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62.必要なのは分かるが・・・

 


 新世界歴1年7月14日、日本国 首都東京 調布市 国立宇宙研究開発機構 調布航空宇宙センター


 日本国航空宇宙研究開発機構、一般ではJAXAと呼ばれる日本の宇宙機関の本部にある所長室。

 その部屋の中では電子化されたとは言え、大量の書類が置かれ、所長はぶちぶち呟きながら、その書類を仕分けしていた。


「え〜と、これが防衛省で、こっちが経産省、こっちは内閣府、で環境省、防衛省、国交省、防衛省、防衛省、総務省、気象庁、防衛省・・・って防衛省ばっかだな!」


 彼が今、仕分けしているのは転移により全消失した衛星の打ち上げを要請する各省庁からの要請書である。

 10年程前に日本国が保有・運用していた衛星の総数は約60機程で、その数は年を追うごとに増加傾向であった。

 気象庁で有れば観測衛星、内閣府ならば情報収集衛星(偵察衛星)経済産業省や国土交通省からGPS衛星(みちびき)、総務省ならば通信衛星などなど、様々だった。


 そして特に被害が大きかったのは防衛省である。

 転移前は軍事用通信衛星や早期警戒衛星、画像偵察衛星など様々な種類の衛星を保有していたが、全て転移により消失した。

 JAXAという国の機関の者として防衛省が要請してくる衛星が必要なのは分かるが、JAXAの打ち上げ能力にも限界があった。

 そう考えている時、部屋の扉が開いて1人の職員が入ってきた。


「所長、イギリス政府から衛星打ち上げに関しての要望書です。」

「はぁ!?そんなにポンポンロケットが打ち上げられるか!!」


 ついに所長がキレた。


 JAXAのロケット打ち上げ施設は2ヶ所。

 鹿児島県種子島にある種子島宇宙センターと同じく鹿児島県にある内之浦宇宙センターである。

 ただ、内之浦に関しては設備の関係からイプシロンなどの小型ロケットしか打ち上げられずに大型衛星などのロケットは全て種子島にある種子島宇宙センターから打ち上げられていた。

 更にその種子島宇宙センターにある発射台も数が多いと言う訳ではなく、アメリカのフロリダにあるケープカナベラル宇宙センターのようにズラっと発射台が並んでいるような広大な敷地は無い。

 一応、和歌山県や北海道にも小型ロケット打ち上げ施設はあるが、小型衛星しか打ち上げる事は出来ずに、今回の計画からは外されていた。


「そう言われましてもイギリス政府からの要請で、流石に無視するというのはちょっと・・・」

「じゃあ、どっちを先にやれって言うんだ!?日本か?イギリスか?」


 ここ数週間、同じような事ばかり言われていたのだろう、既に所長のメンタルは限界値を超えていた。


「大体、イギリスが自国に衛星射場を持たないのが悪いんだ!」

「一応、イギリス宇宙局がイングランド北部のサザランドで射場の整備を進めていますが、完成は4年後の2034年の予定です。」


 イギリスは基本的に日本や他国の宇宙開発先進国とは違い、ロケット打ち上げに関しては消極的な姿勢を長い間崩さなかった。

 ゼロでは無いのだが、イギリスの宇宙開発は殆どが核弾頭を運ぶ大陸間弾道弾の開発が占め、宇宙開発ではイギリスは後進国だった。

 近年になって宇宙開発に積極的だが、国内に打ち上げ射場が無く、ロケットも持たない為、アメリカのNASAやヨーロッパのESAの打ち上げ施設を借りる事が多かった。

 言ってしまえば自業自得なのだが、転移後の現世界では何かとイギリスと仲良くする必要もある為、日本政府としてはなるべく受けて、イギリスに恩を売りたい考えだ。

 少なくとも、前世界の日本の隣国よりはよっぽど話が出来る相手だろう。


「ま、まぁ、予算も倍近くになりましたし、これで止まっていた研究も進める事が出来ますよ。」

「・・・それで?その研究が出来るのは一体いつになるのかねぇ。」

「・・・・・」


 人工衛星が全て消失したという事で緊急予算や補正予算、更には特別予算までもがJAXAに優先的に振り分けられており、その額は通常のJAXAの年間予算の2倍にもなる額だった。

 普通ならば、研究が出来ると喜ぶ予算増額も、衛星が全て消え去ったこの状況でそんな事をしている余裕も無く、JAXAの職員約3000名の殆どが衛星の打ち上げに全力を尽くしていた。


「オーストラリアは頼りになら無さそうだし、スフィアナはどうだろう?規格とか色々と大丈夫かな?」


 大丈夫な訳無いのだが、今はそんな猫の手も借りたい状況なので、一応JAXAの担当者は外務省経由でスフィアナの宇宙機関であるSAAと連絡を取った。

 すると、案外向こう側も乗り気ですぐさまJAXAの職員はスフィアナのロケットに日本や英国の衛星が搭載出来るように規格や搭載電子部品の擦り合わせに奔走する事になって余計に仕事が増えてしまったのだが、それは後の話。





 新世界歴1年7月14日、日本国 首都東京 国土交通省 会議室


 転移直後から数多の会議が行われている国土交通省だが、どの会議もこれからの日本の各分野を左右する程の大事な会議で、現在行われている会議も非常に大事な会議だった。


『日本国内の空港における統廃合に関する会議』通称空港再編会議、それが今行われている会議の名前だった。


「転移により国内外の旅客需要の大幅な減少、そして当該国との大幅な距離の変化により日本全国の空港側から支援要請と廃止通達が来ています。」

「他省庁と関わる範囲だけでも三沢空港、茨城空港、小松空港、米子空港、下地島空港、その5つの空港が民間空港側の廃止を決定致しました。」


 彼が今述べた空港は全て防衛省、自衛隊との軍民共用空港だった。

 それぞれ自衛隊基地名だと三沢基地、百里基地、小松基地、美保基地、下地島基地である。

 この民間空港の返還により北海道にある航空宇宙自衛隊新千歳基地と愛知県にある小牧基地以外は軍民共用では無くなった。

 実際は千歳基地のある千歳飛行場と新千歳空港は別なのだが、双方は誘導路で繋がっている。


「他にも多数の空港・・・え〜と、新千歳空港、仙台空港、成田空港、羽田空港、名古屋飛行場、中部国際空港、関西国際空港、伊丹空港、広島空港、福岡空港、那覇空港の11空港以外全てですね。から支援要請が来ています。」

「逆に関西国際空港側からはミレスティナーレとスフィアナとの需要を見込んで滑走路増設の申請が出ています。」


 2人目の関空滑走路増設要望については一先ず置いておいて、1人目の担当者の発言に会議室内の参加者は頭を抱えた。

 幾ら日本の空港が多過ぎる事や赤字経営という事は置いていても、流石にその主要11空港以外を全て閉鎖する事が問題なのは素人でも分かる。


「それ以外の空港は閉鎖?それは不味すぎる!」

「と言っても全て存続させるのは色々と問題があります。主に予算の問題ですが・・・」


 そもそも日本にこんな空港が増えたのはバブル期の全都道府県に1空港を設置するという政府(主に国土交通省)の方針が影響している。

 まぁ、その方針は今の各都道府県を見ても分かるように実現する前にバブルは崩壊したのだが、その方針に基づき各都道府県各地に地方空港が建設された。


 最も、役に立っている空港も沢山あるのだが、役にたってない空港(負債)も数多い。

 ただ、沖縄や離島の空港などは島民の生活必需品輸送や足として利用されている為、その空港を廃止してしまうと離島の過疎化が一気に進んでしまう。


「ただ、再編されると地元自治体が・・・」

「大物議員からも反対されると・・・」


 既に地元自治体にとっても負債でしか無い空港はまだ良い。

 自衛隊や海上保安庁が使っている空港も良い(金を出すのは他省庁だし)。

 問題は中途半端に利用客が居て、国会大物議員の選挙区にある空港である。

 後者に関しては野党だけでは無く与党にも居る為、地元振興を掲げて当選した彼等にとっては是が非でも反対するだろう。


「ただ与党の幹事長に関しては大丈夫だろう?地元に大規模な発電所が出来るそうだし・・・」

「え〜と、確か、エーテル発電だっけ?」

「確かに、今住民説明会を開いてる途中だと聞いたな。目立った反対者も居ないそうだし・・・いけるか?」


 数ヶ月前に建設が決定されたエーテル発電所は原発の稼働停止により電力不足が指摘される関西電力管内に建設される事が既に決定している。

 そして、その建設予定地の最大候補が、その与党幹事長の地元の紀伊半島西部にある某県なのだが、計画通りに進めば来年の春頃に建設が着工されるだろう。


「だが、それでもし上手く行っても1ヶ所だけなんだろ?どんだけ根回ししないといけないんだ?」

「病院の全国再編計画でも揉めたからなぁ。」


 2020年に予定されていた全国の病院の再編計画はコロナウイルスによるパンデミックにより延期され、全国で反対運動が起こるなどしたのだが、結局は社会保障費削減を求める財務省の強い要望によりゴリ押しされ、実行された。

 それが成功か失敗なのかは分からないが、確かに維持費などは減っていた。


「だけど、今やらないと次再編する機会など二度と来ないぞ?」

「・・・・・」


 会議参加者の1人の発言に会議室内の空気が一層落ち込んだ。

 後に『令和の空港再編』と呼ばれる出来事を行う事が決定した瞬間だった。






はい、現在の与党幹事長の地元は紀伊半島西部の某県ですね。

流石に物語の設定の2030年には幹事長も別の人に変わってるだろうとは思いますが、設定が楽なので使わせてもらいました。

あの蜜柑と梅が有名なあの県です。

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― 新着の感想 ―
[一言] あのじいさんならあと10年ぐらい平気で粘りそう。
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