27.オブザーバー
新世界歴1年1月22日、日本国、首都東京 総理官邸
「は?アメリカが見つかった?」
「はい。イギリスの空軍基地から離陸した自衛隊のE-767早期警戒管制機が自機と同じレーダー波を確認し、調べた所アメリカ空軍のE-3早期警戒管制機でした。」
航空自衛隊の『E-767』早期警戒管制機とアメリカ空軍やイギリス空軍が運用している『E-3』早期警戒管制機は全く別の機体ではあるが、搭載しているレーダーは『AN/APY-2』と全く同じである。
そもそも『E-3』早期警戒管制機を運用している国と組織はアメリカ・イギリス・フランス・サウジアラビア・NATOしか無い。
ちなみにイギリスは現在も第二次ブラックバック作戦を実行中である為、日本の航空自衛隊がイギリスの警戒監視任務を行っている。
「いつまで空自がイギリスの警戒監視をやるんだろう?」
「さぁ?」
とりあえず、人工衛星を打ち上げ周辺地域の地図ができない限りはブラックバック作戦はやめる気は無いようだ。
現在、人工衛星を打ち上げようとしている国は、この周辺地域で2ヵ国のみ。
自国にロケット発射場のある日本とスフィアナのみである。
「前世界のように中・韓・露のスクランブル発進が無くなっただけ楽って言ってましたけど・・・」
「どうだろう?」
現在、航空自衛隊が保有している早期警戒機・早期警戒管制機は『E-2D』早期警戒機13機と『E-767』早期警戒管制機4機の計17機。
余裕があると言えばある数である。
「ところでアメリカが見つかったという事は貿易とか再開出来るの?位置的に西海岸じゃ無くて東海岸だよね?」
そう、前世界なら日本の東側に北アメリカ大陸があったが、今は日本の西側、つまり東海岸が面している海岸となる。
更に距離も前世界なら8000kmだったが、この世界では更に離れており直線距離で1万2000kmである。
「そうなりますね・・・ただ、アメリカは現在、前世界のフィリピン辺りにある新大陸に熱心だそうですから・・・」
官房長官の不穏な言い方に総理は何となく想像が出来た。
「・・・もしかして、戦争しようとしてる?」
「経済不況があれば戦争特需で乗り切ろうとするのがアメリカですから・・・」
アメリカは経済不況を戦争で乗り切ろうとする基調のある国だ。
世界恐慌を乗り切ったのは日本との太平洋戦争で、ベトナム戦争やイラン・イラク戦争、湾岸戦争など多数の戦争を起こしている国、それがアメリカである。
だが、それはそれとして日本にもメリットが有った。
「戦争となりますと、ミサイルや爆弾などにはかなりの日本製電子部品が使われてますので、業績が回復する事は間違い無いですね。」
「金出せとか自衛隊出せとか言われないよね?」
とりあえず何かアメリカが絡む戦争があれば日本に何か出せと言ってくるのがアメリカである。
イラン・イラク戦争でも日本は戦費として約1兆円を負担している。
「あの時の戦争は石油という日本も関わりのある事でしたが、今回は全く関係有りません。アメリカの自己都合です。精々日米安保の破棄と在日米軍の撤退でしょう。」
「それはそれで困るんだけどなぁ。」
最盛期に5万人居た在日米軍も現在は3万を切っている。
唯一、第7艦隊が横須賀と佐世保に置かれているが、肝心の空母は幸か不幸かハワイ近海に居た為、現在横須賀はカラで佐世保に居るのはイージス艦数隻のみである。
これだけ離れてしまった為、日米安保の破棄などは問題ないと言うか、仕方が無いのだが、自衛隊の装備品はアメリカ製の物が多く、完全に手を切られると非常に困る。
国産の物が多い陸自やヨーロッパ製のもある海自(イージスやSM-3を除く)は良いのだが、殆どアメリカ製な空自は非常に困った。
最も、当のアメリカも電子部品などを日本に頼り過ぎている為、一方的に手を切られる事は無いだろうが。
「まぁ、減ると言っても少しは残るんじゃないんですか?それより問題はこちらの方です。」
そう言って官房長官が見せてきたタブレットには『国連安全保障理事会開催のお知らせ』と書かれた通知書だった。
「何これ?」
「そのままの意味です。現在、国連の常任理事国のうち中国・フランスが戦争中、アメリカとロシアが一歩手前。そして中国は核兵器を使う程の戦況。後は自国の権益を認めさせたい国と助けが欲しい国、結果的に開催する事になったと言う訳です。」
一応北アメリカ大陸とユーラシア大陸の発見により常任理事国は全て揃った。
後は南アメリカ大陸とアフリカ大陸のみだが、常任理事国が居ないのでOKらしい。
ちなみにユーラシア大陸の位置はアメリカの真南に位置するらしいが精霊の影響かロシアの気温は10度程度しか上がって無いそうだ。
最も、それでもヤバイそうだが、何とかなっている。
現状は。
「とりあえずミレスティナーレの権益と秋津島で良いよ。」
「そうですね。戦争は不参加で宜しいですね?」
「国会通せる自信があるなら良いけど・・・」
官房長官は小さく「無理ですね。」と言って退出した。
自国を守る為ならともかく好き好んで戦争したい国など世界でも数ヵ国しか無いのである。
その数ヵ国が軍事ランキング1位、2位、3位なのが問題だが。
新世界歴1年1月24日、スフィアナ連邦国 首都レスティナード 首相官邸
「国際連合へのオブザーバー参加要請?なんだそれ?」
スフィアナ連邦国の首相官邸の執務室で外務大臣の報告に頭がハテナマークで一杯な首相が聞き返す。
「日本やイギリスが居た世界の殆どの国が加盟していた国際組織だそうです。」
「一応人は出した方が良いな。だが、何処でやるんだ?」
既にスフィアナにとって日本やイギリスは重要な国家だった。
取引相手を増やせる可能性があるなら、その会議に出席するだけ得だろう。
「アメリカという国の経済都市ニューヨークにその国際連合の本部があるそうです。ちなみに距離は直線距離で約1万5000kmです。」
「何で行くの?」
当然ながらそんな長距離を飛行出来る航空機は無い。
地球世界で最も長い航続距離の旅客機はB-777で約1万7446kmで有り、スフィアナの世界も同じくらい。
だが、GPSも何も無く、そんな距離を飛ぶ事は無く、そもそもアメリカの空港施設と通信できるかどうかすら分からないのだ。
「普通なら飛行機のようですが、GPSなどが機能しませんので船、軍艦で構わないとの事です。」
「日本とイギリスもなんだろ?まぁ、一緒に行った方が危険は少ないか・・・」
ここでの危険とは海賊や敵対国家などでは無く、海難事故などの危険である。
少なくとも1隻よりは複数隻の方が危険は少ないだろう。
「ちなみにその国際連合ですが、常任理事国と言われる5ヵ国の超大国が絶大な力を持っているようで、その国のうち1ヵ国でも反対すれば廃案になるそうです。」
「そんな時代遅れの制度がまだあるとはな。」
スフィアナの世界では既に50年程前に廃れた制度である。
核保有国が無い為、仕方が無いと言えばそれまでだが、権力の集中が起こりやすい制度でもあった。
「その5ヵ国は全て核兵器保有国で、そのうちの1ヵ国である中華人民共和国、略して中国と言われる国は現在戦争中で、つい最近になって核兵器を使用したらしいです。それで、その使った相手などを聞いてると空中巡洋艦など言っているので、恐らくアルテミスもしくはレムリアだと思われます。」
「はぁ!?レムリアはともかくとして、アルテミスって、我々の世界の土地で核爆弾を使用したのか!?」
前世界でのスフィアナ連邦国の仮想敵国であるアルテミス人民共和国が戦争をしていた事にも驚いていたが、核兵器を使用した国があると聞いてもっと驚いた。
スフィアナの世界では核兵器を使えば国が滅ぶ(比喩では無く)ので、核兵器を使用どころか保有する国すら居なかった
ちなみに空中艦艇はその機関に必要なエネルギー源が特別なので海の上では運用出来ない。
その為、少なくともスフィアナは運用していない。
「はい。ちなみにその空中巡洋艦は墜ちなかったそうですが甚大なダメージを受け帰還、西部に展開していた軍はすぐさま退却したそうです。」
「だろうな、それで?結果はどうなった。」
精霊がいる土地で核兵器を使用したのだから、どのような事になるのか想像は出来たが、一応聞いておいた。
「マグニチュード9.0の地震が発生し、海底火山が噴火、辺り一帯は津波で壊滅状態との事です。付近には上陸した中国軍と見られる部隊約15万人が展開していたのですが、無事では済まないでしょう。」
中国はアルテミア大陸占領の為、民間の輸送船まで動員して15万の兵力を揚陸させた。
しかし精霊が起こした天変地異により30〜40m級の津波が発生し、それにより海軍主力艦隊や民間輸送船団は壊滅、海岸線から数十キロ内陸部まで津波が押し寄せ前線基地は壊滅、15万の兵士達も津波に飲み込まれた。
「・・・やっぱりな。精霊を怒らせて良い事など何一つ無い。これが良い薬になってくれると良いのだがな。」
「はい。とりあえず国際連合には出席でよろしいですか?」
外務大臣が最終確認を行うが、首相はその通りだと頷いた。
「あぁ、艦艇の選抜は防衛大臣に任せると言っておいてくれ。」
「分かりました。」
彼がそう言うと外務大臣は了承し、退出して行った。




