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5分だけの魔王様!

評価ありがとうございました!もう少し早く投稿できるように頑張ります。

 白く何もなかった景色はキャンパスの空白が色や陰影で埋まっていく。眼前には剣を振り上げたトールの姿、さっきまでは死を覚悟させらるほどの恐怖を与えたその形相。だが、今の俺にはこの腕輪がある! 今すぐに魔力を込めて魔法を発動してトールをボコしてやりたい所だが、まだ俺の身体の時間も停止したままだ。

 この瞬間この世界で脳が動いているのは俺だけなんだうと思うとなんだか優越感がある。視界に映っていた印象派の絵画みたいな世界がしっかりと形成されていく。


 来たっ、脳から全身へと神経が広がっていく感覚、止まった時間の中でトールを倒すシミュレーションはばっちりだ。

さぁ行くぜ! そして世界は動き出す!


「うおらあああああああ!!」


 白い腕輪に魔力の光が灯る。全身に魔力を流し込み自分の筋肉量を超えた力が漲ってくる。咄嗟に漆黒の剣を両手で握り絞め、振り下ろされたトールの赤銅の剣の芯を捉え真正面から打ち払った。ガキィンと鉄に鉛玉を撃ち込んだような甲高い音が響いた。


「なんだと!?」


「へっ、随分痛めつけてくれたじゃねえかトール! 危うくちびる所だったぜ!」


「何をした……なんだその魔力は!!」


 トールは剣を打ち払われて仰け反った勢いで後方に宙返りで距離を取った。カッコつけやがって、騎士団なんかやめてサーカスでも始めろよ。だがその呆けた顔が見れただけでも良しとするか。豆鉄砲を食らったのは奴だけじゃない、この場にいる全員が目を向いて俺を見ている。


「凄い……何をしたのオウマ? さっきの光、守護精霊なの!?」


「おうマリアム、オウマじゃない……スーパーオウマだ!!」


「すーぱぁー? よくわかんないけど頑張ってオウマ!」


 異世界人には俺のウィットにとんだシャレが解らないみたいだ。ああ嘆かわしい。


「まあいいさ、今すぐ決着付けつけてやるから赤飯の準備でもしてな!」


 魔力を更に全身に循環させ治癒能力を高め出血を止める、悲鳴を上げていた筋肉が再生して痛みが引いていく。そして脚に魔力を込めて全力で床を踏みつけ駆け出した。


「うおらァっ! スーパーオウマ斬り!」


「その程度でっ! ”騎士の御楯”」


 俺の迸るパトスに任せて放った一撃はトール掛け声で現れた十字型の魔法の盾に受け止められた。なんだよ騎士の癖に魔法なんかに頼りやがって。剣を弾かれ姿勢を崩した俺に一瞬の隙に剣を差し込んでくるが、それをバックステップで躱し距離を取る。


「なんという速く重い剣……スーパーオウマだったか、貴様力を隠していたな!」


「ま、まて、スーパーオウマは忘れろ! なしだ、あれはそういんじゃない!」


「ふん、力任せの剣技、スーパーオウマ斬りなど帝国騎士には通じない!」


「やめろぉ! あれはノリで言っただけだから! もう二度と言わないで!」


 くそっ、強力な精神攻撃魔法に耐えられそうにない、ほんとマジ勘弁してくれ! 黒の腕輪に光が灯る。体内で煉られた魔力が黒の腕輪を通して左手か揺らめくように溢れ出る。その魔力を更に圧縮し直径五十センチ程の大きさにさせ高速で放った。


「剣は得意じゃないんでね、これでも食らえ”魔炎弾”!!」


「漆黒の炎だと!? ぐっ、がぁあああ!」


 俺の放った魔炎球はトールの魔法盾を一瞬で飲み込み弾けさせた。防ぎきれずに溢れ出た魔力の爆風でトールは吹き飛ばされ魔法壁に叩きつけられた。さっきまでの俺とは真逆の構図だ。思ってたより威力はでなかったが帝国騎士団を圧倒できる力が発揮できているようだ、腕輪ちゃん愛してる! 腕輪に思わず頬ずりしちゃうね。ついでにありがとうエイレーネ、エイレーネがエイレーネじゃなければ毎日手を合わせて礼拝を始める所だった。


「騎士の御楯が一瞬で破壊した……、あの魔法、火の属性に見えたが既に火の勇者は召喚されている。どういう事だ?」


 熊のおっさんが驚いている。まあ無理もないな、混沌魔法は魔王しか使えないこの世界には存在しない魔法だとエイレーネに聞かされている。ふん、珍しかろう!その目にしっかり刻んでおけよ。ふはははは! 


「あの黒炎の魔法、もしや……、いやそんな筈は!」


 今度は魔術師のじいさんが回りの人間を押し飛ばして魔法壁まで駆け寄ってきた。あれ、じいさん混沌魔法ご存知?! それはそれでやばくね? 魔王しか使えないやつ俺が使ってたらヤバくね? もう使っちまったもんはしゃあない、なんとかなるだろう!


「ど、どうだ! これが勇者の力だ!」


「我々の勇者様がやってくれたぞ!」「うおおおおおおおお!」「勇者!勇者!勇者!」


 相変わらず俺を召喚した魔術師達はノリがいいな! だが、まだ勝っちゃいない。トールが立ちあがって剣を構えた。やつの闘志と剣は未だ燃え上がっている。


「何を勝ったつもりでいる、これしきの事で帝国騎士団は倒れたりしない!」


 燃え上がる剣を上段に構えて俺目掛けて疾走する姿は炎の旗揺らめかせながらの特攻に見えた。だが剣技で勝負するつもりはない。力は制限さていても無尽蔵に近い魔力で魔炎弾を連続で放つ。


「もっかい吹き飛べ魔炎弾!!」


「騎士の御楯!! うおおおおおおおお!!!」


 さっきまでの魔法盾とデカさが違う、盾というより壁だ。間断なく黒炎弾を全弾撃ち漏らす事無く命中させていく、二発、五発、十発、魔法盾に亀裂が入り堅牢な盾は端から魔力が解れるように消失していく。だがそれでもやつは止まらない。


「くそっ! いい加減止まれよ!」


「負けるものか!」


「なっ、魔法盾の下にもう一枚の盾だと!? そんなんインチキだろ!」


 砕け散った魔法盾の下からマトリョーシカのように現れた魔法盾、魔炎弾を放ち続けているが距離を詰められ過ぎている、次の盾を壊して本体にぶち当てる前に剣の間合いまで接近されちまう。なら、後手に回るより迎え撃つ以外の選択はない、剣を両手に持ち直し魔力で身体を更に強化しトールに斬りかかる。


「らっああああああ!!」


「力は俺の方が上だぜ!」


 剣が搗ち合って火花が散る。このままお前事ホームラン決めてやる!


「それはどうかな、うぉおおおおお!!」


「がっ、剣が重い……!」


「腕と脚の装備に魔法掛けて身体を強化している。これが獣人の身体強化に対抗する為の騎士団の知恵だ!」


 トールの身体に巻かれたサポーターのような物が鈍い赤色に染まっている。多分だがそれが外骨格とかいう物の役割を担っているんだろう、決闘に補助アイテムなんて有りか普通? 更に剣や金属装備全てに加重の魔法がかかっているのか、剣で押し返えそうとしてもトールの身体ピクリとも後退しない。


「んなろう! ”魔炎弾”!」


「”騎士の御楯”!」


 近距離で魔炎弾を放つが防がれる、その隙に剣を引いて間合いを取り、強化された身体能力で我武者羅に剣を打ち付ける。


「オラオラオラオラオラオラ!!」


「くっ、子供のような剣の使いかたを!」


 振るった剣戟の全ていなされる。だがこれでいい、勇者でもない奴の魔力量なんてものはたかが知れている。このまま反撃の隙を与えず攻撃を続けていてば魔力切れを起こしたトールが勝手に自滅してくれる。勝ったなガハハ!


「おい貴様! その腕輪はなんだ、いつの間にそんな物つけた?」


「はん、今更気が付いたか! この超絶イカしたおしゃれアイテムに! っお!? なんか点滅してるんですけどおおおお!!」


「なんだ、今更っ気が付いたのか」


 何で点滅してんの? え? え? 魔力が底を尽きる感覚まったくないし寧ろ吐いて捨てる程有り余ってるんだけど……。いや、よく見ると電池マークみたいのがあるぞ!? これってバッテリー切れって事かよ? 聞いてないんスけど! なんで先に言わないんだよエイレーネ、馬鹿なのか? 知ってるけどお前馬鹿なのか!?


「お、おい早くやられろこの馬鹿!」


 魔炎弾を交えながら剣を何度も打ち付けるがトールは俺の動きに順応していっている。こいつバケモンかよ!


「何をせいでいる?」


 そうこうしている間に腕輪の明滅がいっそう激しくなっていく。どうする、いっそ剣を捨ててステゴロで戦うか? だがリーチも威力も落ちる。くそ、俺にスティラコサウルス拳が使えれば……!


「くそっ、決め手がねえぞこんなの!」


 いったんトールから距離を取っ打開策を考えてみるがなにも思い浮かばない。腕輪の明滅が俺を急かしてくる。腕輪二つで充分って言ったの誰だよ! おい、エイレーネもっかい助けろ! お前その為の女神様なんだろ!


「オウマ! 魔剣に魔力を思いっきり込めて! それは研究室で作った試作の魔道具なの、魔力を大量に消費するから今まで誰にも扱えなかったけどオウマなら使えかも!」

 

 俺の真の女神、マリアムが結界越しに叫んでいる。


「まじかよ……女神は地上にいたんだ! やってやる!」


 この漆黒の剣に今出せる全力の魔力をつぎ込む。手の平から魔力が柄へ流れ出し、水を乾いた土にかけたように何の抵抗もなく吸収されていく。身体強化魔法とは比にならない量の魔力が流し込まれ柄から刀身へと続く葉脈は脈動を始める。


「うおっ! なんだよこれ……剣が生きてる!? つかデカくなってる!?」


 漆黒の剣はメキメキと音をたてながら肥大化し、刀身が伸びて刃先がひび割れて欠け落ちそうになるが、その間を根が張ったように繋ぎ合わされて歪な長剣へと変貌を遂げる。変化はそれだけに収まらず漆黒の刀身が白金に輝き始め葉脈の先から余剰の魔力が溢れ出し、葉っぱの形をした魔力が生まれては散っていく。

 まるでプロジェクションマッピングを駆使した最新のオブジェみたいだ。


「な、なんだその禍々しい剣は、それは聖剣だと言ってなかったか!?」


「知らなかったか、巷ではこういうオシャンティーなのが流行ってんだよ! それにな、勇者が使えば木の枝だってでっかい氷柱だって聖剣って呼ぶんだよ! 食らえおらぁああああああああ!!」


「そのような張ったりだけの剣で憶するとでも思ったか!」


 腕輪は明滅はうるさいくらいに続いているが、その光は少しづつ鈍いものに変わっている。このひと振りが終わればもう魔力は使えないだろうと直感する。トールの剣は纏う炎の勢いがまして蒼炎に変わっていく。どうやらあいつも出し惜しみなしで全力の一振りで俺と搗ち合うつもりだ。


「終わりだぁあああああああああああ!!」

「落ちろおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺の剣筋に合わせて落ち葉が舞う。トールの剣筋の後に蒼炎が尾を引く。剣が触れ合った瞬間互いの後方へ爆風が走り魔法結界に罅が走る。刀身同士でのせめぎ合いなんてなかった。瞬きする間もなく全てが一瞬で終わっていた。


 腕輪は明滅やめ、俺の魔剣はかざりっけのない黒いだけの物に戻っていた。そしトールの剣が砕け散った鋼が舞った。呆然と立ち尽くすトールの胸当てのプレートは切り裂かれて血に濡れている。


 ああ、俺は勝ったんだ……。しばらく混沌魔法は使えないだろうが、トールの剣を砕いて俺は無傷で立っている。勝利の興奮は冷めやらず震える身体を通して俺は叫んだ――


「俺の勝だぁあああああガッ!?」


 あれ? 視界が揺れてる……。床? いつの間にかひっくり返ってる? なんだこれ、まさか腕輪の反動か? いや違う。顎が痛いぞ……。


「そこまでだ! トールお前の負けだ。これは決闘ではなく試練、彼は勇者に匹敵する程の力を示した。これ以上無様な醜態を晒す事は騎士団への侮辱となる!!」


「そんな……俺が負けだと……」


 熊のおっさんお声とともに結界がなくなった。霞んだ視界の先には青ざめたトールとその右手に握られていたのは折れた剣の柄、ナックルガードだった。剣の刃は砕けたが強化魔法はまだ残されていたようでそれは最後の灯のように淡く光っていた。


 あんにゃろうナックルガードで俺の顎をぶち抜きやっがたのか――――


「オウマ、オウマ! しっかりして! あなたは勝ったんだよ! 私達の勇者になったんだよ!」


 マリアムの嬉しそうな声と他の魔術師達のどよめきを最後に俺の意識はここで途絶えた。

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