44.支持率は大事
新世界歴1年3月12日、アメリカ合衆国 首都ワシントンD.C. ホワイトハウス
ウォールストリートジャーナルやワシントンポストなどの大手日刊紙などのニュースに目を通している大統領。
やっぱり、世界一の大国の大統領ともなると、自分に対する見方などは気になって仕方が無いようである。
「とりあえず、支持率は落ちてないか・・・」
「ちなみに、これは支持率をグラフ化したものです。」
そう言って大統領補佐官が差し出したタブレットには、明らかにここ数ヶ月でポキっと折れて減少傾向にあるグラフが映し出されていた。
新聞やニュースにはなってないようだが、国民は大統領に不満を持っているようであった。
「え?なんで下がってるの?」
転移前は好景気などもあって6、70%あった支持率は現在55%まで下がっていた。
逆に、ここまで景気悪化して国内が混乱している中で国民の半数以上が支持しているなら大したものだが、「アメリカを再び偉大な国に!」と叫んで当選したこの大統領にとっては不満なようだ。
「まぁ、1番は景気の悪化ですね。失業率がコロナ級ですし、ハワイ州などは観光客の激減により財政破綻寸前です。」
日・中の観光客が大勢押し寄せていたハワイやグアムなどは転移により観光客はバッタリと途絶えた。
更に、その後に起きた戦争によりグアムは火の海、ハワイも厳戒態勢と、観光地としては不適格だった。
特に、お客さんの消失は致命的だったらしく、ハワイ州は至急新たな財源を見つけ出す必要があった。
「連邦政府がどうにかする事じゃ無いだろ?」
「まぁ、そうですね。」
アメリカと言う国は小さな国の集まりで合衆国を形成している。
その為、連邦政府が州政府に介入する事は御法度であり、例え財政破綻したとしても連邦政府が公的資金を投入する事は出来ないのである。
他の州からして見ればギリシャが財政破綻してもハワイ州が財政破綻しても同じなのだ。
「そう言えば日本が新大陸を見つけたんだって?」
「アルテシア大陸ですね。異世界の国家、スフィアナ連邦国と仲良く半分こするそうですよ。流石に遠過ぎますので我が国がどうこう出来る場所じゃ無いですけどね。」
「大陸だなんて日本がどうこう出来るのか?」
「日本だけじゃ無いんで、なんとかするでしょう。」
国務長官や商務長官の言葉に大統領は「ふぅ〜ん。」とつまらなさそうに鼻で返事する。
正直言って、アメリカと余りにも離れ過ぎたのでどうしようもないというのがアメリカ政府の本音である。
どうにかしたいが、どうにも出来ない。
だから、諦めるしか無い。
「ところで、ユーラシア大陸の東側はどうなったの?」
「中国とロシア、そしてインドですね。こちらの方は中国が海軍の約3分の2。つまり北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊のうち2個艦隊を全滅させて、国内は大混乱中です。」
「ほぇ〜、そんなに大きい津波だったの?」
「2011年の東日本大震災の時の2倍から3倍の規模の津波ですね。ちなみに、中国はその失態の挽回の為か韓国に侵攻し、朝鮮半島両国を潰しました。」
「もっと早く潰してくれてたら良かったのに」とは国防長官の言葉である。
大統領も同意だったが、そうなれば日本や韓国に自国の兵器を売れなくなる為、適度に軍事力を煽ってくれるのが丁度良かったりする。
「そう言えばなんで日本へのイージスシステム売却を拒否したの?」
「遠過ぎますので移送出来ません。今回の戦争で8隻もイージス駆逐艦が撃沈されたので、その補充も必要ですので日本の為に割く余裕はありません。」
「結果、日本は自国のFCS-3を使う事になってしまったから、今後イージスシステムの輸出は期待出来ないなぁ。」
国防長官の発言に商務長官がそう言って国防長官は「うっ!」となる。
これまではロシアの飽和攻撃や中国や北朝鮮の弾道ミサイル防衛にイージスシステムは必要だったが、もう日本の近くに弾道ミサイルを持つ国は(イギリスを除いて)居ないのである。
もし、保有していてもそれは友好国、わざわざ高価なイージスシステムを導入するメリットは日本に無いのだ。
「まぁ、自国第一だから仕方がないよね。ところで欧州に送った部隊はどうなっている?」
「戦闘可能状態にあるのは10個歩兵旅団戦闘団と5個ストライカー旅団戦闘団、5個機甲旅団戦闘団の計20個旅団戦闘団です。残りの部隊は順次戦線に投入される見通しです。」
このうち5個ストライカー旅団戦闘団移送の為にアメリカ中の『C-5.ギャラクシー』輸送機や『C-17.グローブマスター』輸送機などが総動員されヨーロッパまで装備や人員などか輸送された。
他の旅団戦闘団の装備などは輸送艦などで輸送されたが、現在も他の部隊などを航空機や船舶など様々な手を使ってヨーロッパまで運んでいる。
「押し返している?それとも食い止めている?」
「微妙ですね。敵の飛行戦艦は2隻程落としましたが、押し返すなら更なる戦力の投入、もしくは核の使用が必要となります。」
「・・・核は駄目だな。」
流石のアメリカファースト大統領でもヨーロッパで核を使う気にはなれなかったようだ。
その一方でフランスが大西洋から航空支援に当たらせている空母【シャルル・ド・ゴール】に核爆弾を輸送したのだが、流石のフランスも他国で核は使わないだろう。
多分。
「敵の飛行戦艦はどのくらいの数が居るの?」
「確認出来ているだけで約30隻程です。」
「駄目じゃん。2隻だけじゃ、駄目じゃん。」
「攻撃力はそれなりに高いですが、防御力に難が有りますので落とすのはそれ程難しい事では無いかと。トマホークを十数発撃ち込めば落ちます。」
トマホーク巡航ミサイルは対艦型なら1発で艦艇を沈没させる事の出来る程の能力を持った大型ミサイルである。
それが十数発も撃ち込まないと沈まないのは相当防御力の高い船だと大統領は思った。
「予算が大変そうだ・・・」
財務長官の発言に大統領が同意した。
トマホークは1発1億円を超える高価なミサイルだ、そんなにバカスカ撃たれても困る。
今年もまた数兆ドル規模の国債の発行が必要だなと考え、憂鬱な気分となった。
新世界歴1年3月12日、日本国 首都東京 総理官邸
「支持率が安定してきたな。」
「60%台後半ですね。既に選挙期間に入っているので動きが顕著ですね。」
本来なら2月5日に行われる予定だった衆議院の半数の議員を入れ替える衆議院議員選挙が転移の影響で4月1日に延期された為、今が選挙期間中である。
更に、これまでは社会福祉・経済・安全保障・憲法改正などの様々な話題が立ち並んでいたが、ミレスティナーレとの戦争により安全保障と憲法改正の2つに話題が絞られた。
アメリカとの日米安全保障条約の、縮小や破棄などもその一因であった。
これまで日本の安全保障の大前提となってきた安保体制が崩壊したのだ。
これにより日本は2つの道が示された。
一つは憲法9条など平和国家の大原則に従い自衛隊を縮小・廃止し、非武装中立宣言を行う案。
もう一つは憲法9条を改正し、自衛隊を拡大発展し、自主国防を行う案となる。
各政党はその2つの案のうちどちらかを積極的に発信して、票を集めようと躍起になっていた。
与党である民自党は自主国防政策を行う予定で、3日前には新しい『令和12年中期防衛力整備計画』を発表、国民からの賛否が相次いだ。
その結果、多少の内閣支持率の上下はあったものの、支持率は60%台後半で落ち着いている。
「いやぁ〜それでも70%弱もあるんだよ?あの12中期防出した時点で支持率が半分になる事を覚悟していたよ。」
「想像以上に国民の右傾化が進んでいるという事ですかねぇ?」
「まぁ、そのせいで野党が必死になっているんですがね。」とは官房長官の発言である。
大きく右旋回している国民の世論を警戒して、少なくなった左派の支持を得ようと自衛隊廃止を掲げる政党も出てくる程、左派は少なくなった。
幾つかの左派の泡沫政党は無くなるのでは?というのは大手新聞社のコラムに掲載された言葉である。
「防衛予算10兆円とか大見得きった方が良かったかな?」
「それでも何割かの国民が賛成しそうなのが怖いですね。」
「GDPが700兆円を超えたら可能でしょうね。」
「予定通りなら40年代後半には700兆円に到達していたのに!」
そう叫んだのは経済産業大臣である。
低成長からAIやロボット産業の成長により安定成長に突入した日本だったが、この転移によりGDPのマイナス成長は確実だった。
その為、日本政府が掲げていた2040年にGDP700兆円という目標は泡となって消えていった。
このまま貿易などが再開されなければ2040年にGDP500兆円台も十分有り得る事だろう。
「中国やロシアという脅威は消えたが、経済という脅威が深刻だな。」
官房長官のその発言に総理を始め、財務大臣や経済産業大臣などが大きく溜息を吐いた。




