45.アイスランドの国軍設置
新世界歴1年3月13日、アイスランド共和国 首都レイキャヴィーク
温泉でも非常に有名な国、アイスランドはイギリスのスコットランドから約860km程北西に行った位置にある。
面積は約10万㎢と日本の約4分の1弱で北海道より少し大きい程度である。
だが、人口は約36万人程と日本の島根県のちょうど半分ほどである。
非常に自然が豊かなイメージがあるアイスランドだが、その森林面積は国土の約0.3%で有り、殆どは燃料として伐採されている。
日本が約68.5%と考えるとその少なさが分かるだろう。
そんなアイスランドだが、世界的に見ても珍しい国の一つでもある。
その理由がアイスランドには国軍が無いからである。
勿論、日本のように「自衛隊は軍である」「自衛隊は軍では無い」と揉めている訳では無い。
ただ単に周辺国の脅威が無い為、軍を保有する必要が無かったのである。
あの東西冷戦時でさえ、アメリカ軍が駐留するのみで自国軍を保有していない国でもある。
東西冷戦後は国内からアメリカ軍も撤退したが、アメリカがアイスランドの国防を担っていた。
それを変えたのが異世界転移である。
これまでアメリカの影響下にあったアイスランドだが、アメリカとの距離が大幅に離れてしまった事により、アメリカはもうアイスランドの国防は行わないと宣言したのである。
そこでアイスランドが目を付けたのは近隣となった日本やイギリス、そして異世界の国家であるスフィアナが結成したNPTO、新太平洋条約機構である。
前世界でもNATOがアイスランドの安全保障を分担していた為、この世界でもその方向で行こうと考えたようだが、加盟申請をするとNPTOから拒否されたのだ。
理由は自国の防衛を出来ない国を入れる事は出来ない。
つまり、お荷物を抱える余裕は無いという事であった。
NPTOに加盟している日本やイギリス、台湾やオーストラリアなどの地球圏国家などはアイスランドの事情も理解しているが、異世界の国家であるスフィアナからしてみれば日本もアイスランドも変わらないのである。
スフィアナにとって、憲法で禁止されていても自衛隊という世界有数の能力のある実質的な軍隊を保有している日本国自衛隊もイギリス軍もオーストラリア軍も同じなのだ。
逆に、日本も保有しているのだからアイスランドも保有して下さいという話になる。
流石にそう言われれば、アイスランド政府も国民も国軍設立の話になるのは自然の事である。
流石にこの世界で非武装中立など宣言しても無意味なのはヨーロッパなど世界を見れば分かる事である。
ここで不思議なのはアイスランドはアフガニスタンに部隊を派遣した事が過去に何度も有り負傷者も出している。
もちろん軍隊では無く警察部隊なのだが、自国のレーダーサイトなどを運用するアイスランド防衛庁という国家機関もある為、軍隊の運用に問題は無いように思える。
そんな訳でアイスランド政府は国軍保有か否かの国民投票を2月24日に実施した。
その結果は賛成多数。
その為、アイスランド初の国軍が結成される事が決定したのだが、首相はその事で官邸で悩みに悩んでいた。
「兵力はどうするんだ?」
「装備を1から揃えるって予算が足りるのか?」
これまで軍隊があるならば、その拡大でやり易い。
だが、アイスランドにはこれまで軍隊が存在しなかった。
その為、基地から新兵を指導する教官、そして装備に至るまで殆ど無かったのである。
殆どというのは銃の扱い程度なら警察に人材はいるからだ。
「そもそも兵力はどうするんだ?国防費は?」
「兵力は数千として、国防費はGDP比2%だろ?」
アイスランドの人口は約40万人弱と非常に少ない。
40万人の中で数千人と言えば約100人に1人が兵士という計算になる。
「流石にそれは多すぎだろう」と結果的には陸・海・空三軍で2000名となった。
約200人に1人である。
更に国防費の問題もある。
いきなりかなりの額を計上しなければならない為、かなりキツイのだが、他国は支出している為、仕方がないだろう。
日本や他のいくつかの国を除いて軍事費は約GDPの約2%が適切な値だろう。
アイスランドのGDPは約350億ドルである。
日本円に直すと約3兆8500億円となる。
その2%となると約7.7億ドル、770億円となる。
770億円という予算は日本だと海上自衛隊の護衛艦1隻で消えてしまうお金になるが、数千t級の駆逐艦を保有する必要の無いアイスランドなら十分だろう。
逆に40万人の防衛に770億円と考えると、非常に潤沢した予算となるが、これはアイスランドの1人当たりのGDPが日本より多い為である。
「空軍は戦闘機は・・・無理だな。これまで通りレーダーサイトの運用で行こう。」
「そうですね。無理ですね。」
戦闘機の価格は1機だけでも100億円は必要となる。
全ての予算で770億円であって、空軍の予算はその3分の1以下なのだ。
更にアイスランドはこれまで軍隊こそ保有していないが国内に4ヶ所のレーダーサイトを保有している。
領空侵犯されて追い返せるか?と書かれれば無理だが、少なくとも相手国に対する牽制?にはなるだろう。
その為、空軍はこれまで通りにレーダーサイトの運用のみとなり航空機を保有しない事でとりあえずは決定した。
「主力は陸軍(仮)ですからね。流石にNPTOも我が国の軍事力に期待はして無いでしょう。」
そう言うのはアイスランド防衛庁の長官である。
アイスランド防衛庁はこれまでレーダーサイト運用を行なっていた外務省の外局であったのだが、国軍の編成と共に防衛庁は日本と同様に防衛省に格上げされる事が決まった。
「国民が40万人しか居ないからな。陸軍に関しても戦車や攻撃ヘリは要らないだろう。どちらかと言うとゲリラ戦部隊に特化した方が良いな。」
そう、何度も言うがアイスランドの人口は約40万人程しか居ないのである。
この数は日本の自衛隊とイギリス軍を足した数とほぼ同じである。
その為、仮に陸軍を設置してもその兵力は他国軍で言う連隊(1000〜2000名)規模でしか無い。
その為、仮に敵がアイスランドに上陸してきても正面戦力で撃ち破る兵力はアイスランドには無いのだ。
更に予算的にも1輌10億円程する戦車や50億円の攻撃ヘリを買う予算は無く、せいぜい汎用ヘリを数機導入する程度であろう。
そもそもGDP比2%の国防予算が国会で認可される保障は無く、もっと少ない恐れもある。
ただ、国民投票で国軍設置が賛成多数だった事から増えるではあろうが、その増え方が微増か激増かは分からない。
「海軍に関しては・・・まぁ沿岸警備程度かな?」
「海軍に関しても空軍に関してもイギリスに要請しましょう。安全保障環境では無視はしないでしょう。」
実はアイスランドはイギリスとそこまで関係は良く無い。
過去にはアイスランドの領海を巡って死者こそは出てないものタラ戦争と呼ばれる争いが起きている。
ただ、近年はアイスランドの防空をNATOが担っている関係からイギリス空軍の戦闘機が協定に従いアイスランド上空を警戒飛行する事もある為、少し前よりはマシになっているだろう。
「一応、日本にも頼ってみるか、周辺地域では2位の大国だしな。警戒監視も行ってくれている事だし。」
「日本ですか?まぁ、イギリスよりは頼りになるでしょうけど・・・」
一応日本も自国内ではこれまで共に軍隊を保有してこなかった国ではあるが、アイスランドと比べるには次元が違い過ぎるだろう、と長官は思った。
ただ、距離的には日本の北海道から2000km程度しか離れてない為、合同訓練や軍事支援などは期待出来るだろう。
現在もイギリス上空を飛行している航空自衛隊の早期警戒機のデータをアイスランドは受け取っている。
イギリス空軍がこれまでのNATOとの条約でアイスランドの防空を担っている為、イギリスの警戒監視を一時的に行なっている日本も間接的に関係があるのだ。
例えば日本の地対艦ミサイル部隊が1部隊でもアイスランドに配置されればアイスランドの防衛力は大幅に上がる。
何せ地対艦ミサイルを保有している国は少なく、イギリスは保有していないのだ。
「スフィアナはまだちょっと分からんからな。」
「軍事力は高そうですがねぇ。」
「とりあえずイギリスと日本の両国に頼んどいてよ。」と首相は軽く防衛長官に言った。
これまでのレーダーサイト管理とは比較にならない程仕事が増えた長官は内心涙を流しながら駐イギリス大使館と駐日本大使館へと向かっていった。




