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32.精霊樹

 


 新世界歴1年2月7日、スフィアナ連邦国 アストレア州 州都 中央公園


「でけぇ〜。」


 スフィアナ連邦国の州の1つ、アストレア州の州都アストレア中心部にある中央公園で日本国環境省所属の田中は目の前に聳え立つ大樹を前にその言葉しか出てこなかった。

 彼がこうなったのは数日前に遡る。


 数日前、環境省が入庁している中央合同庁舎第5号館に呼び出された田中は部長に突如、スフィアナ連邦国に行くように伝えられた。


「え?スフィアナ連邦国ってあのスフィアナ連邦国ですか?」

「そうだ。」


 余りの突然の出張に彼は上司にそう返さざるを得なかった。

 国のトップなどの閣僚級にとってスフィアナ連邦国は既に国交を結んだ友好国という扱いだ。

 だが、まだ航空路線すら無い為、民間人にとってスフィアナ連邦国は未知の国だった。


「え〜と、どういった経緯で?」

「ただ単にな、スフィアナ連邦国は前世界では観光大国だったらしくてな。それで視察で観光庁と外務省の奴らが行ったらしいんだが・・・」


 観光庁と外務省から渡された書類を見ながら上司が言い淀んだ。


「どうしたんですか?」

「何だが要領を得ない説明でな。大樹があったとか言ってな。それで環境省からも職員を派遣する事になったと言う訳だ。案内は向こう側の・・・えっと確かアストレア州?の観光局の人がしてくれるそうだから、ヨロシク。」


 そう言って渡された書類には航空自衛隊入間基地から向かう旨が記されており、禄に質問も出来ずにその2日後、空自の輸送機に詰め込まれてアストレア国際空港に降り立った。

 そして今に至るのだが・・・


「大き過ぎないですか?」

「それは。まぁ、精霊樹ですので・・・」


 到着したアストレア国際空港は都市の郊外に有ったが、そこからでも街の中心部に生えていると言われていた大樹は直ぐに分かった。

 一応、州都なだけあってアストレア州の中心部は数百m級の高層ビルもちらほら建っている大都市だった。


 日本や中国などのアジアの都市というよりはスウェーデンやデンマークなどの自然と調和した北欧の都市と言った感じだった。

 中心部の公園を起点に環状に道路が伸びている。

 非常に整理された街だった。


 だが、そのような都市よりも目を引くのが中心部の公園に聳え立ってる大樹だった。


 地球にある大樹なんか霞むくらいの大きさで、高さは辺りに建っている高層ビルや、それ以上の高さだった。

 幹の直径は100mを超え、精霊樹の上の方には地上から見てもハッキリと分かる程の大きい葉が茂っていた。


 そして、近くで見ようと近づこうとした所、案内のアストレア観光局の人から止められた。


「すみません。ここの白線から先は立ち入りが禁じられてますので。」

「え?そうなんですか?すみません。」

「いいえ、この公園自体は州立の公園ですが、あの精霊樹から半径100m以内は王領、王家の領地ですので、彼等が立ち入らないように警備に当たっているんですよ。ここに入れるのは彼等近衛兵や王族、そして王族が認めた者のみとなります。」


 そう言って案内の人が見た方向を見ると、イギリスの近衛兵とは違い青を基調とした立派な制服を着た人達が立っていた。

 手には銃を持っており、此処が日本では無い事を意識させられる。


「王領なんですか?」

「はい。スフィアナ王家の土地ですね。ここアストレア州だけでは無く、全ての州都に大きさの大小はあれど精霊樹は有りますから。全て王領で近衛兵が警備に当たっています。」


 後で彼に近衛兵について聞くと、近衛兵はイギリスなどの国家とは違い連邦軍を管轄している防衛総省の配下では無く、王族領などを管轄している宮内省の管轄下だそうだ。

 一応は軍では無く警察の分類だそうで、王領だけでは無く首都レスティナードの官公庁地区の警備なども行なっている。


 日本で言う皇宮警察本部の拡大版みたいな感じだ。


「・・・これは確かに観光庁が我々(環境省)に回して来るのも分かる気がしますね。」


 さっきとは違い英語(スフィアナ語)とは違い日本語で呟いた為、案内約の人は彼が言った事は分からなかった。

 だが、同じ公務員として他からいきなり任されたのだろう、というのは容易に想像が付き、同情するような表情をしてくる。





 新世界歴1年2月7日、ロシア連邦 首都モスクワ クレムリン


「事態は分かってる。新大陸に降下した空挺軍1万5000が全滅した事も、艦隊が大損害を負ったのも知っている。・・・だが、理由を知りたい。」


 クレムリン内の大統領執務室で、椅子に座っている大統領の前に何人かの閣僚が立たされていた。

 見る人が見れば学校の生徒指導室で怒られている生徒の構図だが、ここはロシアの最重要施設、クレムリンである。


「で、ですから中国の核攻撃と自然災害により・・・」

「それを信じろと!?核攻撃はともかく、偶然東日本大震災級の地震が起きて、派遣戦力が全滅したと!?」


 国防大臣の発言を遮り、大統領が叫ぶ。

 彼にしてみれば出来過ぎていたのだ。

 核攻撃と自然災害のタイミングが。

 もはや、新大陸の国家に災害兵器でも保有しているのか?と疑うレベルで。


「・・・はい。」

「巡洋艦1隻に駆逐艦3隻、空母もドック入りだ。インド海軍も沈没艦こそ無けれど大損害だぞ?」


 幸いにも震源地から離れていた海域に居たロシア・インド連合艦隊は負傷艦はあったものの、全艦艇がロシアのウラジオストク海軍基地に帰還出来た。

 襲ってきた津波も十数m級で、まだ許容出来る損害だった。


「・・・・・」

「まぁ、中国海軍も壊滅しているから、まだマシと割り切るしかないか・・・」


 今回の災害で1番というか、ダントツで被害が大きいのは中国である。

 中国海軍三大艦隊のうち南海艦隊と東海艦隊を合わせ連合艦隊の空母2隻を含む半数以上を高さ30〜40m級の津波で失っており、ありとあらゆる手を使い上陸した15万の兵力も一緒に失った。

 特に揚陸艦や高性能駆逐艦の被害は大きく、最新の揚陸艦である【075型】や【071型】の約半数を失い、最新鋭駆逐艦である【055型】も建造数8隻のうち5隻を失った。

 その被害はロシアすら同情するレベルであり、新大陸など20年〜30年は言えないだろう。


「さてと、中国やインドの動きはどうだ?」

「中国の方は陸上戦力や航空戦力が残っているので、上層部はともかく、下の動きは有りません。精々朝鮮半島に攻め込んだ事くらいでしょうか?インドはどうやらインドの南方2000km地点で異世界の国家の艦艇と接触したそうで、そっちの方に切り替える模様です。」


 現在の朝鮮半島は北朝鮮が韓国に攻め込み、韓国が反撃し、カオス状態だった。

 韓国の駐留米軍(主に空軍)は本国(アメリカ)が見つかるとサッサと撤退し、今韓国に米軍は居ない。

 そうで無くても韓国軍はそれなりに強く、日本や中国が相手ならともかく北朝鮮では韓国の方が通常の軍事力では上だ。


 しかし、現在韓国軍の目は北朝鮮に向いており、海軍艦隊も北朝鮮への対地攻撃に熱心である。

 ロシアとしては韓国軍の準アメリカ製の兵器が中国の手に入る事は面白くない何処か避けたい事だが、中国の正面戦力と相手に出来る程ロシア軍の兵力は多くはない。


「ふむ、韓国と北朝鮮は終わりか・・・ところでインドの新大陸調査に我が国は食い込めそうか?」

「北朝鮮の北方は我が国にくれるそうですね。変わりに手出しするな、との通達も来ましたが。一応、インドはその気ですね。中国やパキスタンの牽制にも我が国は必要でしょうし。」


 彼等にとって朝鮮半島は興味無いようだ。

 インドは現在、二正面作戦を強いられている。

 隣国のパキスタンと中国と領土問題を抱えており、双方共に核戦力を保有している。

 特にカシミール問題は世界で最も核戦争の危機が近いと言われている。

 流石の総兵力150万のインドもパキスタン(70万)と中国(120万)とはキツイ為、少なくとも中国はロシアに任せようと考えている。


「新大陸か・・・面倒が無ければ良いがな。」

「中国は海軍艦隊が壊滅し、派遣出来ないので我が国はまだマシでしょう。空母もドック入りと言っても重点検査くらいですから1.2ヶ月で出てきますよ。」

「まぁ、航空戦力はインドに任せるか・・・」


 インドは地味に空母保有大国である。

 インド海軍は空母【ヴィクラント級】を3隻保有し、アメリカの10隻、中国の5隻(現在3隻)に迫る3隻の空母大国である。

 ちなみに4位はイギリス(クイーン・エリザベス級2隻)と日本(いずも型2隻)である。

 今回の派遣で空母【ヴィクラント級】1隻を損傷し、ロシアと同様にドック入りだが、ロシアの空母保有数1隻と違い、まだ空母を出せる。


 前回のようにロシア主導では無いが、まだ大陸利権に食い込めるだけマシだろう。

 中国は横で見ている事しか出来ないのだから。


「なるようにしかならんか・・・」





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― 新着の感想 ―
[一言] 核攻撃と自然災害のタイミング ⬆ 確かに広島長崎に核兵器が使われた後、台風が襲ってますね…
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