2浪は人生
自分のクラスとして紹介された教室には学生用の机が二つしかないではないか。
「ま、まさか魔術学部コースには俺ともう一人しかいないんですか?」
と、怪訝な顔で教室までついてきてくれた受付さんに聞くと
「えっと・・・魔術学部コースは他のコースと比べ受験の厳しさから例年受講者が少ないことが多いんだけど今年は特に少なくて・・・とりあえずしばらく席に座っていてくれる?そろそろもう一人の受講者もきてガイダンスが始まると思うから」
と言って教室に一人残される俺。厳しいと言っているが本当に合格できるのだろうか、というより他のコースより厳しいとか言っていたが何が厳しいのだろうか。などと考えながら席で座って考えていると
ガララッ
「一年間よろしくお願いします!!」
そんな大声と共に一人の女の子が入ってきた。その子は教室を一通り見まわしてからこっちを向くと
「ってアレ?もしかして同じクラスってあなただけ?」
「えぇ、多、多分」
うっかり人見知りを発動してしまう俺。昔から会話自体は苦手ではなかったが一対一の会話はどうも苦手だ。しかもこの子、いきなりこんなことを言うのも気持ち悪いが結構な美人さんだ。顔も整っていて目は若干釣り目だがパッチリしていし背も高めでスラッとして運動が得意そうな見た目をしている、まぁ魔術が得意そうには全く見えないが。ともかく人見知りかつ高校時代は殆ど女の子と接点がなかった俺には余計に緊張してしまう。そうカチカチしていると
「そっかー、まあとりあえずこの一年間一緒のクラスってことだし自己紹介しよう!あたしはトーリ。あなたは?」
「お、俺は千葉秋斗。よろしく」
「チバアキト・・・なるほど、チバくんって呼んでも平気?あたしは好きなように呼んでもらって構わないよ」
うーんなるほど、ほんのちょっとしか喋ってないが分かってきたぞ。この子はあれだ、コミュ力お化けってやつだ。きっとどんな人にもこの距離感なのだろう。適当な返事でも返そうと俺は、
「こ、今年一年よろしくね。トーリさん」
「はい、では開講ガイダンスを始めさせていただきます。ええっと私はこのクラスと隣のクラスである軍術学部コースの二つを担任させていただく、シヨクサと言います。あのー魔術学部、相当大変な道のりにはなると思うのですが全力でサポートさせていただくので共にがんばりましょう!それでは、まずは時間割を渡しますのでそれを確認してください。」
しばらく他愛もない会話をしていると、淡々とした調子で話しながら小太りのおじさんが入ってきて予備校の時間割が配られる。さっそく確認してみるのだが日本の一般的な時間割といくつか違う点がちらほら。まず教科に国語はあるが外国語系の科目がない、この世界は一つの言語で統一されているのだろうか。さらに気になるのは魔術座学、おそらく魔法の使い方や仕組みを学ぶのだろう。そして魔術実践学、これは魔法を実際に使う練習をするのだろうか。さすが魔法がある世界、高等教育じゃなくても魔法の基礎は学べるのだろう。・・・ん?いや待てよ、なんで予備校の授業に「体育」とか「武術」なんてものがあるんだろうか、ま、まさか入試に必要・・・?という疑問を頭に浮かべていると、
「えーでは、時間割、確認していただけたでしょうか。明日から授業が順次始まっていくので各自予習はしていってください。教科書は受付行ったらもらえるんで帰りに必ずもらっていってください。えー、モリナリア王国総合大学魔術学部、この受験はおそらくどの受験よりも厳しいと思いますが国一の最高学府を目指して鍛えていってください。では、ここで開講ガイダンスを終わります。最後に、チバ君は必ず私のところに来てください」
あっという間にガイダンスが終了してしまう。隣で食い気味に話を聞いていたトーリさんは早速教材を取ってこようとしている。俺と同じ疑問を持たないのだろうか?まあいい。まず俺は時間割の疑問を解消するために
「す、すいません。質問いいですか?」
「はい?」
「予備校の授業に体育とか武術があるんですけれど・・・これって受験に必要なんですか?」
ときくと
「ええっ!?それも知らないでこのコースに入ってきたの!!?」
とトーリさんに言われてしまった。すると
「あー・・・そういえばチバ君は知らなかったんですよね。王国最難関モリナリア王国総合大学魔術学部の入試方法。まずはえっと大学入試には二つの試験の試験があります。1つは『一次試験』これは第一の関門であり大学を目指す人たちが全員受ける試験で学力試験のみを受けます」
「アタシも去年は1次試験まではよかったんだけどね」
と口を挟むトーリさん。しゃべった感じだとお世辞にも頭はよくなさそうなのだがそんなことはないようだ。
「そして2つ目の試験『二次試験』。これが最難関といわれる理由なんです。えーほかの学部は二次試験は1日のみなんですけど立派な軍人を育てるための学部である魔術学部と隣の軍術学部は五日間行われるんです」
「え?5日間も何するんですか」
「実は最初の1日目~4日目までは大学が用意した『模擬訓練用ダンジョン』に潜ってもらい出口にある学力試験会場を目指してもらうんです。ダンジョンにはチェックポイントが存在して時間制限内にそこをすべて回るシステムになっています」
厳しい厳しいとは聞いていたが厳しすぎないか。
「そのダンジョンにはなにがあるんですか」
「人間を襲うトラップや魔物、魔獣がいます。あ、でも安心してください!もしピンチになったとしてもダンジョンには常に一流の軍人が試験監督として見回りをしているので救援信号さえ出せばすぐに助けに来てくれます!!と、とりあえずそれらのモンスターを学んできた魔法や武術で撃退してゴールを目指します!!」
「えぇっ!モ、モンスター・・・?」嘘だろ、この世界は人間や一般的な動物だけでなくモンスターも存在するというのか。ものすごく危険で過酷な世界じゃないか、帰りたい。と思っていたらトーリさんが不思議そうな顔をしながら
「モンスターも知らないなんてチバ君どんなところで育ってきたの?普通町の外に出たらそこら中にモンスターなんかウジャウジャいるよ」
「そのダンジョンなんですけど魔術学部志望のかたは杖以外の武器の持ち込みが禁止になっているので戦うときは残存魔力に気を付けないといけないんですよね。軍術学部志望の方は武器の持ち込みが許可されているので魔力がなくても戦えるんですけども」
「アタシも去年は3日目で脱落しちゃったな~」
「なのでダンジョンを勝ち抜くために体育や武術の授業があるんです」
「な、なるほど」
そういって下の階に降りていくシヨクサさん。かくいう俺はあまりにもの情報量であっけに取られていた。大学入試には学力試験しか存在しないという考えは軽率すぎた。学力は何とかなったとしても運動神経がからっきしな俺はダンジョンに抜けれるのだろうか。するとトーリさんが
「チバ君って不思議なくらい知らないことが多いけど、きっとそれくらいのほうが上手く行くのかもしれないね!改めてだけどこの一年間よろしく!!」
そう言って教材などが入った重そうなカバンを軽々持ち上げて帰っていった。う~ん、前途多難そうな予備校生活が始まってしまったが暗いことばかりをしてもしょうがない、今日は俺も教材をもらって帰ろう。
1階の受付で教材をもらい、再びシヨクサさんに話しかけると
「さっきは驚かせちゃってすいません。きっと相当驚かせちゃったかもしれないけど全力でサポートするから共に頑張りましょう。そ、それで話なんですけどロウニン扶養プログラムの審査が通ったことと、審査が通ったことで寮に日用品が届いてるから受け取ってほしいことと最後に会ってほしい人がいるんです」
「会ってほしい人?」
と聞くと
「はい・・・モリナリア王国ロウニン扶養プログラム管理局局長であなたと同じ『ロウニン』なんですけど・・・」