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「え? なに? なに? なんかあった?」
むくりと起きだしたマキナが尻尾を振りながら寄ってきた事で、重かった空気が一気に散った。
存在を忘れていたが、シイナはマキナを気絶させていたようだ。
「マキナって空気読めないよね」
シイナがげんなりして口を尖らせた。
「あー、まぁ、いいじゃねーか。あの手紙も早く手を打たねえとなんねーしな」
そう言いながら、改めてミマキからの暗号に目を落とす。
「そうだね。でも、リツいないよ? どうする?」
「だな。参った」
「あ、これ? リツいないと厳しいよな!」
悔しいが、どうやらマキナですら内容が分かってるらしい。
「あの、それなんなんですか?」
三人の視線が集まる。
じっと見つめられて居心地が悪くなった頃、シイナがポンっと手を叩いた。
「サクヤに行ってもらおう」
「え?」
「顔は悪くねぇな」
「ん?」
「いいねいいね! 楽しくなりそうだ!」
「は?」
ジリジリと嫌らしい笑顔を浮かべた三人に詰め寄られて後ずさる。
「な、なにを……」
「サクヤ、喜べ。初仕事だぞ」
「いやいやいや、なんかすごい嫌な予感がする! というか、初仕事はそれ持って来る事でしたよね?」
トンッと背中に走った軽い衝撃が、背後に逃げ場を失った事を告げた。目の前ににやけたゴウの顔が迫る。
「仕事っぷりが良かったから、早速二回目の仕事だ。良かったな。シイナ、逃げねぇように壁に括りつけとけ! マキナ、大至急エレーネを呼べ!」
「あいあいさー!」
マキナが物凄いスピードで外へと飛び出し、いつの間にやらシイナに縛り上げられていた。
「な、何するんですか!」
「まぁまぁ、落ち着こう」
手を叩きながら満面の笑みでシイナが言う。
「すぐに分かるさ」
ゴウの凶悪な笑みを前に、背中に嫌な汗が流れた。
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「なんでこうなった」
無気力に呟く。
「かわいいわぁ〜! リツ並みの出来ね!」
ごりごりのマッチョが体をくねらせて言う姿に、がっつりと生気が吸い取られた。
マキナが呼んできたエレーネは、暴力的なまでの外見をしていた。
ゴウ以上に逞しい体つきをフリフリの服で隠し、若干の機能性を重視したのかミニスカートという暴挙。見た目だけで人を殺せるような外見だ。
破壊的そのビジュアルに、視界に入った瞬間、俺のライフはゼロになった。
「はぁ、ス・テ・キ! 食べちゃいたい!」
そう言いながら俺の顎をエレーネの指が這って、地面がぐにゃりと曲がる。
倒れそうになったところを、ゴウが受け止めてくれた。
「サクヤには刺激が強すぎたかもしれねーな」
「あら、ずいぶんな言いようじゃない」
エレーネが両手を腰に当てて、苦笑するゴウに頬を膨らます。
「お子ちゃまにはまだ早いって事さ」
「あら、アタシの魅力に酔ってしまったのね。可哀想に」
そう言いながら人差し指をくるくる回してウィンクをした。
エレーネの一挙一動で、俺の精神力がガリガリと音を立てて削られていく。
「エレーネはすごいからな! こんなにフリフリでも一番強いし」
「やだわ、それ褒めてないわよぉマキナちゃんったら」
「私はエレーネを尊敬してる!」
「も〜マキナちゃんたらぁ、可愛すぎるわぁ」
エレーネにがっしりと抱き締められて、それでもマキナは嬉しそうだ。
天然なのか、アホなのか。ブレないマキナを見ていると、凄い人間に見えてくるから不思議だ。
エレーネが気にならないわけではない。どんな背景で、どうして、いつからレジスタンスに加わったのか。これからレジスタンスに加わる俺は、他のメンバーの事を知らなさすぎるからだ。
だが、それを差し置いても絶対に触れてはいけないと俺の本能が警告を鳴らしていた。
「と、ところで、これはどういう事なんですか?」
エレーネをなるべく視界に入れないようにしながら、視線を下に下げて自分を見る。
俺の魂が体から離れている間に着替えさせられていたのだ。
「さっき会話に出たが、リツっていう顔が整ったメンバーがいてな。いつもはそいつにやってもらっている任務を、今回はサクヤに頼みたいと思ってる。この中じゃお前しかいねーからな」
肩までずり落ちた薄いニットをワンピースのように着て、下はショートパンツとニーハイソックス。完全に性別を間違えた服装だ。ワックスを付けられてはねた髪をいじりながらため息をはく。
「なんの任務かしりませんが、女装でもしないといけないんですか?」
確かに俺は線が細いかもしれないが、こういう扱いはいただけない。少し傷ついた。
「女装じゃねーよ。そんなもん相手は望んでないからな」
ゴウが鼻で笑う。
「じゃあ一体……」
「あらやだ! 本人に話してないの?」
いつの間にやら近寄ってきたエリーナに頬ずりされて一瞬意識が遠のいた。この歩く起爆装置をどうにかしてほしい。
「よーしよく聞けサクヤ。これはとても重要な任務だ。相手は世界樹の高官で、その中でも薬の製造を担っている人物だ。そいつのキーが欲しい」
ふざけた格好をさせられているので大した任務ではないと思っていたが、重要な任務だったようだ。
エレーネから命からがら逃れた俺は、ゴウに向き直る。
「なるほど。キーというのは?」
「世界樹を操作するカードキーだよ。それをスキャンしたいんだ」
そう言ってシイナが指で挟んだカードを差し出してきた。
ただの透明なカードに見える。だが、透かして見ると、血管のように回路が幾重にも張り巡らせてあり、とても高度な技術で作られていることが分かった。
「このカードで、そのキーをスキャンすればいいってことですか? スキャンって正確にはどうしたら……」
「落ち着け。スキャンはこっちで操作する。お前は、奴のカードキーにこいつを重ねて時間を稼ぎ、最後に回収してくればいい」
「これ、耳に着けておいて。こっちの指示と、そっちの会話が聞こえるから安心して」
シイナの手のひらに乗った、小さなイヤホンのような物を耳に着ける。それは形状を変えて耳にフィットし、透明になった。
「これはすごい。カードといい、これといい、レジスタンスには相当良い技術者がいるんですね」
そう言うと、得意げにシイナが胸を張った。
「まぁ、僕って実は相当すごいから」
「……へ?」
思考が追い付かず、間の抜けた声を出す。
「え?」
俺の反応を見て、シイナが狐につままれたような顔をする。
ゴウが苦笑しながら言った。
「あ-、サクヤには言ってなかったな。うちの技術者はシイナだ」
素直に驚く。見た目は大分子どもだが、その技術力は確かな物のようだ。
十人か精鋭というのも、強ち間違ってはいないのだろう。
「実はすごかったんですね。実は」
「その言い方、ひどいよね?」
不貞腐れた顔でそっぽを向くシイナを見て笑みがこぼれた。
「さぁて、そろそろ出発するぞ。時間もねぇしな。支度しろ」
ゴウの一声で、各々が動き出す。
ゴウ自身も珍しくスーツに着替えていた。
「ところでどこに向かうんですか?」
俺がそう聞くと、ゴウはキュッとネクタイを締め、顔だけをこちらに向けてニヤリと笑った。
「ブラックマーケットだ」




