22.領土問題は解決していても面倒だ
新世界歴1年1月16日、アメリカ合衆国 首都ワシントンD.C. ホワイトハウス
「さて、この2週間で判明した事を全て報告してくれ。」
この国のトップがそう言い、会議が始まった。
何故、2週間も経った今頃なのかと言うと、貿易が止まり経済が硬直し始めた為、合衆国全土で失業者が倍増。
その結果、全米で暴動が発生、治安が悪化したのである。
アメリカやカナダはまだマシだったが、メキシコでは暴動により内乱状態となった。
その為、現在のメキシコは半分程無政府状態となり100万を超える難民がアメリカとの国境に押し寄せたのである。
当然アメリカは国境を封鎖し、難民の入国を拒否。
その結果、無理矢理アメリカに密入国しようとする者が現れ、国境検問所は大混乱に陥った。
その為、州軍だけでは足りず合衆国軍まで動員する結果になったのである。
更に痺れを切らした州軍が無理矢理国境を超えてくる難民達に向かって発砲、流血騒ぎとなったのだ。
その対応に追われ、各長官が今になってようやく会議に出席出来る様になったのである。
「皆さん現在の治安状況は嫌と言う程分かっていると思うので地理状況の説明から・・・」
そう発言したのは国防長官である。
「ロシアや日本、ヨーロッパは確認出来ませんでした。更にパナマ運河から向こう側が無くなっており、少なくとも1000kmは広大な海が広がっていました。」
「は?・・・つまり、どう言う事だ?」
大統領が意味が分からないと言うように国防長官に説明を求める。
大統領の思いは他の会議出席者も同じ様で、国防長官に視線が集まった。
「南アメリカ大陸が消えていたという事です。パナマは国が半分無くなりました。」
「ちょっと待て、パナマ運河から向こう側という事はパナマ市は?」
パナマの首都であるパナマ市は運河隣接する大都市である。
そして、その位置は北アメリカ側では無く、南アメリカ側にあった。
「南アメリカ大陸と共に消え去りました。」
「・・・大丈夫なのか?」
パナマはパナマ運河により2分されている形であった。
パナマ運河から南アメリカ側が消えても国の半分は北アメリカ側にあった。
「政府はパナマ第2の都市であるダビッドに移っており、現状内乱などの大きな混乱は無いようです。」
「・・・なるほど、分かった。他には?」
何故、首都の無いパナマは何とかなってるのに、首都があるメキシコは大混乱なのだろうと思いながら次の話に進める。
そもそも1億3000万人の人口のメキシコと400万の人口のパナマを比べる事自体間違ってる。
「・・・前世界のフィリピンの位置にオーストラリア大陸程の大陸を確認しました。文明はそれなりにあるかと。」
その情報はここ最近で最も朗報と言える発見だった。
文明がそれなりあるなら、アメリカと貿易し、少しでもマイナスを和げてくれればと思っていた。
「よし、接触しろ。後日本でも中国でもヨーロッパでも良いから何としてでも見つけるんだ!」
「はい。では続いて・・・」
アメリカを動かす大統領とその仲間達の会議はまだまだ続く。
新世界歴1年1月16日、日本国 首都東京 外務省
「・・・では、この島と島の間の丁度中間地点に国境線を引き、審査は島から本国の時に行う、という事で宜しいですか?」
「はい。構いません。」
日本国外務省内の会議室。
他国との交渉などで使用する専用の部屋である。
今、この部屋に居るのは6名。
まず、日本側からは外務大臣や事務方の計3名。
対するはスフィアナ側からも外務大臣や事務方の計3名。
日本とスフィアナが国交を結び、初の外相級会談だった。
今回の外相級会談が開かれたのは両国の丁度中間地点に転移した2つの島が原因だった。
普通なら日本とスフィアナが1島づつ領有して終わりなのだが、両島は非常に近く、土砂が堆積してつながってしまったのである。
最も、中間地点に国境線を引く事が決まってたようなものなので、領土問題という程の事では無かったのだが、ミレスティナーレ帝国の北海道とアルフヘイムの侵攻により今日まで遅れに遅れたのである。
「では、こちらの条約調印書にサインをお願いします。」
そう言って日本側の職員が渡して来たのは本のように開く調印書と呼ばれる物である。
その調印書には日本語とスフィアナ語でそれぞれ同じ事が書かれており、その下に日本国外務大臣のサインが既に記載されていた。
その下にスフィアナ連邦国外務大臣がサインをすれば、この条約の効力が発するのだ。
「えぇ。」
そう言い職員から調印書を受け取った外務大臣は記載内容を確認し、調印用のペンを使いサラサラっとサインを書いた。
「はい。では現時点にてこの条約は効力を持つ事となり、日本国、スフィアナ連邦国、両国の領土問題は最終的に解決されたものとみなします。」
彼の宣言にて日本名:秋津島、スフィアナ名:ミレス島を巡る両国の問題は最終的に解決された。
そして今回の条約、日ス領土関連条約により両島の開発は本格的に行われる事になる。
正直言って、ここまで面倒な領土問題にしなくても両国の共同統治で良いのでは?という意見も少なからずあった。
だが、散々領土問題で揉めまくっている日本の意見により両国の主権が決定されたのである。
後にこの2つの島からかなりの量の鉱物資源が発見される事となり、「この時主権を決めておいてよかったな。」とはスフィアナ連邦国首相の言葉である。
新世界歴1年1月16日、ヨーロッパ フランス・スペインの国境地帯
道路上をスペインやポルトガルからフランスへ向かう移民・難民の列が続いている。
フランスもスペインも加盟国内の国境移動を自由に行わせるシェンゲン協定に署名しており、国境検問所などはそもそも無い。
その為、普通の道路の脇にフランスとスペインの国境である事が書かれている杭が打ち込まれているだけである。
そんな道路のうち人が通っていない(意図的に通れないようにしている)道路を戦車を載せた重量物運搬車や自走している歩兵戦闘車の車列がスペイン側へと向かっていく。
「人が途切れませんね。」
「人口1000万の国と4600万の国から来てるんだ。1ヶ月経っても途切れる事は無いだろう・・・」
自走しているプーマ歩兵戦闘車の上で車長と射撃手が横の道路をぞろぞろと歩く移民・難民の列を見ながら呟く。
彼等の胸にはドイツ連邦軍である事を示す黒十字のエンブレムが描かれていた。
彼等はドイツ連邦陸軍の機甲部隊である。
「おっ?F-35・・・オランダか、ベルギーか・・・」
彼等の上を『F-35』戦闘機と見られる機影の戦闘機の編隊が飛んで行く。
形でどの戦闘機か分かっても何処の所属かまでは分からない。
だが、来た方向から『F-35』戦闘機を保有しているのは前世界だとオランダ・ノルウェー・デンマーク・ベルギー・イギリスの5ヵ国しか無い。
イギリスは消え去り、ノルウェーとデンマークは対ロシアにより、数少ない航空戦力を移動させる訳にはいかない。
となるとオランダ空軍かベルギー空軍の『F-35』という結論に至った。
ちなみにフランスもドイツも『F-35』は採用しておらず、共同で戦闘機を開発しているが、まだ配備すらされていない。
「占領された場所、どうなっているんでしょうね・・・」
「さぁな・・・」
無愛想に聞いているのか聞いていないのか分からないような返答をしてくる車長だが、彼は考えないようにしているのである。
市街地に平気で攻撃をしてくるような国に占領された場所がどうなってるかなど想像すらしたくない。
恐らく殺されているか強制労働がオチだろう。
「とりあえず最終防衛ラインはスペインとフランスの国境らしいですけど・・・」
「何とかなるんじゃ無いのか?無理ならフランスが核使うだろう・・・」
それ、別の意味で心配だ!と心の中で思う射撃手だが、フランスならやりかね無いと思い、何も言わない。
ちなみに地中海にはフランスの核ミサイルを搭載した原子力空母【シャルル・ド・ゴール】、大西洋には核搭載の原子力潜水艦が展開している為、車長の発言もあながち嘘では無い。
「相手国の兵器は数世代劣ってるみたいだし、多分大丈夫じゃ無いのか?数が問題だけど・・・」
実際に、スペイン空軍の『EF-2000』を撃墜したのは『F-4.ファントム』に似た戦闘機だった。
それから察するに、相手国の兵器は1世代か2世代程遅れている、と言うのがNATOの出した結論だった。
最も、その数が一番の問題なのだが、何とか押し返している状況だし大丈夫じゃね?と兵士達は思っていた。
最も、国名もレムリア帝国とか言う聞いた事も無いような国だったので交渉出来るかどうかは分からない。
その為、正体不明国とスペインとの国境に押し戻す、というのがNATO上層部の出した結論だった。
「本当に大丈夫なんすかねぇ。」
射撃手の発言は周りのエンジン音や走行音に消されて誰の耳にも入らなかった。




