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36.新大陸の合同調査、2

 


 新世界歴1年2月20日、スフィアナ連邦国 海外領土 ヴルヘイム 公都フィルノア フィルノア港第4埠頭


 スフィアナ連邦国の海外領土ニヴルヘイムの公都フィルノアの港湾施設に8隻の軍用艦艇が停泊していた。

 しかし良く見ると、8隻のうち4隻の艦艇は日本国海上自衛隊の旭日旗が掲揚されており、うち1隻は艦橋構造物が前部に寄せられており艦艇後部にはヘリコプター発着スポットが2つあった。


 この艦艇は日本国海上自衛隊の【ぼうそう型】輸送艦で、【おおすみ型】輸送艦の後継として建造された艦艇である。

 強襲揚陸艦とは違い、諸外国で言うとドック揚陸艦に分類される艦艇である。

 アメリカの【サン・アントニオ級】ドック型輸送揚陸艦をモデルに建造され、隣に見えるスフィアナ連邦国海軍の揚陸艦も同じような形をしている。


 艦艇が停泊しているのはスフィアナ連邦国本土から東に約3000km程行った場所にある海外領土ニヴルヘイムである。

 前世界(サリファ)では国と認識されていた為、ニヴルヘイム公国と言う国名も持っている。

 この場所はそのニヴルヘイム公国の公都(首都)フィルノアのフィルノア港である。


 理由はニヴルヘイムの北東1000km地点に発見されたオーストラリア大陸並みの新大の調査に向かう為である。

 日本・スフィアナ合同調査である為、日本は揚陸艦1隻、艦隊旗艦のヘリ空母1隻、護衛の艦艇2隻の4隻、スフィアナは揚陸艦2隻、駆逐艦2隻の4隻派遣している。


 そして、その艦艇が今、真水や燃料の補給を受けて埠頭から離岸する所であった。


「こう見ると異世界にいる感じが全く無いな。」


 離岸する他の艦艇を見ながらそう言ったのはこの【いずも型】ヘリコプター搭載護衛艦、2番艦【かが】の艦長である吉永一等海佐である。

 今回の派遣の目的は新大陸を調査し、橋頭堡を築く事だった。

 その為、【かが】に搭載されていた『F-35B』戦闘機は全て降ろされ、陸上自衛隊や海上自衛隊のヘリコプターが搭載されていた。


「まるで我々はコロンブスですね。」

「我々は新大陸を植民地にしに行くのでは無いぞ?まぁ、先住民が居ればそうなるかも知れんが、いない事を祈るしか無いか・・・」


 今回、向かう新大陸はサリファ(スフィアナの前世界)にあったのと同じ大陸なのが既に判明している。

 スフィアナ空軍が何回も新大陸の航空偵察を行なっており、文明や人の痕跡がない事を確認していた。

 ニヴルヘイムにはスフィアナ空軍の基地が有り、物資輸送の為に航空自衛隊の『C-2』輸送機部隊も敷地内に展開していた。


「アレがスフィアナの揚陸艦か?カヴールみたいだな。」

「正確にはヘリコプター揚陸艦ですね。性格上は揚陸艦というよりは軽空母ですね・・・」

「スキージャンプ台があるな?」

「見る限りはVTO機(垂直離着陸機)は搭載していませんね?」


 吉永一等海佐やその部下達が艦橋から見える、今まさに出航しようとしている艦艇を見てそう口々に言い合った。

 その艦艇はイタリアの軽空母【カヴール】のような艦影をしており、甲板には先が跳ね上がったジャンプ台が搭載されている。

 だが、乗員が言ったように軽空母にはVTOL機(垂直離着陸機)は搭載されてなかった。

 スフィアナも日本と同様に戦闘機を全て降ろして、ヘリコプターを載せたのだろう。


「まぁ、いずも型と似たような艦艇か・・・」

「流石に調査で正規空母は出せませんからねぇ。」

ウチ(日本)コレ(いずも型)なのにスフィアナが正規空母出してたらバランスが取れないからだろうな。」

「はぁ、防衛省もサッサと正規空母建造すれば良いのに・・・」

「ははは、もし建造しても航空機搭載護衛艦になるだろうな。」


 新訂される中期防衛力整備計画でその航空機搭載護衛艦が記載される事を知らない彼等はそのような話をしていた。

 現在、与党は国会で野党に空母保有を認めさせる事を進めており、同時に憲法9条の改正も進めていると言う非常に忙しい状況であった。


「まぁ、今の野党を見ている限り無理だろうな。」と吉永一等海佐がそう呟く。

 しかし、政権は次期中期防に正規空母2隻の建造を入れており、建造する気満々なのは彼等は未だ知らない。

 最も、中期防に正規空母建造を入れても、肝心の予算委員会で弾かれたら意味が無いのだが、今の与党は議席の過半数を占めているので何とかなるだろう。


 この1時間半後、全艦艇がフィルノア港を出港し、新大陸へと向かって行った。





 新世界歴1年2月21日、アメリカ合衆国 首都ワシントンD.C. ホワイトハウス


「それは本当か?」


 アメリカ合衆国のホワイトハウスで家主(大統領)国務長官(外務大臣)からの報告に、思わず聞き返した。


「はい。相手国、テルネシア連邦国と分かりましたが。そのテルネシア連邦から講和交渉が来ました。」

「そうか・・・それで、内容は?」

「戦争の即時停戦と戦前状態での領土相互確認。そして平和条約です。」


 数週間前まではテルネシア軍の攻撃にグアムとアラスカの空軍基地を攻撃され、マリアナ諸島を失陥するという太平洋戦争初期のような状態だった。

 アンダーソン空軍基地、エルメンドルフ空軍基地の太平洋の二大空軍基地を壊滅させられていた。

 しかし1週間前の2月4日、アメリカ軍はアラスカ内陸のエアールソン空軍基地から6機の『B-2.スピリット』爆撃機を3個編隊に分け出撃させた。


 同じ重さの金と同等の価格と言われる『B-2』爆撃機はそのステルス性を存分に発揮し、テルネシアの防空網を難無く突破し、前線の空軍基地3ヶ所に『AGM-158 JASSM-ER空対地巡航』ミサイルを発射したのである。


 領空内の突如の攻撃により、テルネシア軍はミサイルを撃墜する事は出来ずに着弾し、3ヶ所の基地に大打撃を与えた。

 しかし、他の無事な基地から上がってきた戦闘機に2機の『B-2爆撃機』を撃墜されたのだが、作戦は成功だった。


「戦術的には引き分けですが、戦略的には敗北ですよ。」

「駆逐艦8隻に戦闘機56機。爆撃機34機に2つの基地が壊滅状態だ。」


 アメリカもテルネシアも戦争を辞めるなんて事は自国のプライド的に許せなかった。

 だが、双方共に戦争を続ける事の出来ない理由があった。

 テルネシア側は国内の問題。

 単純に転移により国内が混乱しており、経済もガタガタであった。

 そんな時に戦争を行なって莫大な軍事費を出費する事は避けたかった。


 もう一方のアメリカだったが、こちらにも戦争を続ける事の出来ない理由があった。


「ヨーロッパの前線が危険?」

「はい。更にNATOの加盟国としても戦力を派遣しないという判断は有り得ないかと。」


 そう、アメリカはNATOの宗主国でもある。

 ヨーロッパのイベリア戦争では敵のレムリア帝国軍の侵攻により、スペインとポルトガルが崩壊していた。

 一時は押し戻したが、敵軍の戦力追加投入により、前線はどんどんとフランスとスペインの国境に近づいていた。

 そして、その事はアメリカ国民も良くは思っておらず、それは数字に出ていた。


「報復攻撃の中止に64%、ヨーロッパ救援の戦力派遣に77%か・・・」

「はい。それに反比例して支持率は毎回、微減ですが下がっています。」

「経済界からもヨーロッパという市場を失うのは問題だとの声が。」


 つまり、今停戦して講和条約を結んでも、ヨーロッパ救援という名目があるのである。


 ヨーロッパ救援の為に仕方がなく講和条約を結ぶと言えば大統領や軍の失態にはならずにヨーロッパ諸国からの好感度も上がる。

 更に今回の報復攻撃(侵略戦争だが)で被害を被ったのは海軍や空軍で、陸軍や海兵隊は戦力的には全くの無傷である。

 そして空母や戦闘機の大多数は健在で、ヨーロッパ救援には問題なく戦力を抽出する事は出来た。


「はぁ、分かった。ヨーロッパ救援に変わっても当初の目的は達成出来るからな。講和を結ぼう。」

「はい。」


 当初の目的、つまり戦争による特需を景気悪化に対するカンフル剤とするという何ともアメリカらしいアレな考えである。

 その被害を被ったテルネシア連邦国としては胸糞悪い話だが、戦争という物はいつの時代もこういうものと割り切るしかない。


「国防長官。ヨーロッパ救援に向かえる戦力の抽出を。財務長官。予算を組んでくれ。」

「了解しました。」

「朝鮮戦争・ベトナム戦争に次いで2回目だな。負けるのは・・・」


 朝鮮戦争については引き分けという異論は有るものの、ベトナム戦争については完全にアメリカの敗北である。

 最も、今回の戦争もアメリカ政府によって多少の脚色をされ、そこまで敗北感がない敗北となるのだが、政府関係者にとっては敗北と大きく変わらない。


 後に新東西冷戦と言われるアメリカ合衆国とテルネシア連邦国の緊張関係が始まったのはこの時からだった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「戦略的には引き分けですが、戦略的には敗北ですよ。」 →前者は戦術なのかな?
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