わずそう呟いた。

 建造されていく艦艇は全て灰色の艦艇で艦前部には民間船には無いターレットが存在する。


「幾ら大量建造を目的に建造された艦艇と言っても4隻同時建造なんてしてたら今が戦時かと思いますね。」


 工場長の呟きに、隣にいたM重工の海上自衛隊担当の人がそう思った事を口に出す。


 現在、香焼工場内の100万t級ドックで建造されている艦艇は海上自衛隊の【もがみ型】FFMである。

 建造から10年程が経っている現在はバッチ3が最新だが、現在建造されている艦艇は一部を除きバッチ4になる予定だった。


 ちなみに年に2〜3隻程の水上艦艇しか建造しない海上自衛隊が何故一気に4隻の同時建造を行なってるかと言うと、2つの理由があった。


 1つは海上自衛隊の護衛艦定数の大幅拡大。

 現在4個護衛艦隊群15個護衛隊の海上自衛隊を5個護衛隊群17個護衛隊まで拡大する為という理由が1つである。

 単純に8隻の艦艇が追加で必要なのだ。

 そしてもう1つが、日本が台湾からFFMをした事にある。


 その為、護衛艦(主にFFM)が大量発注され、こんな4隻同時建造という事態になっている。

 最もこの中で3隻は海上自衛隊向けで1隻は台湾民主国海軍向けの為、3隻は進水後の艤装でバッチ4の装備が搭載され、台湾向けの1隻にバッチ1改と呼ばれるバッチ1に台湾向けに色々とバージョンアップしたシステムを搭載する予定である。


「1隻の兵装部分の艤装は台湾が行うとはいえ、4隻で2000億円、やっぱり商用船よりはだいぶ高いな。」


 軍艦と商用船では構造もだいぶ異なり、兵装代もある。

 現場で作業する人間はその辺りと分かってるので「少し高いかなぁ?」という程度なのだが、十数万t級のタンカーよりも4000t程度しか無い艦艇の方が値段が高いのはなんだが釈然としない。

 もっと利益率は高いのでは?と思ってしまうが、FFMは国産のシステムを採用している為、アメリカの言い値で買うイージス艦よりはマシだろう。


 最も工場長の方はそんな軍艦の値段よりも。


「早く、ドック空かないかなぁ。」


 と思っていた。




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