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38.12中期防の閣議決定

 


 新世界歴1年2月25日、日本国 首都東京 総理官邸


「総理、12中期防の詳細な決定が完成しました。」

「え、もう出来たの?前渡された奴は結構ガバガバと言うか曖昧だったけど・・・」


 防衛大臣の完成報告にそんな事を言う総理を目の前に防衛大臣は一瞬だけ殴り掛けた。

 そもそも数日で中期防衛力整備計画は作成するものでは無い。

 数ヶ月の期間で作成するものなのだが、転移による防衛環境の大幅過ぎる変化で見直しせざるを得なかったのだ。


 防衛大網は前回に渡しているのだが、12中期防は概要だけだった。

 そして、そんな事を言いながら総理は渡された書類をペラペラとめくり、「ふんふん、成る程」と言いながら新中期防を見ていく。


 総理に渡された12中期防衛力整備計画での装備調達計画は以下の通りである。



 12中期防衛力整備計画(2030年(令和12年)〜2035年(令和17年))の主な内容


【陸上自衛隊】

 ・機動戦闘車(16式)の整備(130輌)

 16式の能力向上型も含めての調達数。

 本州の戦車部隊を全て16式に代替し、戦車配備の北海道及び九州化を完了する。


 ・装輪装甲車(22式)の整備(155輌)

 96式装輪装甲車の代替えを進める。


 ・歩兵戦闘車(24式)の整備(55輌)

 89式装甲戦闘車を全輌退役させて、全てを24式歩兵戦闘車とする。


 ・新多用途ヘリコプター(UH-2)の整備(40機)

 UH-1多用途ヘリコプターの代替えを進める。


 ・新戦闘ヘリコプター(AH-64E)の整備(20機)

 新型戦闘ヘリコプターの開発及び配備と合わせて、全ての対戦車ヘリコプター隊のAH-1Sを代替えする。


 ・地対艦誘導弾(3個連隊)の整備

 88式地対艦誘導弾を全て退役させ、全地対艦ミサイル連隊を12式地対艦誘導弾とする。

 また、それと同時に地対艦ミサイル連隊を5個連隊から7個連隊へと増強させる。


 ・戦車(10式)の整備(40輌)

 10式戦車の配備を以て、74式戦車を全て退役させる。


 ・火砲(19式及びFH-70)の整備(70輌/門)


【海上自衛隊】

 ・汎用護衛艦(FFM及びDD)の整備(10隻)


 ・多目的大型護衛艦(DCG)の整備(2隻)

 【こんごう型】イージス護衛艦の一部(2隻)の後継として対艦・対地・対潜・対空に対応出来る大型護衛艦を建造する。


 ・航空機搭載護衛艦(DDA)の整備(2隻)

 3〜4万t級の艦艇で、戦闘機を含む艦載機を20〜30機程度運用でき、災害派遣にも使用可能な多機能性のある大型護衛艦を建造する。


 ・潜水艦(SS)の整備(5隻)


 ・外洋調査艦の整備(2隻)


 ・その他艦艇の整備(4隻)


 ・固定翼哨戒機(P-1)の整備(12機)

 P-3C対潜哨戒機を全て退役させて、全ての哨戒機部隊をP-1対潜哨戒機とする。


 ・哨戒ヘリコプター(SH-60L)の整備(18機)


 ・無人機攻撃機アヴェンジャーの整備(16機)


【航空宇宙自衛隊】

 ・新早期警戒管制機の整備(2機)

 国産のP-1を改良した早期警戒管制機を開発する。


 ・新早期警戒機(E-2D)の整備(6機)


 ・戦闘機(F-35A)の整備(16機)

 これにてF-35Aの全調達計画(105機)を終了する。


 ・戦闘機(F-35B)の整備(12機)

 当初の計画(42機)から12機を追加し、56機体制を目指す。

 またF-35Bの追加調達に関してはF-35Aの生産ラインを使用し、全機をライセンス生産とする。


 ・新型戦闘機(F-3)の整備(32機)


 ・輸送機(C-2)の整備(18機)

 1個輸送航空隊の増強によりC-2輸送機のライン閉鎖を延期して調達する。


 ・洋上監視型の新滑空型無人機(MQ-4C.トライトン)の整備(6機)


 以上、今12中期防衛力整備計画により5年で総額39兆円程度の予算が必要になると推測される。



「・・・・・」


 防衛大臣から渡された12中期防を見て総理は将来(予算委員会)を想像してこめかみを抑えた。

 正確にはこの計画通りの予算を国会で通す事に。


「この計画通りに予算案通す自信無いんだけど・・・」

「通して貰わなければ困ります。新大陸の領有権を主張するなら、その防衛にプラス更に人員と予算が必要なのですから。」


 そうなのである。

 新大陸を領有すれば更なる陸上戦力・海上戦力・航空戦力が必要である。

 スフィアナと今後も友好的な関係を続けるなら陸上戦力を抑える事は可能だが、0という訳にはいかない。

 そうなれば更なる装備と人員が必要となる。


「幸いにも世論は先の戦争もあって自衛隊の拡大には賛成的ですが、この整備で本当に39兆円も必要なのですか?」

「確かに、前の中期防よりは増えてるが、此処まででは無かった筈だ。」


 官房長官と総理が必要予算が高すぎると指摘する。

 確かに前の中期防よりは多少の装備は増えているが、それでも1〜2兆円野の増加で済む筈である。

 此処までの上がり方は装備購入以外にも何かあるのでは?2人はそう思ったのだ。


「その費用は自衛官の給与の増加、施設の整備や弾薬代などです。自衛官の定数を増やすのであれば給与の増加は必須です。自衛官になりたく無い理由の一つに給与の安さなどがありますので。」


 そう言われると2人は言い返せなかった。

 確かに徴兵制を採用している国や殆どの国と比較すれば自衛官の給与は多いだろう。

 だが、日本は世界第4位(インドに抜かれた)の経済大国である。

 その為、平均賃金も大多数の国々よりは多い。 

 しかし、他の企業と比べて自衛隊が魅力的か?と聞かれれば違うだろう。


 更に自衛隊は弾薬にかける予算が非常に少ない。

 一時期は自衛隊が使う実戦で使用する弾薬の3日分の備蓄しか無い時期もあった。

 予算が多少は増えた今はまだマシだが、それでも1週間分程度しか無いだろう。


「しかし、この予算を通せるのか?また野党が煩いぞ。」


 一応、防衛省から最終的に政府に上がってきた計画書(12中期防)の為、防衛省だけでは無く財務省や他の省庁なども巻き込み決定されている。

 つまり、防衛省が財務省に審査として出した計画書はもっと多かったという事である。

 少なくとも数割は財務省が削っているだろうから。

 だが、総理の問いに防衛大臣から更に恐ろしい返事が返ってきた。


「新大陸防衛を含めますと間違いなく40兆円を超えますよ。」


 そうである。

 この12中期防衛計画に新大陸防衛は入っていないのだ。

 総理は更に頭を抱えた。

 しかし、そんな総理などお構い無しに防衛大臣は説明を続ける。


「通るでしょう。それまでに幾分かは議席は変わってるでしょうから。」

「ん?どういう事だ?」

「成る程・・・衆議院選挙か。」


 本来なら2月5日に衆議院の半分の議員を入れ替える衆議院選挙がある予定だったのだが、転移による混乱で4月10日に持ち越していた。

 更に現在の世論は与党に傾いている。

 先の戦争で自衛隊強化を掲げる与党と自衛隊削減・廃止を掲げる野党のどちらに支持が集まったかは内閣府の世論調査でハッキリとした数字が出ていた。


 このままだといくつかの左派の泡沫政党が無くなるのでは?と言われている程の傾きだった。

 逆に極右政党が発足する可能性があるというニュースがある程、国民の意識は大きく右旋回をしていた。


「はい。次の衆議院選挙で与党と憲法改正派の野党合わせて3分の2の議席を取れば憲法改正の発議が出来ます。更に現在、景気は転移の影響で悪化しており、倒産する会社も少なくありません。つまり自衛官を確保するチャンスでもあります。」

「国民投票法の改正案も10年程前に通ってますし、可能性は有りますね。」


 防衛大臣の発言に総理はうんうんと頷き、官房長官がそれに拍車を掛ける。

 もちろんこの流れは総理や国民も予想しており、より一層野党の警戒感を強める一因ともなっていた。


 特に「中国が核を使用した。」「アメリカが戦争中。」「ヨーロッパが未知の国に侵攻されスペインとポルトガルが壊滅した。」というニュースが流れるたびに与党や内閣、右派政党の支持率が増え、左派野党の支持率が減っている。

 更に政府などの上層部はともかく、一般にはスフィアナも脅威だと思っているそうで、メディアでは連日のようにスフィアナ連邦国軍と自衛隊を比較して、もし戦争になればどちらが勝つか?などと放送して国民感情の右翼化に拍車をかけていた。


「国民感情が余り右にいかれても政府としては困るんですけどねぇ。」

「極端から極端に振れるのがこの国だからなぁ。」


 大日本帝国の右翼化から敗戦で極端に左に振れ、戦後の軍隊廃止憲法(憲法9条)が出来た。

 そして今度は右翼化と、極端に振れようとしている。

 政府としてはどちらか極端というのは非常に困るので中間辺りが丁度良いと思っている。

 国防組織が無いのは問題だが、国防組織が暴走(クーデター)したり国を滅ぼす原因となるのも困る。


「まぁ、最近は経済協定や領土協定の締結や新大陸における合同調査と分割協定などの報道で少しはマシになってるかな?」

「ある新聞社のスフィアナに関する世論調査も分からないが60%ですからね。」

「ごもっとも。」


 そもそもスフィアナ連邦国に関する情報が無いのに好きや嫌いを判断している 40%が不思議なのであって、分からないが当たり前なのである。

 総理はよくこの段階で世論調査しようと思ったな、とある意味、マスコミの世論操作を感じた。


「分かった。とりあえずこの案で閣議にかける。多分通るだろうから、細かい事は任せた。」


 この数日後、全閣僚が集まる閣僚会議にて、この12中期防衛力整備計画が閣議決定され、国民に公表される事になった。


 当然ながら与野党と賛成・反対に分かれて大論争を繰り広げる事になるのだが、最終的に決定されるのは4月の衆議院議員選挙まで待たないといけない。






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