1話 開花
違和感だった。俺に話しかけてきたもの。和から離れ、嫌われた。「今日」は、俺を嫌った。
ー午後ー
「ねえ」
「おーい」
「起きろ、カス、間抜け、腑抜け、クズ、バカ、血豆」
罵詈と雑言が不愉快に教室を駆け回り、うち二つが声の向かう先が俺だと教えてくれた。
「俺、なんか悪いことしました?」
机、黒板、の順に情報が入ってくる。周りを見渡すと、カスと間抜け、腑抜け、クズの目が俺たちを刺している。刺し返すと、また矛先を各々鞘に帰した。
「そういうときもあるでしょ。それよりイム、今日私に付き合ってくれるんじゃなかったっけ。」
「あ、そうだった。リアさん昨日も、せこして勝ったもんね。」
リアは異母の妹で俺はほぼ毎晩、稽古と名のついたいじめを受けている。
「自分で『俺はリーチの長い武器は絶対に使いたくないやい。』なんて言ってるくせに、何言ってんの。」
「まあ、そうなんですけどね。」
決まり切った仕事のような会話。垂れ流しながら、帰る準備をする。
「で、なにすんの?」
俺は付き合わされるものの権利を行使した。
「教えない・・・」
付き合わす方に義務はないようだ。
学校をでて、歩かされる。レンガを蹴り続ける。時折、土を交えながら。
「どこに行くか位教えてもいいんじゃないの?」
また、権利を行使する。
「・・・教えない。」
まだ、義務はないらしい。
あたりは暗くなっている。王都からも外れた。冷たい空気が唾液で体を溶かすくらいに舐めてくる。俺はこいつが何をその舌で伝えたいのか頭を回し考えているが、頭の回転数が足りないようで、まだわからない。
「・・・ごめんね。ほんとに、本当に。」
この謝罪はなんだ。俺が付き合って、遠くまで歩いたことに対するものなのか。いや、それだったら、その頰を這いずり回ってい涙も俺へのはずだろう。
「なにをそんなに謝っているんですか、リアさん?」
リアが振り返る。
「・・・・・・騙してごめんなさい。」
理解と疑問が同時に降ってきた。
「なっ、いつからそこーー」
意味がないと悟り聞くのをやめ、うしろに跳ぶ。リアの後ろから姿を見せたこいつは俺に斬りかかってきた。
「リア、どうして。」
リアの方に視線を上げる。目に映ったのは向かってくる綺麗なお姉さんと、倒れてる綺麗な妹だった。
「その娘はね」
細い腰から出したナイフが風を切り裂く音が耳元まで届く。
「あぶねっ!!」
紙一重のところでかわしたつもりだったが頰から血がでていた。
「自分と母親か、あなたで天秤にかけて自分をとったのよ。」
黒い髪がカーテンのふりをしているもう少し下から駆けて来た事実に、俺の理解がさらに補填された。
「いや、知らんけどっ。さっきから、グサグサグサグサ投げてくるのはあと何本あるんですかぁあっ?」
なんとか距離を取り、かわす。これで精一杯だ。
「・・そう言いながらもかわしてんじゃん。」
「「っ!?」」
小さかったが、確かに聞こえたその声に、燕の子供は餌を求めた。
「たぁあすけぇえてくださぁぁああいい!!!」
「自分でやれば?」
「・・・へ?」
餌をくれない華奢な体の親燕は、僕の視界から消えてしまった。
「ざんねんでした♡」
ぐさり。音が聞こえた。今、俺は刺されたのだろうか。はぁ、ため息が聞こえ懐に目線をずらす。
「(青い、三角形・・・?)」
比喩ではなかった。本当に何十もの青い三角形が、あることが普通で疑問を抱くお前がおかしいと言わんばかりに飛び散っていた。血は出ていない。そして、ふと我に返る。
「誰だ、今の?」
返ってこないはずの答えが返って来た。頭は「?」で埋め尽くされ。視界はナイフを投げた彼女の、未知への遭遇を捉えていた。




