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52.官僚達の苦悩

 



 新世界歴1年5月25日、日本国 首都東京 国立感染症研究所


「では、今のところ未知の細菌やウイルスなどは確認されていないと言う事か?」


 国立感染症研究所戸山庁舎内の会議室で、多数の感染症などの研究者達が集まる会議で研究所所長はそう質問した。


 厚生労働省管轄の国立感染症研究所(NIID)は2020年の新型コロナウイルスの騒動によりその規模を拡大させていた。

 結果的に350名の人員と60億円程の年間予算は2030年現在、2100名の人員と720億円の予算を充てられるまでになったが、アメリカの疾病管理予防センター(CDC)の1万4000名の人員と1兆3000億円の予算と比べるとまだまだ少ない。


「ヨーロッパやアメリカからも新たな細菌やウイルスを発見したという通達も有りませんし、スフィアナの研究所が保管しているサリファの細菌やウイルスと地球のを照合させてもらいましたが、今のところ見つかっていません。」


 当然ながらスフィアナにも感染症やウイルスを研究する機関は存在する。

 というより、流石GDPの5%弱を研究開発に投じている国なだけあって、かなりの規模である。


 その他にもアメリカの疾病管理予防センター(CDC)やヨーロッパ諸国の研究機関とやり取りは続けているが、未知の細菌やウイルスに関する情報は入ってきていない。


「最も、地球でも未知のウイルスがいるので、風土病などのまだ確認されてない物は別なので用心するに越した事は無いと・・・」

「更にミレスティナーレの世界は科学技術の面で地球にもサリファにも劣るので危険です。」


 ミレスティナーレの世界の科学技術レベルは約1950年代〜1960年代の為、細菌やウイルスの研究技術も地球やサリファに比べて劣っていた。

 更にミレスティナーレは戦争に負け、日本・イギリス・スフィアナの経済的植民地と化していたのでこれから交流も増えてくる。

 よって未知のウイルスが日本に入ってくる可能性もあるのだ。


「まぁ、スペイン風邪や10年前の新型コロナのような致死率と感染力の高いウイルスの大流行、というのが直ぐに起こる事を心配する事ないのは良い事ですね。慢心は出来ませんが。」


 第一次世界大戦の終結を早める程、徴兵人口を減らしたスペイン風邪。

 中国から世界中に広まり数万人の死者と日本だけで数十兆円の経済的損失が出た新型コロナ。

 双方共にパンデミックとなった出来事だが、そんな事態にならない事を彼等は祈るしか無かった。





 新世界歴1年5月25日、日本国 首都東京 防衛省 海上幕僚監部


「だあぁ〜!!」

「どうした?」


 市ヶ谷の防衛省A棟の陸海空の三自衛隊の中でも海上自衛隊を管轄する海上幕僚監部庁舎内で同僚の突然の叫びをいつもの事のように別の課の職員が聞いた。


「護衛艦の数を増やす計画があったろ?」

「あぁ、あったな。20個護衛隊だろ。」

「それでな、その船を留める場所が無い。」

「・・・は?」


 一瞬だけ、話を聞いた職員は話の意味が分からなかった。


「横須賀とか佐世保の米軍地区が返還されるんじゃ無いのか?」

「全部じゃ無い、一部だけだよ。」

「へぇ〜、まぁ、日本にノーフォークみたいな場所は無いからな。」

「あれは異常だよ・・・」


 アメリカ海軍の基地であるノーフォークは非常に広大な海軍基地である。

 その係留能力は海上自衛隊の5大基地(横須賀・呉・佐世保・舞鶴・大湊)全てに匹敵する程の大きさだ。

 多分、旧帝国海軍がそのまま残っていればもう少しマシであったのだろうが、軍系統の組織は日本は一旦解体されているのだ。


「横須賀と佐世保の返還部分の自衛隊取り分を増やすしか、仕方がないのじゃ無いか?」

「まぁ、そうなんだけどさぁ・・・」


 ただでさえ、自称平和団体などが在日米軍基地の事に関してしつこかったのに、「返還されたから自衛隊も使う」ではまた面倒な事になる事は確実だった。

 最も、これまで在日米軍基地があったお陰で交付金などを受け取っていた地元自治体などは在日米軍基地を自衛隊が使う事に賛成するだろう。

 海軍基地が民間の埠頭やマリーナになるよりも自衛隊などが使ってくれた方が地元自治体に落ちるお金が多いからだ。


 町によっては若い人は全員自衛官で高齢者は全員地元住民という場所もあるのだ。

 そういう場所は自衛隊が撤退すると財政がピンチな過疎地帯になる為、意地でも自衛隊を引き止めようとする。


 どちらにしても、結局は現場の人間や下っ端の公務員が決める事では無く、もっと上の政治家達が決める事なので彼にどうこうする事は出来ないのだが。


「どうするんだろう・・・」


 彼は政治家達がいる霞ヶ関の方を向きながらそう呟いた。





 新世界歴1年5月25日、日本国 首都東京 資源・エネルギー庁 会議室


 国立感染症研究所及び防衛省の職員達が様々な問題により頭を抱えている頃、日本のエネルギー関連を纏めている経済産業省の外局である資源エネルギー庁でも別の問題で頭を抱えていた。


「エーテルが有れば国内の原子力産業は全て廃業だ・・・」

「原子力どころか、火力発電も無くなりますよ。」


 様々な要因から原子力産業が無い世界であるサリファ。

 その世界で原子力に変わるエネルギー源がエーテルだった。

 サリファ以外の世界の国家では産出される事の無いエネルギー源だったが、エネルギー資源が枯渇する事も無ければ二酸化炭素などの温室効果ガスなども排出されない。

 正に夢のエネルギー資源だった。


 ただ、逆にエーテルが凄すぎて国内に入ってきたら間違いなく国内の原子力産業は確実に潰れる。

 2011年の東日本大震災による福島原発事故以降、原子力産業を無くそうとする勢力は存在するものの、その産業で食べている人がいる為、そう簡単に潰すわけにはいかなかった。


「政府としてはどう考えているんだ?」


 そう政府の関係者に質問したのは国内の原子力産業などにも手を出しているH社だった。

 発電プラントなど様々な事に手を伸ばしているH社にとってもそれなりの収益が見込める原子力産業は稼ぎ頭だった。

 国内では反発も多い原子力産業だが、温室効果ガスを出さずに大容量の発電能力を持つ原子力発電を歓迎する国は多い。


「現状の国民世論を考えましても原子力発電がこれから増える事は無いでしょう。政府としましても危険性が遥かに少ないエーテルに移行するのが得策かと思います。」


 言い方は穏便だがハッキリと原子力発電に未来は無いと言っている。

 一時期は56基あった原発も今稼働しているのは僅かに7基、更に30基弱の廃炉が既に決定しており、これ以上予算を投じるだけ無駄だと政府は判断したのだ。


「・・・そうか、政府が判断したのなら仕方あるまいな。」


 H社から派遣されてきた人はアッサリと引き下がった。

 別に原子力産業を国内でやらなくても海外で行えばいい。

 更に言えば、これからその56基の原子力発電所を廃炉するのに莫大な費用がかかる。

 更に言えば、別に原子力に拘らなくても良いのだ。

 原子力に変わる新たなエーテルと呼ばれるエネルギーで利益を得れば良く、そこら辺の損得勘定は流石民間と言えた。

 政府ならここまで潔くは無いだろう。


 原子力産業の国内最大手のH社が引き下がった為、他のM社や原子力産業で巨額損失を出したT社も何も発言する事なく引き下がった。

 ここで争うより、次のエーテル産業に食い込もうと考えたのだ。


 最も、原子力発電の次のステップである核融合の開発には原子力技術の発展が必要な為、一部の原子力発電所はそのままになるのだが、今よりも大幅に減らされる事になるのは間違い無いだろう。


「・・・では次にエーテル発電についてですが、このエーテル発電所は火力発電よりも危険性が高い為、人里離れた海岸線に建設するのが良いと思われます。現にスフィアナの州の一つであるアストレア州にありますアストレア第2エーテル発電所は周囲に人が住んでいない場所に設置されています。」

「ところで、そのアストレア第2エーテル発電所はどのくらいの発電能力があるのだ?」


 5ヶ月程前のエーテルについての説明以降、日本を含む新太平洋各国はスフィアナのエーテル発電所などの視察を行なっていた。

 スフィアナ国内にエーテル発電所は多数存在するが、偶々日本の視察団が案内されたのがスフィアナ最大の発電能力を誇るアストレア第2エーテル発電所だった。

 ちなみにスフィアナにはエーテル発電だけではなく水力発電所や火力発電所なども存在するが、エーテルに比べて目新しさに欠ける為、視察候補には選ばれていなかった。


「アストレア第2エーテル発電所は7年前に稼働し始めたスフィアナ最大の発電能力のある発電所です。12基のエーテル発電機が設置されており、その発電能力は約780万kWで、我が国で言う新潟県の柏崎刈羽原子力発電所の約820万kWに匹敵する発電所になります。」

「12基で780万kWだと!?原子力に匹敵する発電量じゃ無いか!」

「そりゃあ、原子力発電所要らないな・・・」


 基本的にあれだけ騒がれている原子力発電所の原子炉の発電能力は大きさにもよるが約50万〜120万kW程である。

 柏崎刈羽原子力発電所は110万kWの原子炉が5基、135万kWの原子炉

が2基設置されている。

 だが、アストレア第2エーテル発電所は12基で約780万kW、という事は1基で約65万kWもの発電能力がある事になる。


 火力発電の発電機が大きい物でも約40万kWなのを考えるとエーテル発電は十分に原子力発電の代わりとなれる程の発電能力のあるエネルギー源だった。


「火力発電と同等程度の危険性で温室効果ガスも出ないので有れば誘致する自治体もあるのでは?」

「未だに原子力発電所を誘致している自治体もあるからな。スフィアナとの位置関係を考えると太平洋側か?」

「四国か関西か、その辺りかな?」

「関西電力は原子力発電所の閉鎖で発電能力が落ちてるからな・・・ある意味で震災の影響をモロに受けている地域だよなぁ。」

「あぁ、大都市の大阪で計画停電なんてされたら経済的な被害が更に嵩む。ここは和歌山辺りに誘致して貰わなければ・・・」


 何気に大都市である大阪の犠牲にされようとなっている和歌山だったが、人口減少・過疎化が進む地方都市にとって発電所や自衛隊施設などの誘致は国からの交付金が貰える為、有り難かったりする。

 原子力発電所なら賛否で住民が二分される事態になるが、原子力のような危険性も無いエーテルなら火力や水力より反対が少ないと考えていた。


 ちなみに三重は電力供給網で言うと関西電力では無く中部電力になる為に最初から除外されている。

 別に送配電地域以外に発電所を設置するのは良くある話なのだが、三重に発電所を設置すると中部電力と配電比率などで揉めるので関西電力の支配下の和歌山に設置した方が後々揉めないで済むのだ。


 最も、その交付金で地元活性化に成功している自治体も存在する為何とも言えないが、提案したら間違いなく誘致合戦になって面倒な事になるのは目に見えていた。


 その誘致提案をするのはあんたら(企業側)ではなく私達(役人)なんだよなぁ、とワイワイ議論に花を咲かせている企業関係者を見る政府関係者達だった。




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