20.奪還
新世界歴1年1月14日、日本国 北海道 陸上自衛隊 釧路駐屯地
日本で唯一の石炭の炭鉱があり、今現在も採掘中の炭鉱がある釧路市。
郊外に行けばタンチョウも居る釧路湿原などもある観光地だが、少子高齢化の影響もあって、人口は右肩下がりだった。
しかし、そんな釧路は現在非常に賑わっていた。
もちろん一般の人達では無い。
迷彩服を着て、手には小銃を持った陸上自衛隊の隊員達によってである。
しかしそんな地方の衰退都市である釧路もこの辺りでは立派な都市である。
釧路市街地郊外には釧路空港が位置し、陸上自衛隊第5師団隷下第27普通科連隊が置かれている釧路駐屯地などもあり、国防上重要な拠点である。
更に、今回のミレスティナーレ帝国の北海道侵攻では北海道で最も東にある駐屯地という事で、鹿追駐屯地から第5旅団隷下の第5戦車大隊の『90式』戦車が釧路付近に展開していた。
もちろん陸上自衛隊の防衛ラインである国道391号線に展開しているのは戦車だけでは無い。
北部方面隊隷下の第1特科群や第4特科群の『HIMARS』や『FH70』などで、北部方面隊の隊員の約4分の1に当たる約1万人がこの防衛ラインに展開していた。
既に、八戸駐屯地の第2対戦車ヘリコプター隊の『AH-64E』戦闘ヘリコプターが網走方面から知床半島までを掃討し、奪還している。
まだ奪還していないのは中標津別町・別海町・根室市の3つの街だけだった。
しかし陸上自衛隊の新無人偵察機システムにより、敵地上部隊は掃討済みの為、中標津別町・別海町にはいない事が確認された。
そこで自衛隊は第4特科群の『HIMARS』を敵が居る根室から50km程離れた浜中町の霧多布岬に展開させた。
幾ら戦闘機からのミサイルや榴弾砲による砲弾で削ったとしても1ヶ所に固まれば奪還する自衛隊にも被害が出かねない。
防衛省はそう判断したのである。
「司令、霧多布岬に展開した第4特科群より準備が完了したとの報告がありました。」
『HIMARS』はトラックの荷台にロケット弾発射機を載せた装備である。
これまで陸上自衛隊が保有していた『MARS』は無限軌道式であり、それだと機動性に難があった。
『HIMARS』だと、道路を走り展開地点に付いたら発射準備をするだけである。
非常に機動性が高いのだ。
「あぁ、御苦労。海自さんからの連絡は?」
「第7護衛隊が根室沖合に展開しています。【まきなみ】【しらぬい】は砲撃位置に入りました。」
最終攻撃は陸上自衛隊と海上自衛隊の合同攻撃だった。
陸から『HIMARS』、海から護衛艦の127mm砲と5インチ砲。
そしてその援護の元、戦車や装甲車の主力装甲部隊が奪還する。
これが今回、防衛省が立案した作戦の中身である。
「昨日、空自が攻撃したらしいですが、どの程度の被害でしょうか?」
「レーダーサイトや市庁舎は瓦礫の山らしいな。全く、巡航ミサイルなんて過剰威力なだけだろう・・・」
既に根室市は敵の巡洋艦や駆逐艦による艦砲射撃などにより瓦礫の山となっている。
前日の航空自衛隊の『F-15JX』の対地巡航ミサイルによる攻撃での目標地点は3ヶ所。
1つ目は航空宇宙自衛隊の根室分屯地、もう一つは根室市役所と根室振興局、最後の一つは根室港にある海上保安庁根室海上保安部である。
結果、全ての建物が完全に瓦礫の山と化した。
ちなみに何故マーベリック対地ミサイルでは無くJASSM-ERを使用したかと言うと、防衛装備庁の強い要求のせいである。
JASSM-ERはその900kmという射程距離から、国内の射撃場での実験は困難である。
その為、全ての保有装備が使える防衛出動の現在に試験も兼ねてJASSM-ERを使ったのである。
その事を彼等が知る事は無いのだが、中途半端にやられるよりはマシだろうと結論付けた。
「現在時刻19:00!」
自衛官の1人が作戦開始時刻である事を伝えて来た。
「・・・作戦を始めろ。」
司令は深く考えた後、部下に作戦開始を伝えた。
「作戦開始!!」
こうして、国籍不明国が日本の領土である根室を占領してから6日後の西暦2030年1月14日、日本国自衛隊は最後の奪還作戦を開始した。
新世界歴1年1月14日、日本国 首都東京 防衛省市ヶ谷庁舎A塔地下 中央指揮所
防衛省の地下に設置されている自衛隊の最高指揮を取る施設である中央指揮所。
有事の際には陸海空三自衛隊の各戦略単位のC4Iシステムと連接した中央指揮システムを通じて一元的に部隊の指揮を取る事が出来る。
そんな中央指揮所には現在、北海道に展開している各部隊からの報告がひっきり無しに入って来ていた。
「霧多布岬に展開した第4特科群のHIMARSが攻撃を開始しました。」
「根室沖に展開した海自艦艇が砲撃を開始しました。」
「厚床周辺に展開した特科部隊が砲撃を開始しました。」
各前線部隊からの報告が中央指揮所に間隔を開けずに入ってくる。
中央指揮所の正面に設置されている大型モニターには北海道に展開している部隊が一目で分かるように表示されていた。
「まさにゲームみたいだな」と発言したのは中央指揮所に居る川野防衛大臣である。
「海自の護衛艦から戦闘ヘリ部隊が発進しました。」
「温根沼大橋が敵部隊に爆破されました。」
温根沼大橋は根室半島の付け根に掛かっている国道44号線の橋である。
この橋が使えなくなると南側の142号線を使わざるを得なくなる。
「第5戦車連隊が敵防衛線を突破。西和田に到着しました。」
突破と言っているが、ミサイルや砲弾の雨が敵部隊に降り注いでおり、最早反撃してくる敵など殆ど居なかった。
更に別働隊が根室半島先端の納沙布岬方面から陸上自衛隊の輸送ヘリコプターに乗って展開している。
こちらの部隊は装甲車や戦車などは無いが、海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦から展開している『AH-64E』戦闘ヘリコプターが支援に当たっている。
「敵部隊の残存戦闘機を確認。空自のF-35が撃墜しました。」
「あんだけ攻撃して、まだ戦闘機を隠し持ってたのか・・・」
敵がまだ戦闘機を持っていた事に対して総理が驚いたように呟く。
自衛隊の戦闘機ならばこんな不整地で運用する事は非常に困難であるが、敵の戦闘機はレシプロ戦闘機である。
根室市のアスファルト道路からでも離陸する事は出来るだろう。
当然ながら自衛隊の戦闘機とは比べるまででも無いが、鈍足な戦闘ヘリや地上部隊からしてみれば脅威になり得る。
「恐らく何処かの学校に隠してたんでしょう。グラウンドでヘリコプターの運用は可能ですから。」
「何?事前に叩かなかったのか?」
防衛大臣の予想に総理が詰め寄るが、防衛大臣は「何が問題ですか?」と、話を進める。
「学校をミサイル攻撃すれば、学校は間違いなく瓦礫の山になります。もちろんこの事を考慮して対空ミサイルを装備した戦闘機を付近に待機させていたんですよ。念のため部隊の一部には携帯式の対空ミサイルも持たせていました。」
流石の自衛隊と言えども敵に奪われた分屯地に攻撃を加えるのには躊躇は無かったが、学校に攻撃するのは躊躇された。
もちろん、これはまだ住民がいるかもしれないという事ではなく、奪還後、自衛隊は学校を復興の拠点にしようと考えていたからである。
総理も防衛大臣の答えにとりあえずは満足したのか、それ以上は言ってこなかった。
「それにしても、それなりの捕虜が出ているようだな。」
「そうですね。想定では3000人程になります。とりあえず東千歳駐屯地内に捕虜収容所を建てましたが、足りますかねぇ。」
何故、東千歳駐屯地を捕虜収容所に選んだのかと言うと、ただ単に自衛隊が配備されている空港が近く、マスコミがシャットアウト出来るからである。
「何人程度を想定していたんだ?」
「1500〜2000名です。まさか艦隊が地上部隊を放置して逃げ出すとは想定外でした。そのまま居たら輸送艦は放置したんですが・・・」
今回の作戦で防衛省や自衛隊にとっての一番の誤算は艦隊が尻尾を巻いて逃げ出した事である。
しかも、地上部隊が艦隊が逃げ出した時点で降伏しなかったのである。
補給の無い部隊が古今東西勝てた試しは一切無い。
なのに艦隊が撤退した。
それが自衛隊、正確には防衛省の1番の誤算だったのだ。
「まぁ、拡大するだけですが、面倒ですね・・・」
防衛大臣がそう言った約30分後、敵部隊が降伏、根室は自衛隊が奪還したのである。
ちなみに、敵側の捕虜は約3421名で、東千歳駐屯地に急ピッチで捕虜収容所が作られる事になった。




