34.太平洋戦争の悪夢
新世界歴1年2月15日、アメリカ合衆国 ハワイ州 近海
現在、アメリカは太平洋戦争初期並みの国難に陥っていた。
理由は敵の技術レベルを侮った事。
自分達よりも劣っていると考え、適当に事件をでっち上げ、戦争を仕掛けた。
情報が少ないなら待てば良かったのだ。
だが、転移によりアメリカ国内は経済的に非常にピンチだった。
その為、政府としては何処かに戦争を仕掛けて、アメリカ経済のカンフル剤にしたかった。
結果、敵は技術レベルが劣った国では無かった。
アメリカよりも進んだ国では無かったのは幸いだが、自分達と同レベルだった。
その結果、前線基地のグアム島アンダーセン空軍基地は壊滅し、マリアナ諸島は敵に奪われた。
その為、今や最前線基地はホノルルのダニエル・K・イノウエ国際空港に隣接しているヒッカム空軍基地である。
「しかし最近、全然敵が来ないな。」
『マリアナ諸島を奪われるって第二次太平洋戦争だな。ハハハッ!』
「敵は日本じゃ無くて異世界国家ってか?キツイぜ!」
ホノルル周辺を第7艦隊空母【ジェラルド・R・フォード】の艦載機である『F-35C』は機体に偵察ポットを取り付けて飛行していた。
空母2隻に『F/A-18』戦闘機や『F-35C』戦闘機、地上に『F-15EX』戦闘機や『F-16C/D』戦闘機、『F-22』戦闘機などの戦闘機が集まり、厳戒態勢が敷かれていた。
既にアメリカはマリアナ諸島を失っており、ハワイ諸島まで奪われたら、アメリカが終わるとアメリカ軍は全戦力でハワイ諸島を防衛していた。
『日本よりヤバイだろ?ラプターみたいな敵戦闘機があったんだろ?』
「空母、沈まないだろうな?」
『空母が沈む前に俺達が落ちるだろ?』
「・・・冗談キツイぜ。」
しょうもない会話を軍事無線でしながら、いつもよりも緊張感のあるハワイ上空を飛行する。
かなり、後ろ向きな会話をしているが、彼等も含めて殆どの人がアメリカ軍が負けるとは全く思ってなかった。
また、太平洋戦争の時のように大攻勢をかけるだろう。
誰もがそう思っていた。
『・・・』
「・・・どうした?」
返事の無い友軍機を不自然に思ったパイロットが声を掛ける。
それを合図かのように声をかけられたパイロットはボソリと呟いた。
『友軍基地が攻撃を受けたみたいだ・・・』
「はぁ!?友軍基地?何処だよ?」
『知らん!何処かだ!!』
「・・・マジかよ。」
心の奥底にあった不安が込み上げてくるような感情を、この時パイロットは抱いた。
新世界歴1年2月15日 アメリカ合衆国 コロラド州 シャイアン・マウンテン空軍基地 地下司令部
「何処の基地が攻撃されたのだ!?」
核兵器が爆発しても大丈夫なように設計されているシャイアン・マウンテン空軍基地地下司令部で職員が慌しく動く中、国防長官は大声でそう叫んだ。
そこに丁度、被害報告を纏めた職員が彼に報告しに来た。
「アラスカ州のエルメンドルフ空軍基地が敵のミサイル攻撃を受けました。滑走路やハンガーは全て破壊され、基地機能は喪失しました!」
「な、なに!?喪失!?」
「はい。数十発規模のミサイル攻撃が行われた模様です。」
エルメンドルフ空軍基地はアラスカの防空を担っている重要基地である。
元々のキャパが大きい巨大空軍基地であったが、今回は特に機体が配備されていた。
今回の戦争では後方基地として輸送機や爆撃機などが配備されていたが、今回の攻撃で基地もろとも全て破壊された。
「ハワイは無事か!?」
「はい。ハワイは無事です。海軍の第3、第5、第7艦隊を派遣してますので。」
他にも空軍の『F-22』戦闘機や『PAC-3』迎撃ミサイルなどがハワイ州各地に展開し、ある意味でアメリカ本土より警戒が厳しい場所となっていた。
「とんでも無い相手に攻撃を仕掛けたもんだ全く。」
「しかし、戦争特需でアメリカの経済は上向いているようですね。」
「それだけだよ。一体どうやって戦争を終わらせるんだ?」
「太平洋戦争の悪夢だよ・・・」
国防長官の問いに答える者が現れる筈もなく、ただ単に時間だけが過ぎていった。
新世界歴1年2月15日、ユーラシア大陸 スペイン NATO軍前線ライン
突如とした開戦から2ヶ月。
当初は不意打ちで一時期、スペインとフランス国境地点まで押された欧州軍だったが、北米大陸の発見により、正式にNATO軍として反撃が出来るようになった。
だが、アメリカは新大陸との戦争にかかりっきりで、戦力が増えたかというとそうでは無い。
逆にイギリスがNATOから脱退し戦力は減っている。
それでもなお、反撃してスペインを奪還出来たのは数ヵ国の先進国の軍隊が全力を出したからであろう。
ドイツやポーランドに関してはロシアの事そっちのけで部隊をスペインに派遣している。
その当のロシアも東側の新大陸攻略に失敗して現在、海を挟んで睨み合っている状態だが、モスクワ方面に部隊を移動させて無いなら問題無かった。
「しっかし酷い状態だな。」
「そうですねぇ。スペイン、ポルトガルは完全に国としてはアウトですね。」
「ジブラルタルは奪還したようですが、このまま新大陸に逆侵攻なんてあるんでしょうかねぇ。」
「さぁな・・・」
はるばるドイツから派遣されてきたドイツ連邦陸軍機甲師団の『レオパルド2』戦車と『プーマ』歩兵戦闘車の車長同士はミサイルにより破壊されたスペイン南部の街セビーリャを走行していた。
赤い屋根が特徴だったこの街は今や見る影もなく、黒い焼け焦げた屋根だった物が視界に入ってくる。
「アメリカさんも新大陸との戦争に熱中しているし、どうなるやら・・・」
「負けてるらしぃっすよ。アメリカさん。」
「へぇ〜、あのアメリカが負けてる相手ってどんな相手だ?」
「なんか知りませんけど、グアムが敵の手に落ちたそうで。」
ヨーロッパに住んでいる彼等からしてみれば地球の反対側であるグアムの事など殆ど知らない。
戦車長も頭の中の地図でグアムの位置を思い出しているが、思い出した位置はハワイ諸島だった。
と、その時、頭上を低高度で数機のヘリコプターが爆音を上げ過ぎ去っていった。
「アレ、何か知ってる?」
「PAH-2ですね。何処の所属かは知りませんけど、多分フランスですね。」
「残存スペインかもよ?」
「海軍は丸々無事だそうですから、可能性はありますね。あの方向はタリファかな?」
『PAH-2』は俗に言うティガー攻撃ヘリコプターである。
ヨーロッパ版アパッチであり、ヨーロッパではフランス・ドイツ・スペインが採用している。
歩兵戦闘車長は『PAH-2』が向かった方向からジブラルタルと同様に他大陸に繋がったタリファの奪還に向かったのだろうと予想する。
「攻撃ヘリが向かったって事は制空権は確保されたのか?」
「さぁ?空軍基地も有るだろうし、地中海にはカヴールとシャルル・ド・ゴール、大西洋にはファンカルロス1世がいるだろ?」
彼が挙げたのは反撃作戦で海上から航空支援を行なっている艦艇の名前である。
イタリア海軍の【カヴール】とスペイン海軍の【ファンカルロス1世】は空母というより揚陸艦としての性格が強い軽空母の為、フランス海軍の正規空母【シャルル・ド・ゴール】に比べて航空支援能力としては弱い。
ただ、無いよりはマシという程度である。
「だがなぁ。そう言ったって・・・お?」
彼が話していた途中で少し離れた場所から爆発音や発砲音が聞こえてきた。
その聞こえたすぐ後にはフランス空軍の『ラファール』戦闘機が編隊を組んで頭上を飛行していく。
「ほんと、いつになったら平穏が戻ってくるやら・・・」
「それより、此処に居た住民達、ちゃんと避難出来ているのか?」
「ん?」
歩兵戦闘車長が何の事だ?と戦車長を見ると、顎であそこと指された。
その方向を見ると母と子供と見られる親子が無惨にも殺された遺体だった。
彼等は先程から黒焦げになった遺体や、遺体の一部などを見てきた為、吐く事などは無いが、少なくとも見ていて気持ち良い物では無い。
もし居たら、そいつはサイコパスだろう。
「まぁ、3分の1程度は国境線を超えたらしいな。残りは移動中か、自宅でジッと待ってるかだろう。」
「はぁ、6000万の3分の2だから・・・4000万か、殺されてなきゃ良いが・・・」
戦車長がそう言うと、『レオパルド2』戦車の運転手から「縁起でもない・・・」と声が聞こえるが、彼は無視した。
市街地に平気で攻撃を加えるような敵に2ヶ月近くも街を占領されていたのだ。
北部などはともかく、南部の街などはもう既に手遅れだろう。
「はぁ、いつまで続くんだろう・・・」
彼の言葉は風の音と共にセビーリャの街へと消えていった。




