24.降伏条件
新世界歴1年1月18日、日本国 首都東京 総理官邸
「ほぅ、ミレスティナーレ帝国が降伏案を受け入れたか・・・」
総理はようやく数日前に国名が分かった国が降伏した事を伝えられた。
「はい。降伏案の受け入れにより、敵地攻撃艦隊は攻撃を中止し、撤退しています。」
ミレスティナーレ帝国が降伏案を受け入れるまでは日本・イギリス・スフィアナの3ヶ国の艦艇が帝国の主要軍事施設に対して対地攻撃を行っていた。
既に数日間に渡る対地攻撃により帝国の陸軍基地を除く海・空軍主要基地は壊滅し、作戦目標の約7割を終えていた。
「ふぅ〜ん、で?この後どうなるの?」
「降伏ですので日本で平和条約に調印して終了です。」
当然ながら降伏したからと言ってそれで終わりの訳がない。
当事国の代表を呼び、降伏文書にサインさせなければならない。
「成る程、そう言えばスフィアナとの経済協定が纏まったみたいだね。」
とりあえず今では無いと思い、総理はここ最近の良いニュースについて官房長官に聞いた。
「はい。確かスフィアナの通貨のエルが日本円で約10円程だったかと・・・」
「GDP、どのくらいなの?」
どのくらいな規模かは不明だが、スフィアナ連邦国はそれなりの経済大国なのは十分に分かっていた。
「ドルに換算致しますと、1人辺り約5.7万ドルとヨーロッパ先進諸国よりかなり高いですね。ちなみに日本は約4.5万ドル、イギリスは約4.6万ドルで、全体は約4.9兆ドルで日本の5.4兆ドルよりは低く、イギリスの3.3兆ドルの約1.4倍になります。」
ちなみにこの時のドル円相場は1ドル120円程度の為、スフィアナの1人辺りは約680万円、日本は約540万円、イギリスは550万円である(相場もある為、実感的に実際にはそこまで高くは無い)。
国単位だとスフィアナは590兆円と、日本の650兆円よりは低いが、イギリスの400兆円よりは遥かに多かった。
スフィアナの人口は約8600万人の為、1人辺りは約680万円と、ヨーロッパ先進諸国並みという事だ。
ちなみに日本の人口は約1億1500万人、イギリスは約7000万人である。
「4.9兆ドルって、我が国より遥かに人口少ないのに・・・」
「ちなみにドルは去年の値ですので今もし、取引を再開すれば1.5倍から2倍になってるかと・・・」
アメリカが何処かあるか分かってないので株式市場は今年は閉じたままである。
もし再開すれば上場企業の株価は大幅に下落し、1929年の暗黒の木曜日から始まる世界恐慌以上の経済不況になるのは間違い無かった。
ちなみに日本が保有しているドルは約120兆円もある為、ドルの価値が下落すれば間違い無く、日本の資産が大幅に減ることにもなる。
逆にこれまで1ドル100円だった相場が1ドル50円と円高になれば、単純計算で国のGDPはドル計算では2倍になるのである。
「そんなので増えても嬉しく無いよ。」
新世界歴1年1月18日、日本国 首都東京 防衛装備庁
元々あった技術研究開発局の拡大発展版である防衛装備庁は自衛隊の技術開発や調達などの装備全般を扱う防衛省隷下の省庁である。
親組織の防衛省が約2万1000名の職員を抱える中央省庁最大組織なのに対し防衛装備庁は10分の1以下の約1800名の親組織と比べて非常に小さな組織である。
そんな防衛装備庁は他の省庁と同様に、発足以来最大の忙しさを迎えていた。
理由は台湾国防省が6隻ものFFMを購入したいと通達してきたからである。
別に輸出は防衛装備移転三原則などにより可能で、これまでに『US-3』救難機や防空レーダーなどを輸出している。
問題はそれらを遥かに超える30億ドルという契約提案である。
「え〜、台湾国防省よりもがみ型FFM6隻を約30億ドルで購入したいとの通達を受けました。」
防衛装備庁だけでは無く親組織の防衛省、経済産業省、財務省、外務省の職員も参加している中、防衛装備庁海上自衛隊担当の職員から報告が入る。
「建造は何処で行うんだ?康定級みたいに我が国で行うのか?」
「建造は我が国で、保守整備は台湾になります。またある程度の防衛技術移転も考慮に入れて欲しいとの事です。」
職員の「防衛技術移転」発言に何人かの幹部が渋い顔をした。
中国が消えたからといえ、元々中国だった台湾に日本の防衛機密を渡しても良いのか?という疑問が残る。
せめて、中国に渡っても問題無い技術に絞りたかった。
「FCSとC4Iシステムを除いてるなら問題は無いのでは?ソナーは簡略化した物か台湾のソナーを搭載すれば良い。」
「台湾としてはガワが欲しいだけだろ?流石にシステムまで購入出来るとは思って無いだろう。とりあえずこれ以上の話は三菱やJMUなどの民間企業が居ないと話が進まん。」
そう、発注元や管轄元は防衛省や防衛装備庁などの国なのだが、実際に建造を行っているのは三菱やJMUなどの民間造船企業なのである。
国が許可すれば彼等は意気揚々と他国に売るだろうが、現時点では企業の担当者がいなければどうしようも無かった。
「そうですね。とりあえず防衛装備庁としてはOKという事で宜しいですか?」
「あぁ、構わん。」
とりあえず、台湾への艦艇輸出が許可された事で防衛装備庁の担当者は安堵した。
新世界歴1年1月18日、ミレスティナーレ帝国 帝都ミレス 参謀本部
ミレスティナーレ帝国が日本・イギリス・スフィアナの3ヵ国に降伏すると伝え、とりあえず艦隊は撤退し、攻撃される事は無くなった。
そして、その後降伏の条件となる物がミレスティナーレ帝国外務省に届き、またもや参謀本部内で会議が開かれていた。
ちなみに彼等達に報告を行うのは外務省の下っ端外交官である。
とりあえず上司に言われるがままこの参謀本部に着いたら警備の銃を持った兵士達に案内され、扉を開けたら目の前にはこの国の最高権力者。
その両側にズラっと並ぶのは下っ端外交官である彼でも名前くらい知ってるような有名人達。
彼は(何故自分が?)と心の中で思わざるを得なかった。
「では、降伏の条件を報告せよ。」
自分の場違い感を痛感しながらも下っ端外交官は皇帝陛下の前で降伏条件の報告を始めた。
「3ヵ国が求めてきたのはリサニア荒野の採掘権とフェルニア油田地帯の採掘権の2つで、付随としてその2つの採掘を護衛する為の軍隊の駐留です。」
それを聞いた時、周りの出席者達は一斉に騒がしくなった。
しかしそれらの反応は大きく二分された。
「フェルニア油田は我が国最大の油田地帯だぞ!?」
「その油田が無ければ他の油田を増産しても明らかに石油不足になる!」
「他国の軍隊が我が国に駐留するなど・・・」
1つはミレスティナーレ帝国本国最大の油田の割譲による経済界からの大反発と他国軍駐留に対する憤慨。
「リサニア荒野?あんな不毛の大地、何をする気だ?」
「それで講和出来るから良いのでは?」
もう一つは何の価値も無い不毛の荒野の採掘権を要求してきた事に対する疑問。
ちなみに日本とイギリスがフェルニア油田を要求、スフィアナがリサニア荒野を要求していた。
「恐らく原油を購入する事を見越しての採掘権要求でしょう。」
一応、この要求に関してはミレスティナーレ帝国が大損するという事は無い。
3ヵ国が要求したのは採掘権で有り免税特権では無い。
その為、採掘すればするだけ税金がミレスティナーレ帝国の懐に入るのだ(普通よりは安いが)。
更にミレスティナーレ帝国より技術が進歩している国での石油の精製、間違い無くこれまでより高オクタン価の燃料が手に入る。
その為、経済界でもこれには意見が二分したのである。
「ところでその3つだけなのか?余の首や領土の割譲要求などは無いのか?」
「その3つだけです。どうやら3ヵ国は我が国と貿易を行いたいようでサッサとこの戦争を終わらせたいようです。」
皇帝の質問に下っ端外交官が答える。
そう、日本・イギリス・スフィアナの狙いはサッサとこの戦争を終わらせてミレスティナーレ帝国という市場に自国の製品を売り込みたいのである。
ミレスティナーレ帝国の人口は約3.5億とアメリカと同等クラスの市場だ。
更に圧倒的な技術優位が有り、中国のような扱いづらさも無かった。
「そうか、ならば余としては異議は無い。その条件で済むのなら構わない。」
その皇帝陛下の一言で条件を全て受け入れる事が決定した。
そして日本・スフィアナ・イギリスとの外交チャンネル開設準備が決定され、即座に進められた。




