どうやら俺は魔王になるらしい
もはやファンタジー古典ジャンル! 魔王と勇者の冒険活劇が始まります!
3/1投稿予定だったのですが操作ミスで投稿してしまいました>< なのでちょいちょい修正、ルビ振り、名称の変更などの編集されたります。お気をつけください。
――嘗て、この世の果てにあると云う混沌の狭間より災いの申し子が生れ落ちた。災いの申し子は己を魔を統べる王、”魔王”と名乗り、混沌の力を振りかざし様々な亜人種族を組伏せ従わせた。魔王に従えし亜人種達を”魔族”と命し、魔王は亜人混成軍”魔王軍”を率いて人間界最大の国、帝都を陥落し、その領地に魔王の国を建国した。人々は魔族の圧倒的な力に恐怖し国同士の土地や資源を巡る争いを止め、人類の存亡を賭けて連合軍を設立した。戦火は瞬く間に広がり人類、亜人類とを別けた未曾有の全面戦争へと発展した。未だにこの戦争は終結の兆しを見せず暗黒の時代は続いている―
「とまぁ、ざっとこんな感じなんで、あなたはこれから二代目魔王様に成って貰います。そして勇者さんとか連合軍の方々とドンパチやっちゃって後は流れで。ほんと、てきとーでいいのでがんばってくださいね」
「あーなるほどなー、全部理解したわー、なるほどなー。ああ、俺この後大事な予定があるんだったわ、そゆことで帰りますわー」
とんだ電波女に出会ってしまった……。なぜか寂れた路地裏に美女が一人でぽつんと立っていたからスケベ心丸出しで声を掛けたらコレだ。地球に似た星で魔王様とやらになって暴れてこいとかメルヘンな事をつらつらと恥ずかしげもなく言ってきやがった。ゲームと現実の区別がつかないくなるほど辛い事でもあったのか。電波女に付き合ってやるほどお人よしでも盛ってもいないし、関わらないのが一番だ。
「あ、ちょっと待ってくださいよー! あなたはもう、帰る場所なんてないんですからね!」
「おい、ついてくんなって」
踵を返して速足で路地を抜けよとするが電波女がいつまでも後を付いてくる。いい加減面倒臭くなって道端に転がっていた顔の落書きがあるゴムボールを拾い上げ電波女の手元へ放り投げた。
「ほれ、そいつが今日からお前の新しいお友達、ウィルソンくんだ。なかよくやれよな!」
「わぁ~、よろしくねウィルソンくん! ふふ、私はエイレーネよ。なんでだろ無性にあなたと無人島に行きたい気持ちなっちゃった!」
想像以上にやべー奴だったわ……。
電波女がゴムボール(ウィルソンくん)と戯れてる隙に塀と塀の間を通り抜け、手入れされてない隙間だらけの生垣を潜り抜け、迷路のような道を迷いなく進んでいく。
舗装の剥がれた道路の窪みを踏み抜き、買ったばかりのThe North Faceのスニーカーに泥水がしみ込んだ。ったく本当に今日はついてないな、ついさっきだってあいつらに……。
あれ? そういやあの後俺はどうやってここまで来たんだっけか? 頭の中に霧がかかったように薄ぼんやりとしていてなんだか身体の感覚すらも曖昧で微睡みの中にいるようだ。
この路地裏、なんだか懐かしいな。ガキの頃によく遊んでたあの場所に似ているような……。あの頃は楽しかったな。
なんでこうなっちまったんだろう。
視線が徐々に低くなっていく。
足元には特撮ヒーローのイラストがプリントされたボロの靴。
無心で走り息を切らせてたどり着いた先には洗濯物を干している母の姿があった。
なんだ俺は――
――
瞼の上からでもわかる太陽のような温かい光に意識が覚醒する。なんだ、全部夢だったのか……。
なんて思いたい。いや夢であれ。堅く閉じた眼をミクロ単位でゆっくりと開いてく……。今なんかチラっと見えた。やり直しだ、もう一度瞼を下ろしてやり直しをするんだ……。もういっその事一回寝よう!
そんな俺の抵抗も虚しく、目の前にいるであろう誰かが俺の瞼に指をあてがい無理やりこじ開けた。
「おはようございます。どうやらお目覚めみたいですねー、どうでした私のサプライズ? いいえ、感謝のお言葉なんて結構ですよー。あなたには今から色々と頑張ってもらいますので」
眼前には女神のようなほほ笑みを俺に向ける電波女がいた……。全部が夢ではなかった事くらいもちろん解ってたさ! ははっ! はは……。
「ああもうわかったよ。魔王とやらを俺にやれってんだろ、拒否権はないのかよ?」
「ふふ、何を言いますか。黒木央麻さん。あなたには拒否権もなにも人権がありませんからー」
ぐっ、なんて奴だ。慈愛の欠片もないイヤらしいニヤニヤ顔を浮かべやがって!
「あ、これお返ししますね。ウィルソンくん」
そう言ってさっき投げ渡したゴムボールを俺に放り返してきた。手元に戻ってきたゴムボールの裏には覚えたての拙い字で[おうま]とひらながなで書き込まれていた。
「ああ、思い出したよ。あの寂れた路地は俺の昔住んでいた場所だ。このゴムボールもいつの間に無くしちまった俺のものだったな。何となく解ってた、俺は――」
飲み込みにくい現実を己の口から絞り出そうとするが、それを瀬切るように目の前の電波女は明け透けに言い放った。
「ええご明察です。あなたはご臨終してしまいました。残念ですねー!」
「少しはお悔やみ申し上げろ! こちとら喪失感と寂寥感でゲロ吐きそうなんだよ、死んだ人間は絹ごし豆腐をお箸で掴むくらい優しく扱え! この電波女!」
「まあっ? とーーおっても偉い神である私に対して存外な言い方ですね。その電波女ていう止めてもらえますか? 失礼極まりない人間ですね、ぷんぷん! 私の名はエイレーネです。偉いです。神様です。称え敬ってくださいね際限なく!」
電波女もとい、自称神様のエイレーネは腰に手をて大げさに胸を張っている。おーたわわな事で。しっかし擬音を口に出す奴敬うのきっついわー。そもそも神様が魔王の勧誘なんて胡散臭さがヤバい。
「何かまた失礼な事考えてませんか? これからあなたに魔王としてのいろはを教授する先生……、エイレーネ大先生ですよ! いいえ、マスターエイレーネとでも呼んでもらいますか」
「はあ? そういうのってポンっとなんかスゲー力を与えてくれるのと違うのか?」
「まぁー、まあまあま~。あらあらあら~。やれやれ系みたいな態度をとっておきながら、そんな最近の若者みたいな甘っちょろい事をよく恥ずかしげもなく言えますね! 私、感動のあまり手が震えてきてしまいした。強めのお酒持ってきてください!」
それアル中じゃねえか! しかしウゼーなこいつ!
「なんですその顔は? 酔った私をお持ち帰りしたくてウズウズしてるんですか?」
「いやそんな顔してねぇから、話が進まないからちゃっちゃと続けろよ! そもそもなんで俺なんっだよ? 他に死んだ人間なんて腐るほどいるだろうが」
「魔王の選考理由なんて私が知る所ではありません。私の仕事は貴方を魔王とて育成して下界に送り出すだけですから、言わばを下請けの下請けですね」
「なんて夢の無い話だ、聞かなきゃ良かった……。もう無駄話はなしで大事な事だけ教えてくれ」
「わーつまらない人ですねー。そんな生き急いでどうするつもりですか? もう死んじゃってるのに……ぷっ!」
「はいはいおもしろおもしろい。それでエイレーネ大先生、早く魔王の技術とやらをご教授願えませんかね」
「あら、意外にやる気ですね。剣と魔法の世界に心躍らせているなんて可愛い所あるじゃないですか。いいでしょう。マスターエイレーネが貴方に魔王として生きる術を差し上げましょう。魔王の力を身に着けさえすればあちらの世界に行っても敵なし! 気に入らない者、意に反する者はワンパンであなたに服従し許しを請うでしょうね。」
「へえ、そいつは良いじゃねえか。正に魔王様って感じだな、そんな好き勝手できんなら死んだかいもあるかもしれえねえ。それで魔王に成るにははどのくらいかかるんだ? やっぱり仙人みたいに百年とか修行を積むのか?」
「いいえ、人間の感覚で二か月くらいですかね。短期集中コースで魔王仮免試験、筆記試験含めて三週間くらいです!」
「自動車学校かよ!!」
「全くなんて事を言うんですか、魔王にオートマチック限定免許はありませんからね!」
「んな事聞いてねえよ! ほら俺を魔王にしてくれるんだろ、頼むぜ神様」
「HEY!オウマ! その言葉を待ってたんだ! 魔王なった暁には貴方は私への感謝の気持ちで夜も眠れなくなること間違いなしですよ! それでは覚悟はできましたか?」
毒を食らわば皿までだ、ここでやっぱり辞めますなんて言ったらどうなる事か解らない。
「ああ、いつでも良いぞ。どうせやるしかないんだろうしな」
「良い心がけですね。それでは、これから一番肝心な魔王の魔力を与えますので跪いてください。できるだけ惨めな感じで」
一々おちょっくて来るのが癇に障るが、言い返しても長引くだけだ。ここは仏の心で全てを受け入れよう……。せめてもの抵抗で片膝を地につけちょっと格好を付けてみた。力を授かるんだからなんかソレっぽい方が良いだろ? エレイーネは少し不服そうな顔をしているが。
「なんかグダってきたのでそれでいいです。それでは尺を考えてマキで始めますね。」
跪いた俺の前にエイレーネ立ち、両手を広げ頭を包み込むように手の平を翳す。そこから暖かな光が溢れ出し身体を包み込んでいった。その暖かさとは裏腹に形容しがたい何かが濁流のように身体の中に流れ込み暴れまわる。酷く身体が熱い。心臓を握りつぶさてるような苦しみと細胞の一つ一つを侵食して別の何か変えられていくような逃れられない恐ろしさに全身から冷や汗が噴き出す。堪らずに逃れようとするが身体が凍り付いたように動かない。
「エ、エイレネーネやめてくれ! がっ、身体が熱い!」
「もう、これくらい我慢しなさい、男の子でしょう!」
「ふ、ふざけんなこの野郎……、そういう次元の話じゃねえだろうっ……!」
気を抜けば意識が飛んで行きそうな中、エイレーネに猛抗議しようとするが呼吸すらままならない。
「ええそうですね。魔王の力を得るのですからこれくらいは覚悟していただきませんと。気さくな神様が乗りで最強な能力をホイホイ渡してくれました。なんて何の重みも感じられないでしょう? ベンおじさんが毎回死ななくてもいいようにきちんと身と心に刻んでください。魔王育成プログラムはすでに始まっているのですよ」
「ほーむかみんぐではカットされてるだろ!」
言いたいことは色々あったが、やっとこひり出した言葉がこれである。何が悲しくてこんな時までこいつと漫才しなきゃならんのだ……。
「流石の胆力ですね、魔王に選ばれるだけの事はあります! 安心してください今、あなたは魂そのものが魔王へと変化していってるのです。直ぐに済みますから天井のシミでも数えててくださいね……ふふ」
下向いていてエイレーネの顔は見えないがどんな表情をしてるかだけは想像に難くなかった。ああ、駄目だ何も考えられない。頭の中に墨汁が流れ込むように全てを漆黒へと染め上げていく。もう意識が持た……な……い……――
――それから年月は経ち、オウマは偉大なる神、マスターエイレーネの元で魔王としての力を覚醒させていった。辛く厳しい修行の中でオウマはマスターエイレーネの教えに感銘を受け、生涯の師として慕い、敬服し心を開いていったのだ。中でもオウマの心に響いたマスターの教えがあった。それは「大いなる力には大いなるせきに――
「お前さっきから誰に向かって話てんだよ」
一人で妄想じみた事をぶつぶつ言っているエイレーネに堪らず声をかけた。面倒くさいがほっとくと何時まで経っても終わらない。
「もう、ちょっと邪魔しないでくれますか? 偉大な私の名言を言う所だったんですよ!」
「それはお前のじゃないベンおじさんのだ! ってか本当に三週間の授業で終わっちまうのな、魔法の使い方も数回やったくらいだし。こんなんで一騎当千の力が俺に備わったのか?」
「あれれ~オウマさん。もしかして階段上り下りしたり、冷凍庫で生肉ペチペチしたり、車にワックス塗ったり壁にペンキ塗ったりしたかった口ですか?」
「ちがわい! ただ俺の魔法ってどれくらいものなのかが気になるんだよ、比較対象とかいないしな」
「なんだ、そんな事ですか。それは敢えてですよ、あ・え・て! 何事もぶっつけ本番の方が面白いでしょ? その辺の有象無象と対峙してですね、圧倒的な力を振りかざし相手を一撃で倒し上から目線でこう言うのです! ふむ、この程度か……。とか、あれ、俺なんかやっちゃいま―「それ以上はいけない! やめるんだエイレーネ……。」
俺はそっとエイレーネの口元に手を翳し言葉を制した。何となくそれ以上は言わせてはいけないような気がした。何となくだけど……。
「もう、いつもいい所で私の邪魔をしてくれますね、安心してください。あなたの力は本物です。それこそ勇者でなければあなたには勝てませんから」
「おい、それってつまり勇者なら俺より強いって事か?!」
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れません。何事もバランスが大事なのですよ。ジョーカーが強いだけでは面白みがありません。その為の勇者ですし。」
神様が魔王を作り上げた事に気まぐれ以外の明確な理由があるとすれば……何となくだが、俺はまたババ(ジョーカー)を引かされたような気がしてきた。
「ああ、もうどうにでもなれだ! やれるだけやってみるさ魔王とやらを!」
「やってみるのではない、やるのだ」
「ここにきてマスター要素いれてくんなよ!」
エイレーヌはいつも俺いじりをやめ、改まって向き直って笑いかけてきた。
「ふふ、どうやらこうしてお喋りするのも最後のようです。短い間でしたがそれなり楽しませてもらいましたよ。下界にて魔王召喚の儀が行われようとしています。」
何もない空間に歪が生じ、空に亀裂が広がっていく。空には禍々しい雲が広がり光を飲み込み紫電が走る。
「何が起きてるんだ?! てか、エイレーヌが俺をその世界に転送するんじゃないのか?」
「私の役目は魔王を用意して下界にゲートを繋げる為の陣を作る事です。後は下界からのアプローチを待つだけでした。出会いあれば別れありです。残念ですがこれから私が干渉する事は叶わないのでうまい事やってくださいね」
「お前いっつも投げやりだな! ホウレンソウができない奴は出世できないぞ! っなんだこりゃ!? なんか気持ち悪いのいっぱいでてきたぞ!」
気が付けば足元には丸い影が広がっていて、影の奥から無数の黒い触手が伸びて俺の脚に纏わりついている。
「怖いんですけど! これメチャクチャ怖いんですけど! 心の準備一ミリもできないんだけど!」
「お別れってなんかしんみりしちゃいますね、おかしいなー。ぐすん。泣くつもりなんてなかったのに……」
触手は俺の下半身をがっちり包み込み逃れられないようにして黒い影の中へと飲み込んでいく。影の中では漆黒の暴風が吹き荒れ、強大な生き物が嘶いているような不吉な音を響かせていた。
「お前この絵面でよくセンチメンタルに浸れるな! まって、俺手ぶらで行くのか!? 魔王の剣とか杖とかマントとかくれない訳?」
「そんな物は現地調達してくださいよ。いいですか、伝説の勇者の剣などないのです。勇者が使った剣が勇者の剣になるのです。そして伝説へとなるのです。 さあ行った行った!」
「やめっ、やめろぉ! 頭を押して穴に押し込むな!!」
触手に絡めとられもう右腕以外の自由が利かない。とうとう頭まで飲み込まれ蜘蛛の糸を掴むように手を穴の外へと伸ばすが勿論エイレーヌが引き上げてくれるはずもなく。
「ぷっ、ふふ溶鉱炉に沈むロボットみたい!」と最後にエイレーヌの失笑を聞いて俺の身体は闇に飲み込まれていった。
俺を引きずり込んだ触手は役目を終えたようでいつしか消えてなくなっていた。歪んだ闇の中を落下するように移動していると奥の方から眩い光ポツンと見えてきた。きっとあれが俺の召喚される世界の入り口なんだろう。身動きできない俺はただただ高速で迫ってくる小さな光を眺めていた。
「あの光、中に人が見えるぞ……」
そう口にしたのもつかの間、光に包まれた人間が俺へと目掛けて真っすぐ飛んできている。そして向こうの人間も俺気が付いているようで驚愕の表情を浮かべていた。
「うわあああああ! そこの闇の人! どいて、どいてください! ぶつかる! ぶつかる!!!!」
「何言ってんだ! 俺は身動きできないんだよ! 光ってるやつ! お前がどけろおおおおおおおお!」
そして闇を纏った俺と光を纏った奴が勢いを留める事なく正面から激しく衝突した。星が見えるなんて表現が生ぬるい程の衝撃が走る。コーヒーに流しこんだミルクのように闇と光が混ざりあい激しく弾けて雷鳴が轟いたく。その光景はさながらビッグバンのようだった。意識が遠のきそこからは何も感じなくなった。
――
騒めき立つ喧噪が聞こえてきた。それと同時に魂が浮遊する感覚から目覚め、慣れ親しんだ太陽光が差し脳に沁み込む。そうか、俺は召喚されたんだ。
そして今から魔王としての人生が始まる。目覚めの瞬間、エイレーヌにここ、テストに出ます。と日課のように教えられた段取りがある。魔王は初めが肝心。決して舐められてはならない。召喚されたその瞬間こそ勝負! ここだ、ここで魔力パワー全開、絶対的強者を漆黒の炎で自ら演出する!鋭い眼光を放ち、更に声高々と俺魔王です宣言をするんだっ!
「我を召喚したのは貴様らか、ふはははは! 大儀である。喜べ貴様らの願い、この魔王が――」
ばちぃっと目を見開いた先には薄暗い広間、視線の上にはドーム状の天井に女神と剣を持った騎士が所せましと描かれていた。そして俺を囲う様にいかにも魔法使いですよと主張するようなローブを来た人間達。俺の頭上からは半透明な鳥類の羽根のような物が揺らめきながら舞い落ちる。おい待て、俺を称える魔族はどこだよ。
「ああ……勇者様の降臨だ!!!」「勇者様!」「本当に勇者様が!!」「第五の勇者様!!!」「まさか本当に!」
ん……? 今なんて言ったんだ? ゆうしゃ? 誰が? 俺が?!