43.調査隊派遣
新世界歴1年3月10日、アルテシア大陸 日本及びスフィアナ共同管轄区域内 ラステーナ基地
結局、スフィアナに押し切られる形でこの大陸の名前はアルテシア大陸という名前に決まった。
日ス両軍の上陸地点には基地が設置されて、現在急ピッチで工事が進んでいる。
このアルテシア大陸は日本とスフィアナ両国間で二分割する予定だが、この基地は両国の共同基地として管理する事になった。
大陸を二分するという話だが、丁度この大陸を分ける事の出来る河川に国境線を引く事になった(川幅が数kmレベルの大河)。
その国境線で分けられると4:3で日本の方が少なくなってしまうのだが、元々スフィアナが最初に発見し、スフィアナの方が距離的に近い為、日本側が譲歩して決定した。
その代わり、河川に国境線を引く時に起きる揉め事の代名詞でもある中洲などは全て日本領になる事が決定された。
そもそもこのテルネシア大陸はオーストラリア大陸よりも広い大陸である。
そんなに開発出来るのか?という問題もある為、日本にとってもスフィアナにとってもどうでも良いのだろう。
ちなみに共同管轄基地はその分割協定に従えばスフィアナ側の方にある為、ラステーナ基地という名前が付けられている。
そんなラステーナ基地内にあるヘリポート。
そのヘリポートには、ある1機のヘリコプターとその前に数名の人達が集まっていた。
「ではこれより古代文明の遺跡調査へと向かう。」
日の丸のワッペンを付けた陸上自衛隊の迷彩服を着た男性がそう言った。
スフィアナ側の説明にもあった通り、このテルネシア大陸には古代文明が存在し、その遺跡が各地に点在する。
数週間前にドローンが、その遺跡とみられる構造物を見つけた為、調査へと向かうのである。
ちなみに彼等の前にある陸上迷彩のヘリコプターは『UH-2』多用途ヘリコプターでSUBARUとベル・ヘリコプターが共同開発した。
現在も年10機ペースで調達が続いており、『UH-1』を代替する予定である。
ちなみに『UH-2』の民間版である『412EPX』は市販されている(買うのは各国の官公庁や機関だろうが)。
説明を行う自衛官の前に居るのは文部科学省から派遣されてきた考古学やその他分野の研究者達4名、そして護衛の陸上自衛官3名である。
「更に今回はスフィアナ連邦国からも調査員が派遣される事となった。では、どうぞ。」
彼がそう言うと3名の男女が出て来た。
3名のうち2名は耳が少し長いエルフという種族だが、此処に居る人達はもう見慣れている為、今更驚く事は無い。
「スフィアナ科学技術省から派遣されましたマルコです。専門は自然・植物学です。」
「同じく科学技術省から派遣されましたリーデです。専門は考古学で主に古代文明を研究しています。」
「スフィアナ宮内省から派遣されました。リーティアです。専門は古代言語です。」
そう言って3名の男女は自己紹介をした。
古代文明に関しては日本側は全く知らない為、文科省からスフィアナ政府に要請したのである。
スフィアナ政府も調査派遣する予定だったので、ついでにとこの3人を派遣したのだ。
ここで日本側の1人が少し気になった事を質問した。
「リーティアさんは宮内省の人なんですか?」
「はい。私は知識の精霊ですので宮内省所属です。」
「せ、精霊ですか・・・」
「一応、古代文明言語は全て解読できるので派遣されました。」
「それは頼もしい。よろしくお願いします。」
そう言ってリーティアと名乗った精霊と日本の学者達は和気あいあいと話すが、実は彼女は精霊の中でも凄い精霊だった。
日本側は全く知らないが、知識の精霊は2.300年毎に転生を繰り返して知識を引き継ぐ、ある意味で伝説に近い存在である。
その為、精霊の中でも特に数の少ない精霊ではあるが、今回スフィアナ政府は派遣したのだ。
他のスフィアナの学者が聞けば発狂する程幸運な事だが、この場に派遣された2人の学者はそういう物に耐性のある人間だった為、その事を彼等が知る事は無い。
「ではこれより日程について説明する。これからこのヘリコプターに乗って遺跡まで向かう。その後ヘリは帰還し、明後日の12日に迎えに行く。」
「護衛が付くと聞きましたが、彼等ですか?」
「そうだ。彼等3名が今回の護衛に付いてもらう。」
そう言うと、護衛の陸上自衛官3名がそれぞれ挨拶をする。
彼等はそれぞれ様々な装備を持っており、他には『19式小銃』が握られている。
胸には様々な資格のワッペンが貼り付けられており、その中にはレンジャー資格もあった。
「では、出発しよう。」
そう言って計10名の日ス古代遺跡調査隊はそれぞれ荷物をヘリコプターに載せて行った。
この『UH-2』は13名まで乗る事が出来る為、パイロットなども含めて今回はギリギリである。
「出発!」
彼がそう言うとローターの回転が速くなり、ふわっと浮き上がり、地上から飛び立った。
飛び立ったヘリはそのまま、まだ開発の手が入っていない鬱蒼とした森林地帯へと向かって行った。
新世界歴1年3月10日、ミレスティナーレ帝国 帝都ミレス郊外 陸軍演習区域
帝都ミレス郊外にある陸軍の演習場。
何も無いだだっ広い荒野では2030年ではもう珍しくなった『チャレンジャー1』戦車が爆走していた。
現在、イギリス軍では第3.5世代型の『チャレンジャー2』戦車を運用しているが、この『チャレンジャー1』は第3世代である。
つまり、この『チャレンジャー1』戦車はイギリスからミレスティナーレに輸出された戦車である。
当初は第2世代の『チーフテン』戦車でも良いのでは?との声も出たが、流石に古過ぎて数も無いと『チャレンジャー1』戦車に決まった。
しかし、よく見ると『チャレンジャー1』戦車の主砲が少し小さい。
更に少し車体が小ぶりになっており、重量も62tから48tまで軽量化されている。
これまで90mmライフル砲を使用していた国に120mmライフル砲は論外という結論になり、主砲をそのまま105mmライフル砲に換装したのだ。
更にエンジンも当時と比べて高性能で軽量化したものを使用、結果的に車体も小ぶりにになり軽量化に成功したのである。
だが、それでも『10式』戦車の44tより重いのは流石と言う他ない。
「停車!」
車長の指示で疾走していた『チャレンジャー1』戦車が急停車する。
当時と比べてエンジンは高性能な物を積んでいるが、足回りはダウングレードされており、微妙に制動距離も延びている。
「目標、正面。装填、徹甲弾。」
「装填良し。」
「標準良し。射撃準備良し。」
「撃て!」
轟音と共に、『L7.105mmライフル砲』から徹甲弾が発射された。
『チャレンジャー1』戦車に搭載される事となったロイヤル・オードナンスL7はイギリスで設計された105mm戦車砲である。
第二次大戦後に開発された戦車砲ではあるが、現在もアメリカの『ストライカー』装甲車などに採用されている傑作砲である。
当のイギリスはミレスティナーレに徹甲弾を輸出してしまったのだが、ミレスティナーレが想定している相手に徹甲弾は過剰だったのでは?と気付くのは輸出し終えた後だった。
ただ、スフィアナがミレスティナーレで大規模なタングステン鉱山を確保したので供給源に問題は無く「まぁ、良いか。」となっている。
「命中!」
そんな訳で『チャレンジャー1』戦車から発射された徹甲弾はミレスティナーレ陸軍で使われていた廃戦車に見事命中し、貫通した。
目標との距離は約3000mである。
そのような距離から1発で命中弾を出す事など、これまでのミレスティナーレ帝国軍では出来なかった。
「あの距離から初弾から命中弾を出すとは・・・」
「威力もこれまでのと比べて段違いだ。」
「問題はこれまでの戦車と比べて重いという事か・・・」
これまでのミレスティナーレ帝国軍の戦車の重量は約35t程である。
だが、この『チャレンジャー1』戦車は原型と比べて軽量化されているとはいえ約48tもの重量がある。
更にミレスティナーレの建築技術やインフラは日本やイギリスなどのインフラ先進国と比べて未熟である。
そうなると、かなりの橋や道路が耐久力不足で通れないという事態が起こりかねなかった。
更に移動する場合はトランスポンターに搭載する為、全部で50tを超えてしまう。
ただ、それを上回る能力は持っている為、インフラを強化するしか方法は無いのだが。




