66.規格って大事だよね
新世界歴1年8月10日、スフィアナ連邦国 首都レスティナード 防衛総省 戦力・基盤軍本部
スフィアナ連邦国戦力・基盤軍と言うのはスフィアナ連邦国軍内で主に後方支援や武器・弾薬の補給、そしてヒューミント・イミント・ギジントなどを行う情報機関などを纏める軍である。
スフィアナ連邦第4の軍であり、軍人文民合わせて約2万5000名の人員が所属する巨大機関でもある。
そんな戦力・基盤軍が転移して暫くしてから頭を悩ます事態がずっと続いていた。
それは『NPTO加盟による加盟国間での規格統一』である。
規格統一は何も軍事に限った話では無く、民間の工業規格や無線の周波数なども含まれていた。
民間に関しては経済・産業基盤省の管轄下の為、防衛総省が口を出す場所では無いのだが、問題は小銃の弾薬だった。
スフィアナ連邦国軍では主に2種類の弾丸を使用していた。
1つ目は7.62mm大陸共通弾、もう1つは6.8mm大陸共通弾である。
前者は主に狙撃銃や軽機関銃などに使用されており、後者は歩兵の小銃に使用されていた。
前者の7.62mm弾は良い、日本やイギリスが使ってるのと偶々同じだったからである。
問題は後者の6.8mm弾であった。
日本やイギリスなどの他のNPTO加盟国が使用している小銃の弾薬は5.56mmNATO弾と呼ばれる弾種で6.8mm大陸共通弾よりも小さかったのだ。
つまり、これがどう言う事かと言うと、もしもアルテシア大陸で戦争が起きた時にスフィアナ連邦国軍の弾薬が足りなくなった時に日本の自衛隊の弾薬を使う事が出来ないという事である。
ちなみに6.8mm大陸共通弾とは前世界でスフィアナが位置していた場所の近くの大陸であるミレネア大陸で規格統一された弾丸である。
世界2位の軍事大国であるルクレール王国が開発した弾丸でミレネア大陸だけでは無く、他の大陸などにも広がり、サリファ世界のNATO弾としての地位を得ていた為、切り替えが問題なのだが・・・
「30万丁の小銃をいつまでに5.56mmにしろだって?」
「・・・再来年だ。」
防衛総省の返答に陸軍工廠の小火器開発担当の人間達は絶句した。
再来年という事は多く見積もっても経った2年しか無い。
別に小銃の新規開発では無いので10年も時間は掛からない。
ただ単に中のバレルなどの主要部品を取り替えるだけである。
ちなみにスフィアナ連邦国軍で使用されている『SR15』小銃はスフィアナ歴4615年(共通歴4015年)に採用されたブルパップ方式の小銃である。
地球で言うと『L85』『AR21』『AUG』『95式』などの小銃が俗に言うブルパップ方式である。
ちなみに現在はスフィアナ歴4030年の為、調達から既に15年が経過しているので、何処かの島国のようにちんたら調達している訳も無く、既に部隊配備は終了している。
「大体、なんで日本とイギリスの規格に合わせるんだよ!?向こうがウチに合わせれば良いじゃん!」
「どうやら5.56mm弾は向こうの世界では広く使われている弾薬規格らしくてな。日本とイギリスだけじゃ無く、台湾・オーストラリア・ニュージーランド・アイルランドでも使われているそうだ。」
「・・・って、全部じゃねえか!?」
そもそも5.56mm弾はNATOという冷戦時代にソ連に対応する為に作られた軍事同盟で採用された規格なのだが、結果的にアメリカが採用した為、西側諸国は全採用、東側諸国も「敵国の弾を使えるなら戦争なった時に奪えるじゃん」と採用した為、自国第一主義の中国以外は全て採用する事となった。
まぁ、中国でも銃のバージョンによっては使えるのだが。
「規格統一して悪い事は無いだろう、って事じゃ無いのか?」
「多分、そうだろう。」
「だが、30万丁を2年ってキツ過ぎないか?」
1年で15万丁を改修するのはかなりハードスケジュールである。
改修と言っても中のバレルなどのサイズを変更するだけなのだが、通常は5年程かけて行う物であって、決して2年以内で仕上げる物では無い。
「まぁ〜た、何処かがキナ臭いんだろ?」
「早く日本やイギリスと合わさせるという事は融通の可能性があるって事か?」
「普通に考えたらウチは島国だし、アルテシア大陸か?」
「アルテシア大陸って事は日本とか?」
聡い技術者達である。
まぁ、名目上はスフィアナ防衛総省はNPTO加盟国間での演習などでの効率化としているが、実際にはエストシラント共和国のアルテシア大陸侵攻を見越して日本と弾薬を融通し合えるようにである。
最も、この辺りは本音を建前にしてしまうと各国のメディアが煩いので、エストシラント共和国の事は未だに発表されていない。
というよりもそもそもメディアの目は日本・スフィアナ問わずミレスティナーレに向いており、ミレスティナーレだけで番組が何本も出来上がっている状態なのである。
「キナ臭い世界だから仕方ないかもな。」
そう言って彼等、技術者達は自分の仕事に取りかかった。
新世界歴1年8月10日、新太平洋 南鳥島沖1500km 上空3000m
何も無い海の上を2機の航空機が飛んでいた。
2030年の今時、軍民問わず珍しくなった4発のプロペラを回し、海上自衛隊の第31航空群第7飛行隊所属の『US-2』救難飛行艇が2機、飛行していた。
この2機の『US-2』は海上自衛隊厚木基地所属の機体で、最大11名の乗員はパイロットが3名で残りは別のお客さんを乗せていた。
そんなUS-2だが、元は捜索救難用に作られた飛行艇であるが、今回は救難では無い別の任務に就いていた。
今回の任務は日本国最西端の南鳥島から更に南西方向に行った場所にある無人島の確保である。
転移以降、多数の島々が確認されており、前世界と同様に日本政府は島の確保を続けていたのである。
その為、北米航路に付けない海上保安庁の中・小型巡視船はその無人島の確保に駆り出されており、非常に忙しかった。
最もこの無人島確保争いは日本だけでは無くイギリス・スフィアナ・台湾・オーストラリア・ニュージーランドなど、ほぼ全ての国が参加しており、やっとこさ到着したら別の国の国旗が立ってたりと、非常に激しかった。
武力衝突にならないのは、そんな余力が無い事と、友好関係にあるからだろう。
そんなこんなで派遣された『US-2』だが、飛行艇というのは非常に便利な機体である。
相手側に先を越されても、飛行艇を保有しているのは日本とスフィアナだけなので、相手が到着するよりも圧倒的早く、島に到着出来るのだ。
という訳で今回も派遣されたが、お客さんは12名の陸上自衛隊の水陸機動団御一行である。
ちなみに現在、イギリスとニュージーランドの2ヵ国が『US-2』の輸出バージョンの『US-3』を発注しているが、引き渡しは来年であるので今回の競争には間に合わない。
全員が『20式小銃』や『ネゲウ軽機関銃』などを持って、フルアーマで、何処かに戦争しに行くのか?と思いたくなる様な兵装だった。
これは島に危険な獣や魔獣がいる可能性がある為の装備で、数日後に海上保安庁の保安官達が来て簡易計測機器などを設置するまでであり、今回は約1週間の任務だった。
ちなみに島付近に着水したら機内に搭載しているゴムボートで島に上陸する予定である。
「島が見えてきました!」
機長の報告と共に隊員は円形の小さな窓から下を見下ろす。
するとそこにはかなり大きいと思える島が見え、機体が着水する為にどんどんと海面が迫っている様にも見えた。
「着水します!」
副操縦士の報告の10秒後、ドンッという衝撃と共にザバァ!という水を掻き分ける音が聞こえて来た。
着水したら後は飛行機では無く船として海面をゆっくりと進んでいく。
その時点で機内に居た陸自隊員達は上陸の為ゴムボートのセッティングを進めていく。
そんな陸自隊員達を横目に見ながら着水を成功させたパイロット達3名が機体の右舷に見える島を見ながら話していた。
「海水浴出来そうなくらい綺麗な砂浜っすよね?」
「日光浴してたら森から魔獣が襲いかかって来るかもな・・・」
「パッと空から見た感じじゃあ、かなり大きく無かったか?」
「一応、人は住んで無いみたいだけど分からんなぁ。」
パイロット達がそうこう話している間にも、陸自隊員達はゴムボートなどの上陸準備を終えていた。
「送迎、ご苦労様でした。」
「おぅ、こちらこそご利用いただきありがとうございます。」
「今から危険地帯に行って来ますわ。」
「貴方達を出したらとっとと離水するわ!」
冗談を言い合いながらも、陸自隊員は海自隊員の事を、海自隊員は陸自隊員を心配していた。
これから陸自隊員達が上陸する島はいわゆる未知の島、魔獣に襲われて負傷した隊員が居るという話は珍しく無い。
逆に海自隊員にも心配される事は当然ある。
実は水陸両用機で一番失敗するのは着水では無く、離水と言われている。
他の機体と違い数が多く無い水陸両用機の安全性はそこまで高くは無いのだ。
「では行ってきます。」
そう言って、今回の上陸部隊の隊長は各パイロット達と握手をして機外に浮かべているゴムボートへと乗り込んでいった。
「ほんじゃ、エンジンスタート。」
機外ドアが閉まっているのを確認した後、2機の『US-2』は波を立てないようにゆっくりとゴムボートから離れて、暫く船として航行した後、安全圏まで達すると4機のエンジンの回転数を上げて、その短距離離水能力をフルに活かし、離水して行った。
その頃、ゴムボートに乗った各6名の計12名の陸上自衛隊水陸機動団の隊員達は無事に島へ上陸し、各隊員が警戒しながら橋頭慕の確保をしていた。
この約1週間後、横浜から出港した海上保安庁の巡視船が島の沖合に到着、無事に引き継ぎを終え、上陸した海上保安官達陸自隊員の護衛の元、島に観測機器や日本領である事を示す国旗を設置した。
これも新世界に転移した日本のとある日の日常であった。




