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3.混乱、アメリカ・イギリス編

 


 西暦2030年1月1日、アメリカ合衆国 首都ワシントンD.C. ホワイトハウス


「いったいどうなっているんだ?とりあえず現在の状況を報告してくれ。」


 1時間程前、日本の総理と同様に大統領はベットで寝ていた所を秘書に起こされこの部屋まで連れてこられた。

 日本と違うのは危機管理センターみたいな場所では無く、大統領執務室で各長官と話をしている所である。

 それはさて置き、今現在大統領は非常に混乱していた。

 自分を無理矢理起こした秘書からは「非常事態が発生しました」としか聞かされていないからである。


「北アメリカ及びハワイ・グアム以外の基地との連絡が途絶えました。更に全ての衛星との通信が途絶えモスクワのクレムリンとのホットラインも切断されました。」

「・・・」


 過去に類を見ない非常事態のオンパレードに大統領は放心状態となる。

 そんな大統領を「気持ちは分かる」と言った表情で報告した国防長官と国務長官は見つめていた。


 そして1分間が経過した所で国防長官が報告を再開した。


「カナダとメキシコの北アメリカ大陸国家との有線通信は従来通り繋がります。とりあえずアラスカのエルメンドルフからF-22の護衛の元E-3早期警戒管制機が上がりました。E-3はロシアに向かいユーラシア大陸を確認します。」

「ユーラシア大陸を確認?まさか日本の小説に出てくるような異世界転移でも起こったって言うのか?ハハハ、あり得んよ。」


 大統領は1人そんな事を言いながら笑うが、2人の長官の顔は真剣である。

 あり得ないと言ったが、現状がそれを物語っており、2人の大臣は現実に起きている事が何を意味しているのかを分かっている様子だった。

 大統領も薄々感づいている。


「それで大統領、私はデフコンレベルを3にする必要があると思います。」


 米軍の警戒レベルを示すデフコンは5を平時として最高は1である。

 平時である今は5だった。

 デフコンレベル1は核戦争中、2は核戦争準備、3は核以外なら何が起きても対応できる警戒態勢である。


「・・・国防長官は3が必要だと思うのか?」


 大統領は先程とは打って変わり、落ち着いた雰囲気で国防長官に質問した。


「はい。アジアやオセアニア、ヨーロッパ、果ては中東まで全ての派遣軍との連絡が付かず衛星との通信も出来ないのでデフコンレベル3は必要だと思われます。」


 国防長官からハッキリとデフコンレベル3が必要と聞いた。

 大統領は椅子に深く腰掛け、溜め息を吐いた。


「分かった。デフコンレベル3を認める。とりあえず現在はあらゆる手段を用いて情報収集を行うんだ。」

「「了解」しました」


 国防長官と国務長官は部屋から退出し部屋には大統領1人が残った。

 そして一言。


「あ〜、眠たい・・・」


 幸運にもそれを聞いた者は誰も居なかった。





 西暦2030年1月1日、イギリス連合王国 首都ロンドン ダウニング街10番地


 何の準備も無しにいきなり会議で状況を聞かされた何処かのプレジデント(大統領)とは違い、日本と同様にイギリス首相も頭が痛くなるような話を会議室にて聞かされていたのだが。


「成る程、現状は分かった。だが、英仏海峡で対岸のフランスが見えないとはどういう事だ?最狭部のドーバー海峡なんか経った34kmしか無いんだぞ?」


 栄えあるブリティッシュ(大英帝国)のトップである首相はそんな話を半分も信じてなかった。

 当たり前である。

 普通の人は衛星との通信が全て途絶えた事やヨーロッパ大陸が消えたなんて事を聞いたら、まず最初に今日がエイプリルフールかどうかカレンダーを確認するだろう。


 だが、今回の話は違っていた。


「し、しかし該当時刻は列車が通行していませんでしたが、ユーロトンネル内が完全に水没しており、システムも英仏の中間地点で途切れています。」


 ユーロトンネル又は英仏海峡トンネルはヨーロッパ各地を結ぶ高速鉄道、ユーロスターが通る鉄道海底トンネルである。

 そのトンネルの長さははスイスのゴッタルドベーストンネル、日本の青函トンネルに次ぎ世界で3番目に長いトンネルである。


「なに?それは事実か?」

「はい。」


 運輸大臣が頷き、首相は手を顔に当て、天を仰いだ。

 だが、天を仰いでも事態は何も変わらない。

 次は国防省からの報告だ。


「つい数時間前に我が国の防空識別圏に国籍不明の戦闘機が侵入してきました。付近の基地にスクランブルをかけました。」


 スクランブルと言っているが24時間365日体制でスクランブルをかける事の出来る国はそう多くはない。

 スクランブルを行うには常に稼動状態にある多数の戦闘機と24時間体制で出動可能なパイロットが必要である。


 更に侵入機を発見する為に全国土を監視出来るだけのレーダーサイトが必要である。

 その為、日本みたいに全ての国土を監視し、必要な基地から必要なだけの迎撃機にスクランブルをかける事の出来る事は実は凄い事なのである。

 東アジアだけ見ても24時間365日体制のスクランブルは日本と韓国のみである。

 ロシアはそもそも全ての国土をレーダーが監視出来ていない。

 中国はそもそもスクランブルをする考えがない。

 というより中国とロシアは逆にスクランブルされる側である。

 北朝鮮は・・・その前に訓練すら出来ない。


「それがどうした?確かにスクランブルは珍しいがこんな状況なんだ、別段不思議でもなんでも無いだろう。・・・んっ?」


 年に数百回規模で中露にスクランブルをかけている日本とは違い、NATOと言う軍事同盟がある欧州では他国の戦闘機が自国領空に侵入するのは特段珍しくない。

 自国内に訓練空域が設定できない為、隣国に行って訓練をして、事故を起こし多国に墜落なんて事はヨーロッパでは珍しく無い事である。


 しかし、ここで首相はおかしな事に気が付いた。

 同じNATOならスクランブルをかけられる筈が無い。

 更に近隣諸国でNATOに加盟してないのはスイスくらいである。

 その為、スクランブルがある事自体おかしな話なのである。


「何処の国の戦闘機にスクランブルをかけたと思います?」

「何処って、NATO加盟国はスクランブルをかける必要は無いからスイスとか?ロシアは戦闘機の航続距離が足りんだろう・・・」


 首相は頭の中で欧州地図を開き、NATO非加盟国を言っていった。


 だが、その中に答えはなかった。

 否、どれだけ時間があっても答えを見つけるのは不可能だろう。

 何故なら地図が変わってしまったからである。


「日本です・・・。」

「・・・はい?日本・・・?」


 予想外の国に首相の脳が追いついてていなかった。

 首相の頭の中では日本が持つ戦闘機を必死に探り返していた。


「そうです。日本の航空自衛隊のF-15J戦闘機、まぁ、C型ですね。それ、でした。彼等も予想外だったみたいでユーラシア大陸を確認しに来たようで・・・」


 『F-15』戦闘機のC型と聞いて首相は古い戦闘機だなぁ、と思った。

 だが、日本の航空自衛隊が使用している『F-15J/DJ』戦闘機は採用した原型は確かに『F-15C/D』戦闘機だが、過去に何度も近代化改修を行っており、行ってない機体は既に新鋭の『F-35A』戦闘機に更新されている。

 近代化改修を行った『F-15J/DJ』はもはやエンジン性能から電子性能に至るまで別物であり、制空戦闘であれば最新鋭ロットである『F-15X』にも引けを取らないであろう。


 まぁ、そんな事をさて置き首相の頭の中の欧州地図、もとい世界地図がガラガラと音を立てて崩壊していった。


「もしかして、世界中の大陸や島々の位置関係が無茶苦茶になっているのか?」

「もし、本当にそうなら中東などの面倒な国の近くじゃなくて良かったですな。」

「日本は我々より色々と大きい国だからな。まぁ、とにかく情報を集めないと・・・」


 少し情報が分かったが、逆にその情報があり得なさすぎで頭が余計に混乱した偉大なる英国首相であった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 米国は大臣ではなくて、長官かな。閣僚でもいいと思いますが。
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