どうにも俺は勇者になるしかないらしい
思いのほか書くのに時間がかかってしまいました。次の投稿は三日以内にはかならずや!
次回、亜人ヒロイン登場アンド旅立ちです。
おい待て、俺を称える魔族達はどこだよ! サプライズなのか? おちゃめさんか、魔族はおちゃめさんか?
いいや解ってるさ、勿論そんな訳がない。こうなった理由なんて小学生でも想像できるっての。あのゲートの中で俺、勇者でーすと言わんばかりに光輝いてた奴、きっとあいつが今この場に呼ばれるべきだった勇者だ。そんでぶつかった勢いで互い違いになって召喚されたんだ。これしか説明がつかない……。マズイ事になったぞ、いきなり敵の総本山じゃねえか!
頭上から降り注ぐ半透明の羽根が俺の身体に触れ黒い光が瞬きバチバチと音を立てて消滅する。
痛って! なんだこれ、俺はコンビニの前にある虫除けかよ。
あれだけエイレーヌと練習した俺魔王です宣言が失敗に終わり。こっからノープランでどうしていいかと閉口している俺の元へと高そうな刺繍の入ったローブを着た魔術師らしい集団が詰め寄ってくる。俺を召喚したのはこいつらか。
「えっと、勇者様ですよね?」 「ですが今、この魔王がどうとか言ってませんでいたか?」「これまでの勇者様方とは何か雰囲気やいで立ちが違うような……」「神の祝福である天使の羽根が掻き消されているようだが……」
ああ、この痛い奴天使の羽根なのか、つかこれ終わったんじゃねえかな……。ええいままよ、もうどうにでもなれだ!
「ふっ、ふははは、大儀で……ございます! お、お喜びください、魔王はこの勇者である俺が必ずや打ち取って見せましょう!」
頼む、これで納得してくれ!
騒がしかったローブの連中がみな静まり返り、静寂が流れる。ダメか、こうなりゃ魔法で建物ごとぶっ壊していったん身を隠すしか……。
「うぉおおおおおおお!!」「それでこそ勇者様です!!」「なんと勇ましき者だ、これぞ勇者様でございます!」「我らの願いは神に届いたのだ!!」
「いいのかよそれで!?」
やべっ、アホのエイレーネのせいでツッコミ癖がついちまってる! くそっ、案の定ローブの奴らキョトンとしちゃってるよ!
「あ、いやなんでもないっす……」
「は、はあ、では早速なのですが、勇者様にはこれから国王様に謁見していだきます。」「やっとこの日がくるなんて、我々の研究の成果が遂に!」「本当に第五の勇者が実在したなんて、もう誰にも窓際魔道具研究部署など呼ばれませんね教授!」「ああ、もうこの研究室は追い出し部屋ではない、伝説の始まった聖地だ!」「我々もここからが始まりです。更なる飛躍を!」
何やら世知辛い事情があるらしい。確かに勇者を召喚し出迎える場所にしては王様もいなけりゃ豪奢な甲冑を着こんだ騎士の姿も見当たらない。部屋の奥には得体のしれない装置や工具が乱雑に並べれている。もし本物の勇者がこんな場所に呼びだされていたのなら、使命に燃える心も勇気すら湧いてこないだろう。
ローブの集団が抱き合い涙ながらにこれまでの苦難を語りあっている。こうして男達の情熱と諦めない心が大きな夢を実現させたのだ。しかしこれはまだはじめの一歩に過ぎない。彼らの飽くなき挑戦は終わらない。~プロジェクトX~
「あの……、挨拶がおくれましたが、私はこの魔道具研究部の副所長であるマリアム・グレーと申します。失礼ですがあなたは本当に勇者様ですか? 先に召喚に応じられた勇者様方は神々しい聖剣をお持ちになられいましたが……」
浮かれていたおっさん達を押しのけ、やってきたのはこの場に似つかわしくない年頃の少女だ。深く被っていたローブのフードさげた容姿はここが異世界だと実感させる物だった。
頭部から毛先にかけ雨雲が濃くなるようにグラデーションの掛かったグレーの髪、雲間から覗いたような透き通った空色の瞳は少女の聡明さを表しているようだ。
そして俺に向かってとんでもに事を言い放った。
「あなたの聖剣はどちらにあるのですか?」
「えっ、聖剣だと?!」
あまりの驚愕に思わず声が出た。おいおいおい! どうなってんだよエイレーヌさんよぉおおおお! 聖剣あるんじゃねえかよ! 何が現地調達だ、なにが、そして伝説へだ!
「せ、聖剣は甘え……」
「え、あの、あまえ……ですか?」
「聖剣な甘えだ! 勇者たる者そんな軟弱な剣は必要ない!」
「ええ……そんなっ聖剣は持ってないんですか!?」
「いいかお前達、神様から与えれた聖剣がなんだっていうんだ! 道具に使われるのが勇者か? いいや違うね。勇者が扱う剣、それこそが聖剣なんだ、勇者の剣なんだ! 勇者が握れば鉄の剣だって聖剣になる! ひのき棒も、学校帰りに拾った木の枝だって聖剣になるんだよ! そして伝説へとなるんだ!!」
口から出まかせがマーライオンの如く湧き出してくる。今の俺は無敵だ、異論は認めない! どんな正論よりも熱い気持ちが大事なんだ! きっと思いが届けば、みんなが解りあえれば争いはなくなるはずなんだ。ぼくらが固く握りしめなきゃならないのはなんだ? 拳でも剣でもない、目の前にいる人の手なんだ。なあそうだろう?
「あの、言っている意味が……。 勇者ではないのなら、呼び出してしまった始末は私たちが行わなけばなりません」
マリアムの懐疑的だった表情は落胆に変わり青い瞳は陰っている。
ですよね。俺だって何言ってるわかんねえし、馬鹿なんじゃねえーかエイレーネさんよぉ……。
「ま、待てって! これには事情があってだな! ちょっと人格に難のある神様が忘れものをしたといいうか!」
「事情の説明は結構です。残念ですが勇者様でないのならあなたが本来いるべき場所にお帰り願います。送還術式を発動せます。」
マリアムは懐からさっと魔法の杖らしき物を取りし出し俺にその先端を突き付けた。
送還!? それってエイレーネのいた空間に戻されるって事か? それとも俺がいた場所か? そんなのどっちもごめんだ! 奥の手だが、ど派手な混沌魔法を一発ブチかましてトンズラこくしかねえか。こいつらの話からすると勇者ってのが四人はいるみたいだし、逃げ切れるかは運しだいか。
覚悟を決めて魔法を発動させようとした時、奥から他の者とは一層違う絢爛な銅色のローブを羽織った老人が割って入ってきた。
「やめないかマリアム」
「おじいちゃん! だって早くしないと送還ができないくなっちゃう! それに白銀の奴らが!」
「解らないのかマリアム、勇者様は我々に気を使ってこのような事をおっしゃられているのだ。」
ん、なんか流れが変わったか? 良くわからんけど全力で乗っかるしかないな、とりあえずここはハードボイルドに恰好付けとくか。
「よせよ爺さん、それ以上は無粋だぜ」
決まったな、それを証拠にローブの集団が騒めきだっている。中には目に涙を滲ませ悔しそうに下唇を噛みしめる者や下を向き嗚咽を漏らす者までいた。こいつら忙しい奴らだな……。
「同士らよ、我々の召喚の儀は残念ながら完全な物ではなかったのだ。しかし長年の研究は無駄ではなかった。何故なら、勇者様は確かに我々の声に応えた。たとえ聖剣がなくとも、勇者様は魔王を打ち滅ぼすと約束してくれたのだ!」
「なんとお優しい心の持ち主だ、彼こそ本当の勇者様だ……」「なんて事だ、我々の力が及ばなかったせいで勇者様に恥をかかせてしまった」「聖剣を召喚できなかった我々を許していただけるのかですか!」
爺さんの言葉に再び湧き出すオーディエンス、グッジョブ! なんか助かったぜ爺さん!
「そんな、おじいちゃんと私の構築した召喚陣は完璧だったはずなのに! 聖剣のない勇者なんて意味がない。そんなの誰も勇者だって認めてくれない……」
しかしマリアムだけは失意に底に沈んだように構えていた杖を下ろし糸が切れたようにその場へ座り込んだ。
「失礼極まりねえ奴だな人を失敗作扱いしがって!」
「勇者様、どうかマリアムを、孫を許してやってください」
「孫? その高そうな刺繍のローブ、爺さんがここの一番偉い奴か?」
「はい、申し訳ございません。名乗りが遅れました無礼、どうかを許しください。私はこの魔道具研究室の所長のマーリン・グレイと申します。マリアムは幼い頃からおとぎ話に出てくる”五人目の勇者”に憧れていたのです。魔術師として才能があり帝国魔術師へとお声がかけられのも断り、全てをこの時の為に費やしてきたのです。なにとぞご寛容を……」
「はははっ気にするな爺さん!マリアムよ、例え完全な俺様じゃなくてもその辺の勇者なんかに負けたりなんぞしねえ! ふーはははっ!」
負けようがない、なんせ俺が魔王だからな。さて、なんとかこの場は乗り切れたようだし、ここに長く留まるのはかなり危険だ。良心の呵責はあるがこっちも命がかかってんだ、こいつには悪いがさっさとトンズラさせてもらうとするか。
「あーなんか魔王の脅威が迫ってる気がする! こうしちゃいらんねえ魔王国へとカチコミだ! じゃあなお前ら!」
「お待ちください勇者様、まずは国王様にお目通りを」
適当ぶっこいて可憐な遁走をかまそうとした俺をマーリンが引き留めた。くそっ、俺の完璧な逃走術を止める奴がいるとは。
「えーまだ何かあんのかよ、多分すぐそこまで魔王の魔の手きてるから!」
「はい、実は勇者様の召喚は我々が独自研究の末、非公式に行いました。ですので国王様に召喚の成功を報告し勇者様のお披露目せねばならないのです」
「王様? えっ俺、急がなきゃだし! それに俺はお上品に王様とおしゃべりなんかできないから……」
「その辺は我々が考えますので、勇者様にはこれからお教えする帝国への誓い儀を読み上げていただくだけよろしいので。それが終われば勇者様にはお供や馬、支度金が支給されます」
おっ、金が貰えるのか。この国から脱出するとしても先立つものが必要だ。王様にあって頂くもんは頂いてからするか。どうせ俺がこの世界を征服したら全部俺の物になる訳だしな!