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63.戦争の予感

 


 新世界歴1年7月20日、日本国 首都東京 内閣府庁舎 内閣情報調査室


 内閣情報調査室はCIRO、マスコミからは日本版CIAとも呼ばれる機関ではあるが、その規模は本家CIAと比べると非常に少ない。

 そもそも内閣情報調査室はCIAのようなヒューミント機関では無く、情報収集及び分析機関である為、マスコミの勘違いである。


 そんな内閣情報調査室は別の顔を持っている。

 それは日本国の多数存在する情報機関の纏め役、旗振り役である。

 最も、これは内閣情報調査室のトップが総理大臣な為、言ってしまえば当たり前なのだが、長い間その当たり前が無かったのが日本である。


 そんな事はさて置き、内閣情報調査室の中にある内閣衛星情報センター、通称CSICEでは打ち上げられたばかりの情報収集衛星から送られてきた画像を見ていた。


「この島がアルテシア大陸の東側に?」

「はい。アルテシア大陸の我が国の領土から東南方向に約2000km方向地点の画像になります。」


 そこに映し出されていたのは先進国の首都と言っても過言では無い程の都市だった。

 衛星からの画像な為、詳しい高さなどは分からないが、東京にあってもおかしく無いような建物が立ち並んでいる。

 技術的に地球世界より遅れているミレスティナーレなどの世界では造り得ない代物だった。


「かなり発展しているな。だが、知らない国だ。ウチの世界やミレスティナーレの世界では無いな。」

「サリファ世界か?」

「現在、スフィアナに確認中です。」


 現状、この惑星で確認されている世界は3つ。

 1つは日本やイギリスなどの地球世界、もう1つはスフィアナやテルネシアなどのサリファ世界、そして最後にミレスティナーレなどの世界である。

 技術的にミレスティナーレの世界が有り得ないなら地球かサリファのどちらかになるが地球にこのような国は存在しなかった。

 そうなると自然にスフィアナなどのサリファ世界という事になる。


「この島の面積は?」

「約25万㎢程です。この都市を中心に幾つかの都市が確認されています。同時に軍事基地らしき物も・・・」

「アルテシア大陸で衝突する事にはならないだろうな?」

「分かりません。この国がアルテシア大陸に進出すれば衝突する事もあるでしょう。とりあえずはスフィアナの対応待ちですね。」


 もう既に世界にアルテシア大陸の領有は認められており(正確には地球世界で)、スフィアナとの大陸分割協定でもアルテシア大陸の北側の日本の領有は記載されていた。

 そして現在、この未確認国から2300km離れたアルテシア大陸の海岸では第104都市が開発中である。

 更にもしもの時の為にアルテシア大陸沖には海上自衛隊第2護衛隊群が展開している。

 大陸の逆側にはスフィアナ連邦国海軍第3水上打撃群が展開しており、何か有れば直ぐに駆けつける体制が出来上がっていた。


「彼等の衛星は確認したのか?」

「いえ、まだ確認されていません。現代地球でも全ての先進国がロケットの射場を持っているとは限りませんので。」

「だが、接触も何も無いな。」


 もし日本ならば四方八方に艦艇や航空機を飛ばして周辺の情報収集を行う。

 そして文明が発見されれば視察団を派遣し、友好的に接触し貿易などの交流を行う。

 これは日本が海に囲まれた島国だからであり、イギリスやスフィアナも形こそ違えど、殆ど同じような行動を取るだろう。


「何も行動をおこなさないという事は、暴動でも起きているかな?」

「可能性はありますね。転移による混乱でアメリカも当初は戒厳令が敷かれていましたから。」


 日本やスフィアナなどの一部の国では予想された混乱などは起きなかったが、イギリスやオーストラリア、台湾などでは死者が出る暴動などが起き、軍隊が出動した国もあった。

 日本も一応は自衛隊に出動待機命令が出たのだが、結果的に出動される事は無かった。

 今のところ先進国では暴動は収まっているようだが、メキシコなどでは政権が崩壊し、無政府状態となっている国も幾つかあった。

 そして、アルテシア大陸沖に現れたこの国がそうでは無いとは限らなかった。


「とりあえず今は何もする事は無い。スフィアナの返答待ちだな。衛星も1基しか無いし。」


 そしてその頃、スフィアナ連邦国では・・・





 新世界歴1年7月20日、スフィアナ連邦国 首都レスティナード スフィアナ連邦情報局 FIS本部庁舎


 スフィアナ連邦情報局、FISは国家安全保障省に属する情報機関である。

 シギントやヒューミント、情報分析や収集を全て行なっている巨大組織の為、日本のDIHとは比較にならない程、人員も予算も多い。


 そんなFISの局長はいつも通り出勤してきて、局長室でいつも通りの仕事をしていた。

 これだけを見ると、その辺りの民間企業と対して変わらないのだが、実際には情報機関でも現場の人間以外は民間企業と大差ないのだ。


 しかし、そんな日常の光景が非日常の光景に変わるのは、いつも情報担当官からの報告だった。


「失礼します。局長、日本のCIROより情報提供要請がありました。」

「情報提供要請?何かあったのか?」


 流石に情報機関のトップなだけあってCIROという日本の情報機関の存在は知っていた。

 そしてCIROが主に衛星を使った情報収集を行っている事も瞬時に思い出し、日本の衛星に何か写ったのか?と考えた。


「こちらの画像をご覧ください。日本の情報収集衛星がアルテシア大陸南東部地点2000kmで写した写真です。」


 そう言って情報担当官はA4サイズの写真を手渡す。

 日本と比べてもペーパーレス化が進んでいるスフィアナでも、FISは機密保持の観点から書類や紙をかなり使っていた。


「ん?これは・・・エストシラントか?」

「はい。前世界では太東洋に位置していたエストシラント共和国だと推測されます。ウチとは余り接点が有りませんが・・・」

「確かに太東洋だと関わる事は少ないな。」


 スフィアナの前世界であるサリファは地球よりも大きい惑星だった為、大洋の広さや数も地球よりも多かった。

 スフィアナ連邦国が位置していたリティア太平洋、通称太平洋を中心に北側に太北洋、南側に太南洋、西側に大西洋、そして東側に太東洋があった。

 彼等が言ったエストシラント共和国はその太東洋に浮かんでいる島国である。

 スフィアナは太平洋でも西側に位置する国な為、太東洋の国家とは地理的に関わりが殆ど無いのである。


「エストシラントか、それなりに発展している国家だとは知っているが、詳しくは知らないな。」

「一応、データによりますと面積は約25万㎢、人口は約6000万人、GDPは32兆エルで軍事に於けるGDP比は3%、軍事力ランキングでは9位でした。」

「イギリスとかいう国と同じクラスの国家だな。」


 イギリスの人口は約7000万人である為、イギリスよりは小さいのだが、軍事に於けるGDP比が3%と韓国レベルなので国力の割に軍事力は非常に高い。

 それでも1人辺りのGDPは日本やイギリスと対して変わらない為、軍事大国ではあってもレムリア程酷くは無いのだろう。


「ここでアルテシア大陸の領有にケチを付けられると非常に面倒な事になると思いますが。」

「2000kmだからな。可能性はあるよな。」

「防衛総省に要請して駐留部隊を増強してもらいましょうか?」


 今、日本もスフィアナもアルテシア大陸に駐留している部隊は両国合わせても1個旅団も無い。

 その為、もしエストシラントが侵攻してきたらなす術も無く撤退に追い込まれる事は間違い無かった。

 だが・・・


「いや、一応報告するだけで構わない。アルテシア大陸にはまともなインフラは何一つ無いんだからな。更に世論はアルテシア大陸は日本とスフィアナの物で理解している。もし、譲渡を要求しても突っぱねるだろうな。そして武力で奪おうとしてきたら・・・」

「軍事出動ですか。」

「そういう事、まだ住民も居ないんだ。部隊を駐留させるなら港湾施設や滑走路が出来てからだな。」


 早速、防衛総省の人間のように部隊運用を話している彼等だが、彼等はあくまで情報機関の人間である。

 まぁ、彼等が軍事の基本を分かっているという事は色々と防衛総省にとってもやり易いだろうが。


 ちなみに彼等は間違い無くエストシラントがアルテシア大陸に侵攻すると考えていた。

 現代国家が資源を目の前にぶら下げられて食い付かない筈が無いからだ。

 更にエストシラントはサリファ世界で約50年前に起こった世界大戦での戦勝国でもある。

その為、自国の軍隊にもそれなりの自信やプライドがあるだろう。

 GDPに対する軍事費の割合が多ければ多い程、自国軍に対する期待は嫌でも大きくなるものだ。


「まぁ、こういうデータを踏まえてCIROに返信しておいてね。日本にとっても他人事じゃ無いし、使える物は全て使わないと。」

「分かりました。」


 そう言って早速CIROに連絡しに部屋を出て行った担当官を横目に見ながら局長は防衛総省、官邸に繋がる電話を手に取った。




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