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28.スプートニク

 


 新世界歴1年1月24日、スフィアナ連邦国 アストレア州 メイフィス宇宙センター


 スフィアナ連邦国東島南部の州であるアストレア州、そのアストレア州から更に南に行った位置にある島。

 隣接するメイフィス空軍基地と合わせて世界最大級とも言って差し支えない広大な敷地と巨大施設。

 ここはSAA(スフィアナ航空宇宙局)と言われる、日本のJAXA(航空宇宙研究開発機構)、アメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)と同等の機関であるスフィアナ連邦国の宇宙機関が保有する衛星発射場である。


 周囲に有人島は無く、船舶の航路からも大きく外れている為、年中ロケットの打ち上げが出来る発射場として、前世界では近隣諸国の衛星やロケットなども打ち上げてきた歴史ある発射場である。

 隣にあるメイフィス空軍基地には舗装された3500m級の滑走路がある為、衛星やロケットなどの部品なども持ち込みも容易であった。


 そんなメイフィス宇宙センターの幾つかの発射台のうちの1つでは今まさに1機のロケットが発射準備を進めていた。

 そして、その他にも幾つかの発射台でも打ち上げ準備が行われていた。


「こんなに忙しいのは設立以来初めてじゃ無いのか?

「初めてだろうな。衛星が全部無くなったんだから指令センターの奴等には同情するなぁ。」


 もうそろそろ打ち上げ予定のロケットを整備している作業員達は、高さ40mの整備棟から見える他のロケット発射台を眺めながら呟く。

 これまでにSAA(スフィアナ航空宇宙局)は百数十機のロケットを打ち上げており、百基近い数の衛星を常時運用していた。

 それがいきなり0になるのだから、これまでの苦労が文字通り水の泡と消えていったのである。





 そして、その頃メイフィス宇宙センター内の管制センター内では。


「GPS衛星12基、偵察衛星2基、通信衛星8基、早期警戒衛星4基・・・そんなの不可能ですよ!」

『無茶なのはこちらも分かっている。だがな、衛星が全て消失して国は大変なのは君も分かってるだろう?とりあえず衛星とロケットはこちらで何とかするから今年中に26基の衛星を軌道に載せて欲しいんだよ。』


 メイフィス宇宙センター長が話しているのは2000km程離れた、首都レスティナードの科学技術省の官僚の1人である。


「何とかするって、衛星は何とかなってもロケットは26機も無いですよ?」

『今、メーカーが急ピッチで生産をしている。空軍も協力してくれるそうだから、直接そちらに運ぶそうだ。』


 余りの素早い対応にセンター長は開いた口が塞がらない。

 メイフィス宇宙センターの滑走路が空軍基地の物だとしても、これまでロケットや衛星、そして部品を輸送したのはSAAの専用輸送機である。

 それが空軍の輸送機など、この命令は彼が想像していた場所より遥か上の方から降りてきているのかもしれない。


「失敗してもこちらとしてはどうしようもありませんよ?」

『それは上層部も承知の上だ。とりあえず1基でも多くの衛星を軌道投入したいそうだ。』


 当然だが、ロケットを打ち上げても失敗する可能性も0では無い。

 SAA(スフィアナ航空宇宙局)の誇る『リラードB』ロケットの成功率は41回中41回成功だが、様々な条件が変わったこの世界ではその記録も終わる可能性も高かった。


「とりあえずやれるだけやってみます。」


 既に予算も人員も投入されている現状としては、いちセンター長の彼がどうこう言っても、もうどうしようも無かった。

 だが、現状衛星の打ち上げに成功したという話は聞かない。

 もし、成功すれば、それはこの世界で初めて衛星を打ち上げたという名誉があるだろう。

 彼はそれだけでもやる気になった。





 新世界歴1年1月25日、スフィアナ連邦国 アストレア州 メイフィス宇宙センター


「打ち上げ1分前!」


 メイフィス宇宙センター内にある指令センター内では多数の職員がモニター画面と睨めっこしていた。

 SAA(スフィアナ航空宇宙局)の人間だけでは無く、製造元の会社の人、発注した防衛総省の人、更にはマスコミや閣僚など普段足を踏み入れない様々な人がメイフィス島に居た。


「残り10秒前!カウントダウン。8・・・7・・・6・・・5・・・4・・」


 管制官のカウントダウンと共に衛星を載せたロケットが白煙を吐き、今にも飛び立とうとしている。


「・3・「メインエンジン点火!」・2・・・1・・・発射!!」


 管制官がカウントダウンが0となるのと同時に発射ボタンを押した。

 すると今にも飛び立とうとしていたロケットが縛りから解かれたかのように轟音を上げ空に向かって飛び立った。


 マスコミはカメラの向きを一斉に空に上がるロケットに合わせ、他の職員の目線と綺麗に揃いながら上に向けた。


 そして、暫くするとロケットは見えなくなり、職員やマスコミの視線は会場に臨時に設置されている大型ディスプレイのCG画像に移った。


 この日、行われたロケット打ち上げは無事に衛星を軌道に投入する事に成功し、この世界初めての衛星(スプートニク)となった。

 無事に軌道に投入された3基の衛星のうち2基が偵察衛星だったあたり、この世界の宇宙開発は内向きで始まったと言える。





 新世界歴1年1月25日、アメリカ合衆国 首都ワシントンD.C. ホワイトハウス


 今日、この日。

 ここの家主(大統領)は非常に機嫌が悪かった。

 理由は数十分前にNASA長官から伝えられたある報告が理由だった。


「異世界の訳も分からん国にスプートニク(初めての衛星)を奪われただとぉ!?」


 スフィアナからして見ればアメリカも異世界の訳も分からん国家になる。

 ちなみにブーメランになっているのは理解しても周りの閣僚は大人なので誰も口にしない。


「それでぇ?我が国はいつ打ち上げる予定だぁ?」


 怒りを露わにしながら大統領はNASA長官に聞く。

 NASA長官は(大統領)に報告した時点でこうなる事は分かっていたので、まだ耐えられる。


「明日、フロリダ州のケープカナベラル宇宙センターから打ち上げられる予定となっています。」

「・・・2番か、ふんっ!まぁ、良いだろう。」


 大統領は不機嫌さを見せながら呟くがとりあえずはNASA長官の発言に納得したようである。

 ちなみに25日にSAA(スフィアナ)、26日にNASA(アメリカ)、27日にJAXA(日本)CNSA(中国)、28日にESA(ヨーロッパ)ロスコスモス(ロシア)、29日にISRO(インド)が立て続けに打ち上げる予定で、今週は宇宙開発ウィークとなりそうであった。


「・・・それで国防長官、新大陸攻略の方はどうなっている?」


 話を逸らすように大統領は国防長官に尋ねる。

 新大陸攻略とは名前の通り新大陸をアメリカ領土としようという作戦であり、現在順調に()()()だった。


「現在、第3艦隊と第7艦隊を敵基地攻撃に当てています。ただ、敵もかなり抵抗しているようで、B-2爆撃機を投入する予定です。」


 アメリカが新大陸と言っているのは前世界のフィリピンの位置に現れたオーストラリア大陸の約4分の3程度の広さを誇る大陸である。

 一応、現代文明が居たが、アメリカはとりあえず景気回復の為に戦争をしたかった。


 その為、ベトナム戦争のトンキン湾事件よろしく、その国に立ち寄った駆逐艦が攻撃を受けたとして、その国に報復攻撃を行なっているのである。

 もちろんトンキン湾事件という前科がある為、疑う人は居るものの、殆どのアメリカ人はアメリカ政府のプロパガンダに乗せられ、報復攻撃を支持している。


 そして、報復攻撃を行い分かった事は、当初の想定以上にその国の科学技術力や軍事力が高いという事である。

 当初、アメリカ政府は無人機による航空偵察(6機中4機撃墜)により確認した戦闘機が『F-5.タイガー』に極似していた事から国家の技術力を1960〜1970年代と推測した。


 しかし、空母から発艦した『F-35C』戦闘機が出会ったのは『F-22』並みのステルス能力を持つ最新鋭戦闘機だった。

 結果、第一次攻撃隊は作戦を中止せざるを得ず、既に2隻のアメリカ海軍駆逐艦が敵軍のミサイル攻撃を受け撃沈されている。


 国防長官が「かなりの抵抗」と言ったのもそういう理由があったからである。


「核の使用は認めんぞ?通常戦力でやれ。」

「分かっています。既に旧大西洋から第5艦隊を旧太平洋に持ってきており、3個艦隊編成で対応にあたっています。既に6隻の敵艦艇を撃沈しており、時間はかかりそうですが、我が国が勝つのは間違い無いかと。」


 流石に報復攻撃には賛成多数の世論でも核攻撃となると反対多数になる。

 しかし、国防長官はそんな物必要無いとアメリカの勝利を宣言していた。


 この数日後、打ち上げられた偵察衛星により撮影された画像を見て愕然とする国防長官だが、今はまだその事を知らない。



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