8.領空侵犯と撃墜
新世界歴1年1月4日、日本国 首都東京 総理官邸
「オーストラリアが見つかった?」
総理官邸の総理大臣執務室で走って来たのか息を切らしている職員の報告を聞いた総理はそう聞き返した。
「はい。イギリスのブラックバック作戦でE-3早期警戒管制機が発見したようです。」
別段イギリス国防省はブラックバック作戦なんて名前は付けてないのだが、実際に行なっているイギリス空軍の現地部隊や他の人達はそう呼んでいた。
結果、国防省の人間まで第2次ブラックバック作戦と呼んでいる始末である。
「あぁ、あのトンデモ作戦ね。位置は?」
総理は直ぐにどんな作戦が思い出した。
確か昨日、防衛大臣がその作戦のせいでイギリスの防空警戒を三沢の第601警戒航空隊の『E-2D』早期警戒機が担ってるとか文句言ってたな、と思い出す。
日本の防空体制は国土全てをレーダーサイトの探知範囲に入っている世界でも珍しい国だ。
最も、『E-2D』早期警戒機や『E-767』早期警戒管制機は自衛隊の恥が導入原因なのだが。
NATOに加盟していたイギリスはそんな鬼のようにレーダーサイトは建てていなかった。
その為、監視態勢の要である『E-3』早期警戒管制機を作戦に投入し、日本に泣きついてきたのである。
これが日本の国益にならないのなら、検討した後に拒否するのだが、陸地探しという日本にとっても重要な事なので拒否出来なかったのだ。
ちなみにそのブラックバック作戦には日本も使用していない『KC-767』『KC-46A』空中給油・輸送機や『E-767』早期警戒管制機を貸し出して、イギリスを助長させている為、余り文句は言えない。
「前世界と同じです。南に7000km。ただ、間にある筈のフィリピンやインドネシアなどの東南アジア諸国が消えているそうです。ちなみにオーストラリア情報としてニュージーランドのみは確認済みだそうで・・・」
「これでイギリス、アイルランド、アイスランド、台湾に次いで5ヶ国目と6ヶ国目か・・・」
これに加え別世界の国家、スフィアナ連邦国も入るのだが、地球世界の国家は6ヶ国のみである。
日本やイギリスなどの食料自給率が半分程度しかない国家の農林水産省からは食料自給率が200%を超えているオーストラリア発見の知らせは、両手を上げて歓迎する事であった。
このままでは国民が餓死するという先進国では有り得ない事が現実に起こる可能性があったからである。
とりあえず食料供給の目処が立ち総理は一先ず安堵した。
新世界歴1年1月4日、新大陸上空 中国人民解放軍空軍 H-6B偵察機
ユーラシア大陸、中国本土から東に3000km。
前世界のグアムの辺りに出現した大陸の上空8000mを五星紅旗が描かれた大きな機体が飛行していた。
中国空軍の『H-6』爆撃機の偵察型の『H-6B』である。
『H-6B』偵察機の任務は新大陸捜索2日目の昨日発見された未知の大陸の偵察である。
「何か見つけたか?」
「いや。ただただ広大な森が広がるだけだな。」
つまらなそうに会話するのは『H-6B』偵察機の搭乗員達である。
だが、何も面白みの無い森ばかり見ていても飽きてしまうのも確かだった。
「これで3回目ですか、上は何がしたいんでしょう?」
「俺に聞くな。だが、海軍では揚陸艦や輸送艦に荷物などを積み込んでるらしいぞ?」
搭乗員の発言に皆の視線がその搭乗員に集まった。
だが、当の搭乗員はその視線に気づく事無く、なんの変わりもない電子機器を見るだけだった。
「・・・資源でもあるのかなぁ?」
「さぁな、だがこの自然を壊す事だけはやめて欲しいね。」
「同感だ。」
2030年の中国では自然環境の破壊が深刻なレベルにまで達していた。
自然保護なんて考えもせずに行った乱開発。
山を切り開き、建設した数十万人規模の巨大都市は住む人がおらず、広大なゴーストタウンとなっている。
美しい自然が見どころだった奥地の観光地も観光施設と称して開発を行い美しい自然は破壊された。
上層部は自然保護の法律を制定したが、地方政府がそれを守る事も無く、現在進行形で自然は破壊されていた。
ひと昔から何が変わったかと言えば有害なPM2.5などの物質が日本などの近隣諸国に飛散しなくなった事くらいだろう。
欧州や日本で自然保護、温暖化防止、CO2削減が叫ばれている一方でそれを上回る勢いで自然を破壊する中国やアメリカ。
それが2030年の地球世界だった。
この辺りの自然の今後を考え、暗い雰囲気になった『H-6B』偵察機搭乗員達だったが、その雰囲気はある1つの機器のアラームにより一瞬で変わった。
ヴー!!ヴー!!ヴー!!ヴー!!
「な、なんだ?どうした!?」
機内に鳴り響くけたたましいアラームを聞いてこれまで一心不乱に電子機器を操作していた搭乗員の1人が無線越しにコクピットに聞いた。
『レーダー照射を受けています!!ん?み、ミサイル接近警報!?』
『チャフ!フレア!全て放出!!あと本国にメーデー信号!!』
突然の事態にコクピットもかなり混乱している。
だが、機内無線を聞いていた搭乗員が分かった事が1つだけある。
それはこの機体が攻撃を受けているという事である。
「どうなってんだよ!」
それが『H-6B』偵察機搭乗員の最期の言葉だった。
この発言の数秒後、何処からとも無く発射されたミサイルは『H-6B』偵察機の左側主翼の根元に命中し、翼の片方をもぎ取った。
更にミサイル中央部の高性能火薬の爆発により翼内にあった航空機用ジェット燃料に引火。
『H-6B』偵察機は火だるまになりながら広大な森へと堕ちていった。
生存者は1人も居なかった。
そして数分後『H-6B』偵察機が墜落して行った上空を2機の航空機が飛行していった。
「こちらフェイロン03。領空に侵入した国籍不明機を撃墜した。繰り返す。国籍不明機を撃墜した。これより帰還する。」
『こちら防空指揮所。了解。良くやった!』
そう言って、2機の戦闘機は反転し、元来た方向へと飛び去って行った。
彼等の所属する国の名前はアルテミス人民共和国。
日本が接触したスフィアナ連邦国と熾烈な戦争を行った別世界の大国である。
新世界歴1年1月4日、ロシア連邦国 首都モスクワ クレムリン
「何?新大陸で中国の偵察機が撃墜された?」
クレムリンの大統領執務室で豪華な椅子に座り、コーヒーを飲みながら本日の仕事を行なっていた大統領は報告してきた担当官にそう返した。
「はい。新大陸を調査中の『A-50』早期警戒管制機がメーデー信号を発信する中国空軍の『H-6B』偵察機を捉えました。墜落後、墜落地点付近を飛行する2機の戦闘機もついでに。」
「なるほど、中国はどう対応する?」
その質問の答えは既に分かっていた。
あの中国が攻撃を受けたのにやり返さない訳が無い。
逆に攻撃を受けたのをラッキーと考え、意気揚々とその新大陸に侵攻するだろう。
そして、大統領の考えは報告をしていた担当官と同じだった。
「間違い無く、これを好機と捉え意気揚々と新大陸に向けて軍隊を送るでしょう。」
「・・・ところでそのA-50が捉えたのはそのハエ叩きだけか?」
中国空軍の『H-6B』偵察機をハエ、撃墜した戦闘機をハエ叩きと称している辺り、この大統領が中国をどう思ってるかが、見て取れる。
『A-50』早期警戒管制機の探知範囲は数百キロにも及ぶ、そんな機体が未確認国の戦闘機が飛行するエリアで何も見つけなかったのは不自然だった。
もしかして自然公園?という考えが思い浮かぶが、それでも何かしらの建物はあるはずである。
「近くの湖のほとりに都市を発見しました。恐らく、くだんの戦闘機はそこから飛んできた物と思われます。また海岸線にもいくつか都市が確認出来ます。」
「ふむ、中国だけに取られるのも癪だな。無人機を飛ばして撃墜されろ。そしたら我が国が占領する材料が出来る。」
幾らロシアと言っても攻撃を受けても無い国に攻め込むのは不可能である。
既に他国の領空を侵犯しているのだが、そんな事は彼にとって些細な事らしい。
「はい。分かりました。」
そう言うと報告してきた人は部屋から出て行った。
「ふふふ、中国だけに蜜を取らせる?そんな訳無いだろう。」
誰も居なくなった部屋で、嬉しそうに大統領は呟くと、ロシア国防省に電話を入れた。




