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55.兵力はそんな簡単には増えない

 


 新世界歴1年6月10日、スフィアナ連邦国 首都レスティナード 首相官邸 会議室


「ホントにもう徴兵制でも採用しようかな・・・」


 余程切羽詰まっている首相の発言に慌てる各大臣だったが、それ程までにスフィアナは追い込まれているのである。

 何に追い込まれているのかと言うと、具体的には兵力の不足である。

 つまり、日本の自衛隊と同じ問題だ。


「どれだけAIを導入して高度に自動化させても10万弱の兵力は必要ですからね。」

「定員の増強と国内からの戦力抽出ではどう頑張っても5万が限界です。」


 防衛総省の職員からもこれまでの情報の纏めを報告する。

 本来ならば防衛総省内で纏めて結論を政府に報告するのだが、防衛総省内で判断出来ない為、こうして様々な省庁の大臣や関係者が集まって会議を開いているのである。


「徴兵制ですか、一応法律はあるので問題は無いですが明らか産業形態に影響が出ますよねぇ。」

「国内の戦力を抽出というのはミレスティナーレの件から見ても危険だな。」


 スフィアナ連邦軍は約48万㎢の国土を陸軍・海軍・空軍・戦力基盤軍の四軍全て合わせて総兵力は約32万人程の兵力で防衛している。

 自衛隊は約37万㎢の国土を陸・海・空の三自衛隊合わせて25万人程の兵力で防衛している。

 つまり、スフィアナは国土に対する兵力の割合は日本と同程度しか居ないのである。

 特に陸軍はたった18万人しかおらず陸上自衛隊の15万人と比べても国土の広さに合致していない。


「とりあえず即応予備役を一部動員して2万名は確保出来ました。それでも兵力は20万人しかいません。」


 スフィアナ連邦軍にも他の軍隊と同様に予備役は存在する。

 年30日以上の訓練もしくは定年以外の理由で退役して2年以内の者は即応予備役と呼ばれ、約5万人程居る。

 だが、当然の事ながら途中で退役した人は他の仕事に就いている者も多く2万人が復帰しただけでもマシだろう。


 となると残りは通常の予備役となるが、こちらの方は徴兵年齢に合致した人員から選抜された人間の為、約200万人程もいる。

 だが、当然殆どの人は仕事に就いておりその人達を引き抜くならば確実に各産業に多大な支障が出てしまう。

 その為、通常の予備役を招集するのはあくまでも戦争時の最終手段となる為、現段階では論外となる。


「正直言って予算の制約よりも人員の確保の方が難題ですねぇ。」


 疲れたように防衛相がそう呟く。

 その考えには他の大臣、特に財務大臣も同意だった。

 すると、ここで情報通信大臣がある事を思い付いた。


「そう言えば、保安隊から引き抜く事は出来ないのですか?」


 保安隊。

 スフィアナ連邦国内では各州による州警察と連邦政府による連邦警察の2つの警察組織が存在するが、その連邦警察に属するのが保安隊である。

 警察と言っているが、実質的には準軍事組織であり、装備もスフィアナ連邦軍と同等の装備を有している。

 簡単に言えば中国やイタリアで言う武装警察や警察軍であり、管轄は連邦警察などを束ねる保安庁や国家安全保障省だが、有事の際には防衛総省の指揮下に入る事が法律に記されている。

 国によって軍隊に入れられる事もある組織だが、スフィアナでは警察組織としてカウントされている。

 情報通信大臣が保安隊を議題に出したのは保安隊が7万5000名もの人員を有する組織だからであった。


「保安隊か、一時的になら構わないだろうが、常時となると様々な問題も出て来るだろう。」

「そうですね。有事ならともかく彼等は一応は警察官なのですから・・・」


 別に保安隊が居ないとスフィアナ国内の治安が悪化するとかそういう訳ではない。

 スフィアナの警察組織はアメリカと同様で、各州内で起きた犯罪は州警察が対応する。

 そして州を跨ぐ犯罪が起きた場合は連邦警察が対応する。

 そして保安隊以外にも連邦警察は存在している。

 つまり保安隊が居なくても治安は維持出来るのである。


 ただ、保安隊が連邦警察として現場に出る事もある為、保安隊が居ないのは警察としては非常に困ってしまうのだ。

 特に重装備の保安隊はそこに居るだけで抑止力になり、犯罪を犯そうという気が無くなるので、保安隊を廃止するという動きは今のところ無い。


「まぁ、新大陸への配備兵力がそこまで多くなるのは早くても十数年後だ。特に何かが起こらない限り当分は現有戦力の派遣で事足りるだろう。」


 これまでの議論をぶち壊しするような爆弾を投下してきた首相だったが、彼の言う通りである。

 都市の開発は数年単位で終わるものではなく、早くても十数年、遅ければ数十年程の時間がかかる。

 今すぐに10万の兵力を用意しないといけない訳では無い。

 更にスフィアナは日本と違い微増だが人口増加社会である。

 日本のように少子高齢化を心配する必要はない。


 と言っても、1万〜2万程度の兵力が必要なのは確かな事なので、この会議ではその戦力増強に必要な予算の使い道と必要な法律の策定が決定された。

 結局、何処の国も徴兵制でも採用しない限り兵力を倍にする事など不可能という事である。





 新世界歴1年6月10日、日本国 首都東京 中央合同庁舎第3号館 海上保安庁 会議室


「船が足りない・・・」


 職員の1人が呟いたその一言が現在の海上保安庁の状態を物語っていると言っても過言では無かった。

 世界が大幅に広まった現在、日本の細くなった貿易はイギリスや台湾、オーストラリアなどの新太平洋国家とイギリスから西に1万1000km行った場所にあるアメリカのみとなっていた。

 ちなみに前世界で日本とアメリカ本土の距離は約8000kmの為、単純に距離が2倍に延びたのである。


「北米船団に巡視船1〜2隻を付けるなんて無茶だ!!海自にまわせよ!」

「1万2000kmなんて長距離航海出来る艦艇なんか、しきしま型3隻としゅんこう型3隻の計6隻しかないぞ!どうするんだ?」


 ここまで海上保安庁が阿鼻叫喚と化しているのは国土交通省からある要請が来た為である。

『北米大陸との貿易は護送船団方式で行う為、各船団に1〜2隻の巡視船を付ける。』

 こんな無茶な命令が経済産業省経由でも来た為、海上保安庁は上から下まで大激震だった。


 この無茶な命令が来る前までは転移により尖閣諸島への不法侵入公船への対処や日本海での違法操業漁船への対処をしなくて済むと万々歳だったのだが、一夜で天国から地獄に突き落とされた気分である。


 そもそも1万2000kmの長距離を航行するには途中で燃料補給の為に帰港する港が必要となるのだが、そんな都合良く港なんかは無い。

 だが、日米の船舶会社はその一見無理難題を簡単に片付けてしまった。

 日本の船舶会社からして見れば前世界で日本から欧州へ向かう航路は普通に1万km以上の大航海だった為、問題無かった。

 そもそも外洋航海船舶は世界一周航路なんて普通にある事であり、1万2000kmの片道航海など別段珍しい事では無かった。


 だが、海上保安庁ではそうはいかない。

 そもそも海上保安庁が所有している船舶は殆どが数百t程度の小型船舶であり、ヘリコプターまで搭載出来る大型船舶は【しきしま型】と【しゅんこう型】巡視船しか無い。

【しきしま型】巡視船3隻と【しゅんこう型】巡視船3隻の計6隻、それが現在海上保安庁が北米航路に投入出来る最大戦力だった。


「たった6隻でどうやって回すんだよ!!!!!」


 この職員が海上保安庁全職員の想いを表していると言っても過言では無かった。


 そもそも外洋航海可能な船舶は海上保安庁は6隻だが、海上自衛隊は54隻も保有しているのである。

 海上自衛隊も自国防衛という最重要任務がある為、海上自衛隊も船が足りずに余裕は無いのだが、海上保安庁よりは断然マシだろう。

 そもそも海上保安庁も他国の沿岸警備隊と比較してもかなり大きな組織である。

 保有している船舶の量も質もかなり高い部類に入るのだが、そんな海上保安庁でも対応出来ない理由は一重にこの世界が広過ぎる為である。


 ちなみに海上保安庁に北米船団の護衛任務が振り分けられた理由はただ単に海上自衛隊を含む防衛省の仕事量がそろそろ人の限界量を超えそうだった為である。

 そもそも海上保安庁に回されても「無理」の一言で終えるのだが、その回した職員も回せる場所が海上自衛隊か海上保安庁の2択しか無いのだ。

 ちなみにイギリスは沿岸警備隊では不可能だと判断して海軍の艦艇に護衛任務を回し、アメリカも沿岸警備隊には荷が重いと海軍が護衛任務を行う事になった。

 アメリカとしても日本との貿易は非常に重要なのだ。


「アメリカが電子部品輸出してくれって懇願してくるから全部アメリカに任せたらいいじゃ無いか!」

「テルネシアとの戦争でかなりの数の艦艇がやられたそうだから向こうも船が足りないんじゃ無いのか?」

「その結果がウチかよ、勘弁してくれよホント。」


 幾ら世界最強のアメリカ海軍とは言え最新鋭の戦闘艦艇を一気に10隻近くも喪失したのだ。

 その中にはあの3隻しか建造されなかった超高価格艦艇である【ズムウォルト級】も含まれていた為アメリカ海軍としては大損害である。


 最も日本から電子部品が必要なのはイベリア戦争で使用する爆弾やミサイルなどの兵器を作るのに日本製の電子部品が必要だからである。

 日本としてはアメリカ産の食糧を輸入しようとしている為、数万t〜十数万t級の貨物船やタンカー十数隻からなる大船団となったのだが、その事は彼等は知らない。


「とにかく無理だ!キャパオーバーだ!!」


 彼のその一言で「無理」と国土交通省及び経済産業省に返答され、両省は様々なお土産(省益)を持って防衛省を訪ねる事となった。


 その1週間後、北米船団護衛に海上自衛隊の艦艇がつく事が防衛省から発表された。

 最も実際に護衛される船舶の人間は軽装備の巡視船より重装備の護衛艦の方が安全度が高い為、安堵していた。


 この数ヶ月後の補正予算にて大型巡視船4隻の建造予算が認可されるのだが、この時まだ彼等は知らない。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 先ほどの感想に追加なのですが、対空レーダーも『しきしま』の物より強化したタイプでいいのではないかと思いますね。 [一言] 俺の小説でも、もっと強化した巡視船出したいなぁ……
[良い点] ……地獄。正に地獄。 [気になる点] そうなると、日本もスフィアナに倣って大陸に投入する戦力に警察軍みたいな存在を作るんですかね?自衛隊だけじゃ色々負担も多いだろうし……。 [一言] 海保…
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