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ARK  作者: 涼城 co葯
3/10

3話 臆病者

 館での食事は、原則家族全員でとることになっている。ここでいう「家族」とは、俺、リア、館の主人のヴィルさん、夫人のルイスさんで、メイドの方々は同席していない。俺はいつものように、ヴィルさんとルイスさんに朝の挨拶をして席につく。先に座っていたリアの顔には「おせーよ」と書いてあった。悲しいことに、兄である俺の方が立場が下なのだ。


「今日、この日を暮らし、この命いただけるのも神のおかげです。神に感謝を。」


「「感謝を。」」


俺が卓に着いてようやく食事が始まる。別に神を信じてはいないが祈りを捧げ、フォークを手にとる。一応それなりの家なので、出される飯はどれも上等なものばかりだ。なにから食べようか、と左手を皿の上でふらふらと漂わせていると、ちょっと良いかな、とヴィルさんがそのたくましいヒゲの中から声を出した。


「いきなりで悪いが、アイリ、アリア、二人に話があるんだ。」


彼はフォークとナイフを置いて、俺達二人を見て話し始めた。


「昨日、手紙が届いてね。どうも、王立の学校に”今日から”転校してもらう必要があるんだ。」


「今日から、ってかなり急ですね。いまから冬に入ろうって季節じゃないですか。」


「まぁ、そうなんだけどね・・・」


俺に聞かれても、そんな表情でヴィルさんは親指と曲げた人差し指で顎髭を撫でている。おそらく昨日の、早く家から出てって欲しい彼女の言ってたことと何かつながっているんだろう。


「イムも大変ねー。王立の学校なんて頭も剣の腕も必要じゃん。絶対置いてかれるでしょうに。」


他人事なリアは片方のほっぺに野菜やらパンやらを詰め込んで、ニタニタと笑いながら嫌味を言ってきた。器用な奴だ。また、「事実を突きつけられている事実」も実に腹立たしい。


「何を言ってるんだアリア。私は”二人”に話がある、そう言ったはずだ。」


「えっ、なんで私まで・・」


また、俺に聞かれても、そんな表情でヴィルさんは親指と曲げた人差し指で顎髭を撫でている。


「リアも大変ねー。王立の学校なんて頭も剣の腕も必要じゃん。絶対置いてかれるでしょうに。」


「あ?」


昨日までの可愛かったリアは彼女の中にしまわれてしまった。


ーーー


 青く晴れ渡った空の下、煉瓦の道を一歩と一歩ずつ灰色の新しい制服と歩いていく。時折、小汚い地図を見て「次は左だ」「ここは右だ」と道を覚えながら進んでいるので思ったより時間がかかっている。


「ここ右ですぐだね。」


役目の終わった地図は畳まれて持ってきたカバンにしまわれる。


「じゃ、いこか。」


そういって臨むように何屋さんかよくわからない店を右に曲がる。ここから再出発が始まる。緊張と不安が脳内で動きながら「どんなとこなんだろう。」と期待に似た感情が生み出されていく。さて、と今までわざとらしく下方に向けていた視線を学校の方にやる。


「・・・・学校だ。」


特段豪華でも変わってもいない、普通の大きめの学校がそこにあるだけだった。


「ま、そんなもんよね。」


リアは諦めた顔をしている。


ーーー


「えー全16組のうち1〜8組が推薦クラスで、9〜16組が一般クラスになる。」


この長身で背が曲がってる、いや長身が故に背が曲がっている銀髪の中年男が俺の担任らしい。リアとは別のクラスになって、どうも一人というのは寂しい。


「お前は6組で推薦クラスだ。妹の方は10組で一般だが、そのうちこっちに来るかもしれないな。」


「何があると一般から推薦になるんですか。」


同じ学校とはいえ推薦と一般で完全に離れていて、先ほど狭い路地から見ていたのは一般の教室棟で、奥にある推薦の教室棟は外からは見えていなかった。長い木の廊下は、古さも感じるが埃は落ちていない。窓から見える中庭も広いわりに手入れがされている。


「そうだな、教室まであと2、3分歩く。説明しよう。」


「遠いっすね・・・」


どんだけ長いんだよ。


「君も見たあの青い三角形、<ブライブ>というが、あれは一部の者にしか使えない一種の魔法だ。隣国との戦争にも使われていて、王国勝利の要になっているんだ。」


「いや、でもそんなこと聞いたことがないです。それに魔法だなんて。」


そうだ聞いたことがない。学校では戦争は歩兵、騎兵、弓兵で闘うと教えられ、戦術もその前提で学んできた。


「自分の目で見たんだ、信じないわけにはいかないだろう?」


「まぁ、そうですけど。」


「ブライブが世間に知られたら何かマズイのか、これに関することは全て使える者以外には極秘になっている。お前も他言するなよ。」


「はい。」


ブライブ、何か変だ。多分他にも隠されていることが多くあるんだろう。もしかしたら深く突っ込まない方がいいことに、今手を伸ばし始めているのかもしれない。

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