39.歳入は減るのに歳出ばかり増えていく
新世界歴1年2月26日、日本国 首都東京 防衛省 防衛装備庁
市ヶ谷の防衛省庁舎内の防衛装備庁、その装備調達事業内本部の会議室で数名の人達が会議をしていた。
防衛装備庁調達事業部には大きく分けて3つの組織がある。
陸上自衛隊調達事業部・海上自衛隊調達事業部・航空自衛隊調達事業部の3つである。
今、この会議室に集まって居るのは3つの中でも海上自衛隊調達事業部とメーカーの人間であった。
元々彼等は【こんごう型】イージス護衛艦の後継艦の選定を進めていた。
しかし転移により対艦・対地・対空・対潜とマルチに戦闘出来る多用途艦艇へと変更されたのだ。
だが、現状の必要概要を纏めると、どう考えても基準排水量1万t超えの駆逐艦では無い巡洋艦と呼べるものになってしまった。
その為、本来の目的の【こんごう型】の後継艦という意識は薄れ、全く新しいDCGの選定となったのである。
「それで、アメリカ政府はなんと?」
「イージスシステムの提供は可能だが、安全が保障出来ないとの事でした。少なくとも4年はかかると・・・」
「やっぱり無理かぁ。」
DDGがDCGに拡大発展しても、元々がイージス護衛艦の為、新型艦にもイージスシステムを搭載する予定だった。
だが、周辺の安全保障環境の大幅過ぎる変わり様により、イージスシステムを無理に導入する必要は無いと既に上層部の方で決定されていた。
「では国産のFCSを搭載するという事でよろしいですか?」
「それ以外に方法が無いのだから仕方ないだろう。」
「それに、低空目標はイージスシステムは苦手だからな。」
意外に知られて無い事だが、イージスシステムは万能では無い。
確かに対空性能は飛び抜けて高いが、海面すれすれを飛行してくる航空目標に対処する性能は非常に低かった。
逆に国産のFCS-3システムはそんなイージスシステムを補完する為に開発された為、低空目標に対する性能は非常に高かった。
具体的に言うと、高い場所から飛来する弾道ミサイルに対処する能力はイージスシステム。
低い高度から飛来する巡航ミサイルに対処する能力はFCS-3と役割分担されている。
「新型艦は対地攻撃能力を盛り込むという話だったが、具体的な兵装は何にするんだ?」
「とりあえず、まや型と同様にタクティカル・トマホークを搭載する予定だ。新型艦はVLSも増強する予定だからな。」
基本、海上自衛隊の護衛艦は艦種によってVLSのセルは汎用護衛艦は32セル、ミサイル護衛艦は32セル+64セル(こんごう型は90セル)と決まっていた。
しかし新造する予定の護衛艦は基準排水量が1万tを超える大型艦である。
間違いなく護衛艦の主力兵装であるVLSの数は増えるだろう。
ちなみにタクティカル・トマホークとはアメリカが開発したトマホーク巡航ミサイルの最終発展形である。
トマホーク巡航ミサイルは様々な種類や形態などがあるが、日本が採用しているタクティカル・トマホークは水上艦艇から発射され、地上を攻撃する仕様の物である。
「それと、陸装から例の開発が実戦段階を迎えたとの報告が入っている。既に試射も終え、いつでも搭載出来るそうだ。」
「そうか、遂に完成したのか?」
「あぁ、だが電力供給の問題から通常の護衛艦に搭載するのは不可能だ。それなりの出力の発電装置が必要だがな。」
「まぁ、それは当然だな。完成したならそれで良い。レールガンの初の搭載艦艇か・・・」
レールガン、それはローレンツ力により物体を加速して撃ち出す装置である。
数十年前までは仮想の兵器であったのだが、2020年代になり、各国が試射までこぎつける段階に到達。
そして、2029年にはアメリカ海軍の【ズムウォルト級】ミサイル駆逐艦にレールガンを取り付ける改装工事が始まった。
中国海軍も開発しているそうだが、新大陸との戦争でどうなったかは不明である。
日本も当然、レールガンの開発を行っており、10年以上の歳月を掛けてようやく実戦配備が出来る段階まで到達したのである。
レールガンの問題は大きく分けて2つあり、1つはレールガンの加速に耐えうる素材、そしてもう1つはレールガンの発射に必要な膨大な電力の供給源だった。
アメリカのデータだが、レールガンを発射するのに必要な電力はイージス駆逐艦である【アーレイバーク級】駆逐艦の発電量の約4分の1も必要というデータもあった。
その為、小型の艦艇にはレールガンを搭載する事は不可能であり、発電能力の高い大型艦艇が不可欠だった。
「まぁ、上の方は中国の055型を意識してるだろうなぁ。」
「中国だけじゃなくてスフィアナのアスター級もだろう。」
「イギリスも今、巡洋艦の建造計画が持ち上がってるそうだから、上も気合い入ってるんだろう?」
そう言い合いながら、見ていた軍事関連の資料を机に放り投げた。
そこには中国海軍の【055型】駆逐艦とスフィアナ海軍の【アスター級】巡洋艦の写真が載っていた。
ちなみにこの前横須賀でマスコミにパシャパシャと写真を撮られていたのは【アスター級】巡洋艦2番艦の【レスター】である。
【055型】は駆逐艦ではあるものの、1万2000tもの排水量を持ち日本の護衛艦に搭載されているVLSのセル数を遥かに上回る128セルものVLSが搭載されていた。
一方、スフィアナ海軍の【アスター級】巡洋艦は155mmレールガンを搭載したスフィアナ海軍最新鋭の1万4000t級ミサイル巡洋艦で、非常に高い戦闘能力を持っていた。
イギリスでも大型艦艇の建造計画の話が持ち上がっており、NPTO軍の主力となる可能性を秘めていた。
というのも、この世界は地球より遥かに広い海の世界で、必然的に海軍能力の拡充が急務となっていたのだ。
新世界歴1年2月26日、イギリス連合王国 首都ロンドン ダウニング街10番地
「新型ミサイル巡洋艦の開発計画?」
「はい。我がイギリスはこの世界に転移して前世界より遥かに広い海に囲まれています。その為、イギリス国防計画では海軍能力の拡充が決定されました。」
イギリス首相の疑問を含めた返答に国防大臣はそう返す。
イギリス国防省が纏めたイギリス国防計画ではこれまで削減傾向にあったイギリス軍の増員が予定されていた。
国防費もGDP比2.2%から2.5%とする事が記載されており、そのリソースの殆どを海軍に投じる事なども国防計画には記載されていた。
「この案でも冷戦時のGDP比の4.4%と比較しても4分の3程度ですよ。現在世界中で戦争が勃発しています。ミレスティナーレのようにいつ他国が侵略してきてもおかしく有りません。」
「・・・日本は1.2%程度だぞ?日本を見習って欲しいね。」
「我が国の2倍弱の経済規模の国と一緒にしないでください。GDP比1.2%でも軍事費は600億ドル以上あるじゃ無いですか!補正予算入れたら650億ドルで我が国より多いんですからね?」
日本の防衛費は日本周辺の国際情勢の緊迫化もあり、年々増加傾向にあった。
他国よりは微増に留まっているが(世界3位の経済規模の微増という事は気にしてはいけない)、それでも着実に増えていた。
更に皆は勘違いをしていると思う。
例に2020年度の防衛費は約5兆3223億円である。
しかし、この額には諸外国では入れるべき予算は入ってない。
それは在日米軍の予算、いわゆる思いやり予算と言われる物と、補正予算である。
米軍費用は後の概算要求で約2000億円、補正予算は約4287億円、つまりそれを全て足した5兆9710億円が総額の防衛予算である。
2030年現在では補正予算を含めたら総額は7兆円を超えており、その額はGDP比2.2%を軍事費を投じているイギリスよりも多いのだ。
「我が国と同等にしたら1200億ドルか、恐ろしいな。」
「当の日本は1.2%から1.5%に増やす予定だそうですがね。新大陸の防衛も視野に入れているのかと・・・」
「我が国は?」
「少なくともこの新太平洋を防衛するには現在の艦艇数では数が圧倒的に足りませんので。」
少なくとも、この新太平洋は旧太平洋に比べて2倍程の広さがある広大な大洋である。
イギリス1ヵ国で防衛する事は無いにしても、多少は戦力を出さないと貿易交渉などで不利益を被る可能性があった。
約80隻程の艦艇を保有しているものの、日本の約120隻やスフィアナの160隻と比べると心許無い。
「はぁ、歳入が減るのに歳出ばかり増えていく・・・」
財務大臣がそう呟く。
今回の転移により歳入が増えた国は間違いなく無いだろう。
これまで黒字だった国家でさえ、大量の赤字国債を発行するのだ、元々赤字だった国が発行する国債はかなりの額になるだろう。
発行国債の95%が国内で消費されていた日本はともかく殆どが海外に買われていたイギリスなどは恐らく日本が買ってくれると思われる。
国力が強ければ強い程、必要な歳出は増えていく、それは仕方の無い事かもしれない。




