31.スフィアナ連邦国空軍次期戦闘機
新世界歴1年2月3日、スフィアナ連邦国 首都レスティナード 首相官邸
首相官邸の緑豊かな会議室ではアルノア・フィルナンデス首相やレシオ・レスティア防衛大臣を始め、スフィアナ連邦国の主要閣僚会議が開かれていた。
今回、議題に上がったのはスフィアナの前世界での友好国であるテルネシア連邦と戦争状態になっているアメリカ合衆国という国についてだった。
「その、テルネシアに戦争を仕掛けたアメリカって言うのはどのような国なんだ?日本やイギリスの居た世界では1番の軍事大国だというのは分かっているが・・・」
「自由と民主主義を掲げて独裁国家などに戦争を仕掛けていた国だそうです。人口は約3億5000万人でGDPは約248兆エルで約8兆エル程を軍事費に投じている軍事大国です。」
1エルが約10円の為、アメリカのGDPは約2480兆円でスフィアナの約5倍弱。
そして軍事費の額も桁が可笑しいのでは?と思われるような約80兆円である。
「248兆に8兆か・・・文字通りの大国だな。」
「テルネシアのGDPは確か215兆エルで軍事費は4兆か5兆程だったかな?まぁ、そう大差は無いか・・・」
テルネシア連邦の軍事ランキングはスフィアナの世界であるサリファで1位。
スフィアナ連邦国が5位であるが、テルネシアの周辺地域が政情不安定な地域の為、これだけの軍事力を有していた。
テルネシア連邦国のGDPは日本円で約2150兆円で軍事費は40〜50兆円程。
経済規模はアメリカより少し小さいくらいの国家だが、人口は約2億7000万人である。
「戦争の発端は分かっているのか?」
「どうやらアメリカの駆逐艦がテルネシアに攻撃されたと言っていますが、アメリカは過去にそういう事件をでっち上げ戦争した事もありますので・・・」
スフィアナの国連に派遣された外交官は周辺国との会談でそういう事を色々と聞いていた。
だが、今現在それを確かめる術は無い為、憶測でしか無い。
「可能性があるのはただ単にアメリカがテルネシアを舐めて戦争を仕掛けたという事だなぁ。」
「それで、アメリカとの国交はどう致します?」
外務大臣が首相を含め出席者に問いかけた。
例えアメリカと国交を結んでも、遠過ぎて貿易などは出来ないが、とりあえずという奴である。
しかし、この時にはもう首相の考えは決まっていた。
「友好国のテルネシアと戦争をしているアメリカとの国交を結ぶ事は現時点では不可能だな。」
そうフィルナンデス首相は宣言し、他の出席者にも確認を取るが、皆同じ考えだと頷くばかりである。
「分かりました。では続いてですが、残りの未発見だった海外領土が2つ共見つかりました。」
「ほぅ、ようやくか・・・」
スフィアナ連邦国が有する海外領土(国)は3つである。
既に発見されているアルフヘイム、そして今回発見されたニヴルヘイムとムスピルヘイムである。
この3ヵ国はスフィアナ連邦国の庇護下に入りながらもサリファでは国として他国から認識されていた。
「はい。ニヴルヘイムとムスピルヘイム双方共に住民や防衛隊は無事との事です。位置関係ですが、ニヴルヘイムは東スフィアナ島東方3000km地点。ムスピルヘイムは南方2000km地点になります。」
「遠いなぁ。」
レスティア防衛大臣の報告に経済・基盤大臣がそう呟く。
だが、その呟きは出席者一同同じ考えだった。
ちなみに防衛隊と言うのは日本で言う対馬防衛隊のようなもので、スフィアナ連邦軍の一部隊の名前である。
「アルフヘイムは近くなったが、その2つは逆に遠くなったか・・・」
アルフヘイムは本国から約6000kmの距離に位置していたが、2000kmまで縮まった。
逆にニヴルヘイムは1500kmから3000km、ムスピルヘイムは1000kmから2000kmと倍にまで距離が延びた。
ちなみにその2つの海外領土を発見したのは1週間程前に打ち上げた偵察衛星である。
そして現在、発見された位置に海軍の艦艇が確認に向かっている。
順調に行けば数日程度で到着する見込みである。
基本的に海外領土はスフィアナ国内では無く(パスポートは必要無いが)どの大陸からも離れている為、自給率は非常に高い。
その為、1ヶ月程度の放置でも飢えるような事態にはならないが、日用品などは不足しているだろう。
「とりあえずは、派遣された艦艇の報告待ちですね。では続いてですが、空軍の次期主力戦闘機の最終決定を行います。」
と、レスティア防衛大臣は如何にも重要そうなワードを持ってくるが、正直、この会議はさして重要では無い。
ここに出席している者達は、多少の航空機や安全保障の知識はあっても、専門家では無い。
その為、既に空軍や防衛総省内で決定されており、この最終決定は軍事とは関係の無い文民が行いますという国民向けのアピールの場なのだ。
よって、これまでに覆された事や拒否された事は無く、とりあえず凄い物が軍に納入される事だけを彼等は知るのである。
「防衛総省の航空機研究開発局とSHIの共同開発によって開発されたのがこちらの2機種になります。右側の有人機がSF-46セイレーン、左側の無人機がSF-47シレーヌです。」
会議室の正面にある大型ディスプレイに2機の実戦配備1号機の画像が映し出される。
それを見た出席者達から「お〜」と感嘆の声が上がる。
既にスフィアナ連邦国空軍の次期主力戦闘機などはマスコミや軍事情報雑誌の良いネタであり、これまでに想像図が取り上げられた事は多々あった。
だが、CGやイメージであり、目の前に映し出されているのは実物の画像である。
ちなみに一応はSHIの担当者が出席者達に説明するが、詳しい事は彼等は聞いていない。
専門的な事は専門家に任せ、客観的に疑問に思った事を担当者に質問するのが彼等の仕事である。
逆に開発元であり製造元でもあるSHIの担当者は彼等の質問に対して絶対に「分かりません。」と言ってはいけない。
更に専門用語を並べても彼等は分からない為、分かりやすくシンプルに説明しなければならない。
つまり、1番の貧乏くじ役である。
「セイレーンの方は現在第5.5世代型戦闘機でシステムのアップデートによって第6世代までになります。対艦ミサイルや対空ミサイル、対地ミサイルなどの多数の兵装を搭載する事が可能で、その搭載量は現在の空軍の主力戦闘機に匹敵します。航続距離は約4500km、戦闘行動半径は2150kmになります。ここまででご質問は?」
大まかな説明をし終えた後、担当者は一旦説明を限り、出席者達を見回し、尋ねた。
「・・・・・」
どうやら質問のある者は居ないようで担当者は説明を続けた。
「セイレーンはSHIエアロスペース社製のSXF-7Aハイパワーエンジンを2基搭載し、最高速度はM2.2程になります。もう一機種のシレーヌも同じSHIエアロスペース社製のSXF-7を2基搭載していますが、こちらはB型で、最高速度はM1.8程にまで抑えられており、その分戦闘行動半径が2600kmと増えています。」
「そのエンジンの燃料は何ですか?」
そう質問したのはエネルギー省大臣であるリセフ・リコメンドだった。
「これまでの戦闘機や航空機と同様にエーテルを使用しています。ただ、使用しているエーテルはこれまでのE-10からE-12へと高純度化しているので、その辺りの設備の更新は必要だと思います。」
「・・・成る程。」
スフィアナ連邦国空軍の航空機は全てエーテル由来の燃料を使用している。
E-10やE-12と言うのはエーテルの純度を表す指数であり、数字が大きくなるほど純度が高い事を示す。
適正値より高い純度のエーテルを使えば性能が向上する事もあるが、逆だと性能の低下だけでは無く故障などを誘発する恐れもあった。
しかしエーテルの純度を高めるには施設を一新しなければならず軽く1000億エル以上の予算がかかる。
デメリットは予算くらいだが、その予算が問題なのである。
「説明は以上になります。開発費の総額は約1840億エル。1機辺りの価格はセイレーンが12億7000万エル。シレーヌが7億1000万エルになります。この額は量産次第で1割〜2割程度は下がると思われます。」
「防衛総省は何機程の導入を考えているのだ?」
価格の話になり、レスティア防衛大臣に質問してきたのは財務大臣だ。
「当初の予定通りヴァイパー戦闘機の全150機弱の代替は既に決定してはいますが。問題はライナー戦闘機の後継機です。こちらの方も150機程ある。双方をセイレーンとシレーヌで代替する訳にはいかないが・・・」
スフィアナ連邦国防衛総省としては今年から現在150機程あるライナー戦闘機の後継機選定を進めるつもりだった。
しかし、転移によりその相手が消えてしまったのだ。
更に新しい国家はシステムが根本から違う為、導入するには数千億エルを超える莫大な設備更新費用が掛かってしまう。
更に、もし何かあった場合に備え、少なくとも3機種程の戦闘機を常に運用するのが良いとされている。
セイレーンとシレーヌはエンジンや戦闘システムは同じ系統にある為、別種類の戦闘機では無かった。
「そちらに関してはサリファ世界での国に当たるしか無いな。テルネシアは戦争中だから避けた方が良いだろう。その辺りは防衛総省に任せる。とりあえずこのセイレーン及びシレーヌは採用で良いな?」
フィルナンデス首相はそう言い、室内を見渡す。
どの出席者達も頷いたり、「異議無し」「問題は無いでしょう」と言ってる。
「ではスフィアナ連邦国空軍の次期戦闘機はセイレーン及びシレーヌの採用とする。」
全閣僚からの同意が取れた為、フィルナンデス首相はそう宣言した。
そうして、スフィアナ連邦国空軍の次期戦闘機、『ヴァイパー』の後継機は『セイレーン』多用途戦闘機、『ノヴァーク』の後継機は『シレーヌ』無人攻撃機で決定した。
次の日、レシオ・レスティア防衛大臣は記者会見で次期戦闘機が決定した事を正式に発表した。




