47.未確認衛星
新世界歴1年4月16日、アメリカ合衆国 バージニア州 国防総省 大会議室
地球各国が地球とは異なる世界に転移してから早4ヶ月半、ハリウッド映画などでよく見る円形の机のある大会議室。
本来なら機密などもある為、アメリカ軍内のみの会議で使用される物だが、今回は別の事に使用されていた。
各椅子の前には小さな国旗が置かれ、その出席者の所属国を表していた。
その国旗はアメリカだけでは無く、イギリスやカナダ、オーストラリアに日本などの同盟国から準同盟国であるインド、そしてアメリカにとって仮想敵国でもある中国とロシアの国旗まで置かれていた。
本来なら有り得ない事で有り、今回の会議が如何に重要で機密性の高いものが窺える。
出席者達は各国の宇宙軍や宇宙に関する部隊の長であり、日本の場合は航空幕僚長が出席していた。
最も、軍の人間だけでは無くNASAやJAXA、ロスコスモスなどの純粋な宇宙機関の人間も出席しており、今回の会議の議題が宇宙に関する事なのは嫌でも窺え知ることができた。
「では時間になったな、会議を始めよう。今回、我々の呼び掛けに応じてくれてありがたく思う。だが、各国とも周辺環境が思わしく無いので早急に話し合いたいと思い早急ではあるが今回、集まってもらった。」
アメリカ合衆国軍内の宇宙軍関連部署のトップが丁寧に話し始める。
イギリスや日本などの同盟国だけの会議なら、こんな言い方はしないのだが、インドはともかくロシアや中国とは取り繕っても仲が良いとは言い難い。
今回はアメリカが呼び掛けた為、下手に出たのだ。
あのアメリカが下手に出ている為、中国やロシアの出席者もこの会議のアメリカの思い入れが強い事を察する事は出来ただろう。
軍では無い宇宙機関の人間でも異常な事が解るくらいだ。
「我々がこの世界に転移されてから早4ヶ月半、これまでの調査によってこの世界は我々の世界を含む3つの世界が融合した世界だと考えられている。今後、我々みたいに転移してくる世界が無いとは言い切れないが、そう仮定すると切りが無いので、この結論でとりあえず話を進めさせてもらう。」
「ここで言う3つの世界とは我々地球の世界。新太平洋地域のスフィアナ、インド洋南東部のルクレール、太平洋西部のテルネシアなどが居たサリファと呼ばれる世界。そして日英などと戦争をしたミレスティナーレとニルヴァーナの世界になります。」
アメリカ軍担当者の説明を補完するようにNASAの職員が補足を述べる。
彼等が今言った事はこの会議に出席している全ての国が経緯は様々だが把握している事である。
「そして様々な聞き取りなどからこの惑星は3つ目のミレスティナーレとニルヴァーナの居た星という事も判明しています。彼等は我々の歴史で言うところの東西冷戦中だそうです。日英の調査によりますと技術レベルは1970年代程で第2世代型ミサイルなどを運用しているそうです。しかし発展レベルにはバラ付きが有り、宇宙空間に衛星を浮かべる技術などは一切保有していない事も判明しています。」
アメリカ軍担当者の説明に中国とロシア、特に中国の担当者が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
自分達が接触した国家は現代と比較しても遜色ない程の軍事技術を誇り核兵器を使ったが、偶然(少なくとも中国政府はそう考えている)地震が発生し、地上部隊と海上戦力が壊滅してしまった。
その為、中国にしてみれば自分達より劣った技術の国の権益を確保出来た日英が羨ましいのである。
「彼等は200年の間この星各地で大小様々な戦争を繰り返してきており、その為の戦費などに予算が取られ、宇宙開発に必要な予算が確保出来なかったと推測しています。」
ここで日本の航空幕僚長が発言する。
地球では東西冷戦時代の軍拡競争で宇宙開発技術は飛躍的に進歩したが、それは冷戦が熱戦になっていなかったから。
熱戦になり、各地で戦争が起きていればその為の戦費などで莫大な宇宙開発予算などは捻出出来なかったであろう。
「しかし、NASAを含め各国の機関は既に把握していると思うがこの惑星の軌道上には多数の衛星がある事が観測されている。」
そう、この世界には既にスプートニクの先客が居たのだ。
既に惑星の軌道上に128基の衛星が展開しており、その数はまるで地球のGPSシステムを彷彿とさせる。
「ミレスティナーレが行って無いのならもう1つの国、ニルヴァーナでは無いのか?」
ロシア航空宇宙軍の担当者がそう述べる。
ロスコスモスや中国の担当者も頷いている事から中露はそう推測しているようだ。
しかし、NASAの担当者はその考えを否定する。
「だが、我々の衛星をその衛星に接近させてみたが、一切反応は無く、光源も確認出来なかった。更に部品の一部が剥がれており、他の衛星全てが稼働を終えてると考えている。」
「128基全てが稼働せずに宇宙空間を漂っているのか!?」
ロスコスモスの担当者が声を荒げる。
それが本当なら128個プラスα分の宇宙ゴミが軌道上に漂っている事になり、今後の宇宙計画などにも非常によろしく無い。
最悪の場合には打ち上げたばかりの衛星が宇宙ゴミと衝突し、破損する恐れすらあった。
「幸いにも部品の離脱などは確認出来ていない。直接回収して調査をしてみない事にはハッキリしないが、宇宙空間の環境と衛星の状態を考えると、かなりの年月が経っていると推測される。」
「かなりの年月?具体的には?」
「100年単位では無い。千年単位だ。」
その言葉に出席者一同は驚きを隠せなかった。
「ミレスティナーレやニルヴァーナでは無い?」
「恐らく、それ以前の文明の可能性もある。」
現在のミレスティナーレやニルヴァーナが衛星を打ち上げる能力を持っておらず、衛星が数千年経っている可能性があるのなら、それ以前の文明。
つまり、古代文明が打ち上げた衛星の可能性も高かった。
「回収してみるか・・・」
ここで出席者の意見が表には出ないが真っ二つに割れた。
1つはその衛星を回収して調査する日本やアメリカなどの国家。
もう1つは、その衛星が邪魔なので衛星破壊ミサイルで破壊するか、大気圏に落として排除する中国やロシアなどの国家。
とりあえず、アメリカも伝える事は伝えた為、中国とロシア、インドの出席者が退室し、残った衛星回収派の国々での話し合いとなった。
新世界歴1年4月18日、スフィアナ連邦国 首都レスティナード郊外 防衛総省 会議室
「潜水艦の運用再開にようやく目処が立ちました。」
陸軍・空軍・海軍・戦略軍の担当者が出席する会議で海軍の担当者がそう発言した。
出席者は全員、ようやくかと安堵のため息を漏らした。
スフィアナは日本やイギリスと同じ四方を海に囲まれた海洋国家である。
そして他の海洋国家と同様に海上で侵攻してきた敵を迎撃し、本土を防衛すると言う防衛政策を取っている。
しかし、その為に必要な潜水艦の運用を海底地形が不明という理由で大幅に制限されていたのである。
転移によりこれまでに蓄積されたデータが全て意味をなさなくなったのである。
しかし転移から4ヶ月半が経ち日本と協力して海底地形の調査を行った結果、ようやく潜水艦運用の制限が解除される目処が立ったのだ。
その為、もし次に何処かの国が侵攻してきてもスフィアナは潜水艦で敵艦隊を攻撃する事が出来るようになったのだ。
「そうか、ようやくか!」
「それで?いつなのだ?」
「5月の半ばには解除されると・・・」
現在は4月半ば、それがあと1ヶ月程度で解除されるのだ。
別に今すぐにでも運用しようと思えば運用は可能だ。
しかし、その際に潜水艦の事故や座礁が起きれば野党やマスコミの批判の矛先は防衛総省に向く。
現場が行けると判断しても、その判断の責任を負うのは本省の職員なのだ。
これでもまだ、判断も責任も現場任せの日本に比べたらマシなのだろう。
「これまで転移してからろくに訓練すら出来ていなかったからな。乗員の練度の低下が心配させるな。」
「本格的な運用を行ってないだけで、ゼロでは無いんですけどね。」
幾ら海底地形が不鮮明だからと言って全ての潜水艦を港に繋留するという事はあり得ない。
万が一の為に潜水艦救難艦をスタンバイさせているが、1〜2隻の限定された運用は常に行っていた。
「未知の国がいきなり現れんとも限らんからな。」
「転移前の状態に改善されてない現状では勘弁して欲しいですね。」
転移前の彼等の前世界サリファでは地上何処にいても衛星と繋がり、軌道上には複数の有人宇宙ステーションが打ち上げられていた。
だが、この世界にはまだ二桁にも届かない衛星しか打ち上げられておらず、何処の国の物かも分からない稼働していないと思われる衛星が三桁台もあった。
衛星が満足に使用出来ないなら航空機や艦艇、誘導弾に至るまで満足に使用出来ない事を意味していた。
「衛星が満足に使えんのは痛いな・・・」
「GPSシステムすら無いからな。」
「SAAとの協議の結果、スカイネットシステムの構築は5月を予定しています。」
当然ながらサリファにもGPSシステムと呼ばれる全地域測位システムは存在していた。
地球ではアメリカ1ヵ国によって構築されたGPSシステムだが、サリファでは地球よりも大きい惑星だった為か、多数の国が参加する国際計画だった。
当然スフィアナもその計画には参加していたが、日本が『みちびき』、ヨーロッパが『ガレリオ』を導入したようにスフィアナも自国のシステムを導入した。
それが『スカイネット』システムと呼ばれる物だった。
「あと半月程か・・・」
「とりあえずあと半月程は海上哨戒や領空の警戒監視を強化するんだ。」
「了解しました!」




