42.一難去ってまた一難
新世界歴1年3月6日、日本国 首都東京 総理官邸
「は?アルテミス人民共和国が侵攻してくる可能性があるだと?」
「はい。スフィアナ政府からの情報で・・・」
「アルテミスって確か今、中国と戦争中じゃ無かったか?」
防衛大臣の言葉に総理を含め各大臣から異論が出た。
事の発端は昨日、駐日スフィアナ大使を通じてアルテミス人民共和国で戦力の集中などの不審な動きがみられるとの通達してきた事である。
アルテミス人民共和国はオーストラリアの南西方面にある大陸全域を有する国家である。
オーストラリアよりはアルテミア大陸の西方に位置するユーラシア大陸の方が近いが、この世界の位置関係・距離関係を考えると、十分にオーストラリアも近いという構図になる。
「その中国が海軍戦力が壊滅した為、国内でも混乱しており、戦争どころでは無いみたいです。」
「アルテミスにも多少の被害はあったのでは無いのか?都市が丸々1つ無くなったと聞いているぞ?」
彼の言う通り、アルテミス人民共和国の北西部地域最大の都市アムルスが中国軍が放った核ミサイルにより破壊されている。
一般市民などが数十万人亡くなったのだが、中国にとっては他国民の事など、どうでも良いようだ。
そもそもアルテミス人民共和国という国自体、人権というものが殆ど存在しない国家の為、数十万人の国民が亡くなったくらい、どうでも良い事なのである。
「実はアルテミスのある大陸は彼等の前世界の地形で北部や西部は人が殆ど住んでおらず、近くの大陸もシベリアみたいな気候だった為、国の主要都市や人口密集地帯などは大陸の東部や南部に位置しているそうです。今回の戦争で中国に制海権を確保されたのも、海軍力が無かったのではなく・・・」
「そもそも基地を置いて無かったと言う事か。」
ロシアに例えると攻撃を受けたのは極東地域などのシベリアのみで、首都や主要都市があるモスクワ方面は無事だから問題無いという事である。
実際にウラジオストク並みのアムルスが廃墟となってしまったが、彼等にとってはまだ許容範囲だろう。
「つまり地理的に離れている中国などのユーラシア大陸では無く、我々の地域に攻めてくる可能性もあると?」
「そうなれば真っ先に狙われるのはオーストラリアですが、オーストラリアを失うと資源や食料の輸入が滞ります。」
「つまり国家存立危機事態で自衛隊派遣、という事か・・・」
「そうなります。」
集団的自衛権の行使容認で自衛隊は国土が直接的な脅威が無くても、間接的な脅威があれば防衛出動は可能となった。
左派政党や(自称)平和団体などが煩いだろうが、国民の大多数が容認すれば無視出来る規模だろう。
そもそも、実際に日本国民の胃袋を握っているのはオーストラリアの為、その救援で自衛隊の派遣が拒否されるという事は余程の事が無い限り、まず無いはずだ。
「ところで、そのアルテミス人民共和国の戦力、海上戦力はどの程度なんだ?」
「アルテミス人民共和国は我々が戦争をしたミレスティナーレとは違いスフィアナと同じ世界の国ですので、技術レベルは非常に高いです。正規空母を4隻保有しており、外征能力もあります。」
「4隻だと!?」
考えていたよりもアルテミスの海軍戦力が大きく、総理は思わず叫んでしまった。
だが、空母4隻の保有数とは前世界だとアメリカ(10隻)に次いで2位、全盛期の中国(現在2隻)に匹敵する数である。
空母自体の能力は不明だが、少なくとも第4世代型戦闘機を運用するだけの能力は持っているだろう。
「ただ、アルテミス本土からオーストラリアまではかなりの距離が有りますので、相手側は戦力の追加は望めません。普通にやれば補給線のあるこちらが側が勝利するでしょうが、死傷者の数は前回の戦いの比では無い事は明らかです。」
「もし、戦争になれば自衛隊以外にどれ程の戦力が期待出来るんだ?」
「海上戦力として期待して良いのはイギリスとスフィアナ、そしてオーストラリアの一部艦艇ですね。オーストラリアはイージス艦や軽空母を保有してますので。」
その後の防衛大臣の説明によると日本と同じく国民の胃袋を握られているイギリスは援軍を出すと推測。
スフィアナに関しても前世界での確執などがあり、戦後の新太平洋条約機構での立場、そして南方にある海外領土ムスピルヘイムの防衛などもあり、確実に軍を出すとの事だった。
台湾やニュージーランドも兵力を出す可能性はあるが、戦力としては余り期待出来ないだろう。
「最も、これらは可能性であり、アルテミスは我々が居る北では無く、南の方へ向かう可能性もあります。ですが、南にはスフィアナの世界で軍事ランキング第2位のルクレール王国という国が有り、4位のアルテミスがわざわざ向かうとは思えません。」
「間違いなくこちら側に来るな。ところで人工衛星の有無は?」
「ルクレール王国は打ち上げたという話を聞きましたが、アルテミスについてはまだのようです。どうやら打ち上げ施設が北西部にあり、今回の津波で甚大な被害を受けたかと。」
彼等はサリファの人間では無い為、軍事ランキングの2位や4位などは分からないが、地球に例えると、中国がロシアに攻めるか、韓国に攻めるか、くらいの違いはあるだろう。
つまり、もしアルテミスが何処かを攻めるならば北側の新太平洋に向かうという事であった。
「はぁ、なんでこの世界はこんなに物騒なんだ?」
総理のその発言が、この場に居る人全員の心境を表していた。
少なくとも前世界ではこんなにポンポン戦争は無かった筈だ。
少なくとも今起きている戦争のレベルは第二次大戦並みの戦争である。
ハルマゲンドンでは無い事が唯一の救いだが、その一歩手前までは何回も来ている。
総理達は更なる防衛費の支出に頭を悩ます事となった。
新世界歴1年3月6日、イギリス連合王国 首都ロンドン ビジネス・エネルギー・戦略産業省
ビジネス・エネルギー・戦略産業省という勉強中の学生を虐めているとしか思えない程の長い名前の省庁はイギリスの中央省庁の1つである。
所轄分野しているのは日本の行政機関だと経済産業省、文部科学省、環境省を合わせた広大な業務である。
この省庁は日本で言う文部科学省が管轄している研究開発なども行なっている行政機関でもある為、イギリスの研究開発を司る省庁でもある。
そんな省庁ではイギリス政府からの通達により緊急会議が開かれていた。
「先程、政府上層部から通達が来てな。我が国の研究開発費の対GDP比率を現在の1.7%から最終的に2.5%までに引き揚げるそうだ。」
大臣からの発言に研究開発担当の出席者達は絶句した。
イギリスの研究開発費は世界7位のGDP比1.7%の約560億ドル。
それをGDP比2.5%の約820億ドルにするというのだから驚きだ。
「ど、どういった経緯で?」
「まぁ、簡単に言うとNPTO内の立場だ。日本の研究開発のGDP比は知ってるな?」
「え、えぇ。約3.3%の1750億ドルです。」
日本は世界でも有数の科学技術国と言われている。
その所以は研究開発予算に投じる額である。
日本は世界で3番目に研究開発に投じる額が多い。
更にGDP比での研究開発予算は世界でも有数である。
あのアメリカでもGDP比2.7%しか研究開発に予算を投じてない事からその多さが分かるだろう。
「そうだ。まぁ、その日本も凄いんだが、新しく国交を結んだスフィアナという国における研究開発の実態がようやく見えてきた。GDP比4.8%の約2400億ドルだ。」
「2400億ドル!?」
「というより、GDP比4.8%ですか・・・」
地球国家で最もGDP比が多い国はイスラエルの4.2%である。
それよりも多く、更にスフィアナは日本並みの経済大国である。
その額は2400億ドル、日本円で約26兆円である。
簡単に言えばイギリスの約2.5倍、日本の約1.7倍となる。
「まぁ。つまり、そういう事だ。そこで政府は最終的に研究開発予算の対GDP比を約2.5%にする事を決めた。決め方が逆なんだが。まぁ、構わんだろう。日本もとりあえず3.3%を3.5%にするらしいから、とりあえず予算をGDP比2%を前提とした各請求書を宜しく頼むぞ。」
本来なら予算は額を初めに決めるのではなく、何々に幾ら必要だからこれだけ、という概算要求という決め方があるのだが、今回の決め方は明らかにおかしかった。
更に国防予算を増やして研究開発予算も増やして、果たして何を減らすのか?という疑問が残るものの、とりあえず出席者達はそれぞれ動き出した。
次年度の概算要求提出日までに残されている時間は少ないからだ。
つまり、徹夜決定である。
お疲れ様。




