35.新大陸の合同調査、1
新世界歴1年2月18日、日本国 首都東京 総理官邸 応接室
「あの大陸は我々の世界には無い大陸です。」
総理官邸内の応接室でスフィアナ連邦国外務大臣はそう言った。
室内には日本側で総理大臣や防衛大臣、国土交通大臣や外務大臣。
スフィアナ側で首相や外務大臣、運輸・交通大臣などが出席していた。
「つまり、元々この世界に存在していた大陸だと?」
「我々の世界にもあなた方の世界にも無いのならそうだと思いますが。」
今回の会談はスフィアナ側から呼び掛け、それに日本が答えて行われたものだ。
理由はスフィアナの情報収集衛星がスフィアナの北東に捉えた大陸である。
オーストラリア大陸より少し大きい程の大陸で、オーストラリア大陸とは違い陸地は森や草原地帯で自然豊かだった。
「なら何処の領土でも無い新大陸ですね。」
スフィアナはその大陸を領土に組み込もうと日本を巻き込んだのだ。
位置的にスフィアナを挟んで東側にあり、更にそれなりに大きい大陸なので、1ヶ国開発は不可能だと考えたからである。
一応、イギリスやオーストラリアも誘ったのだが、イギリスはミレスティナーレ進出で忙しいと、オーストラリアも国内対応で忙しいと、断られたのである。
「では、我々が調査隊を出して領土に組み込んでも何処も文句を言ってくる国は無いと?」
「えぇ、衛星で確認する限り自然は豊かですけどインフラも何も無いですから。ここまで豊かならメリットは多そうですけど。」
「まぁ、資源はあるでしょうね。」とスフィアナはその大陸に莫大な資源が眠ってる事を示唆する。
一方の日本側は遠くてもとりあえず領有しておくもんじゃ無いのかなぁ?とスフィアナの説明に半信半疑である。
ロシアのシベリアやデンマークのグリーンランドのように開発出来る云々は置いておいて地球世界なら間違いなく自国の領土に取り込んでいる。
ちなみに、後に聞いた話だと、その大陸から1番近い国家まで直線距離で約1万km以上あったと言われ、日本の閣僚は「地球って狭いのかなぁ?」と呟いたそうだ。
「では、両国で共同の調査隊を派遣するという事で宜しいですね?」
「えぇ、よろしくお願いします。」
そう言ってお互いに握手をした。
スフィアナ連邦国本土から東に3000km程行った場所にスフィアナの海外領土であるニヴルヘイムがある。
ニヴルヘイムには大型機も運用出来る軍民共用の大型空港が整備されており、1万t級の艦艇が入港出来る港湾施設まで備わっている。
その為、調査隊はこのニヴルヘイムを拠点にする事が今回の会談で決められた。
「前世界ならこんな事無かっただろうなぁ。」とは日本国総理大臣の発言である。
確かに、前世界ではそもそも新大陸が発見される事などあり得なかったのだが、転移して良かったかと言われると、まだ分からない。
新世界歴1年2月18日、ユーラシア大陸 スペイン南部 ジブラルタル上空 レムリア帝国空軍飛行戦艦【アトラスター】
運悪く別大陸と繋がってしまった都市の一つであるジブラルタル。
美しく観光客が多く訪れていた街並みはレムリア帝国軍のミサイル攻撃により瓦礫の山となっていた。
とは言え、そのような都市の上空には見慣れぬ1隻の船が停泊していた。
海では無い、空にである。
300mを超える大型飛行船に無理矢理、砲塔やミサイル発射機を取り付けたような外観をしており、機体には無数のレーダー装置や通信装置のアンテナなどがたっている。
「経った2ヶ月少しで前線部隊は壊滅ですか。その部隊の指揮官は収容所送りですね。」
各所から送られてきた情報を見て胸に星が一杯付いている制服を着ている比較的若い男性はそう呟いた。
「戻って来たら、少しは立派な指揮官になってるでしょう。」
「戻ってきた人を見た事ありませんなぁ。」
「そういう所ですから。」
フフフと気味の悪い笑みを浮かべる。
周りの乗員はその姿を見てドン引きしているが、下手に触れない方が身のためで、誰も何も言わない。
ちなみに収容所とはレムリア帝国で法律に違反した人が入れられる場所で、日本で言う刑務所のようなものである。
最も、一般向けには再教育キャンプ場という名前があるものの、過去に戻ってこれた人は1人もいない。
彼等が今いる場所は飛行戦艦の最重要区画であり、地球の艦艇で言うCICである。
部屋は少し薄暗く、外の映像を映すモニターのみが光っている。
「占領他で手に入れた捕虜はどうしていますか?」
「本国に送って強制労働をしているな。使えない女子供や老人はその場で処分しているが。まぁ、少し時間はかかりますな。」
スペイン南部とポルトガルで約5000万人の人がいる筈なのだが、彼等はそれを処分と涼しい顔でそう報告する。
彼等にとっては新しい労働力が手に入ったような物で、彼等に人間としての価値などは一切存在しない。
「まぁ、仕方が無いでしょう。それで?敵戦闘機に我が軍の戦闘機が押されているとは本当ですか?」
「忌々しい事に彼等の戦闘機の中にテルネシアやルクレールの戦闘機のようにステルス性能がある戦闘機が紛れてるみたいだ。」
「第5世代戦闘機ですか・・・我が軍の戦闘機は一部第3世代が混じってますからね。早く更新してもらいたいものです。」
軍事技術で他国に劣っているレムリア帝国軍が世界ランクで上位の理由はその物量にあった。
敵兵が1万なら2万、敵戦闘機が100なら200と、敵を圧倒する物量差で大陸を統一していった。
過去に数十の国があった大陸はレムリア帝国に全て攻め滅ぼされ、大陸名もレムリア大陸と変えられた。
そんな訳で侵略された国の国民は地獄だが、レムリア帝国の本国民はそこそこ裕福な暮らしをしている。
レムリア帝国内で本国民を一等民とし、それ以外を二等・三等と順列を付けているのである。
その為、他民族よりもレムリア人は偉いという思想がレムリア帝国内で蔓延しており、それがレムリア至上主義に繋がっている。
「我が軍の戦闘機は4000機程あるんですよ?一気に更新なんて無理ですよ。前線部隊に第4世代があるだけまだマシでしょう。1対1では無理でも5対1にすれば良いんですよ。」
「どうやら敵は洋上にも飛行基地を持っているようですし、直ぐに我が軍が潰しますよ。」
「なら良いのだが・・・」
レムリア帝国軍は数的優位による中国もびっくりの人海戦術を取っているだけあって、その兵力は多い。
空軍の稼働戦闘機は優に4000機を超え、あのアメリカの3000機を軽く上回っている。
総兵力も350万と180万の中国、210万のインド、130万のアメリカもビックリの兵力であり、既に30万と陸上自衛隊の総兵力の約2倍の兵力をイベリア半島に派遣していた。
「侵攻再開時の兵力投入は予定通りですか?」
「はい。空軍は飛行戦艦を含む6個航空艦隊を投入。陸軍は20個師団を投入し、少し遅れて5個師団を投入致します。」
既にイベリア半島には20個師団の約30万人が投入されている。
その投入部隊はNATO軍の反撃を受けて10個師団分の兵力が敗走・戦死・行方不明になり、残りは10個師団程に減っていた。
現在の戦力でもNATOはひぃひぃ言っているのだが、このままだとフランスが核を使いかねない勢いである。
アメリカが参戦してくれれば少しは楽になるのだが、アメリカは別の国に喧嘩を売って戦争中であり、頼りにならない。
必要な無い陸軍部隊を少しでも送ってくれれば話は変わるのだが、最悪の事態を想定し、一切戦力は送ってくれない。
「ふむ。まぁ、その戦力で少なくとも間近の半島くらいは占領して欲しいものですね。」
間近の半島、つまりイベリア半島の事である。
自分達の国の事なのに何処か他人事なのはこの国で人間の価値は無いものと一緒だからである。
例え兵力を100万潰してもまだ250万残っているという何処かの国の国家主席のような事を言ってるが、行かされる兵士にしてみればたまったものではない。
と言っても、行かないと収容所送りの為、結局は行く羽目になるのである。




