23.性能より値段
新世界歴1年1月17日、台湾民主国 首都台北 大統領府
旧中華民国総統府だった建物内で現在、重要な会議が開かれていた。
元々、台湾は独立したいが中国からの圧力によって独立出来ないという立場を強いられていた。
しかし転移により中国大陸は無くなり、独立の最大の障害が無くなった。
更に現在の政権を握っているのは台湾独立派の民進党。
その為、政府は国名を中華民国から台湾民主国に改め独立宣言を行ったのである。
台湾の独立宣言に日本・オーストラリア・ニュージーランドそして近くなったイギリスやアイルランド、そして異世界の国家であるスフィアナが承認した。
台湾民主国の成立により、総統は大統領となり、中華民国総統府は台湾民主国大統領府となったのである。
今回の会議の目的は『地理的環境の変化による国防態勢の変化』。
つまり、これまで陸軍重視だったのを海軍重視に変更しよう、という事である。
「海軍の艦艇は老朽化により戦力としては厳しいものがあります。人員は何とか出来ても艦艇が古いままでは任務のこれ以上の拡大は不可能です。」
海軍の任務拡大案に海軍長官は否定的な意見を述べる。
ここ十数年で台湾の海軍は潜水艦やコルベットの自国建造やフリゲートの輸入により近代化されていった。
しかし、外洋能力のある艦艇は殆ど手が付けられておらず、未だにアメリカの中古艦艇が主力だった。
「康定級フリゲートでは駄目なのか?」
そう発言したのは財務長官である。
台湾民主国の財布を預かる彼としてはなるべく海軍に出す予算は少なく抑えたかった。
つまり、現存の艦艇で何とかして欲しかったのである。
ちなみに【康定級】はフランスの【ラファイエット級】を原型として設計・建造はフランスで行われたフリゲート艦である。
現在の台湾民主国海軍の主力艦艇であり、全6隻が就役していた。
「無理です。もし仮に【康定級】を建造するならフランスに頼るしか有りませんが、建造国のフランスは何処にいるか不明。更に【康定級】は対空能力に難があり、次艦はVLSの設置が望ましいです。」
そう、【康定級】は全6隻がフランスで建造され、フランスが見つからない限り造る事は出来ない。
更に【康定級】の元となった【ラファイエット級】は対潜装備を搭載して居ない。
更に対空装備も【ラファイエット級】に装備されている『アスター15』対空ミサイルが輸出されずに、対空能力が貧弱という欠点を今でも抱えているのである。
「となると、自国建造か・・・イギリスか日本かスフィアナか・・・」
「スフィアナは国交を結んだばかりだから無理だろう。」
台湾周辺で国交を結んでいる国は日本・イギリス・アイルランド・オーストラリア・ニュージーランド・スフィアナの6ヵ国。
この中でも自国で先進的な艦艇を建造出来、他国にもその能力を解放する能力のある国は日本とイギリス、そしてスフィアナ。
スフィアナ連邦国は国交を結んだばかりで不可能である。
となると日本かイギリスしか選択肢は無い。
日本、イギリス両国共に海軍艦艇の建造は十分に行えるだろう。
そして台湾が望んだ艦艇のダウングレード版なら直ぐに売ってくれるだろう。
「と、なるとイギリスの26型フリゲートか、日本のもがみ型FFMのどちらかかな・・・」
【もがみ型】FFMはいわゆる3900t型FFMの事である。
既に2022年から年1隻〜3隻のペースで計14隻就役しており、海上自衛隊の主力護衛艦である。
原型は同じだが、アップグレードされており、現在のFFMは第3世代である。
【26型】フリゲートはイギリス海軍の主力艦艇であり、既に8隻が就役している。
双方共に【ラファイエット級】とは違い、対艦・対空・対潜の台湾の要求性能を満たしている。
そして恐らく、ダウングレード型や旧式の装備は輸出してくれる。
「45型見ていると日本かな?26型の値段は?」
【45型】はイギリス海軍のミニイージス駆逐艦であり、これまでに6隻が建造され就役している。
1隻辺りの建造価格は約1000億円である。
【45型】と同等クラス・性能の【あきづき型】護衛艦は日本の和製イージス艦であり、これまで同系列艦合わせて6隻が建造され就役している。
1隻辺りの建造価格は約750億円の為、【45型】の約4分の3程である。
「1隻辺りの建造費が約5.5億ドル。もがみ型FFMは4.5億ドルですね。」
「性能的にもFFMかな?」
そもそも実際に売却される時は兵装や電子装備などは簡略化されたり、外される為1割〜2割は安くなるのだが、会議内ではイギリスの【26型】を押す人間は居なかった。
台湾としては日本の艦艇が欲しいのである。
だが、これまでは中国との関係上売ってもらえなかったのだ。
「6隻で30億ドル以内に収めて欲しいね。」
財務長官の発言により【26型】という選択肢が消え失せた。
6隻で30億ドルと言う事は1隻辺り5億ドルという事。
1隻辺り5.5億ドル(売却なら約6億ドル)と既に予算を超えている【26型】は予算的に無理だったのである。
そもそも台湾の2030年のGDPは約1.2兆ドル。
一方のイギリスは約3.3兆ドル、日本は約5.3兆ドルとそもそもの国としての規模が違うのだ。
「FFM一択だな。」
国防長官の発言に会議室内の全員が頷く。
どうやら異論はないようだ。
この決定により台湾民主国国防省は日本国防衛省に対し【もがみ型】FFM6隻の購入希望を通達する事になったのである。
新世界歴1年1月17日、日本国 愛知県 航空宇宙自衛隊 小牧基地
航空宇宙自衛隊小牧基地には戦闘機部隊などは配備されておらず、輸送隊が1個輸送航空隊配備されているだけの基地である。
しかし、航空宇宙自衛隊の装備開発などを行う三菱重工の工場などがある為、自衛隊の航空機が何度もロールアウトされている基地でもあった。
更に自衛隊の航空機の性能試験などを行う岐阜基地から非常に近い為、マニアの中では割と知られた基地でもある。
そしてそんな小牧基地の自衛隊施設側とは反対側にある民間エリア、そしてその中の三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所内のだだっ広いハンガーの中では2人の男性が目の前にある2機の機体を見て話していた。
「いやぁ、素晴らしい機体ですねぇ。」
「本国との距離が近くなったお陰で船で運ばずに済み良かったですよぉ。」
片方の男性は航空宇宙自衛隊のデジタル迷彩服を着用しており、もう片方の男性はイギリス空軍の青系統の迷彩服を着ていた。
目の前の機体は双方共に非常に似ていた。
片方の日の丸が描かれている機体は『F-2A/B』戦闘機と同様に海洋迷彩と言われる迷彩塗装だった。
「来月に揃ってイギリスでしたっけ?」
「はい。BAEシステムズに持って行って検査する予定です。ロールアウトはその後ですね・・・」
イギリス空軍の迷彩服を着た人は面倒くさそうにそう呟いた。
航空宇宙自衛隊の人は同情するように呟く。
「まぁ、これでプロジェクトテンペストも完了です。結局開発費は当初予定の1.5倍程かかりましたがね。」
そう、この2機の機体のうち片方はイギリス・イタリア・スウェーデンが共同開発した3ヶ国共同主力戦闘機開発計画、イギリス名:『テンペスト』計画の戦闘機である。
日本は運用思想の違いから『テンペスト』計画には参加しなかったものの、高出力のハイパワーエンジンや戦闘システムなど様々な分野で『テンペスト』計画と協力した。
そしてもう片方は日本名:『F-3』の実戦配備初号機なのである。
日本は主契約者三菱重工、そしてロッキードマーティンが技術支援するという形で開発したので書類上は全く別の機体だ。
ただ、一部部品の共有化などを行っているので全く別の機体とも言い切れないのだが・・・
ちなみに日本とイギリスの機体は大まかな性能は同じだが、細部の性能は違う。
例えば日本の『F-3』にはAAM-5空対空誘導弾やASM-3B空対艦誘導弾の運用能力も備えている。
逆にイギリスの『テンペスト』にはミーティア空対空ミサイルやアスラーム空対空ミサイルの運用能力がある。
あと、イギリスとイタリア、スウェーデンの機体は同じである。
全く別のイギリスの機体が日本にある理由は開発中の実地飛行試験でイギリス空軍の『テンペスト』のエンジンが不調を起こした為、生産工場兼整備工場のある小牧基地まで来たのだ。
搭載しているエンジンは双方共に同じなのだから。
「見た感じやっぱり大きいですよね。」
「そうですね。双発の大型ステルス戦闘機ですから。F-22より大きいでしょう。」
ちなみに、ここまで大きくなった理由は機内に8発のミサイル搭載と長大な航続距離を求めたからである。
その為、『F-2A/B』や『EF-2000』のように単発エンジンでは要求性能に達せず双発エンジンの大型戦闘機となったのである。
「世代で言ったらどのくらいです?」
「5.5世代、システムの更新次第では6世代ですね。」
「成る程・・・」
ちなみに『F-2』や『EF-2000』は第4世代、や『F-35』は第5世代である。
そもそも第6世代型戦闘機の定義が決まっていない為、5.5世代としか言いようが無いのである。
そうこう話していると空自の人がふと思い出したように話し始めた。
「そう言えばスフィアナでも同じような双発の大型ステルス戦闘機がロールアウトするそうですよ?」
「ほぉ、スフィアナが。まぁ、同じ島国だし設計思想は似てくるんですかねぇ。ところでなんて言う名前なんです?その機体。」
スフィアナ連邦国空軍の機体と言うと『ノヴァーク』『ヴァイパー』『ライナー』などアルファベットと数字の組み合わせでは無くヨーロッパみたいに名前を付けていた。
ちなみに『ヴァイパー』はスフィアナが開発した戦闘機らしいが他の『ノヴァーク』と『ライナー』は他国が開発した戦闘機だそうだ。
その為、イギリス空軍の男性はその機体にも何か名前が付いていると思ったのである。
それを聞いて空自の男性は思い出したように呟いた。
「確か、こう言ってましたね。セイレーンと・・・」




