どうにも俺は勇者になるしかないらしい 3
俺は今は今世最大の窮地に立たされていた。全身の裂傷から血が滴り、全身の骨が軋み悲鳴をあげている。これで死んだら次のチャンスはもう貰えねえだろう……。
――――
あれから俺達は城の中庭まで案内され、そこで待っていたのは帝国騎士団。そして帝国魔術師という連中だった。帝国魔術師とは攻撃系魔法、防御系魔法、強化魔法、の三つの戦術魔法を極めた精鋭達の事を言うらしい。さらに全員ゴテゴテと刺繍が入った白銀の外套を身に着けていた。そしてそいつらも俺達に嘲るような視線を向けていた。
帝国魔術師から零れ落ちた魔道具研究機関を見下している節があるとマリアムが言っていた。この世界では武器や防具を魔法で強化する事ができるらしい。だから帝国魔術師にとっては魔道具とは魔法が不得手な人間の為の補助輪程度に思っていて、前線で戦わず銃後で道具をせっせと開発してるこいつらを馬鹿にしているようだ。
「試練を前に呆けた面をして、頭でもおかしくなったか?」
「はっ、目が覚めたら病院のベッドだったってオチがついても変じゃねえわな」
「全くやつらは一体何を召喚したのやら……」
脳内サクセスストーリの草案を練っているのを邪魔しに来たのはトールだ。さっきまでの帝国騎士の甲冑ではなく俺と同じような急所や腕などだけを金属で覆った軽装備だ。動きやすいタイマン装備って訳か。
「準備はできたようだなオウマ・クロキ、ではこれから勇者の試練を取り行う。構えろ!」
トールに急かされて俺は漆黒の剣を構える。剣を突き合わせ向いあった俺とトールの周りを帝国魔術師団が円形にぐるりと囲み杖を構えた。すると光の碧く透明な魔法壁がドーム状に展開され俺達をすっぽりと覆っていった。
「なんだこれ? 金網デスマッチでもさせられるのか?」
「勇者の試練と名された俺と貴様の決闘だ。お前が勝つ事ができたのなら勇者として認められ、国王陛下から勇者の紋章を授かれる。そして敗北は――」
「負けた時の話なんか聞く必要ねえよ」
「覚悟済みか……」
試合開始を告げる喇叭が玉座の間に鳴り響いた。
トールは幅も広い両刃の剣を上段で構え、弾けるように駆け出した。俺の片手剣でまともに受けば最悪剣ごと真っ二つにされかねない。冷静に対処して身軽さを活かした攻撃を活かせば正気はありそうだ。俺は剣を今一度強く握りしめ腰を落としてそれらしい構えをする。俺の適当な我流の構えにトールの動きが一瞬だけ鈍る。馬鹿め、俺の勝だ!
剣と左手を交差させ手の平を前に突き出し体内に秘めた混沌の魔力を解き放ち高出力で解き放つ!
「一撃で沈めてやるぜ、ぶっとべぇええええ!!!」
――――
「随分と侮ってくれるではないか、オウマ・クロキ、戦術魔法なしで帝国騎士の俺に勝てると思ったのか!」
一瞬の閃光。トールの剣が凄まじい風切り音を鳴らし、前髪の先を掠め取っていく。その剣筋には迷いはなく、繰り出される一太刀のどれを取っても直撃を受ければ致命傷となるだろう。
それに引き換え俺は貰い物の不慣れな剣でトールの剣筋を僅に逸らせて魔法で強化した身体能力で強引に避ける事が精一杯だ。反撃する隙を窺うどころか、避ける事に全神経を集中させ、息を整える暇すら与えちゃ貰えねえ。
「どうした寄せ集め勇者! 少しは打ち返してこい!」
「はぁはぁ、ぐっ、くそ! どうなってんだよ!」
俺を煽ってきているようだがトールの間断ない連撃を交わすのに精一杯だ、なによりそれどころじゃない。普通ならとうに決着がついてるはずなんだ、俺唯一の武器にして最大の力、混沌魔法を発動する事さえできれば……!
さっきから何度も試はいるが、混沌の魔力体内で発生させようとすると酷い頭痛と眩暈に襲われ、無理をすれば頭蓋を内側から砕くような痛みに意識をもってかれるかもしれない。今俺ができるのは混沌魔力を極限まで薄め元素魔力に変換して何とか発動させた、この世界でありふれた身体強化魔法のみだ。他の四大元素を用いた戦術魔法なんて全く知らない。
「筋力強化に視力強化、ふっ、まるで獣人のような戦い方じゃないか! その程度で勇者を名乗るなど帝国を侮辱しているようなものだ!」
トールの怒りに身を任せた大振り薙ぎ払い。強く踏み込んだ足元の床石が砕けちった。更に武器強化の魔法が掛けられた剣がトールの膂力を超える速さと力が乗せ俺に襲いかかる。
避け切れないっ! 軌道を逸らすのは絶対に無理だっ!!
こんなの剣で受け止めるしかっ! 魔法強化された剣はその質量を無視している。車に跳ねられたような衝撃が全身に走った。一瞬の浮遊感……あまりの衝撃で何が起きたか理解できなかった。
「がはっ……! ゴホッ、ゴホッ」
背中に鈍痛と肺の痛みで飛びかけた意識を繋ぎとめていた。息が上手くできない。嫌な汗が額を伝い目に入る。ああ、くそ痛てぇ……。
背中には堅いなにか、魔法壁だ。その向こう側には青ざめて半ベソかいているマリアムの姿があった。
「オウマ、オウマ起きて! 死なないで……!」
爺さん立ちも顔面蒼白で俺を見ていた。帝国魔術師ども当然の結果を見るように冷めた視線を送ってきやがる。混沌魔法が使えないなら俺なんかが勝ってこない……。
「ふぅ…ふぅ…っ、生まれ変わった瞬間に死んで堪るかよ……!」
震える膝をに喝を入れて何とか立ち上れた。身体強化をしてなかったら全身の骨が折れて立ち上がる事すらできなかっただろう。トールの魔法剣を受けとめた右腕は痺れて感覚が麻痺している。
ああ、もう無理だな降参しよう。その後の事はその時に考えよう……。
「その剣はよっぽど頑丈にできているようだな。その剣もろとも貴様を両断するつもりだたのだが」
俺がなんとか立ち上っている間にトールは目の前まで来ていた。
「なっ、お前、俺を殺す気だったのか!? しゃれになんねえぞっ!」
「今更何を言っているんだ貴様は? 当たり前だろう、勇者でもない得体の知れない奴を生かしておくと思っているのか?」
「な、どういう事だよ?! マリアム、爺さん!」
嘘だろ、そんな話聞いてないぞ! マリアム達も驚愕の表情を浮かべ困惑しているようだった。こいつらも何も聞かされてないのか? 爺さんが帝国騎士団と魔術師に詰め寄ってい試合の中止を求めているが相手にされていない。
「観念しろ、お前の活路は俺を倒す事以外ない」
トールが剣を上段に構え、剣にありったけの強化魔法かけ、刀身が赤銅に染まり火を上げた。死に物狂いで全身に魔力を濁流のように流し込みが、無常にも激痛に蝕まれるだけで身体ちっとも動きやしねえ。
「あがっ……!」
「そんな、オウマ逃げてえええええ!」
エイレーネの悲鳴が耳に届いた。可愛い女の子に泣いて貰えるなら前回よりはましか……。
――ふざけんじゃねえ、また死ぬのか。じゃあなんの為に俺は生き返ったんだ? ははっ、そうか、こりゃ傑作だな。俺はこうやって痛めつけて笑い物にされる為だけ生き返らせられたのか、何が魔王だ、ただの道化だろう俺は……。
ああ、マリアムが泣いている。俺だけが道化ならそれでも良い。ろくでもない俺の為に泣いてくれるこいつまで泣かせやがって……許さねえ……。
「偽物の勇者よ、せめて苦しまないように逝かせてやる……」
「え…れ……ね、いるんだろ……」
「命乞いは聞かない。散れっ!!」
灼熱の剣が俺の眼前に迫る。死にたくねぇ……。なによりあいつに文句の一つでも言ってやらねえと死んでも死にきれねえ。だからよぉ……。
「出てきやがれっ!!エイレーネぇええええ!!!!」




