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向日葵狂信者  作者:
第一章 向日葵逃避行
3/6

1-2

 第八回目の正社員戦争対策会議は当然のように徒労に終わり、僕は陽が沈みかかった空を見上げてため息を漏らした。

 せめて何かとっかかりでも見つかれば良いのだが、如何せん二人とも頭の出来はよろしくない為、知恵のない二人が考えたところで出てくる案はたかが知れていた。三人寄れば文殊の知恵と言うが、一人足りないうえにどちらも阿呆では所詮猿の知恵である。また後日集まろうとは言われたものの、正直このままでは妙案が浮かぶ気がしない。どうしたものかと唸っていると、「何かあったのかい?」と背後から此方を伺うような声がしてきた。

「ボっとしていたが、どこか体調でも悪いのかい?」

 声の主は当スーパーの店長であった。彼は禿げた頭を撫でながらいつも通りの笑みを浮かべていた。

「ああ、いえ、申し訳ない。

 なんでもありませんよ。少し考え事をしていたのです」

 僕は自分が勤務中で、トラックから荷物を運搬している事すら忘れて思索にふけっていたようだ。自分自身のあまりの要領の悪さに呆れ、赤面していると店長は笑いながら僕に言った。

「それならいいが……しかし、君はうちの大切な戦力だ。もし疲れているのであれば、今日は気にせず帰っても構わないよ。

 最近働き詰めだったろうから、それくらいの融通は利かせようじゃないか」

 ニコニコとほほ笑む店長を見て、僕はまた思案する。

 正直言ってここ最近、僕はあまり真面目に働いていない。いや、働こうとする気概はあるのだが、例の争いの所為ですぐにやる事がなくなってしまうのだ。最初のうちは幸運に思ったものだが、仕事が無い時間を無為に過ごすというのも中々に苦痛であるものだ。非道い時には3時間何もせずに突っ立っていた事もあった。

そう考えると、今日はもう帰ってしまっても良いのかもしれない。時給が飛ぶのは少々勿体ない気もするが、せっかくの店長のご厚意だ。素直に受け取ることにしよう。


 〇


 僕は実家から自転車でスーパーに通っており、今まで一人暮らしをした事がない。家に帰れば飯が出て、当たり前のように風呂に入るという生活を生まれてこの方ずっと続けてきた。このままではいけないと何度か思った事もあるが、そのあまりの快適ぶりに僕は心底溺れていた。そして今日この日も、意気揚揚と我が家に向かっていたのだが、その最中に今朝方交わした母との会話が脳裏をよぎった。


「今日はうちにお友達を招待するから、

 七時くらいまでうるさくしちゃうかもしれないわ。

 貴方はお仕事だからあまり関係ないかもしれないけど、一応いっておくわね」


 腕に付けた時計を見ると、時刻は六時を指している。我が家が解放されるまで、まだ一時間もの猶予が残されていた。別に気にせず帰ってしまってもいいかもしれないが、このような身の上である為、他の奥様方に出会ってしまうのは何となく気まずい。それに、母が恥をかいてしまう可能性もある。

 こんな事なら、そのままバイトをしていた方が良かったかもしれない。唐突に目的を見失った僕は、その場で立ち止まり途方に暮れた。


 と、何もすることなくぼんやりしていると、耳に何かの叫び声がのようなものが聞こえてきた。何となく興味が沸き、そのままじっと耳を澄ますと、どうやらその声は雑木林の方から聞こえてきた事が分かった。

詳しい内容までは判別できなかったが、どうやら何かを探しているらしい。「どこにいったんだ!」やら「まだ近くにいるはず」やら、この田舎に似つかわしくない物騒な単語がちらちらと聞こえてくる。

 ここでもまたどうするべきか思案したが、結局湧き上がる興味には勝てず、僕は路傍に自転車を停め、雑木林の中に足を踏み入れた。一時間の暇つぶしができればいいなという、軽い気持ちで。


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