71.脱アメリカ
新世界歴1年8月29日、イギリス連合王国 首都ロンドン 国防省 執務室
「え?今、なんて言いましたか?」
「日本から来たテンペストの空母艦載機化計画を受けろと言ったんだ。」
国防大臣から言われた事に思わず聞き返したのだが、改めて同じ事を言われ空軍卿は唖然とした。
ちなみに空軍卿とは言い方が古いので分かりにくいが、日本で言う航空幕僚長、アメリカでの空軍長官、つまり空軍のトップである。
日英次期主力戦闘機開発計画、通称テンペスト計画は各種試験を終え、既に量産初号機まで完成しており、後は実際に生産して納入するだけだった。
その為、イギリスは日本から持ち掛けられた、テンペストの空母艦載機化計画など知った事かと、蹴ろうとしていたのだが・・・
「いやいやいや、既にクイーンエリザベス級の艦載機は有りますよ!」
「F-35Bだろ?知ってるよ。それとは別でだ。政府としてはクイーンエリザベス級をSTOL空母に改装する事も視野に入れている。」
それを聞いて今度は海軍卿か唖然とした。
そもそも【クイーン・エリザベス級】はVTOL空母とSTOL空母のどちらにするか何年も迷い、何度も計画を変更しながら結局VTOL空母になった経緯がある。
だが、基本設計はVTOLにしろSTOLにしろ同じであり、一応【クイーン・エリザベス級】は設計に余裕があるので改装は可能だ。
「では、既に採用済みの138機のF-35Bはどうするんですか!?」
「納入されているのは74機で残りの64機はまだだろ?しかも当のアメリカ政府はアメリカ軍優先で納入延期を通達してきただろ。」
「た、確かに・・・」
国防大臣にそう言われて思わず納得してしまう空軍卿であった。
当初の予定では、本来ならば2030年度までに138機全機を納入される予定だったのだが、度重なるF-35の開発延期により2034年まで遅れたのだが、今回のテルネシアとの戦争でかなりの被害を受けたアメリカがF-35の生産分を全て自国へと振り分けたのだ。
ちなみに、自国でのライセンス生産を選択した日本は予定通りに納入される。
「先程の内閣の会議でF-35Bの採用を138機から80機に削減する事を決定した。削減分の58機はテンペストの空母艦載型を検討して欲しい。」
「な!?」
「ちょっと待って下さい。削減って、58機もキャンセルしてしまったらアメリカとの関係が・・・」
予想以上の内閣の決定の早さに唖然とするものの、空軍卿はそのキャンセルによってアメリカとの関係が悪化する事を心配した。
と言っても、こうなる原因を作ったのは他ならぬアメリカなのだ。
アメリカが本来の納期を遅らせて他国用の機体を自国に割り振った為起きた事であり、納期の遅れを理由にキャンセルする事は良くある事だ。
「アメリカは世界各国に展開させていた部隊を殆ど自国へと呼び戻し、日本へのイージスシステム売却も渋っている。もうアメリカは安全保障体制を構築する上であてにならない。」
国防大臣はハッキリとそう言った。
あのアメリカべったりの日本が自主国防政策へと舵を切る中で日本との今後の安全保障体制を構築するのならばアメリカとある程度の距離を置く事も重要だった。
もはやアメリカは安全保障体制を構築する上で遠すぎるのだ。
「わ、分かりました。日本からのテンペストの空母艦載機化計画を受ける事にします。」
「政府が決定したのでは仕方が無いですね。戦力化まで早くても3年程度は掛かると見込んで下さい。」
遂に海軍卿と空軍卿がテンペストの空母艦載機化計画を受ける事を認めた。
これは実際にその完成した艦載機を導入する事も意味しており、また同時に【クイーン・エリザベス級】2隻のSTOL空母への改装も意味していた。
イギリスから計画に参加する事を通達された日本側の担当者は大変驚き、何度も確認した。
日本側としてはイギリス企業の技術供与程度に考えていたのだが、まさか既に艦載機を保有しているイギリスが新たな艦載機開発計画に参加してくるとは夢にも思っていなかった。
また、この決定によりテンペスト計画の開発者達は解散される事も無くなり、次の計画進行へ勤しむ事が決定された。
「まぁ、F-35Bに変わる可能性もあるがな。」
「え?」
最後に国防大臣がボソリと呟いたその一言を空軍卿は聞き逃さなかった
新世界歴1年9月2日、オーストラリア連邦国 首都キャンベラ 首相官邸
国防大臣から日英がテンペストを艦載機化する計画を始めたと聞いた首相はある事を思いついた。
「そう言えば揚陸艦キャンベラ級の艦載機無かったよね?イギリスから中古の機体買わない?」
それを聞いた国防大臣は「コイツ、何言ってるんだ?」と一瞬思ったのだが、ふと考えてみると、確かに強襲揚陸艦【キャンベラ級】には艦載機が無くオーストラリアの国防を考えると問題だなと思った。
だが、しかし・・・
「あの、普通に予算が足りません。というか一回それを考えて空軍がA型にしたのを忘れましたか?」
そう言ったのは偶々現場に居合わせた財務大臣である。
そもそもオーストラリア国防軍の国防予算は約3兆円と経済規模を加味してもそれなりに高い。
が言っても、オーストラリアは先進国であっでも経済大国では無いので、日本やイギリスのような予算は望めない。
というか、その為に未だに【キャンベラ級】の艦載機が無い状態が続いているのだが・・・
「だから、中古だよ。そもそもこんなにも海が広くなり防衛する海域も広くなったのに、空母が無い事の方が問題では無いのかね?」
ある意味で正論を言われ、少したじろぐ財務大臣。
確かに議員からは空母の導入を検討すべきでは?との指摘は長年なされてきたが、予算の問題から立ち消えになっていた。
しかし異世界転移による海洋面積の拡大化と日本の空母(防衛省は空母では無く航空機搭載型護衛艦と言っている)保有により、また出て来ていた。
「そう言えばアメリカから我が国のF-35でのMRO&Uを取り消すと通達が来ました。恐らく日本のMRO&U拠点に集約させたいのかと・・・」
「我が国としては損だが、仕方が無いか?」
「どう頑張っても新太平洋地域でF-35がこれ以上採用される事は有りませんからね。」
MRO&UとはF-35戦闘機を整備する国際拠点の事である。
F-35戦闘機はヨーロッパやアジアなど世界各国に多数配備されたが、今後のアップグレードや開発元のロッキード・マーティンしか触る事の出来ない部分の修理やオーバーホールなどを行うのがMRO&Uである。
ちなみこのMRO&Uはアメリカ以外には日本とオーストラリア、そしてイタリアの3ヵ国にしか整備されていないのだが、恐らく整備されている理由はF-35戦闘機の購入機数が多いからだろう。
このMRO&Uを自国から失う事は確かにオーストラリアにとっては痛手なのだが、日本で出来るならそれで良いと、あんまり空軍の方は気にして無かった。
「そう言えば空軍のF/A-18E/Fの後継機は決定したのか?BAEシステムズや三菱などが売り込んで来てたが・・・」
オーストラリア空軍は現在F/A-18E/Fの後継機の選定を進めていた。
F/A-18E/F自体は24機しか無いのだが、オーストラリア空軍は現在戦闘機数の拡大を計画しており約50機程の戦闘機を導入する予定であった。
ちなみBAEシステムズも三菱も日英での次期主力戦闘機開発計画の参加企業である。
勿論押しているのはF-3戦闘機である。
「F-3か、双発の大型多用途戦闘機だろ?アレ。」
素晴らしい機体で、今後の日本やイギリスとの同盟関係も強化出来る良い機会なのだが、機体の性能を見ると些か過剰のようにも思えた。
「一応、日英両政府とも我が国での自国改修を許可すると言っていますが、個人的にはダウングレードして性能を落として値段を下げたい気分ですねぇ。」
F-3戦闘機は1機辺りの価格が約120億円もするのだ。
あの高い高いと言われたF-35が約100億円、一時期140億円とも言われていた為、国民はF-35より安いと思っているのだが、どうにも金銭感覚がおかしくなりそうな単位である。
ちなみにF-3へのオーストラリアへの輸出に関しては防衛装備庁が前回の屈辱を晴らすと、意気込んでおり、官民合わせてオーストラリアへの受注合戦になると軍事ライターは想像していた。
ちなみ前回の屈辱とはオーストラリア海軍での新型潜水艦計画で日本の【そうりゅう型】が破れ、フランスの【スコルペヌ級】が採用された事である。
ちなみにこの潜水艦建造計画は2030年代から建造が始まる予定だったが、ヨーロッパの混乱により凍結状態にある。
「まぁ、その辺りも含めて要相談だな。」
首相はそう言って話に区切りを付けた。
結局の所、どの機体を採用するのかを決めるのは国防省であり、その辺りが政治的な決定で決められたイギリスとの違いであった。
その後、提案が二転三転しながらも結局は『F-35』戦闘機がオーストラリア空軍へ導入される事が各マスコミに報じられるのは約1年後の事である。




