58.そう言えば領土問題
新世界歴1年6月17日、日本国 首都東京 総理官邸 総理執務室
「そう言えば結局、秋津島って開発棚上げにされてたよね。」
そう総理が呟いたのは、ある日の何時もと同じように執務室で書類整理をしている時だった。
ちなみにこの部屋には総理と官房長官、そして何時も通りの報告に来た防衛大臣、国土交通大臣が居る。
そして、そんな総理の呟きに真っ先に反応したのは国土交通大臣であった。
「そう言えばそうですね。まぁ、新大陸開発があるので仕方が無いと言えばそれまで何ですが・・・」
「資源が多少ある事は分かっているので新大陸開発がひと段落したら開発されるのでは?」
「今は人も資源も足りませんし・・・」
一応、秋津島と秋津島に隣接するスフィアナ領ミレス島は日本の海洋調査船【ちきゅう】が調査して海底に石油鉱床などがある事は判明している。
その埋蔵量は簡易探査だけでも約300億バレルであり日本の年間消費量20年分以上の量だった。
だが、イギリス沖の北海油田程では無く、イギリスとの関係も大事な為、開発は先送りされていた。
そもそも転移によって、何故か北海油田の埋蔵量が130億バレルから400億バレルに跳ね上がっており、周辺地域も入れたら600億バレルもあった。
その量だけで十数年は新太平洋諸国の消費量を賄えるだけの量があった。
だが、北海油田は海底油田。
ミレスティナーレの陸上油田は海底油田よりも低コストで採掘出来る為、北海油田では増産されずに逆に減産される予定だ。
ちなみにミレスティナーレの油田は既に発見されているだけで2500億バレルとサウジアラビア並みだった。
発見されてない油田やミレスティナーレの技術で採掘できない油田も合わせたら4000億〜5000億バレルはあると推測されている。
日本の年間消費量300年以上もの莫大な量だ。
一応、スフィアナにも石油鉱床はあると言われており600億バレル以上もの埋蔵量が調査によって判明している。
しかし、採掘する気はスフィアナ政府にはさらさら無いようだ。
それは、ただ単に採掘コストでミレスティナーレ産に負けるからだろう。
「そう言えば秋津島で思い出しましたが、竹島の施設はどうします?」
急にそんな事を言い出したのは防衛大臣だ。
異世界転移により分かれた地域はある意味で意図的であり、北方四島と千島列島は日本。
サハリン(樺太)はロシア
竹島は日本、鬱陵島は韓国(現中国)。
尖閣諸島は日本と綺麗に分かれていた。
その為、再び実行支配する事になったのだが、北方四島の方は良かった。
国後島に自衛隊の駐屯地とレーダーサイトを建てる事が決まり終わった。
更に千島列島は日露間の政府交渉により2兆円でロシアが日本に売却するという形で日本領となった。
流石のロシアも離れた場所の管理などしたくなかったのだろう、日本側が『2兆円貸し付けの資源払い』を提示するとあっさり飲んだ。
だが、竹島の方は言ってしまえば四方断崖絶壁の島なので、どうする事も出来ずに太極旗を日本国旗に付け替えて終わっていた。
こんな形で領土問題が解決するとは思いもよらなかったのだが、いざ解決したらそこまでニュースにはならなかったのだ。
「竹島?施設を撤去して終わりでいいだろう。もう領土問題になる事は無さそうだしな。」
「人が住めるような場所では無いですから。ほっとけば良いのでは?」
しかし、防衛大臣の問いに他の大臣の対応は冷たかった。
そもそも竹島は韓国との領土問題があった為にクローズアップされたのだが、領土問題が無ければ、ただの無人島である。
付近に国もない為、今後二度と表舞台に出てくる事は無いだろう。
精々、韓国が無理矢理整備した場所に無人灯台を設置するくらいだ。
「そ、そうですか・・・千島列島は?」
「国後島に自衛隊基地を設置する事が決まったんでしょ?なら後は民間がなんとかするでしょう。幸いにも住民は居ますしね。」
当然ながら北方四島に住んでいたロシア住民はそのまま島ごと転移していた。
そして、こんな政情不安定な時期に「国に帰れ」などと言える筈もなく、国へ帰るか日本人として引き継ぎ住むか選択させたのである。
結果、本国が有る事を知った住民達は4割程度の人達が帰国、残りの人達はロシア国籍を放棄して日本国籍を取得した。
その為、住民はいるのだ。
ちなみに国後島に建設される予定なのは陸上自衛隊の国後駐屯地と海上自衛隊の国後航空基地航空自衛隊の国後島分屯地及び幌筵島分屯地、いわゆるレーダーサイトである。
国後駐屯地にはミレスティナーレ戦役などの事を踏まえ地対艦ミサイル中隊と高射特科中隊が配備される事となっている。
毎度の如く国会では野党が「千島列島を非武装地帯に!」などと言ったが、無視されている。
最早、野党に過去程の力は無く2大政党時代はとっくに終わっている。
「12式地対艦誘導弾も25式中距離地対空誘導弾もそんなに数無いんですけど。」
「補正予算で提出したら良いじゃない。」
「そんな、なんでもかんでも補正予算で出したら間違い無く2兆円超えますよ?」
「「・・・・・」」
「・・・超えますよ?」
「ん、いや。やっぱり財政の健全化は必要だしな。他の旧式装備でなんとかしてもらうしか無いな。うん。」
防衛大臣の補正予算2兆円発言に青ざめる総理と官房長官。
そして、2人に睨まれて手のひら返しで返す国土交通大臣。
ただでさえミレスティナーレ戦役での人件費や弾薬費、定員増加による追加の人件費、装備購入費など倍々増の防衛予算。
更に今年度は転移不況で様々な経済対策を打っており、それだけでもGDP10%の約65兆円の補正予算を組んでいる。
その為、他の省庁の補正予算に関しては財務省からいっそう厳しい目で見られていた。
というより、そもそも補正予算で『12式地対艦誘導弾』や『25式中距離地対空誘導弾』の予算が通っても、メーカーに発注してから納品されるまで軽く1年以上は掛かる。
最も、これは先の12中期防で既に発注している為、生産ロットがない事が理由なのだが・・・。
そんなこんなで新しく新設される部隊には倉庫に眠っていた『88式地対艦誘導弾』(第3/4地対艦ミサイル連隊は今でも88式を使用中)や『03式中距離地対空誘導弾』(15個高射隊中10個高射隊が03式を使用中)を引っ張り出して配備する予定である。
ちなみに『25式中距離地対空誘導弾』は『03式中距離地対空誘導弾』の後継で、『03式中距離地対空誘導弾(改)』とはまた違う。
この『03式中距離地対空誘導弾(改)』は3個中隊分しか調達されてない為、ある意味珍しい装備である。
「いや、まぁ、そうしますけど。」
そんな事よりも南西シフトの影響をモロに受けている北海道の陸上自衛隊北部方面隊の装備更新の方が問題なんだよなぁ、と北部方面隊の装備更新に陸上自衛隊のリソースを割く事を決めた防衛大臣であった。
何せ、中距離地対空誘導弾は良いとして短距離地対空誘導弾は未だに最新の『11式短距地対空誘導弾』では無く『81式短距離地対空誘導弾』が使われている始末である。
ミレスティナーレ戦役の時は、その誘導弾が開発された1981年より前の装備しか保有してない軍隊だから良かったが、もし敵がスフィアナレベルなら間違い無く北部方面隊は大被害を被ってただろう(それでも制空権・制海権を確保したなら何とかなるが・・・)。
最も、一昔前は北部方面隊隷下の対戦車ヘリコプターが全て『AH-1S』だった事を考えると、半数以上が『AH-64E』になっただけマシか、と思う防衛大臣だった。
新世界歴1年6月17日、イベリア半島上空 高度8000m
現在、絶賛戦争中のイベリア半島上空では全ての民間航空路が閉鎖されている
そんな中、イベリア半島上空を飛んでいるのはグレーの色合いの戦闘機だけである。
しかし、そんなイベリア半島上空を2機の『EF-2000』に護衛されながら民間の旅客機と変わらないような大型機が1機飛行していた。
4発エンジンの大型機であり、民間機では今は1機も空を飛んでいない第1世代の『ボーイング707型』機であった。
最も、この機の色は他の戦闘機と同様に灰色一色であり、他の民間機とは違い機体の上にお皿のような大きなレーダードームが搭載されていた。
『E-3』早期警戒管制機と名付けられたその機体は前線に展開しているNATO軍の空軍機を空中指揮する為にドイツのガイレンキルヒェン航空基地から来たNATO空中早期警戒管制部隊の1機である。
ちなみに『E-3.AWACS』に搭載されているレドームを『ボーイング767』に載せ替えた機体が日本国航空宇宙自衛隊の『E-767.AWACS』である。
しかし、この『E-3.AWACS』は1972年に初飛行したかなり古い装備の為、各国で後継機の導入計画がある。
イギリスは『E-7.AWACS』を調達、日本は国産の『スペースジェット』もしくは『P-1』対潜哨戒機にレドームを載せようと開発中である。
そんな、かなりのご年配の『E-3.AWACS』は毎日の恒例である味方戦闘機を敵戦闘機に誘導するという任務を行なっていた。
この機体以外にも同じNATO.AWACSが同地域に4機投入されている。
敵のレムリア帝国軍は早期警戒機や早期警戒管制機を保有していないのか、現在はまだ確認されていない。
そんな『E-3.AWACS』内のオペレーションルームでは担当要員が味方のNATO戦闘機部隊に誘導指示を出していた。
「フォクスロット2-4に戦闘機と見られる小型国籍不明機64機を確認。以後αと呼称。」
「タンゴ1-9に戦闘機と見られる小型国籍不明機72機、確認。以後とβ呼称。」
「ホテル3-5に爆撃機と見られる大型国籍不明機6機を確認。以後γと呼称。」
地上では比較的落ち着いている各戦線も上空ではいつも通り大忙しである。
レムリア帝国空軍の作戦保有機は膨大な数の為、効率的に味方戦闘機を割り振らなければ直ぐに後方へと抜けられてしまう。
一応、地上配備型の迎撃ミサイルである『ぺトリオット.PAC-2/3』なども要所に配備されているが、圧倒的に数は少なく、射程は30km程しか無い。
『ボルドー=メリニャック空軍基地よりフランス空軍戦闘機18機が上がりました。』
『オランジュ=カリタ空軍基地よりドイツ空軍戦闘機24機が上がりました。』
『モン=ド=マルサン空軍基地よりフランス空軍戦闘機18機が上がりました。』
『大西洋上のアメリカ海軍空母よりアメリカ海軍航空隊戦闘機18機が上がりました。』
すぐさま、地上の各空軍基地や空母から出撃の連絡が入る。
ちなみにスペイン及びポルトガル全土を奪還したNATOだったが、航空機が使用出来る滑走路がない程に破壊されており、その為、近いフランスやイタリアの空軍基地を使うしか無かった。
現在、NATOの工兵部隊が整備しており、年度末には幾つかの空軍基地が復旧する見通しだ。
「敵機136機に味方は78機か・・・」
「まぁ、なんとかなるだろう。レーダー上では分からんが敵の機体は第3世代機だろ?」
「それで・・・こちら側がラファール36機に、タイフーン24機、そしてFA-18戦闘機18機か・・・」
「第4世代混合編隊だな。」
各空軍基地から多数のグリップがα・β・γの各グリップへと向かって行くのを見ながらE-3.AWACSのオペレーター達が話していた。
味方の防空司令部に報告したら後は味方戦闘機部隊と敵戦闘機部隊が戦闘になるまでは暇なのである。
味方基地から出撃した戦闘機部隊が敵戦闘機と会敵するまで約2時間程掛かる。
「大西洋のフランス海軍空母は?」
「リシュリューか?アメリカ海軍と敵本土の軍事基地攻撃への準備だそうだ。」
「アメリカ海軍空母3隻にフランス海軍空母1隻、200機近い戦闘機だな。」
ちなみにフランス海軍空母【リシュリュー】はPA2と呼ばれていたフランス海軍次期空母である。
満載排水量7万tの通常動力の大型空母で、ラファールMなどを約40機の航空機を搭載している。
見た目はアメリカ海軍の原子力空母を一回り小さくしたような形だが、原子力では無くディーゼルエンジンとガスタービンを合わせた統合電気推進方式である。
ちなみに200機という戦闘機の数は日本の航空宇宙自衛隊の保有戦闘機の約3分の2にもなり、ドイツやスペインの保有機数を軽く上回る程の数である。
最も、レムリアの3000機には焼け石に水との意見も強く、アメリカ・フランス両政府も長距離空対地ミサイルでの攻撃に切り替えていた。
「今年中には終わらんかねぇ。」
「「「・・・・・」」」
1人のオペレーターの発言に(同感だ。)と思ったが、直ぐに(無理だな・・・)と思った。
どう考えても核戦争にならない限り終わりそうに無いので、口には出さなかった。
結局は、敵もそれなりの規模の国力と軍事力を持った軍事大国なので、朝鮮戦争みたいに休戦協定結ぶしか方法は無いだろう。
異世界転移してからも変わらない、ある意味の日常が続くヨーロッパだった。




