67.最近、自衛隊が酷使され過ぎてない?
新世界歴1年8月15日、アルテシア大陸 日本領 何処かの湾沖合 海上自衛隊 戦略輸送部隊
まだ開発が始まっていないアルテシア大陸の日本領内にある湾の沖合で輸送艦3隻と指揮艦であるヘリコプター搭載護衛艦1隻、対地支援砲撃用の汎用護衛艦1隻の計5隻が展開していた。
新世界に来てかなり酷使される海上自衛隊の輸送艦だが、乗員達は訓練だと思って今回の任務に臨んでいた。
ちなみにこの湾は現在開発中の第103都市から30km程離れた場所にある湾なのだが、第103都市で完成したばかりの港湾施設や滑走路が物資輸送でパンパンの為、彼等、戦略輸送隊の出番となった訳である。
霞ヶ関と市ヶ谷の熾烈な戦いの末、他の都市開発初期段階で自衛隊の輸送部隊を使う代わりに、今戦略輸送隊が居るこの湾全域を自衛隊が使う事を認めたのである。
簡単に言えば、今から海上自衛隊の基地を建設するのだ。
本来ならばもう少し後でも良かったのだが、エストシラント共和国の動きが怪しい為、急遽開発が決定したのだ。
既にアルテシア大陸の開発に日本は官民挙げて莫大な予算を投入する事が決定しており、そのお陰もあって国の経済も少しずつだが、上向いてきている。
他の省庁にとってもそれらを潰す可能性のあるエストシラントにとって備える事は非常に重要なのだ。
「上陸準備が完了しました!」
多目的輸送艦【のと】に設置された作戦司令室で水陸機動団の隊員が今回の上陸の指揮を取る幹部自衛官に報告してきた。
上陸作戦の指揮を取る自衛官が上陸地点付近の映像を見ていた担当官に尋ねた。
上陸地点付近の画像は第103都市に仮設置された陸上自衛隊駐屯地から発進した『FFRS』と呼ばれる無人観測ヘリが撮影したものであり、ヘリコプター搭載護衛艦【いせ】からも『AH-64E』戦闘ヘリが展開している。
「上陸地点付近の様子はどうだ?」
「現状は問題有りません。艦載砲を使う必要は無いでしょう。」
現在までに何度かの上陸で隊員が魔獣に襲われる事態が発生しており、死者こそ居ないが、負傷する隊員も少なくない。
その為、都市の選定には中洲が選ばれ、民間人が中洲から出る事は禁止されている。
アメリカのフロリダ半島沖に出現した島では多数の海兵隊員が襲われ死傷しているらしく、アメリカ海軍が上陸地点付近を焦土にしているという情報が有るが、海上自衛隊はそんな事はしない。
「第1陣は問題無いか?」
「はい。現状問題無く展開しています。」
『LCAC』や水陸両用車で隊員が上陸する前に輸送艦に搭載した『UH-2』汎用ヘリが10名程の隊員を乗せて、湾が見渡せる高台などに展開させていた。
隊員が展開した高台に設置されたカメラからの映像が艦内のモニターに表示されるが、湾付近は低い草しか生えていない草原地帯のようである。
草原地帯から少し離れた場所は木々が鬱蒼と茂った森だが、もし上陸した隊員の脅威になりそうな魔獣などが出現しても直ぐに分かりそうである。
「そうか、ならば上陸作戦を開始せよ。」
「了解しました!」
彼がそう言った数分後、各輸送艦の後部ハッチが開き、数隻の『LCAC』や『AAV8』と呼ばれる三菱重工が開発した新型水陸両用戦闘車が出てきた。
『AAV8』は三菱重工が自社資金で開発した水陸両用戦闘車だったのだが、日本だけでは無くアメリカやイタリアなど世界各国に輸出される事になった傑作水陸両用戦闘車になった。
『AAV7』は無限軌道式の車両だが、三菱が開発した『AAV8』は装輪式の車両である為、今回のようなインフラも何も無い不整地には向いていないのだが、上陸地帯が草原の為、今回の上陸作戦に選ばれた。
そんな『AAV8』水陸両用戦闘車9輌が先頭で暫く経ってから『LCACが』上陸してくる。
これは『AAV8』に載っているのは完全武装の水陸機動団隊員、『LCAC』には陸上自衛隊の施設科隊員だからである。
まず水陸機動団隊員が周辺の安全を確保し、後に上陸してくる施設科が橋頭慕を設置するのだ。
ちなみに現在、第103都市から海上自衛隊基地(仮)へ続く道路を民間の企業が作っており、約2週間後に完了する見込みだ。
『こちら観測班、10時の方向、森から魔獣と思われる物でそちらに急速接近中、注意されたし。』
上陸から約1時間後、後陣の施設科や『24式装甲戦闘車』などの装甲戦力も上陸した時に湾を見下ろす高台に展開している観測班から連絡が入って来た。
施設科の隊員達は現在、橋頭慕を設置している為、水陸機動団の隊員達が『20式小銃』や『ネゲウ軽機関銃』を構える。
4輌の『24式装甲戦闘車』は40mmテレスコープ機関砲を森の方へと向ける。
「出てきたぞ!」
何本かの木々を薙ぎ倒し現れたのは虎?みたいな魔獣である。
普通の人なら森でコンニチワしたら間違いなく死を覚悟する獣トップクラスに位置するのだが、奴を倒す道具は沢山ある。
『距離500。弾種テレスコープ弾。正当防衛射撃開始!』
そう無線から聞こえると4輌の『24式装甲戦闘車』の上部に搭載されている砲塔、40mm機関砲からテレスコープ弾と呼ばれる弾薬がダンッとドンッの混じった音と共に虎モドキの魔獣へと発射されていく。
だが、そもそも40mmテレスコープ弾は装甲車や軽戦車などのある程度の装甲が取り付けられている物体用の弾薬である。
装甲も何も無い生身の動物へ向けて撃っても悲惨な事になるだけだ。
という訳で・・・
『撃ち方やめ!』
「「「うわぁ・・・・・」」」
先程まで生き物だった物は見るも無残な姿へと形を変えて横たわっていた。
周りにはその生き物の血と見られる赤色の液体が飛び散っており、かなりグロい状態を作り出していた。
「やっぱり40mmは過剰じゃ無いのか?」
「初期上陸で40mmなんて誰も撃って無いからな。コレでなんとかなるんじゃ無いのか?」
「105mm砲もあるけどやっぱり過剰だよな?」
「過剰だ。」
一応、上陸で倒した魔獣などは検体として日本本土の研究機関へと送られる事になるのだが、マトモな原型を留めても無い検体を送られても困るだろう。
ちなみに『16式機動戦闘車』に関しては魔獣撃退では間違い無く必要無い為、訓練以外で動かす事が無い為、仮駐屯地が完成してからずっと空きスペースに放置されている。
「燃やすか?」
「燃やそう。」
「そうだな。」
そう言って元魔獣の成れの果てにドボドボとガソリンを掛けていく。
こんな事をマスコミが見たら、「税金を使って無駄な事をしている!」と騒ぎ立てるのは目に見えているので、ある意味の証拠隠滅でもある。
ガソリンが燃える臭いの中で、後続の建設機材を荷揚げする為の作業が急がれるのであった。
新世界歴1年8月15日、日本国 首都東京 中央合同庁舎第3号館 海上保安庁
「人員・装備が足りる訳ないだろうがぁ!?」
そう叫びながら書類を机に叩きつけたのは海上保安庁の総務部に属する職員の一人である。
ここ最近、新太平洋各国の島嶼獲得競争により特別な場合を除き、海上保安庁の隊員達が島の確保を行わされており、(自衛隊がやると批判する人が居るので)現在慢性的な人員不足なのである。
ちなみに彼は、予算は増えたが人は簡単に増えないという事をわからない政治家達からの更なる要求にキレていたのである。
そもそも日本国海上保安庁は約1万5000人の職員と約500隻の艦艇、80機程の航空機を保有した世界でも有数の巨大海洋警察組織である。
まともな組織を保有していないイギリスやミレスティナーレなどはさて置き、この新太平洋地域ではスフィアナ連邦国海上保安庁と並ぶ2大海洋警察組織なのだ。
その2大海洋警察組織の片方である海上保安庁がヒィヒィと悲鳴を上げていた。
これは単純に、この新太平洋地域に出現した何処の国の物でも無い島嶼部が多過ぎるからである。
単純な概算だけでも約2万、これは日本が保有する島嶼部の数である7000の約3倍もの数である。
既に日本は約3000程の島を領有したのだが、他国が中国のようなマンパワーで領有する国では無い為、まだ1万以上の無所属の島があるのだ。
幾ら殆どが岩礁とも言って良いような島だからと言え、この数は流石に多過ぎた。
「巡視船の建造計画は6隻とも予算承認されたよ。」
普通ならば放置して誰も近付かない総務部に来たのは艦艇の装備調達などを行う装備技術部の職員である。
年間予算が3000億円弱しかない海上保安庁が年に|6隻もの大型巡視船を建造出来る事自体、異例なのだが、財務省もそれだけ海上保安庁を重要視しているのだろう。
この際その建造予算が何処から出ているのかは気にしない方向で進めるが、恐らく厚生労働省辺りが血涙を流しているのだろう。
まぁ、最大予算の省庁だし、少しくらい減らしても大丈夫だよね?
年金とか医療費などを担っている省庁だけど・・・
「・・・で?その巡視船はいつ出来上がるのかな?」
そう聞くとスッと目を逸らす装備技術部の職員。
そりゃあそうだよね、船ってそんな直ぐには出来ないから。
設計して部品作って組み立て、浮かべて装備品載せるのに大体1年〜2年近くかかるからね。
「あと、日本中のドックは現在、大忙しだから起工は来年になるって。」
日本は世界有数(日本・韓国・中国しか無いが)の造船大国であり、日本各地に造船所がある。
だが、異世界転移による各国間の距離の大幅変更により海上輸送の必要性が増し、現在造船業は史上空前の超好景気なのだ。
流石に防衛機密などもある自衛隊の造船所などは確保されているが、海上保安庁の巡視船など機密も殆ど無いので、民間の船と一緒に建造される。
その為、ドック不足と言う今回の好景気の余波をモロに受けているのだ。
「防衛省にお願いしてドック貸してもらう?」
「・・・誰がお願いするの?」
そう言うと装備技術部の担当者はこちら側を指差してきた。
装備技術部は確かに船舶の建造や装備の調達を担う部ではあるものの、長年の慣例で省庁間の交渉は完全に総務部に任されているのだ。
普段は役割分担がハッキリしている有難い慣例であるが、今はクソ鬱陶しい老害でしか無い。
「・・・頑張れ。」
この時、その場にいた総務部の人間全員の殺意が装備技術部に向けられた事は黙っておこう。




