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6.接触

 


 新世界歴1年1月3日、旧太平洋 小笠原諸島沖


 地球世界の海のように太平洋沿岸諸国から流れ出たプラスチック類などのゴミが一切浮かんでおらず、海洋汚染も無い綺麗な海。

 そのような海の中に浮かぶ小笠原諸島から南西方向に1隻だけで航行する船舶が居た。


 この派遣の為、高性能のソナーを搭載したスフィアナの巡洋艦である。


 彼等に課せられた任務は、未知の国に拿捕された乗員と艦の返還要求、更に可能ならばその国との有効条約であった。

 そう、この艦艇はスフィアナ連邦国から派遣された外交官を乗せている艦艇なのである。


 選ばれたのはステルス性能よりも見た目が良い艦艇である。

 その為、最新鋭の艦艇では無く、この任務の後に退役となる旧式の巡洋艦を使用している。


 旧式と言っても海洋立国たるスフィアナは30年程で艦艇は退役となる。

 その為、特にガタや不調などは未だ確認されていない。


 更にこの艦艇が選ばれた理由としては高性能なソナーを搭載したからである。

 この海は彼等が居た前世界の海とは違い情報が全く無い。

 その為、ソナーで海底状況を確認しながら航行している為、速度は約10ノットと非常に遅い。


「あ〜、なんで俺が未知の国との交渉なんかを。あああぁぁぁ〜」


 巡洋艦の艦後部のヘリ甲板から海を見ながらそう叫んでいるのは今回の派遣で交渉担当に見事?選ばれた

外交官である。

 ちなみにヘリは格納庫にしまわれている為、ヘリ甲板は艦の中で最も広い場所である。

 当然の事ながら外務省の外交官も未知の国との言葉すら通じるか分からない国との交渉は行いたくない。


 その為、十数名でクジ引きとなったのだが、ラストルはこの日、クジ運が無かったのか、ハズレを引いてしまったのである。

 そんな未練がましい外交官を艦の乗員達は同情するような目で見つめている。


「もう諦めて下さい。拿捕された艦の乗員達はその未知の国に捕らえられているんですから。」


 世話役の海軍の士官が呆れたような声をかける。


「あのね、君は心配じゃ無いのかい?どのような国かも分からないんだよ?もし相手が未開の蛮族なら俺達はそいつらのディナーなんだぞ?」


 交渉担当のラストル外交官は何故この気持ちが分からない?といった表情で若い海軍士官を見つめた。


「そうは言っても、護衛は付きますよ?」

「え?交渉中に銃を持って入れるの?」


 期待したような目で見つめてくるラストルを海軍士官はスッと目を逸らした。

 当然ながら国と国の会談中に銃なんて物を持って入れる筈がない。

 相手の国がどうかは分からないが、少なくともスフィアナの居た世界では有り得ない事だった。


「交渉出来ているなら大丈夫ですよ。もし襲われたら戦争ですから。本国から艦隊がダース単位でやって来ます・・・」

「ちっとも安心出来ねぇ!!それって間違いなく砲弾とミサイルも降ってくるよな!?」


 外交官を襲うなんて事になったら間違いなく戦争になるだろう。

 少なくとも交渉を行った都市は更地とまではいかないが、廃墟になる事は間違いないだろう。


 果たして敵に囲まれた場所で特殊部隊が救助出来るか。

 彼の思いはそれのみだった。


「そうならないようにするのが貴方の仕事です。私達軍人は戦う事しか出来ませんから。」


 ニコリと笑顔でそう言われ、ラストルは崩れ落ちた。

 哀れラストル。





 新世界歴1年1月3日、日本国硫黄島 硫黄島飛行場


 火山島である硫黄島は第二次大戦の太平洋戦争で激しい戦いが起きた事でも有名な島である。


 その戦争から85年が経った現在。

 硫黄島には神奈川県にある海上自衛隊厚木航空基地に所属する航空集団第4航空群から分派されるといった形で第4航空群硫黄島航空基地隊の『P-1』対潜哨戒機が置かれている。

 更にヘリコプターとして第21航空群第21航空隊硫黄島航空分遣隊の『UH-60J』多目的ヘリコプターなども硫黄島航空基地に駐留している。


 数年前までは付近に有人島が無い為、米軍の空母艦載機の夜間離着陸訓練(NLP)と呼ばれるタッチアンドゴー訓練が行われていた。

 しかし、鹿児島県種子島からほど近い馬毛島に専用の施設が出来た為、今は行われていない。


 そんな硫黄島航空基地の2650mの滑走路の半分程を使用し1機の航空機が離陸した。

 海上自衛隊の『P-1』対潜哨戒機である。

 理由は太平洋を警戒飛行していた航空自衛隊の『E-767』早期警戒管制機より小笠原諸島沖に大型の不審船を1隻探知したと緊急連絡が入ったからである。

 3日前に浦賀水道に国籍不明艦艇2隻が現れ拿捕された事件により自衛隊は警戒・監視は強めていた。


 この離陸した『P-1』対潜哨戒機は翼下に計2発のハープーン対艦ミサイルと胴体の機内ウェポンベイ(爆弾庫)に12発の500ポンド対潜爆弾と2発の短魚雷を搭載していた。

 これは攻撃されたら最悪、撃沈する為に搭載していた。


「こちら4P2、ただ今離陸した。アマテラス。不明艦艇の位置を教えてくれ。」

『こちらアマテラス。位置データを送る。国籍不明艦艇は軍艦の恐れあり。繰り返す。軍艦の恐れあり。以上。』


 警戒飛行中の『E-767』早期警戒管制機からの報告を受け『P-1』対潜哨戒機の機内に緊張が走った。


 思い出されるのは12年前の日本海で起きた韓国海軍レーダー照射問題である。

 2018年12月20日に能登半島沖の日本海において韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の『P-1』対潜哨戒機に対して火器管制レーダーを照射したのだ。

 レーダー照射とは、いわば銃の引き金に手をかけるのと同意、いわば『P-1』対潜哨戒機は韓国海軍艦艇に撃墜される寸前だったのである。


 この事件で日韓の関係は過去類を見ない程、悪化した。

 結果的に有耶無耶になったこの事件だが、今回もそのような事が起こらないとは限らなかった。


「レーダー員、HPS-106を使用しろ。」

「分かりました。」


 しばらく飛行し、目的海域上空に達した時、機長からの指示によりレーダー員はHPS-106の電源を入れ、一度だけ360度探査を行った。

 機首と機体後部に2面の計3面のアクティブ式のフェーズド・アーレイレーダーで360度カバーするHPS-106の全周囲捜索は一瞬で完了した。

 基本的に海底の地形が分からない為、普段程船舶は航行していない。

 その為、『E-767』早期警戒管制機が探知した船舶を見つけるのは早かった。


「国籍不明艦艇を探知。これより確認を行う。戦闘配置!」


 数分後、『P-1』対潜哨戒機は国籍不明の艦艇に接触した。

 無線の呼び掛けには応答無いものの、どっかの国(中国)のように兵装を向けたり、どっかの国(韓国)のようにレーダーを照射してくる事は無かった為、『P-1』対潜哨戒機の乗員は安堵した。

 その後、海上自衛隊は海上保安庁第三管区保安本部に連絡、誘導の為の巡視船を派遣するよう伝えるのだった。





 新世界歴1年1月3日、日本国 神奈川県横浜市 横浜港 大桟橋埠頭 スフィアナ連邦国海軍派遣艦 ミサイル巡洋艦【レイルート】


 タグボートに支援され、埠頭に着岸した巡洋艦【レイルート】のヘリ甲板から外交官のラストルは岸に居る音楽隊を見る。

 ふと背後を見れば自国でも見るような赤レンガ倉庫が見えるが、その背後には高層ビルが何棟か見える。


「それなり発展している都市だな。ディナーにされる事は避けられそうだ。」

「ディナーどころか友好関係を結べそうですね。護衛の私としてはいきなりドンパチならずに良かったですよ。」


 目の前のこの国、日本国の歓迎ぶりを見れば少なくとも軍事衝突という事態にならずに済んでよかったと護衛の海軍士官は思った。


 そう思ってると黒いスーツを着た日本の外交官と見られる人達がやってきた。

 これから机の上の戦争が始まるのである。




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