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オウマ・クロキの守護精霊 

神視点です。

 

 マリアム・グレイは恋焦がれていた。それはマリアムがまだ四つの頃、毎晩母にねだって読み聞かせて貰っていたお伽話の中の光の勇者様に。そしてそのお伽話の勇者は両親を失った日から自分の空虚な心を埋めてくれる拠り所になっていた。


 それは十二年前の事だった。それまで百年もの間沈黙を続けていた魔王が再び活動を始めた。百年の歳月は人間達、連合国の警戒心と戦力を弱めるには充分過ぎた。連合国に加盟していた国々の結束は薄れそれぞれ水面下の争いを続け、完全に瓦解し戦争が始めるのも時間の問題だった。

 そんな時再び現れた魔王に手と手をとり団結して対抗する事など到底不可能であった。最悪な事に連合加盟国には魔王の息がかかった亜人、獣人達が潜伏していた。彼らは団結が緩んでいた連合軍をいとも簡単に瓦解させ、魔王崇拝者を集め決起を起こし各国への内部攻撃が始まった。

 元々一部の立場が弱く虐げれていた亜人と獣人達がそこに便乗し反旗を翻した。その牙は連合国に向けられ戦火は広がり、連合国の内の三大勢力であった国の一つ、龍王国が落とされ多くの死者と戦災孤児を生んだ。


 その時にマリアムの両親は亡くなり、帝国魔術師団団長として戦場に立っていた母方の祖父。マーリン・グレイに引き取られる事になった。


 しかしマーリンは当時、娘を失った悲しみから復讐に駆られ、家に帰る事もなく様々な戦場を駆け回っていた。そんな毎日に無理がたたり戦場で大怪我を負い自宅に戻ると知人に預けていた孫娘マリアムは両親を亡くした心的障害で会話ができない状態だという事を知らされる。知人から何通も送られていた手紙をマーリンは今まで一通も目を通していなかった。マーリンの心もそれだけ壊れていたのだ。


 自分の過ちに酷く後悔したマーリンは怪我を理由に帝国魔術師団団長を辞任した。それまでの功績があったマーリンを連合国中枢の帝国が他国へ渡る事をよしとしなかった為、マーリン・グレイ専用の椅子を用意してできたのが魔道具研究機関だった。

 それからマーリンが固く閉じられたアリマムの心を開こうとして光の勇者召喚を利用した。そしてマーリン自身も深く傾倒していった。

 マリアムはやがて言葉を取り戻し、魔法の腕を上げていった。そして光の勇者のお伽話の発祥地を幾つも訪ね、帝国には伝わってない伝承や口伝にしかない情報を集め、光の勇者の真実へと近づいていった。

 いつしか絵空事だと馬鹿にされていた二人のだけの研究は似たような境遇をもった者達への光となり少ないながらも共鳴者を集め現在にいたる。


 調べる内に分かったのは光の勇者は四大勇者とは別に召喚されいていた存在である事。しかし四大勇者同様、世界樹の雫なしでは成し遂げられない事。だが世界樹の雫は魔王が現れた時に、一度しか使えないとう聖約がる。この矛盾を解決したのは意外な事に魔道具研究機関であった。

 数年前に魔法を発動する際に漏れ出たした余剰魔力を吸収し蓄える魔道具の制作に成功していた。これは戦闘で利用するには携帯性に欠け、魔力再利用の観点からしても非効率であったため日の目を見ることができなかったが、光の勇者の伝承が残る土地で全く同じ効果が持つ道具が存在してたのを知り全てが繋がったとマーリンは思った。


 そして時は来た。四大勇者の召喚が執り行われ、その余剰魔力をひっそりと集め、計算通り勇者一人分の召喚を適える為の世界樹の魔力を手に入れた。

 使える機会はただ一度だけ、もし失敗すれば生きている内には次の機会は訪れない。世界樹の雫はマーリンとマリアムの願いを叶える流れ星だった。


 だが無常にも全ての願い込めて現れたのが黒木央麻だった。


 伝承とは程遠い覇気のない濁った双眸。召喚と同時に現れたと云われている四元素とは異なる光を放つ加護精霊は現れず。見る者に勇気を与えたとされる輝く聖剣すら持っていない。


 伝承を深く知らない魔術師達は不可能と思われた召喚が叶った事態に歓喜していたが、伝承にそぐわない央麻にマリアムは失敗を悟り酷く落胆していた。そしてすぐさま送還の儀を行おうとしていたマリアムをマーリンを収めた。彼は央麻の深い内側に秘める何かを感じ取ったのだ。

 それはマーリンが魔王の眷属の証を持つ魔族と対峙したとき、空間を歪ませる陽炎のように溢れ出す異質な魔力だ。それと極めて近い秘めたる力を。マーリンは央麻に全てを掛ける事にした、もし彼が勇者でなかったのであればマーリンは国家反逆罪を問われ死ぬまで幽閉されるだろう。勇者一人分を召喚できる世界樹の雫を秘匿し極秘裏に使用したのだから。世界樹の雫を戦術魔法として使用していれば魔王国軍四天王の一人を屠れる可能性を秘めているのだから。



――だが彼は勇者ではなかった。


 目の前では帝国騎士団に取り立てられたばかりの少年が央麻を一方的に痛めつけている惨状。剣の構え方も覚束なく戦術魔法も扱えず、そればかりか人間が得意としていない亜人、獣人が得意とする身体強化魔法を扱っている。あれでは四天王の一人どころか魔族すら倒すのも無理だろう。

 少年の騎士団員が重量魔法で剣に強化を掛けた、剣が対象に触れていない間だけ重力を減らし触れた瞬間に倍の重力と慣性を乗せる最高位魔法だ。若年で習得し得る魔法でなく彼の異常な才能を伺わせた。


 央麻は成すすべなく魔法結界の壁まではじき飛ばされ無様叩きつけられた。マリアムの悲鳴が漏れ研究員達も痛々しい央麻の姿に思わず目を逸らしてしまった。

 そして自分たちの召喚が不完全な為に無残に勇者を殺してしまうのではないかという恐怖。

 

 マーリンは思った。このまま央麻が死ねばマリアムの心に落ちた影は二度と消えなくなってしまうのではないかと、そして帝国魔術師団団長に試練を中止するように駆け寄った。しかしマーリンの申し出は聞き入れられなかった。


「勇者様は召喚の不手際で万全ではない、原因がわかるまでまって貰えないだろうか」


「あんたも落ちぶれたもんだ、あれは勇者なんかじゃない。あれは魔族に属する亜人だろう、本当はあんただって理解しているはずだ。人類を脅かす亜人はここで排除させてもらう。世界樹の雫秘匿の件、覚悟して頂きたい。マーリン・グレイ元魔術師団団長」


「そんな頼む、孫娘の前でだけは……後生だルーカス、頼む! 全ての責任と裁きを受ける覚悟はある!」


 縋り付くマーリンをルカースは怒気をはらんだ声で突き放した。


「やめろ、あんたの背中を追いかけていた魔術師だっているんだ……それ以上無様な醜態を晒すな! 誰かこの爺さんを連れて行け!」 


 地面に膝を付き項垂れたたマーリンを魔術師団員を両脇を抱え立ち上がらせた。マーリンはこれから央麻が殺される事と、それに傷つきまた心を病んでしまうマリアムの事を考ええた。目の前の全てが後悔と消失感で暗く塗りつぶされ行くようであった。


――出て来いっ!!エイレーネぇええええ!!!!


 玉座の間から連れ出されるマーリンの耳に央麻の叫びが響いた。それは絶命の悲鳴か、マーリンに向けた呪詛の言葉か、マーリンにはもうそれを理解する気力は残っていなかった。


だがその時マーリンの暗く淀んだ目に強烈なまでの光を差し込んできた。


 玉座に魔の天井に天空が現れ太陽が落ちてきたのかと錯覚するほどの輝き。騒めきだす人々。

 央麻の叫びに呼応するように出現した。翼を携えた女性の輪郭を象った光、誰もがその姿を正しく認識する事をできずにいた。ただ一人を除いては――



「あらら~? オウマさんちょっと目を離した途端に死にそうなってるのやめて貰えませんか? ぷっ、うける」


「ウケねえよ! アホ! バカ! 詐欺師! 地獄に落ちろこの野郎!」


「まっ、詐欺師だなんて、オウマさんが言っちゃいます? 絶賛勇者勇者詐欺をなさってるオウマさんが?!」


「ああ!? それはお前が敵の本陣に送り飛ばすからだろうが! 魔王になれとかほざいて俺を玩具にして遊んでたんだろう!」


「まぁまぁ、このスーパ女神なわたくしがそんな非道な事をするとでも? ぷんぷん! 私にだってイリーガルな事態なんですー! 私に落ち度なんてこれっぽっちないんですー!」


「なら俺を魔王の城に召喚して本来の勇者をここに呼び出せよ! 今すぐに!」


「うわっげきおこですねオウマさん、私もそうしたいのは山々なんですけどね、そう簡単な事じゃないですよね~。ここ私の管轄外ですし、本来なら干渉する事すら許されてませんから今来てあげたのも出血大サービスなんですから!」


 これまでと変わらないエイレーネの態度に毒気を抜かれた央麻は少しだけ留飲が下がり冷静さを取り戻してきた。


「はぁー……。ならどうすんだよ、俺、死んじゃいますけど? 文字通り大出血でお前が来なくてもまた天界に逝く三秒なんですけど?」


「あれれ? まだ気が付いてないんですか? 今この最強モテカワ女神が時間を停止させてるので執行猶予はばっちりですよ!」


 気が付けば央麻の周りはいつしか見た白く何もない空間に変わっていた。


「……俺また死んでやり直しなんてないよな?」


「ご安心を、またはありませんから」


 いつもニヤついているエイレーネが真顔で答えた。それは央麻が次死ねばそれで全てが終わりだと暗に告げていた。


「……流石に保険切れか、安心できねえわ。それでこの状況どう切り抜けたらいいんだよ、暗黒魔法使えない魔王なんてくそ雑魚じゃねえか」


「私もこんなに弱い魔王はじめてみました~! いい教訓になりました、魔王短期集中育成コースは廃止ですね~無駄を省いた革新的なアイディアだと思ったのにな~」


「俺で試験運用するのやめてくんない?! つか俺を助けにきたんだろ? なんとかしてくれよ!」


「しょうがないな~オウマ君は~。勿論そのつもりなんですけどね、本当は魔王の身体に作りかえる位の事をしてあげたいのですが制約がきついんですよぉー。でも魔王を作るのに失敗したと天界から文句を言われるのも尺なんでどうにかして魔王に成ってもらいます!」


エイレーネが手をお椀のように合わせるとその上に光の輪を出現させ、その中に手を入れて女神の意匠が彫刻された腕輪を四つ取り出した


「じゃじゃ~ん! ここに女神が選ぶ今トレンドのサポートアイテムの腕輪が四つあります! なのでこの中から二つをオウマさんにお渡ししましょう」


「は、なんで四つ見せた? どうせなら四つとも寄こせや!」


「二つで充分ですよ!」


「いいや全部寄こせ!」


「わかってくださいよ!」


「お前それ言いたかっただけだろ!」


「バレちゃいました? うふふ~」


エイレーネがパチンと指を鳴らすと手元にあった腕輪が消え、央麻の両腕に腕輪が移動した。腕輪を確認すると右腕には白の腕輪、左には黒の腕輪がそれぞれ嵌められていた。


「おおっカッコイイじゃん、それでどうやって使えばいいんだ?」


「使い方はただ今までの様に体内で魔力を練って使うだけです。黒い腕輪は暗黒魔法を放ったり選択した対象に纏わせる為の物で、白い方は身体強化や目的の対象に直接流し込んで作用させる物になってたりします」


「はー、何となく解った。これ今まで通りに最強無敵のチートプレイができるんだな?」


「それなんですけどね、さっき言ったように制約がきつくてそこまで強力なアイテムの譲渡は禁止されてまして、現在使用できる暗黒魔法は依然の威力の十分の一に満たないでしょう。身体に循環させられる魔力量もそれくらいですね」


「は? なんだよそれ!? そんなんじゃ勇者と戦ったら絶対に勝てないだろ!」


「まあそういう事になっちゃいますよね~、なんでオウマさんの目下の目標はなんとかして魔族領に行ってオウマさんではない魔王から力を貰って真の魔王になっていただきます!」


「十分の一程度の力じゃ辿り着く前におっちぬだろうが……」


「その辺は魔王の刻印を受けた魔族や魔物を倒して刻印を奪えば腕輪が強化されますのでコツコツとレベル上げしていけば何とかなるでしょう。場合によっては先客の魔王さんと戦う事になるかもしれないので魔族の四天王を倒して刻印を奪って腕輪強化しておく事をお勧めします」


「古典ファンタジーRPGかよ……楽して最強魔王になった意味がまるでないな!」


「伸びしろがあるって事は幸せな事なんですよ? っとそろそろタイムリミットが近いみたいですね、時間が動き出す前にモテカワ女神のワンポイントアドバイスです。さっさとチュートリアルバトル終わらせて例の酒場的な所でも探して仲間を募ってください。一匹オオカミ気取って生き残れる程こっちの世界は甘くはないので」


「その仲間集めってお前のほうでセッティングとかしてくれたりしない?」


「あらあら~こっちのチュートリアル必要ですか~? 良いですかオウマさん、これは難しいようで簡単でちょっぴり難しい事なんです。あなたが気取らず、強がらず、敬う事を忘れなければ簡単なんです。あなたが小さい頃は当たり前にやってた事なのに、忘れてしまったんですか?」


「うっせ、色々あんだよ人生ってのは! てかこれから魔王になるって奴の仲間になんてなってくれる奴いんのかよ」


「そうですね、でもこれからは貴方の人生です。私はもう干渉する事ができません、貴方が成せることを可能な限りやってみてください。もう時間がありません、私から最後に言えるのは……えっと、ほら……あれです、今後の検討をお祈り申し上げます!」


「いい感じな事言ってたのに最後はお祈りテンプレメールかよ! しんみりした俺の気持ちを返せ!!」


最後にエイレーヌが優しく微笑んだ気がした。その姿が光の中へと溶け出し、輪郭の境界が曖昧になっていく。エイレーネの光が収縮していくにつれて白く染め上げられてた周りの景色が露わになっていく。眼前には今にも剣を振り下ろそうとしているトールが彫像のように錆びえ経っている。


さあ、反撃の始まりだ。央麻は不敵に笑ってみせた。

二日以内に次ぎ投稿予定です。メインヒロインまだ出せそうにもないです。

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