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74.既に決まっている

 


 新世界歴1年10月4日、日本国 首都東京 都内某所 料亭


 世間一般ではスフィアナやミレスティナーレとの貿易が開始され、ようやく転移による不況から脱出している中、普通の人ならば、まず来る事の無いだろう都内の高級料亭に1台の黒色の高級車がやって来た。

 料亭の入り口には料亭の従業員が何名か出迎えており、その人が車から降りるや否や1人の女性が「こちらでお待ちです。」と言い、料亭内へと案内して行った。

 そして案内された先は1つの部屋で、その男は案内されるがまま、障子を開け部屋の中へと入って行った。

 案内した女性はそのまま障子を閉め、何処かへと立ち去って行った。


「先日はお疲れさん。」

「・・・ほんとお疲れだよ。今、この時期に総理になったのをほんと恨むね。」


 部屋内に入ってきた男の発言にそう切り返すのは、この国の総理大臣であった。


「そちらの方はどうだい?景気の方は。」

「スフィアナとミレスティナーレが居なかったらヤバかったかもな・・・」


 高そうな料理が並べられた机の手前に座り、机の上に置かれていた日本酒をグイッと1杯、口に流し込んでそう言った。


「まぁ、経団連に加盟しているような企業じゃあ、内部留保で問題無いだろうな。」


 そう総理に言われた男は忌々しそうに総理の方を睨む。

 経団連、日本経済団体連合会と言われる日本の名だたる大手企業が加盟する団体である。

 言ってしまえば企業の代表者のような団体である為、政治における影響力も大きい。

 そして、今の与党であり最大政党にかなりの額の政治献金をしている総理としても無視出来ない団体でもある。


「・・・まぁ、その事についてはどうでも良い。で?何のようだ?」


 企業の内部留保については別にどうでも良い問題でも無いのだが、実際に社員の給与や賞与などはここ10年で大きく向上し、GDPの増加にも寄与している為、わざわざ経団連と敵対してまで話す事では無い。

 そもそも今回の食事(名目)は経団連側からアポを取ってきたものであり、総理としては呼び出されたと言った方が正しい。


「・・・新大陸を巡って戦争になるって情報が入ってきたんだが、本当か?」

「・・・・・」


 その言葉に総理はビックリしたような表情を見せるが、内心、そんなに驚きは無い。

 エストシラントという新たな国の発見と新大陸の位置関係を知れば、感の良い者なら誰でも予想出来るからだ。

 そしてわざわざ、機密の整った料亭を会談場所に選んだ点でも隠し事や誤魔化しは無理だなと悟った総理はガチで話す事にした。


「まぁ、否定はしないな。ついでにアルテミスもコソコソと動いているという情報も入っている。」


 総理のその言葉を聞いた会長は座椅子の背もたれに持たれかかって、深い溜め息を吐いた。

 一方の総理はそんな経団連会長の気など知らずに目の前に置かれた高級料理をパクパクと食べていた。


「・・・戦争、多すぎやしないか?」


 会長がそう漏らしたのはそれから5分後の事だった。


「多いよなぁ。あの禁断の核兵器だって2ヶ所で使われてる。この付近で核を持ってそうな国はイギリスくらいだが・・・」


 この世界に転移して、まだ1年と経ってない。

 だが、アメリカや中国、ヨーロッパ、そして日本などのほぼ全ての国が戦争に巻き込まれたり起こしたりしている。

 そして、絶対に使ってはいけない、禁断の兵器の象徴であった核兵器が既に2ヶ所で使われており、数百万人が死傷していた。


「不安定過ぎるな・・・」

「そりゃあなぁ、文明形態も果ては種族形態すら違う3つの世界が合わさったんだ。過去の歴史を考えれば当然だろう?」


 ある学者は「現在が第三次世界大戦である」と言ったそうだ。

 それだけ世界は混乱し、荒れていた。


「ところで、ミレスティナーレの近くに見つかったニルヴァーナの方は大丈夫なのか?東西冷戦のような状態なんだろ?」

「私に聞かれても困るが、ミレスティナーレは対処したって言ってたな。」

「対処した?」


 今にも戦争を起こしそうな国が戦争を止めるような対処とはどのような事だろう?と会長はミレスティナーレの事が恐ろしく感じた。


「良く分からんが、日本は日本で新大陸に注視したたら良い。アルテミスはオーストラリアとかイギリスが何とかしてくれるだろう?」

「何とかしてくれるって、オーストラリアが無くなると非常に困るんだが?」


 軽い感じで言った総理に対し会長はジト目で睨みつける。

 現在、オーストラリアは日本にとって生命線とも言える国であった。

 大豆や肉などの食料品から石炭や鉄鉱石などの鉱物資源に至るまでオーストラリアからの輸入に支えられていた。

 そのオーストラリアに危険が迫ってるなら国家存立危機事態として自衛隊を派遣する事も十分に考えられた。

 というより、日本人があまり実感し難い中東に自衛隊を派遣するよりもオーストラリアに派遣する方が国民の実感も湧く。

 食料という身近な物である為、反対も少ないだろう。


「既にイギリスと話はついてる。まぁ、多少の艦隊は送るかもしれんが、経団連としてもアルテシア大陸を失うのは困るだろう?」

「当たり前だ。今、日本の景気が持ち直してるのは新大陸開発があってこそだ。その大陸を失った時の事など考えたく無い・・・」


 既にアルテシア大陸開発には様々な日本企業が参入しており、かなりの投資も行なっている。

 よって企業の株価も持ち直しているのだが、その新大陸が失うという事になれば経済に大打撃なのは間違いなかった。


「自衛隊を出しても絶対に守り抜けよ。」

「・・・・・」


 こんな形で経済的利権から軍(自衛隊)を派遣するのは日中戦争の泥沼と同じじゃね?と総理は思ったが、新大陸を失った時の政権へのダメージを考えると、NOとは言えなかった。

 こうして、もしアルテシア大陸に侵攻してくる敵が居たのならば、自衛隊が派遣される事が裏で決定されたのだ。





 新世界歴1年10月4日、イギリス連合王国 首都ロンドン特別市 ダウニング街10番地


「ふんふん、経済は取り敢えず持ち直したようだな。」


 いつものように執務室で各担当者からあげられた書類を見ながら首相は満足そうに呟いた。

 理由は転移による貿易相手国の消失による不況を脱出しつつあるとの報告書を見たからである。


「上半期の不況が嘘のようですね!」

「まぁ、日本やスフィアナのお下がり感が否めないがな。」

「・・・・・」


 ある閣僚の言葉に室内はシンと静まった。

 かつて世界の工場と呼ばれていた大英帝国の面影は今や、何処にもなく、国内にある造船所や工場は効率化を求めた経営統合により殆どが多国籍企業の造船所や工場なのだ。

 流石にEUや中国の企業もここまで離れたイギリスの工場や造船所などは持て余してるらしく、イギリス企業が買い戻す事も最近はしばしば見られた。

 つまり、企業が儲かっても法人税が入ってくるだけで、殆どイギリス経済には寄与しないのだ。


 更に言えばイギリス国内の造船所の受注が余ったのは日本やスフィアナの造船所が手一杯になった事によるお溢れ。

 これでは嬉しい筈の受注も余り喜べなかった。

 まぁ、自業自得と言えばそれまでなのだが・・・


「だ、だが、ここ最近は我が国の企業が買い戻してるんだろ?中国や他国の企業が我が国から撤退したとかいうニュースもよく聞くぞ?」

「その工場や造船所を日本やスフィアナに買われているんですよねぇ。特に造船所などは造船業が好調な日本の造船会社などが買い漁ってます。このままだと、我が海軍の艦艇を造る会社が日本企業に成りかねないです。」


 首相の想いは虚しくも砕け散ったが、その事よりも周りの閣僚達は担当者が言った最後の言葉に注目した。

 と言うよりも、青ざめた。


「ちょっと待て!!それは、ちょっとマズすぎるだろ!大体、日本の造船業って落ち目じゃ無かったか?」 

「韓国と中国に負けたとか聞いたぞ!」


 纏めると、一体何処にそんなイギリスの造船所を買収する体力(資金)があるんだ!と周りの閣僚達は叫び出した。

 流石のイギリスも軍の調達にまで影響を及ぼす事は避けたいようだ。

 少し、遅すぎる気もするが・・・


「一応、腐っても世界三大造船大国の一角ですからね。更に日本は海運大国ですし、造船企業の体力もウチとは比べるまでも有りません。更に経営統合で体力は増えてますし、日本の造船企業の大半は旧財閥系ですから・・・」


 日本中国韓国は世界の造船の9割以上を担う造船大国である。

 近年こそは中国や韓国に押され世界シェアも落ち込んでいるが、それでも2割以上はあるのだ。

 ランキングにすら入ってないイギリスとは比べる舞台が違うのである。

 更に旧財閥系という事は他のグループ企業に銀行があれば融資を受けられる。

 つまり、他の企業に比べて資金調達の面でも非常に有利なのだ。


「・・・だが、海軍の受注企業が他国の企業というのは些か問題がある・・・のか?」


 話してる途中で思い出したが、イギリスに限らずヨーロッパ各国はかなり同じEU内の他国の企業に兵器の受注を任せていた。

 これが中国なら問題だったろうが、相手はNATOのパートナー国である日本である。

 フランスもドイツも日本も大して変わらないのでは?と思ってきたのだ。


「まぁ、問題無くは無いですが、流石の日本企業も安全保障関連の企業は自衛隊の装備を受注しているような一部の企業以外触れないのでは?」

「え?それなら今悩む必要なく無い?」

「・・・無いですね。」


 海上自衛隊の艦艇を受注していたなら、装備の規格はNATO基準である。

 つまり、相手が中国やロシアでは無いなら、この場にいる全員の悩んだ時間は必要ないのだ。


 そんなこんなで、いつも通りのイギリスだった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] おいこらイギリス人。そんなことだから我が国では『英国面』だの『紅茶をキメる』だのと言われんだぞ、と言ってやりたい。 [一言] 知らなかった……日本の造船業って落ち目だったんですね。
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