37.新大陸の合同調査、3
新世界歴1年2月22日、スフィアナ連邦国 海外領土ニヴルヘイム 東方1000km 新大陸 ???湾内
1日半の航海の末に日ス合同調査艦隊は新大陸沖に到着した。
艦隊はちょうど湾のようになっている場所で停泊している。
目の前に見えるのは上陸に適した海岸と草原地帯、事前の空撮により決定された場所だった。
そして日本のヘリコプター搭載護衛艦【かが】とスフィアナの軽空母【マリエス】から調査用の汎用ヘリコプターや戦闘ヘリコプターが次々と離艦して行った。
この後、地上部隊を揚陸させて橋頭堡を構築するのだ、危険な動物が居ないか調査する必要があった。
「しかしこうして見るとウチの戦闘ヘリもスフィアナの戦闘ヘリも同じような見た目をしているな。」
そう言ったのは調査艦隊の護衛として随伴している【あさひ型】汎用護衛艦、2番艦の【しらぬい】の艦長である芹澤二等海佐だった。
実際に艦艇から発艦している陸上自衛隊の『AH-64E』戦闘ヘリコプターとスフィアナの『SA-12E』戦闘ヘリコプターは同じような見た目をしていた。
双方共に同じ陸上迷彩だが、迷彩の柄や色合いが少し違う為、見分けられる。
「中国のWZ-10やイタリアのA129、独仏のEC665も同じような見た目でしょう。戦闘ヘリはどれもこれも見た目に大差無いですからねぇ。」
「まぁ、そうなんだが。スフィアナって外征能力が高いな。」
「イギリスと同様に海外領土を持ってますからね。外征能力は高いみたいですね。」
他の国に聞けば「日本が軍事力の割に外征能力が低すぎるだけ!」と言われるだろう。
56隻の主力艦艇と22隻の潜水艦を保有していながら、空母や原潜を保有していない国は日本くらいである。
原潜や空母を両方共に保有しているイギリスやフランスも主要艦艇の数は日本の半分以下なのだ。
ちなみに、空母や揚陸艦をようやく保有した日本だが、原子力潜水艦は保有する気は様々な理由からないようだ。
「今のところは問題は無いな?」
「無いですね。草原地帯ですし、危険生物は確認されていません。」
【しらぬい】の艦艇前部に搭載されている『62口径5インチ単装砲』は陸地の方を向いていた。
もし、小銃や機関銃などで倒せない生物が居ればこの砲で射撃して倒すつもりだったのだが、現時点では杞憂だったようだ。
「艦長。安全が確認されたので揚陸が開始されるとの事です。」
「おぉ、いよいよか・・・」
今回の部隊の揚陸は揚陸艦による上陸艇を用いての揚陸とヘリコプターからの上陸の2通りを用いる予定だ。
その為、輸送艦【ぼうそう】だけでは無く、護衛艦【かが】にも上陸する陸上自衛隊隊員は搭乗しており、『MV-22』輸送ヘリコプターや『CH-47JA』輸送ヘリコプターなどで隊員を新大陸まで運んでいる。
上陸作戦開始の合図を受けて海上自衛隊輸送艦【ぼうそう】やスフィアナ連邦国海軍揚陸艦【レイフォース】の艦内ドックから揚陸艇やLCACなどが発進していく。
今回の上陸作戦は戦闘が目的では無い為、戦車などは持ってきておらず、最大地上戦力で歩兵戦闘車や機動戦闘車程度である。
「新大陸って言っても北海道と対して変わらんな。」
「北海道より遥かに南なんですけどねぇ。」
そう呟くのはLCACから上陸した陸上自衛隊水陸機動団の隊員である。
後ろでは2隻のLCACから『22式装輪装甲車』や『24式装甲戦闘車』などが揚陸されている。
他にも『MV-22』の空輸で軽装甲機動車などが揚陸される手筈だ。
「40mmテレスコープ弾なんて過剰戦力だろう。」
「後で16式も来ますんでそっちの方が過剰戦力だと思いますね。」
「16式MCVは装輪だろ?役に立つのか?」
「さぁ?」
『24式装甲戦闘車』に搭載されているのは40mmテレスコープ機関砲と言われる元々配備されていた『89式装甲戦闘車』の35mm機関砲より遥かに威力の高い兵装である。
これは『89式装甲戦闘車』のように79式対舟艇対戦車ミサイルなどのミサイルが搭載されない為である。
『89式装甲戦闘車』は無限機動式だったが、ファミリー化の観点から『24式』は装輪式に変更されている。
「まぁ、流石に戦争しに来たんじゃ無いから大丈夫だろう。」
「先住民とかいるかもな。」
「衛星や航空機で確認して居なかったんだろ?大丈夫だよ。」
「とりあえず言える事は・・・広いな、ここ。」
そう言って少し丘のようになっている場所に立つ。
艦隊がある湾が東にあるが、南側と北側は森となっており、西側も少なくとも十数キロは草原地帯というより、開けた場所となっている。
上空は日本やスフィアナのヘリコプターなどが飛んでいる。
「司令部、高台となっている丘を確保した。」
『こちら司令部、了解。その場で待機せよ。』
「了解。」
そう言って隊員の1人は無線を切る。
彼等の目的は少し高台となっているこの丘を確保し、部隊の安全性を確保する事だった。
「じゃあ、この場で待機か・・・」
「あぁ、そうだな。護衛頼んだぜ。」
そう言って隊員は他の隊員が持っているのと形の違う銃をその場に設置した。
『M24 SWS』は陸上自衛隊を始め世界中の警察や軍隊で使用されている狙撃銃である。
もう片方の隊員もため息を吐きながら、持っている『20式小銃』を構え直した。
『20式小銃』は『SCAR』と『HK416』を足して2で割ったような形をしており、『89式小銃』の後継として自衛隊が採用した新型小銃である。
豊和工業が開発した為、『HOWA5.56』とも呼ばれているが、正式名称は『20式小銃』である。
正確には『HOWA5.56』はプロトタイプ名である。
採用から11年が経つ現在では殆どの部隊に行き渡り、これまで重くて整備性の悪い『64式小銃』を使っていた後方や海自・空自部隊は主力部隊が使用していた『89式小銃』に切り替わっている。
「面倒な生物が出なければ良いが・・・」
「え?なんて。」
狙撃手の呟きは上空を飛んで行ったヘリコプターの風切音にかき消され、聞こえた人は誰もいなかった。。
「いや、なんでも無い。」
新世界歴1年2月23日、イギリス連合王国 首都ロンドン ダウニング街10番地
「そうか、ただの無人島か・・・」
「はい。こうなると日本の新大陸調査を断ったのは痛手でしたね。」
そう首相が答えたのは国防大臣からイギリスの西方にある諸島の調査結果を聞いた頃だった。
軍の哨戒機が前々から見つけていた諸島で、今回海軍の部隊を派遣したのである。
(人がいるかも?)と期待して向かったのだが、結果的にはフォークランド諸島並みの諸島を抱える羽目になっただけであった。
住民は居ない無人島で、とりあえずはイギリスが領有宣言をしたのだが、何をするにしても遠かった。
そうなると、数週間前の日本からの新大陸調査を断ったのが非常に悔やまれた。
だが、あの時は未だ国内が安定せずに調査に艦艇や人員を派遣する余裕が無かったのである。
「痛手どころの話では無いですよ!オーストラリア並みの自然豊か大陸は結局、日本とスフィアナで二分されるんですから!!調査隊の一部でも派遣しておいたら幾分かは割り当てられたのに・・・」
「今から文句言っても無理か?植民地支配の歴史を繰り返すな、と。」
首相の言葉に会議室内に居た全員が白い目で首相を見つめる。
間違いなく「お前らが言うな!」と言われるだろう。
散々植民地支配をしてきたイギリスが言っても説得力は皆無だった。
「ブーメランになるので辞めといた方がいいでしょう。一度は拒否しているんですから。」
「それに住民は居ないそうですから植民地では無いですしね。」
「だが、オーストラリア大陸並みの新大陸など日本の手に余るだろう?」
新大陸の面積はその周辺の島々も含めて約850万㎢はある広大な大陸だった。
日本とスフィアナで交わされた合同調査による協定で新大陸は2ヶ国間で分割する事が決められているのだが、丁度半分で割っても425万㎢と日本の面積の約11倍だった。
その為、首相の言う事も最もなのだが、面積が770万㎢あるオーストラリアは約2500万人の人口で国を維持しているので数の問題では無いだろう。
というより日本で無理なら日本より経済規模の小さいイギリスは余計に無理だろう。
そもそも日本政府もスフィアナ政府も大陸全土を開発なんて言う金も時間もかかりそうな事をする気は一切無かった。
場所を指定し、そこに資金と人員を投下する方式で開発しようと考えており、それだけでも経済に与える影響は大きいだろう。
そもそも新大陸はオーストラリアのような大半が砂漠や荒れ地のような土地では無く、森や草原地帯などがある自然豊かな大陸だ。
そのような土地を乱開発すれば間違い無く中国の二の舞になり、更に環境保護団体や環境省からも猛反発を食らうだろう。
「日本以上に我が国の手にも余りますよ。しかも付近に中国やアメリカのような国も無いので他の国からの干渉も無いでしょう。」
「国連を見てると分かる通り、自国の権益を侵されなければそれで良いのが今の各国のスタンスですから。」
「諦めてミレスティナーレに進出する方が利がありますよ。」
恐らく中国もアメリカも歯軋りしながら、泣く泣く日本の新大陸領有は認めるだろう。
両国が開発するには余りにも遠く、地政学的にも重要な場所では無いからだ。
逆に新大陸領有を認めるから自国の権益も認めろと交換条件を突きつけてくるだろう。
もう中国もアメリカも日本にとって取引するには遠すぎるのだから。
現に日本やイギリス・オーストラリアに居た中国人は軒並み中国本土へと引き揚げて行った。
日本などその典型的な国で国内の外国人の大半を占めていた中国人や朝鮮人などが我先にと船で国へと帰還した為、国内の外国人比率が異常な程低下した。
「・・・まぁ、まだ最低限のインフラがあるだけマシと考えるしか無いか・・・」
そう言って首相は新大陸の領有権主張は諦める事にした。
新しい領土を手に入れた日本、技術的に劣る国を経済的に支配する事にしたイギリス、どちらがこれから発展するのかは現時点では誰も予想出来なかった。




