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30.日米安保の格下げ

 


 新世界歴1年2月2日、日本国 首都東京 総理官邸 執務室


「ふぅ〜、何とか収まったか・・・」

「えぇ、収まりましたね。」


 総理大臣と官房長官はやっと仕事が終わったぁ!と深く椅子に座った。

 理由は数時間前まで行っていた臨時国会に総理が出した、ある条約改正案で大揉めしていたからである。


「珍しく、野党が賛成に回りましたね。」

「そりゃあな、アイツらの目標の一つが達成されたも同意だからな。日米安保の縮小なんて・・・」


 日米安全保障条約の縮小、これが総理が国会に提出した条約改正である。


 その理由は数日前の国連総会での日本とアメリカの二ヵ国会談にあった。

 突如、アメリカ大使が日米安全保障条約を縮小をすると通告してきたのである。

 しかし、この事は日本政府も予想していた。

 日本とアメリカの距離は約1万2000kmと前世界の2倍にまで開き、中国という仮想敵国も居なくなった。

 つまりアメリカのメリットが無くなったのである。


 更にアメリカは現在ピンチだった。

 侵略戦争(アメリカは防衛戦争と言っている)で最前線のグアム島のアンダーセン空軍基地が壊滅、更にその後敵揚陸部隊がグアムを含む北マリアナ諸島を占領したのである。

 その為、アメリカ軍は少しでも多くの戦力を必要としていた。


「まぁ、確かにこの世界に転移して日米安保のメリットは向こうもウチも消滅しましたしね・・・」


 地球ではアメリカ軍は世界中に展開する為に日本にも基地を置いていた。

 しかし、地球より遥かに広くなったこの世界では現状、不可能である。

 地球半周が約2万kmである為、1万2000kmは地球4分の1周に匹敵する距離である。

 少なくとも、常時部隊を置いて置くには遠すぎる。


「って事は岩国も横須賀も返還されるのか?」

「三沢以外は全て返還って言ってましたね。基地からキャンプ場、訓練場や通信所まで全てですね。」


 数年前の在日米軍の削減でも国内の殆どの基地、通信所や訓練所の大部分はそのまま残された。

 しかし、その残存施設まで返還するのだから、もう二度と日米安保は結ばないというアメリカの意志の現れでもあった。

 唯一残るのは三沢基地の一部航空隊のみだろう。

 まぁ、確かに距離を考えたら間違えては無いのだが。


「そうか、しかしあの野党が賛成するとはな。これまで政権のやる事為す事全てに反対してきたあの野党が・・・」

「いや、日米安保の縮小にまで反対したら党の存在意義が問われますからね。しかし全ての党が賛成に回るとは、ある意味凄いですね。」


 党の目標の一つが日米安保の破棄という党もあるのだ。

 まさか、その党も異世界転移により目標が半ば達成されるとは思いもよらなかっただろうが。

 ちなみに、右派・左派関係無く賛成している。

 左派は言わずもがな。

 右派はいわゆる国産派や自国に他国軍が駐留している事を良く思わない人達が賛成に回っている。

 もちろん左派の人達はこの勢いで自衛隊の解体に目標を移しており、右派はこの勢いで自衛隊の増強に目標を移している。


「・・・この機会にやってみる価値はあるかな?」

「何をですか?」


 総理の呟きに官房長官が質問する。


「憲法改正だよ。憲法9条改正の国民投票。」


 2030年の現在に至るまで自衛隊の違憲論争は続いてた。

 歴代政権は憲法改正をする!と言いながら、結局はしないまま退任していった。

 彼はその憲法改正を行うつもりだった。


「・・・確かに機会としてはこの上ありませんね。世論調査でも9条改憲に賛成が反対を上回ってますし、可能性はあるのでは?」

「戦後レジームからの脱却か。」


 そして、総理と官房長官は最も忙しい仕事に取り掛かるのである。





 新世界歴1年2月2日、スフィアナ連邦国 首都レスティナード郊外 フォレストレイク空軍基地


 スフィアナ連邦国空軍フォレストレイク基地は首都圏の防空を担っている重要基地である。

 ちなみにフォレストレイクという名前はただ単に隣に湖と森があるからと、地元住民により名付けられた。

 安易過ぎるだろ?


 そんなフォレストレイク空軍基地は非常に広大な基地である。


 3200m級の滑走路と少し離れて3500m級の2ヶ所の滑走路が配置され、空軍の戦闘機部隊や輸送機部隊などが配備されている。

 そして隣にはフォレストレイク海軍航空基地も隣接している巨大基地である。

 このフォレストレイク空軍基地には首都圏の防空ともう一つ、重要な役割を担っていた。

 それは新型機の実験などを行う航空技術局とスフィアナ連邦国軍の装備の製造に携わっている大手重工業の工場が空軍基地に隣接している事である。


 基本的にスフィアナ連邦国はイギリスと同じレベルの人口だが、国土面積はイギリスの2倍、日本の1.5倍もある。

 その為、軍事施設は非常に広大で、その辺りはアメリカ寄りとも言える。


 そんな基地の広いハンガー(格納庫)内に駐機している2機の航空機の前で数名の男女が話していた。

 うち2人の男女は空軍迷彩を着用し、男性は立派なスーツを着ており、別の女性は何処か研究者を思わせるような服装だった。


「ほぉ、これが新型多用途戦闘機ですか。」


 迷彩服を着た男性は目の前にある2機の戦闘機を見てそう言った。

 その戦闘機は双方共に海を思わせる青を基調とした迷彩柄で、片方の戦闘機にはコクピットらしきものが無かった。


「はい。正式名称SF-46、略称セイレーン。次期主力戦闘機開発計画により開発された、とりあえず第5.5世代型の戦闘機です。」


 スフィアナ連邦国の大手重工企業であるSHI.systemsの新型戦闘機開発計画主任の女性が大きいコクピットがある方の戦闘機を紹介する。

 一応、スフィアナの戦闘機にもアルファベットと数字の組み合わせの名称は存在する。

 しかし略称が決められる為、そちらばかり有名になり正式名称は書類上でしか使われ無くなる。


「なるほど。では、こちらの機体は?」


 そう聞いたのは同じくスフィアナ連邦国空軍の迷彩服を着ている女性の空軍軍人である。

 彼女は非常に若い士官のように見えるが、実はここのフォレストレイク空軍基地の基地司令である。

 若そうに見えるのは彼女がエルフだからである。


「こちらは正式名称SF-47、略称はシレーヌです。こちらの機体は無人攻撃機です。部品の37%をセイレーンと統合しており、主に対艦攻撃や対地攻撃などに使う機体です。システムのアップデート次第では数年以内にそちらのセイレーンがこのシレーヌを管制する事も可能です。」


 同じ部品を使うのはコスト削減と生産工程の簡略化の為である。

 約4割が同じ部品な為、双方の戦闘機は外見が非常によく似ている。


「なるほど、だからとりあえず第5.5世代か・・・」

「そうで無くてはその辺の第5世代機と一緒です。」


 現在スフィアナ連邦国空軍が保有している戦闘機の中で第5世代戦闘機は『ノヴァーク』のみであり、この戦闘機も近代化改修によりなんとか第5世代であり、初期型は立派な第4世代型である。

 ちなみに他の『ヴァイパー』『ライナー』は双方共に第4.5世代型戦闘機である。

 つまり、この『セイレーン』がスフィアナ連邦国空軍初の当初からのステルス戦闘機である。


「なるほど、それで価格は?」

「開発費別でセイレーンが約13〜14億エル。シレーヌが7〜8億エル。双方共に初号機の値段になりますので、量産効果によっては1〜2割程度は下がりますわね。どうです?財務管轄官殿?」


 SHIの開発主任がそう問いかけたのはスーツ姿の男性。

 彼はスフィアナ連邦国財務省所属の財務管轄官である。

 財務管轄官は政府の支出が本当に正しい物なのかを審査する職員である。

 防衛総省や国土省、運輸通信省などは大規模なインフラ整備や工事、装備購入などがある為、特に財政管轄官の審査は厳しい。


「・・・14億か、確かに高いなぁ。まぁ、高性能化してるから当然と言えば当然か・・・」

「ちなみに開発費は双方合わせて約1840億エルですね。当初の1780億エルから60億エル程超過しました。」

「まぁ、1割程度なら誤差の範囲内かな・・・」


 スフィアナ連邦国軍の装備開発は当初予定より1割を超える事があれば審査にかけられる。

 今回の枠は1780億エルの1割で、約178億エルである為、なんとか審査対象外である。

 ちなみに、これが3割を超える事になれば国会で審議される決まりになっている。


「ところで艦載型は?」

「現在、実地テスト飛行中ですので、再来月になります。」


 実地テスト、つまり実際の戦闘を想定した負荷実験や戦闘実験などである。

 当然ながら、戦闘機は実戦に耐えられないと話にならない。

 場所によっては劣悪な環境下で整備しなくてはならない事もある。

 そのような実地テストで合格して、初めて正式装備として採用され、量産されるのである。


「テスト飛行?何処でだ?」

「東スフィアナ島沖の空母スイレート上で。」

「実地だもんな。当然か・・・」


 スフィアナ連邦国海軍の艦載機はイギリスや日本と同様、空軍が管轄している。

 アメリカのように海軍航空隊所属では無いのだ。

 一応、哨戒機部隊や対潜ヘリ運用部隊などの海軍航空隊は存在するが戦闘機などは一切保有していない。


「では、財務管轄官?とりあえずは合格でよろしいですか?」

「とりあえずはな。後は実地データを見ないと何も言えないが、一応は合格か・・・」


 彼が見たのは実機のみである。

 幾ら彼が航空機担当と言っても実機を一目見て分かるような魔眼は持ち合わせておらず、また彼にそのような権限も無かった。


「ありがとうございます。」

「開発費の超過分も書類も提出しろよ?」

「それは開発担当の私では無く総務担当に言ってください。」


 開発主任の女性は私は関係無い、と拒否した。

 この女性は現場主義な為、書類の事は別の社員に任せていた為、その辺りの書類に関しては全く無頓着な人である。

 その分、新型機の開発に関しては凄い人なのだが、「残念な人だ。」とこの場にいる人全員が思った。


「はぁ、後でSHIの本社に行くか・・・」


 SHIの開発場所はこのフォレストレイク空軍基地内にあるが、それを管理しているのは本社内にある総務や経理である。

 つまり、レスティナードの中心部だ。

 正式な本社はレスティナードでは無く、地方都市にあるのだが、書類などの提出はレスティナードの本社が対応する。


 財務管轄官は重い足取りでフォレストレイク空軍基地を後にした。



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